白銀の世界で
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縛られている綱の合間から杉元の服をくつろげた。一時的な手当になるのはわかっていたが、こんな状況で何かをしたかった。
杉元は恥じらうような素振りをみせた。
「そんな…大したことないから大丈夫だよ。」
「…お願いします。気休めかもしれませんが。」
杉元の服に触れる手が震えている。さくらの様子から、杉元は黙って手当てを受けることにした。
月明かりに照らされたさくらが苦しそうな表情をしている。この部屋に入ったとき見た傷ついた表情とはまた違う、労るような、そんな表情だった。
あんな風に傷つけてしまった俺を心配してくれるのか・・・。
疑い、暴力に訴えた男を、この人は。
さくらさんの細い指が、アシリパさんからもらった薬を肌にすべらせる。ひんやりとした感触と彼女の指の柔らかさに肩を揺らした。
「・・・痛かったですか?」
心配そうに見上げるさくらさんの瞳に間抜け面をした俺が映っている。何だかばつが悪くて、その瞳から少し目線を外した。
「ううん、ちょっと冷たかっただけだよ。」
さくらさんは俺の返事を聞くと、すぐ傷口に目線を戻した。長い睫毛が月明かりで頬に影をおとしている。そこから整った鼻筋、唇に視線が移っていくと、頭に熱が上ってきた。変な感じだ。久々に異性が近くにいるからだろうか。自然と喉が鳴った。
「お邪魔するぜ。」
突然聞こえた声に、2人してびくり、と肩を揺らした。
「…妖怪?」
てかてかとした何かに、咄嗟にそのような言葉が出た。しかし、よく見てみると見知った坊主頭だ。まさか…
「脱獄王の白石だ!」
「おお…何でお前がここに?」
「おっかないアイヌの娘っ子に毒矢で脅されたのさ。」
「……アシリパさん」
黙って出てきてしまった俺のために…。
「…それにしても」
白石は関節を元に戻しながらこちらをじと、とこちらを見つめた。
「本当にお邪魔だったみたいだな。」
その表情と状況から何を指しているのかが分かり、とっさに距離を取った。さくらさんもその意味が分かったようで一拍遅れて驚いて顔を赤くした。
「白石さん、邪推はやめてください…!」
「冗談だってー。もうさくらちゃん反応が可愛いなあ。俺キュンってしちゃった。」
妙に距離が近い2人に不思議に思う。
「白石、さくらさんとどこで接点があったんだ?」
「呉服屋でちょっとした顔見知りなのさ。」
「一度、台所場でお会いしましたね。あのあと女将さん怒ってませんでした?」
「あの女将、怒るとおっかねぇんだよな。そうなる前にとんずらしたさ。」
「ふふっ…それはご無事でなによりです。」
2人の間に柔らかい空気ができた。俺の前での固い表情とは丸っきり違う様子だ。人の懐に入るのがうまい白石を今だけは少し羨ましく思った。
「…外が騒がしいですね。」
一番に気付いたのはさくらさんだった。こんなときに余計なことを考えるもんじゃないな。
「まずい。問題発生だ。」
焦る白石が口から針金を取り出して俺の手錠を解錠し始めた。ここからは時間との勝負だ。こちらに注意が向く前に早く脱出しなくては。
様子を見ようと窓に近づこうとする白石を捕まえて、解錠を急がせた。
「いいからとにかく早く手錠を外せ!」
がちゃり、と扉が開いた。顔を覗かせたのは例の双子で、1人は銃を手にしている。こんなときに来やがって。いや、こんな騒ぎだからこそ、それに乗じて殺しにきたのか。さくらさんは怯えて身をかたくしている。ここで俺が殺されたら、きっと彼女は口封じに俺と共に殺されるのだろう。彼女も状況を感じているのか、下手に刺激しないようにしていた。
「浩平は外で見張ってろ。誰も入れるな。殺してから拘束を解けば、逃げようとしたからやむなかったと、一応言い訳がたつ。」
「おい洋平。銃は使うな。拘束を解く前に銃声でみんなが来ちまう。銃剣でやれ。」
何も言わないで横になっている俺を見て、緊張が緩んでいるらしい。背中を向けるその背後に忍び寄った。
「あれ?」
間抜け顔をしたそいつを仕留めるのは一瞬だった。首をねじ切り、音がしないように寝かせて手早く軍服を脱がせた。
「杉元さん、何を…っひぃ!」
思い切り腹に銃剣を突き立て、はらわたを引き摺り出した。それをみたさくらさんが小さく悲鳴を上げた。しかし、それにかまっている余裕はない。
「今から俺は重傷のふりをする。それに合わせてくれ。」
はらわたをある程度出したところで切り取りながら手早く説明をした。さくらさんは初めは驚いていたが、状況を飲み込んだのか、すぐ口元をひき結んでうなずいた。そして、倒れた男の遺体に近づいた。
「服に血がついてはすぐにばれます。」
そういって、かき回された腹に急いで服を着せ始めた。こんなものはじめて見ただろうに…。気丈に振舞う彼女にそちらは任せて、遺体に銃剣を握らせ、乱闘が今収束したかのように派手な物音を立てた。
双子の片割れが部屋を覗いた。
「洋平っ!!!」
駆け寄って息がないことが分かると、こちらに鋭い視線をむけた。
「よくも……ぶっ殺してやる。」
拳を握ってゆらりゆらりと近づいてくる。こんな攻撃は躱せるのだが、今は芝居をうっている最中だ。下手に動けると怪しまれてしまう。一発食らうのを想定して歯を食いしばった。
「やめてください!!」
突然俺との間に影が出来た。それはさくらさんで、男の拳を頬に受けて吹っ飛ばされた。そして、さくらさんは、すぐ俺のそばに駆け寄り、傷口を抑えて、双子の方を睨みつけた。
「これ以上傷つけたら本当に死んでしまいますよ!!あなたの上官が欲しがっているものの在処が分からなくなってもいいんですか?!」
あえて大声を出しているのだろう。激昂した様子のさくらさんに劣らず双子の方も怒鳴り返した。
「兄弟が殺されたんだ!!刺青人皮なんぞどうでもいい!!」
「この人が殺されたのは自業自得よ!殺しに来たくせに逆恨みもいいところね。」
「何だと…?」
「素手を相手に剣で負けるような兄弟だから腕もおつむも弱いのかしら?」
「この女…!!」
さくらさんの挑発に乗って、再度拳を振り上げる。とっさに片手でさくらさんを庇うようにした。
「おい!!何してる!!」
駆けつけた軍人に双子は取り押さえられた。
そこから鶴見が来るまでは僅かな時間だった。おそらく俺を襲うことを予想していたのだろう。鶴見が部屋に入って状況を確認し始めた。
「まさに風口の蝋燭だな杉元…。」
「助けろ…刺青人皮でも…なんでも…くれてやる。」
それを聞いた鶴見はしてやった、という顔をした。
食いついた。
それはお互いが計略に嵌った瞬間だった。
杉元は恥じらうような素振りをみせた。
「そんな…大したことないから大丈夫だよ。」
「…お願いします。気休めかもしれませんが。」
杉元の服に触れる手が震えている。さくらの様子から、杉元は黙って手当てを受けることにした。
月明かりに照らされたさくらが苦しそうな表情をしている。この部屋に入ったとき見た傷ついた表情とはまた違う、労るような、そんな表情だった。
あんな風に傷つけてしまった俺を心配してくれるのか・・・。
疑い、暴力に訴えた男を、この人は。
さくらさんの細い指が、アシリパさんからもらった薬を肌にすべらせる。ひんやりとした感触と彼女の指の柔らかさに肩を揺らした。
「・・・痛かったですか?」
心配そうに見上げるさくらさんの瞳に間抜け面をした俺が映っている。何だかばつが悪くて、その瞳から少し目線を外した。
「ううん、ちょっと冷たかっただけだよ。」
さくらさんは俺の返事を聞くと、すぐ傷口に目線を戻した。長い睫毛が月明かりで頬に影をおとしている。そこから整った鼻筋、唇に視線が移っていくと、頭に熱が上ってきた。変な感じだ。久々に異性が近くにいるからだろうか。自然と喉が鳴った。
「お邪魔するぜ。」
突然聞こえた声に、2人してびくり、と肩を揺らした。
「…妖怪?」
てかてかとした何かに、咄嗟にそのような言葉が出た。しかし、よく見てみると見知った坊主頭だ。まさか…
「脱獄王の白石だ!」
「おお…何でお前がここに?」
「おっかないアイヌの娘っ子に毒矢で脅されたのさ。」
「……アシリパさん」
黙って出てきてしまった俺のために…。
「…それにしても」
白石は関節を元に戻しながらこちらをじと、とこちらを見つめた。
「本当にお邪魔だったみたいだな。」
その表情と状況から何を指しているのかが分かり、とっさに距離を取った。さくらさんもその意味が分かったようで一拍遅れて驚いて顔を赤くした。
「白石さん、邪推はやめてください…!」
「冗談だってー。もうさくらちゃん反応が可愛いなあ。俺キュンってしちゃった。」
妙に距離が近い2人に不思議に思う。
「白石、さくらさんとどこで接点があったんだ?」
「呉服屋でちょっとした顔見知りなのさ。」
「一度、台所場でお会いしましたね。あのあと女将さん怒ってませんでした?」
「あの女将、怒るとおっかねぇんだよな。そうなる前にとんずらしたさ。」
「ふふっ…それはご無事でなによりです。」
2人の間に柔らかい空気ができた。俺の前での固い表情とは丸っきり違う様子だ。人の懐に入るのがうまい白石を今だけは少し羨ましく思った。
「…外が騒がしいですね。」
一番に気付いたのはさくらさんだった。こんなときに余計なことを考えるもんじゃないな。
「まずい。問題発生だ。」
焦る白石が口から針金を取り出して俺の手錠を解錠し始めた。ここからは時間との勝負だ。こちらに注意が向く前に早く脱出しなくては。
様子を見ようと窓に近づこうとする白石を捕まえて、解錠を急がせた。
「いいからとにかく早く手錠を外せ!」
がちゃり、と扉が開いた。顔を覗かせたのは例の双子で、1人は銃を手にしている。こんなときに来やがって。いや、こんな騒ぎだからこそ、それに乗じて殺しにきたのか。さくらさんは怯えて身をかたくしている。ここで俺が殺されたら、きっと彼女は口封じに俺と共に殺されるのだろう。彼女も状況を感じているのか、下手に刺激しないようにしていた。
「浩平は外で見張ってろ。誰も入れるな。殺してから拘束を解けば、逃げようとしたからやむなかったと、一応言い訳がたつ。」
「おい洋平。銃は使うな。拘束を解く前に銃声でみんなが来ちまう。銃剣でやれ。」
何も言わないで横になっている俺を見て、緊張が緩んでいるらしい。背中を向けるその背後に忍び寄った。
「あれ?」
間抜け顔をしたそいつを仕留めるのは一瞬だった。首をねじ切り、音がしないように寝かせて手早く軍服を脱がせた。
「杉元さん、何を…っひぃ!」
思い切り腹に銃剣を突き立て、はらわたを引き摺り出した。それをみたさくらさんが小さく悲鳴を上げた。しかし、それにかまっている余裕はない。
「今から俺は重傷のふりをする。それに合わせてくれ。」
はらわたをある程度出したところで切り取りながら手早く説明をした。さくらさんは初めは驚いていたが、状況を飲み込んだのか、すぐ口元をひき結んでうなずいた。そして、倒れた男の遺体に近づいた。
「服に血がついてはすぐにばれます。」
そういって、かき回された腹に急いで服を着せ始めた。こんなものはじめて見ただろうに…。気丈に振舞う彼女にそちらは任せて、遺体に銃剣を握らせ、乱闘が今収束したかのように派手な物音を立てた。
双子の片割れが部屋を覗いた。
「洋平っ!!!」
駆け寄って息がないことが分かると、こちらに鋭い視線をむけた。
「よくも……ぶっ殺してやる。」
拳を握ってゆらりゆらりと近づいてくる。こんな攻撃は躱せるのだが、今は芝居をうっている最中だ。下手に動けると怪しまれてしまう。一発食らうのを想定して歯を食いしばった。
「やめてください!!」
突然俺との間に影が出来た。それはさくらさんで、男の拳を頬に受けて吹っ飛ばされた。そして、さくらさんは、すぐ俺のそばに駆け寄り、傷口を抑えて、双子の方を睨みつけた。
「これ以上傷つけたら本当に死んでしまいますよ!!あなたの上官が欲しがっているものの在処が分からなくなってもいいんですか?!」
あえて大声を出しているのだろう。激昂した様子のさくらさんに劣らず双子の方も怒鳴り返した。
「兄弟が殺されたんだ!!刺青人皮なんぞどうでもいい!!」
「この人が殺されたのは自業自得よ!殺しに来たくせに逆恨みもいいところね。」
「何だと…?」
「素手を相手に剣で負けるような兄弟だから腕もおつむも弱いのかしら?」
「この女…!!」
さくらさんの挑発に乗って、再度拳を振り上げる。とっさに片手でさくらさんを庇うようにした。
「おい!!何してる!!」
駆けつけた軍人に双子は取り押さえられた。
そこから鶴見が来るまでは僅かな時間だった。おそらく俺を襲うことを予想していたのだろう。鶴見が部屋に入って状況を確認し始めた。
「まさに風口の蝋燭だな杉元…。」
「助けろ…刺青人皮でも…なんでも…くれてやる。」
それを聞いた鶴見はしてやった、という顔をした。
食いついた。
それはお互いが計略に嵌った瞬間だった。