星降る夜に
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翌朝、けたたましい鐘の音でたたき起こされた。耳慣れない音に飛び起き、用意してもらっている着物に着替える。身を寄せている身だ。昼間で寝るなど、とてもじゃないが申し訳なくてできない。
「何しよう……」
しかし、暇だ。朝から起床したからといってさくらにはこれといってやることがない。…掃除でもするか。きっと事務員の方に聞けば掃除道具が手に入るだろう。まずは自分の部屋から、そして教師長屋の廊下くらいは掃除をしていても大丈夫だろう。なんなら軒先の落ち葉を集めたっていい。そうだ、そうしよう。と、一日のスケジュールを組むとさくらは部屋をあとにした。
昨日六年生の潮江くん、立花くんに案内され、だいたいの場所は把握している。昨日の記憶を頼りに事務員の部屋まで足を進めていく。部屋の前まで来るとすでに人の気配がある。…障子の場合、どうノックすれば良いのだろうか。現代では普通に思っていた入室の仕方も、ここでは障子を破る、ただの破壊行為だ。記憶の中の時代劇のシーンをたぐり寄せ、障子の前でしゃがんで「失礼します」と声をかけた。仁王立ちで入室の許可を頂くのは失礼だろうと思ってのことだ。すると、中から「はーい」と間延びした返事が返ってきた。それを了承ととって、障子をあける。部屋にはアニメで見た『小松田くん』がいた。幼いときから見慣れていた彼は、アニメと同じく柔和そうな表情でこちらを見ていた。
「あ!日向 さくらさんですね。僕、小松田秀作といいます。今日からよろしくお願いしますね。」
どうやら小松田くんもすでにさくらの存在を周知されているらしい。昨日、学園を見て回っていれば、きっと目にとまるだろうし…。
「日向 さくらです。よろしくお願いします。」
同じく笑顔で返す。すると、小松田くんは「ちょっと待ってくださいね!」と、押し入れの中を探り始めた。まだ、こちらから何も話していないのに、何をしに来たのか分かったのだろうか。…いや、小松田くんがそんなに気が利くタイプだったろうか。待っていろと言われて大人しく部屋の隅で座って待っていると、小松田君は自ら出したものに蹴つまづき、その先にある書類にダイブして紙吹雪を飛ばすという行動に出た。その行動に至るまで一分と経っていないだろう。
「わわわわ!!ごめんなさい~!!」
涙目の小松田くんがあまりにも可哀想に思えてくる。
「大丈夫ですよ、書類は私がまとめておきますから。」
そう言ってなだめると、小松田くんは感激というような表情をみせた。なにやら探してくれている小松田くんを尻目に、さくらは散らばった書類を集め出した。内容をみれば、今期の領収書関係がまとめられているらしい。書類の上には「〇〇委員会」「〇年〇組」と書かれており、ついでに仕分けしておく。朝早くからお勤めご苦労様です、と内心小松田くんに言っておく。さくらがこなければ余計な仕事を増やさずともよかったのだろうな、と申し訳なく思ったからだ。しばらくすると、小松田くんがさくらの目の前に目的の物を差し出した。
「はい、どうぞ。」
小首をかしげる小松田くんから自然と『それ』を受け取ってしまった。
「あの、…これは?」
「事務員の制服です。このサイズで合うと思います!」
自信満々に返答する小松田くんからは適切な回答は得られないだろう。
「あの、私がお借りしたかったのは掃除用具でして…。」
「ああ!掃除ももちろんお仕事に入ってますよ!それは午後に一緒にやりましょうね。」
全くかみ合っていない気がする。どうしたものか、と内心頭を抱えていると、入り口から男性職員が入ってきた。さくらは、あの夜に座っていた先生方の一人であるとすぐに気がついた。色白で、顔のパーツが何とも言えず特徴的だったため、覚えていたのだ。名前は……何だっただろう。昔、アニメに出ていたような気もするが思い出せない。
「吉野先生!おはようございます。」
小松田くんがいい笑顔で挨拶をした。
「おはようございます、小松田君。…それと日向さん」
一瞬、間があいたのは気のせいでは無いだろう。吉野先生の視線が鋭くささった。
「おはようございます。」
さくらも同じように微笑んで挨拶をかわした。初対面で信じられない話をしたおかしな女。そう思われても仕方が無い。だからといって、ちぢこまっていては更に怪しさ満点だろう。ならば、堂々としていたほうがいい。吉野先生はそれに軽く反応を見せてくれ、完全に目の敵にされているわけではないことが窺えた。温厚そうな吉野先生が、自身の机らしきほうへ向かう際、書類に目を留め、細めていた目を大きく見開いた。吉野先生の驚きもさることながら、こちらも先生の大きな表情の変化に、驚かされた。
「な…!!これは…!!」
視線の先には先ほどさくらが仕分けした書類があった。
「小松田くん!!まさか…君、徹夜していたのか!?あれだけ休むときは休みなさいといっているだろう!!」
書類をみた吉野先生は小松田くんに食ってかかった。その勢いに関係のないさくらまでのけぞってしまう。しかし、小松田くんは驚いたようすもなく、のほほんと返答した。
「それは、さっき日向さんが手伝ってくれたんです。僕が制服を探してる間にまとめちゃうんだから驚きましたよ~。」
それを聞くや、吉野先生の視線がこちらに向かってきた。
「…これを本当に君がやったのかね?」
吉野先生の視線が怖い。何かまずいことをしてしまったのだろうか…。しかし、黙っている訳にもいかない。
「申し訳ありません…出過ぎたことをしました。私のために小松田くんの仕事を増やしてしまって申し訳ないと思い、手を出してしまいました。私の責任です、どうか小松田くんを叱ってやらないでください。」
そう言って頭を下げると、なぜか小松田くんが慌て始めた。「謝らないでいいんですよ~!頭上げてください~!!」と言ってくれているが、謝罪先は吉野先生だ。先生から返答が無ければ頭を上げられない。
「日向さん、頭を上げてください。」
先ほどとか打って変わり、穏やかな声が頭上から聞こえた。それに従って顔を上げると吉野先生の柔和そうな表情とかちあった。
「あなたの事務能力、感心しました。学園長先生からあなたを頼まれたときは、どうしようかと思いましたが私の杞憂でしたね。今日から事務員として、よろしくお願いします。」
認めてくれた、それが嬉しく思い、さくらは「よろしくお願いします。」と頭を下げた。が、その瞬間、おかしなことに気がついた。
「…あの、事務員ってどういうことですか?学園長先生がなんと?」
「まさか学園長先生、知らさずに…、また突然の思いつきで…全く。」
頭を抱えた吉野先生は困ったように言った。
「昨日、学園長先生からあなたを事務として雇うとお話がありました。てっきりあなたにも話していると思ったのですが……。」
「そう、だったのですね。…あの、私もお世話になるからにはお役に立ちたいと思っていたところです。ふつつかながら事務のお仕事、お役に立てるよう尽力します。よろしくお願いします。」
アニメでもあった『学園長の突然の思いつき』という名の「理不尽」がここにきて良い方向へ発揮されるとは。顔を上げると二人のにこやかな表情が向けられている。それに、さくらも自然と笑顔を返した。
「何しよう……」
しかし、暇だ。朝から起床したからといってさくらにはこれといってやることがない。…掃除でもするか。きっと事務員の方に聞けば掃除道具が手に入るだろう。まずは自分の部屋から、そして教師長屋の廊下くらいは掃除をしていても大丈夫だろう。なんなら軒先の落ち葉を集めたっていい。そうだ、そうしよう。と、一日のスケジュールを組むとさくらは部屋をあとにした。
昨日六年生の潮江くん、立花くんに案内され、だいたいの場所は把握している。昨日の記憶を頼りに事務員の部屋まで足を進めていく。部屋の前まで来るとすでに人の気配がある。…障子の場合、どうノックすれば良いのだろうか。現代では普通に思っていた入室の仕方も、ここでは障子を破る、ただの破壊行為だ。記憶の中の時代劇のシーンをたぐり寄せ、障子の前でしゃがんで「失礼します」と声をかけた。仁王立ちで入室の許可を頂くのは失礼だろうと思ってのことだ。すると、中から「はーい」と間延びした返事が返ってきた。それを了承ととって、障子をあける。部屋にはアニメで見た『小松田くん』がいた。幼いときから見慣れていた彼は、アニメと同じく柔和そうな表情でこちらを見ていた。
「あ!日向 さくらさんですね。僕、小松田秀作といいます。今日からよろしくお願いしますね。」
どうやら小松田くんもすでにさくらの存在を周知されているらしい。昨日、学園を見て回っていれば、きっと目にとまるだろうし…。
「日向 さくらです。よろしくお願いします。」
同じく笑顔で返す。すると、小松田くんは「ちょっと待ってくださいね!」と、押し入れの中を探り始めた。まだ、こちらから何も話していないのに、何をしに来たのか分かったのだろうか。…いや、小松田くんがそんなに気が利くタイプだったろうか。待っていろと言われて大人しく部屋の隅で座って待っていると、小松田君は自ら出したものに蹴つまづき、その先にある書類にダイブして紙吹雪を飛ばすという行動に出た。その行動に至るまで一分と経っていないだろう。
「わわわわ!!ごめんなさい~!!」
涙目の小松田くんがあまりにも可哀想に思えてくる。
「大丈夫ですよ、書類は私がまとめておきますから。」
そう言ってなだめると、小松田くんは感激というような表情をみせた。なにやら探してくれている小松田くんを尻目に、さくらは散らばった書類を集め出した。内容をみれば、今期の領収書関係がまとめられているらしい。書類の上には「〇〇委員会」「〇年〇組」と書かれており、ついでに仕分けしておく。朝早くからお勤めご苦労様です、と内心小松田くんに言っておく。さくらがこなければ余計な仕事を増やさずともよかったのだろうな、と申し訳なく思ったからだ。しばらくすると、小松田くんがさくらの目の前に目的の物を差し出した。
「はい、どうぞ。」
小首をかしげる小松田くんから自然と『それ』を受け取ってしまった。
「あの、…これは?」
「事務員の制服です。このサイズで合うと思います!」
自信満々に返答する小松田くんからは適切な回答は得られないだろう。
「あの、私がお借りしたかったのは掃除用具でして…。」
「ああ!掃除ももちろんお仕事に入ってますよ!それは午後に一緒にやりましょうね。」
全くかみ合っていない気がする。どうしたものか、と内心頭を抱えていると、入り口から男性職員が入ってきた。さくらは、あの夜に座っていた先生方の一人であるとすぐに気がついた。色白で、顔のパーツが何とも言えず特徴的だったため、覚えていたのだ。名前は……何だっただろう。昔、アニメに出ていたような気もするが思い出せない。
「吉野先生!おはようございます。」
小松田くんがいい笑顔で挨拶をした。
「おはようございます、小松田君。…それと日向さん」
一瞬、間があいたのは気のせいでは無いだろう。吉野先生の視線が鋭くささった。
「おはようございます。」
さくらも同じように微笑んで挨拶をかわした。初対面で信じられない話をしたおかしな女。そう思われても仕方が無い。だからといって、ちぢこまっていては更に怪しさ満点だろう。ならば、堂々としていたほうがいい。吉野先生はそれに軽く反応を見せてくれ、完全に目の敵にされているわけではないことが窺えた。温厚そうな吉野先生が、自身の机らしきほうへ向かう際、書類に目を留め、細めていた目を大きく見開いた。吉野先生の驚きもさることながら、こちらも先生の大きな表情の変化に、驚かされた。
「な…!!これは…!!」
視線の先には先ほどさくらが仕分けした書類があった。
「小松田くん!!まさか…君、徹夜していたのか!?あれだけ休むときは休みなさいといっているだろう!!」
書類をみた吉野先生は小松田くんに食ってかかった。その勢いに関係のないさくらまでのけぞってしまう。しかし、小松田くんは驚いたようすもなく、のほほんと返答した。
「それは、さっき日向さんが手伝ってくれたんです。僕が制服を探してる間にまとめちゃうんだから驚きましたよ~。」
それを聞くや、吉野先生の視線がこちらに向かってきた。
「…これを本当に君がやったのかね?」
吉野先生の視線が怖い。何かまずいことをしてしまったのだろうか…。しかし、黙っている訳にもいかない。
「申し訳ありません…出過ぎたことをしました。私のために小松田くんの仕事を増やしてしまって申し訳ないと思い、手を出してしまいました。私の責任です、どうか小松田くんを叱ってやらないでください。」
そう言って頭を下げると、なぜか小松田くんが慌て始めた。「謝らないでいいんですよ~!頭上げてください~!!」と言ってくれているが、謝罪先は吉野先生だ。先生から返答が無ければ頭を上げられない。
「日向さん、頭を上げてください。」
先ほどとか打って変わり、穏やかな声が頭上から聞こえた。それに従って顔を上げると吉野先生の柔和そうな表情とかちあった。
「あなたの事務能力、感心しました。学園長先生からあなたを頼まれたときは、どうしようかと思いましたが私の杞憂でしたね。今日から事務員として、よろしくお願いします。」
認めてくれた、それが嬉しく思い、さくらは「よろしくお願いします。」と頭を下げた。が、その瞬間、おかしなことに気がついた。
「…あの、事務員ってどういうことですか?学園長先生がなんと?」
「まさか学園長先生、知らさずに…、また突然の思いつきで…全く。」
頭を抱えた吉野先生は困ったように言った。
「昨日、学園長先生からあなたを事務として雇うとお話がありました。てっきりあなたにも話していると思ったのですが……。」
「そう、だったのですね。…あの、私もお世話になるからにはお役に立ちたいと思っていたところです。ふつつかながら事務のお仕事、お役に立てるよう尽力します。よろしくお願いします。」
アニメでもあった『学園長の突然の思いつき』という名の「理不尽」がここにきて良い方向へ発揮されるとは。顔を上げると二人のにこやかな表情が向けられている。それに、さくらも自然と笑顔を返した。