星降る夜に
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案内された食堂では、すでに何人かの生徒たちが食事をしているところだった。見知らぬ女が来たこともあり、食堂にいる生徒たちの視線が一気にさくらへと向けられた。怪訝そうであったり、好奇心でうかがったり、多種多様だ。しかし、立花君はそんな様子に一切目を向けることなく、食堂の使い方を教えてくれた。
カウンターの向こうには小さい頃から見慣れた『食堂のおばちゃん』が顔をのぞかせていた。
「あら、見かけない顔ね。」
おばちゃんも不思議そうにこちらを見ている。
「はじめまして、日向 さくらと申します。こちらでしばらくお世話になることになりまして…。」
「そうだったのね。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
なぜ『お世話になる』のか、突っ込まれるかと思ったが、おばちゃんは軽く流して「A定食とB定食、どっちにする?」と聞いた。後ろには何人か生徒が並んでいるため、仕事に戻ったのだろう。立花君と一緒に定食を選び、用意されたところでお礼を言って、彼が向かう机の方へ歩く。
食堂には立花君と同じく頭巾をかぶった少年たちで賑わっている。それぞれ色の違う装束をまとっており、一年生は水色、…その他の学年の色までは覚えていない。体格等をみていれば、おそらく立花君は上級生なのだろう。向かった先の少年たちも深緑の同じ色を身につけている。彼らが同級生か。すでに五人が座って待っており、その中には昨夜出会った三人も含まれていた。その中の老け顔の少年が「ああ!!」と驚きの声を上げた。
「貴様!なぜここにいる!?」
がた、っと音をさせて立ち上がり、ぴりぴりした空気を醸し出している。忍びとして警戒心が強いのはいいことだが、…どうしたものか。思案しているさくらを尻目に、立花君は膳を置くと、その少年の肩に手を置いて、落ち着かせた。
「文次郎、そうかっかするな。我々はこの後、日向さんに学園を案内することになっている。このように敵意をみせては、日向さんも困るだろう。」
「はあ!?初耳だぞ!!」
「それはそうとも。今言ったからな。」
落ち着かせているのか、火に油を注いでいるのか分からない。どうやら、学年の案内を買って出たのは立花君の独断らしい。本当に彼らにお願いしていいのか…先が思いやられる。
「文次郎、仙蔵!いつまでも話していては食堂のおばちゃんの飯が冷めてしまうぞ!」
昨夜会った、少年の一人が元気に声をかける。「いらないなら私がもらう!」と二人の膳に箸を伸ばしたところで二人は大人しく座席に座った。輪の中でも柔和そうな少年がこちらに顔を向けた。
「あなたも食事が冷めてしまいますよ。どうぞ、ここ座ってください。」
と自身の隣を指さした。狭いながらも一人入れそうなスペースだ。「ありがとう。」と短くお礼を言って座らせてもらった。
食事を取りながら、自己紹介をしていく。六年い組、さらさらヘアの立花君と疲れた顔の潮江君。ろ組、寡黙な中在家君と元気な七松君。は組、柔和そうな善法寺君とはきはき喋る食満君。フルネームまで覚えるのは難しいのでまずは名字を覚えよう。自己紹介の最中に何度か声に出して皆の名前を呼びながら覚えた。そして、自身の自己紹介に移った。テーブルの全員が興味津々にこちらを見ている。
「はじめまして、日向 さくらです。よろしくお願いします。」
そう会釈してみたものの、皆の様子ではまだ何か話せと言うような空気が伝わってくる。…なんと説明すれば良いか。現代から飛ばされて来ました、なんて話を信じるわけもないだろう。とは言っても、事情があるのよ、なんて意味深にしたところで変に探られても困る。
「…色々あって池に沈められた、訳あり女ですー。」
「色々とは何だ?!」
ずいっと体をこちらに近づける七松君。
「詳しくは…覚えてないんだけど、寝ている間に誰かに…運ばれたのかなー?まあ、迷子みたいな感じかしら。」
「人さらいということか…。」
食満君が顎に手をあてて思案しながら言った。
同じく文次郎君もそれに続いた。
「だが、わざわざ学園に移動させる必要があるか?」
「人さらいなら、どこかに売り渡さなければ、お金にはならないよね。」
善法寺君もうーんと唸った。
「日向さんは、連れ去った人物を見ていないのですか?」
立花君がこちらに質問を投げかけた。
「うーん……眠っていたからよく…覚えてないの。」
本当のことを言うわけにもいかず、適当に濁すにはこういう内容しかないだろう。…昨夜の先生がたへの説明とは違うが、そこらへんは学園長先生含め、無用の混乱を避けるためであると、弁解しなければ、と思い至った。
「…もそもそ。」
テーブルの端で座っていた中在家君が、小声で話し始めた。こちらには内容まで入ってこないが、七松君が代わりに翻訳してくれる。
「『もうすぐ授業が始まる。まずは、実習の準備だ。』そうだな!私たち四人は今から裏山で実習だ!いくぞ!」
そう言うや否や、七松君は中在家君、食満君、善法寺君を巻き込んで、嵐のように食堂を去って行った。
残された三人は、顔を見合わせた。そして、残りの食事を食べ終えると、食堂を後にした。
立花君、潮江君は、午後の時間を使って学園を案内してくれた。教室のある棟、みなの部屋がある長屋、学園長の庵、様々な倉庫、風呂の場所、そしてくのいち教室の前まで。さすがに男子禁制らしく、中までは入れないらしい。幼い頃に見ていた映像が、目の前に広がっている。そう思うと感慨深い。一通りの説明が終わり、教師長屋の前まで送ってもらう。二人とも、丁寧に説明をしてくれたおかげで、ある程度は頭にいれることができた。
「時間を取ってくれてありがとう。二人のおかげで迷わずに済みそう。」
「いいえ、お安いご用ですよ。」
「道に迷ったときは俺たちや学園の者に声をかけてくれ。」
そう言って、二人はさくらの元から離れた。
しばらく歩き、さくらの姿が見えなくなったところで、仙蔵と文次郎は話し始めた。
「それで、どう思う?仙蔵。」
「怪しいな。」
仙蔵は貼り付けていた笑顔をしまい、鋭い視線を向けた。
「私たちに昨夜の説明をしたときだが、不自然な場所で間を取っていた。…あれは、手頃な理由を考えながら話していたからだろう。」
「しかも、昨日の学園長先生の庵で話していた内容とは随分違う。何かを隠しているのは間違いないな。」
教師陣があつめられた庵に昨夜の三人は忍び込んでいた。話し合いをしている教師たちはそれを重々承知でさくらとの会話をしていたのだ。黙認された状況で聞きかじったものは、到底信用できるものでは無かった。だからこそ、その情報は六年生だけでとどめた。下級生にまでいらぬ不安を抱かせることはない。そう思ってのことだった。
「ほう…『この世のものではない』という話か。」
仙蔵は、小馬鹿にしたように笑い、言葉を続けた。
「子供でもわかる嘘をついて一体何の得になるのか。」
考えたところで、情報は少ない。
「文次郎、しばらく泳がせてやろう。」
「ああ、そうだな。不審な動きがあれば俺たちで止めればいい。」
そう言うと、二人は各々、午後の委員会へと向かっていった。
カウンターの向こうには小さい頃から見慣れた『食堂のおばちゃん』が顔をのぞかせていた。
「あら、見かけない顔ね。」
おばちゃんも不思議そうにこちらを見ている。
「はじめまして、日向 さくらと申します。こちらでしばらくお世話になることになりまして…。」
「そうだったのね。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。」
なぜ『お世話になる』のか、突っ込まれるかと思ったが、おばちゃんは軽く流して「A定食とB定食、どっちにする?」と聞いた。後ろには何人か生徒が並んでいるため、仕事に戻ったのだろう。立花君と一緒に定食を選び、用意されたところでお礼を言って、彼が向かう机の方へ歩く。
食堂には立花君と同じく頭巾をかぶった少年たちで賑わっている。それぞれ色の違う装束をまとっており、一年生は水色、…その他の学年の色までは覚えていない。体格等をみていれば、おそらく立花君は上級生なのだろう。向かった先の少年たちも深緑の同じ色を身につけている。彼らが同級生か。すでに五人が座って待っており、その中には昨夜出会った三人も含まれていた。その中の老け顔の少年が「ああ!!」と驚きの声を上げた。
「貴様!なぜここにいる!?」
がた、っと音をさせて立ち上がり、ぴりぴりした空気を醸し出している。忍びとして警戒心が強いのはいいことだが、…どうしたものか。思案しているさくらを尻目に、立花君は膳を置くと、その少年の肩に手を置いて、落ち着かせた。
「文次郎、そうかっかするな。我々はこの後、日向さんに学園を案内することになっている。このように敵意をみせては、日向さんも困るだろう。」
「はあ!?初耳だぞ!!」
「それはそうとも。今言ったからな。」
落ち着かせているのか、火に油を注いでいるのか分からない。どうやら、学年の案内を買って出たのは立花君の独断らしい。本当に彼らにお願いしていいのか…先が思いやられる。
「文次郎、仙蔵!いつまでも話していては食堂のおばちゃんの飯が冷めてしまうぞ!」
昨夜会った、少年の一人が元気に声をかける。「いらないなら私がもらう!」と二人の膳に箸を伸ばしたところで二人は大人しく座席に座った。輪の中でも柔和そうな少年がこちらに顔を向けた。
「あなたも食事が冷めてしまいますよ。どうぞ、ここ座ってください。」
と自身の隣を指さした。狭いながらも一人入れそうなスペースだ。「ありがとう。」と短くお礼を言って座らせてもらった。
食事を取りながら、自己紹介をしていく。六年い組、さらさらヘアの立花君と疲れた顔の潮江君。ろ組、寡黙な中在家君と元気な七松君。は組、柔和そうな善法寺君とはきはき喋る食満君。フルネームまで覚えるのは難しいのでまずは名字を覚えよう。自己紹介の最中に何度か声に出して皆の名前を呼びながら覚えた。そして、自身の自己紹介に移った。テーブルの全員が興味津々にこちらを見ている。
「はじめまして、日向 さくらです。よろしくお願いします。」
そう会釈してみたものの、皆の様子ではまだ何か話せと言うような空気が伝わってくる。…なんと説明すれば良いか。現代から飛ばされて来ました、なんて話を信じるわけもないだろう。とは言っても、事情があるのよ、なんて意味深にしたところで変に探られても困る。
「…色々あって池に沈められた、訳あり女ですー。」
「色々とは何だ?!」
ずいっと体をこちらに近づける七松君。
「詳しくは…覚えてないんだけど、寝ている間に誰かに…運ばれたのかなー?まあ、迷子みたいな感じかしら。」
「人さらいということか…。」
食満君が顎に手をあてて思案しながら言った。
同じく文次郎君もそれに続いた。
「だが、わざわざ学園に移動させる必要があるか?」
「人さらいなら、どこかに売り渡さなければ、お金にはならないよね。」
善法寺君もうーんと唸った。
「日向さんは、連れ去った人物を見ていないのですか?」
立花君がこちらに質問を投げかけた。
「うーん……眠っていたからよく…覚えてないの。」
本当のことを言うわけにもいかず、適当に濁すにはこういう内容しかないだろう。…昨夜の先生がたへの説明とは違うが、そこらへんは学園長先生含め、無用の混乱を避けるためであると、弁解しなければ、と思い至った。
「…もそもそ。」
テーブルの端で座っていた中在家君が、小声で話し始めた。こちらには内容まで入ってこないが、七松君が代わりに翻訳してくれる。
「『もうすぐ授業が始まる。まずは、実習の準備だ。』そうだな!私たち四人は今から裏山で実習だ!いくぞ!」
そう言うや否や、七松君は中在家君、食満君、善法寺君を巻き込んで、嵐のように食堂を去って行った。
残された三人は、顔を見合わせた。そして、残りの食事を食べ終えると、食堂を後にした。
立花君、潮江君は、午後の時間を使って学園を案内してくれた。教室のある棟、みなの部屋がある長屋、学園長の庵、様々な倉庫、風呂の場所、そしてくのいち教室の前まで。さすがに男子禁制らしく、中までは入れないらしい。幼い頃に見ていた映像が、目の前に広がっている。そう思うと感慨深い。一通りの説明が終わり、教師長屋の前まで送ってもらう。二人とも、丁寧に説明をしてくれたおかげで、ある程度は頭にいれることができた。
「時間を取ってくれてありがとう。二人のおかげで迷わずに済みそう。」
「いいえ、お安いご用ですよ。」
「道に迷ったときは俺たちや学園の者に声をかけてくれ。」
そう言って、二人はさくらの元から離れた。
しばらく歩き、さくらの姿が見えなくなったところで、仙蔵と文次郎は話し始めた。
「それで、どう思う?仙蔵。」
「怪しいな。」
仙蔵は貼り付けていた笑顔をしまい、鋭い視線を向けた。
「私たちに昨夜の説明をしたときだが、不自然な場所で間を取っていた。…あれは、手頃な理由を考えながら話していたからだろう。」
「しかも、昨日の学園長先生の庵で話していた内容とは随分違う。何かを隠しているのは間違いないな。」
教師陣があつめられた庵に昨夜の三人は忍び込んでいた。話し合いをしている教師たちはそれを重々承知でさくらとの会話をしていたのだ。黙認された状況で聞きかじったものは、到底信用できるものでは無かった。だからこそ、その情報は六年生だけでとどめた。下級生にまでいらぬ不安を抱かせることはない。そう思ってのことだった。
「ほう…『この世のものではない』という話か。」
仙蔵は、小馬鹿にしたように笑い、言葉を続けた。
「子供でもわかる嘘をついて一体何の得になるのか。」
考えたところで、情報は少ない。
「文次郎、しばらく泳がせてやろう。」
「ああ、そうだな。不審な動きがあれば俺たちで止めればいい。」
そう言うと、二人は各々、午後の委員会へと向かっていった。