星降る夜に
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目が覚めると、障子から差し込む光が朝を告げていた。建物の外からは、遠くの方で人の声や足音、様々な音がそこかしこから聞こえてくる。人々が生活している音は、現代のものととても似ていた。人の声の中には子供の声も混じっているようで、楽しそうな笑い声も聞こえた。部屋を見渡してみるも、夜の時と変わらず、文机があるくらいのものだ。
「お腹…すいたなあ。」
こんな時でも空腹を感じる。人間の体は正直なものだ。しかし、腹が減っても食べるものがあるはずもなく、かといって勝手に部屋を出ていいものか、と頭を悩ませた。まずは、身支度を調えねば、と貸してもらった着物の襟を正してみるも、そのような作業は一瞬で終わり、手持ちぶさたなまま、部屋の中をうろうろとしていた。隣の部屋からは物音もしない。昨晩、教師長屋でお世話になるのだと、学園長先生から聞かされた。先生がたはもう授業をされているのだろう。ここに残っているのはさくらだけだと思われる。
「先生…いや事務員さんがいたはず。」
忍たまの世界では正門に事務員の人がいたはずだ。事務員の「…何とか」君。ひどく昔の記憶のためあやふやだが、優しそうなキャラクターだったことは覚えている。そこまでたどり着いて、「食堂のおばちゃん」のところまで案内してもらおう。
障子を開けて外を確認する。…やはり、人っ子一人いない廊下だ。そっと、部屋から足を踏み出して、静かに障子を閉める。人が居ないといっても、何となく悪いことをしている自覚はあるのだ。右左を確認して、昨日とは逆の方向へ進み出す。学園長の庵はきっと学園の奥にあるはず、ならばその逆を行けば正門にいけるのでは、といった安易な予想からだ。
「…お腹減ったのは事実だから。食べないと倒れちゃうから。」
仕方ないよね、と自分に言い訳しながら廊下を進んでいく。似たような廊下を右へ左へと進んでみるも、いっこうに正門へたどり着くことができない。ぐるぐるしているうちに、余計にお腹が減ってくる。
「…もうだめだ。」
お腹が減りすぎて、頭が回らない。ふら、っとめまいがして、壁に寄りかかった。少し休憩しよう。そう思って座り込んだときだった。
「大丈夫ですか?!」
声の主は焦ったようにさくらの前にしゃがみこんだ。
「土井先生…。」
心配そうな土井先生がさくらをうかがい見た。
「…恥ずかしながら、お腹が減ってしまって。食堂に案内していただけないでしょうか。」
その言葉を聞いた瞬間、土井先生は吹き出した。そして、ひとしきり笑い終わると、目にたまった涙をぬぐいながら、さくらに手を差し出した。
「丁度、昼食の時間なので呼びに来たんです。いきましょう。」
まだおかしそうに口元を上げながら、土井先生は言った。さくらとしても、恥ずかしい話とは思ったがここまで笑われるとは。何だかばつが悪く、自然と口をとがらせた。
さくらが向かっていた方向はどうやら正門とは方向が違ったようで、このまま進むと生徒長屋にたどり着いてしまうところだったという。そうなれば、食堂からもだいぶ遠ざかってしまうところだった。
「とはいえ、見知らぬ場所をうろうろされるのは感心しませんよ。」
歩きながら、土井先生はさくらの方をみて苦言を呈した。
「本当に面目次第もございません…。」
「ああして迷ってしまうこともありますし、今日の内に学園を案内するようにしましょう。午後の授業が終わってからになりますが、いかがです?」
何ともありがたい申し出に、さくらは大きく頷いた。
「ありがとうございます。ぜひ、」
お願いします、と言いかけたところで、どこから現れたのか深緑の装束をまとった少年が立ちはだかった。
「土井先生。お忙しい先生の代わり、私、立花仙蔵がご案内いたします。」
突然現れた少年は、利発そうな顔に笑顔を貼り付けて提案した。
「しかし、仙蔵。お前も午後からは授業と委員会で忙しいだろう。」
「六年生は午後から実習組と自習組で分かれるのです。い組の私と文次郎は自習組です。先ほど先生には許可を頂きました。委員会までにはご案内できると思いますのでご心配には及びません。」
流れるように口上を述べると、土井先生も納得したように首を縦に振った。
「日向さん、この子は六年い組、立花仙蔵です。作法委員会委員長で、しっかりした生徒です。彼に案内を任せてもよろしいでしょうか?」
こちらを見る土井先生の表情には、純粋に生徒を信頼している様子が伝わってくる。…先生のお墨付きがあるのだ、彼にお願いしよう。
「ええ、もちろんです。立花君、初めまして日向 さくらです。よろしくお願いしますね。」
こちらも笑顔で立花君にこたえる。それに、立花君も微笑を浮かべながら軽く会釈をした。
「日向さん、こちらに向かわれていたということは昼食はまだ召し上がっていませんよね。」
「ええ、」
「でしたら、丁度六年生の友人たちと昼食をとるんです。自己紹介もかねてご一緒させてください。その方が、後の案内もすぐできますし。」
食い気味な立花くんの態度に困惑するも、土井先生の方をみると、うんうん、と頷いている。
「それじゃあ、ご一緒させてもらいます。…土井先生、すみません。」
「いえいえ、これから他の生徒とも接する機会があるでしょうし、いいきっかけができましたね。」
嬉しそうな土井先生の表情に毒気を抜かれる。
「では、参りましょう。」
案内役は立花君にバトンタッチされ、食堂へと案内された。
「お腹…すいたなあ。」
こんな時でも空腹を感じる。人間の体は正直なものだ。しかし、腹が減っても食べるものがあるはずもなく、かといって勝手に部屋を出ていいものか、と頭を悩ませた。まずは、身支度を調えねば、と貸してもらった着物の襟を正してみるも、そのような作業は一瞬で終わり、手持ちぶさたなまま、部屋の中をうろうろとしていた。隣の部屋からは物音もしない。昨晩、教師長屋でお世話になるのだと、学園長先生から聞かされた。先生がたはもう授業をされているのだろう。ここに残っているのはさくらだけだと思われる。
「先生…いや事務員さんがいたはず。」
忍たまの世界では正門に事務員の人がいたはずだ。事務員の「…何とか」君。ひどく昔の記憶のためあやふやだが、優しそうなキャラクターだったことは覚えている。そこまでたどり着いて、「食堂のおばちゃん」のところまで案内してもらおう。
障子を開けて外を確認する。…やはり、人っ子一人いない廊下だ。そっと、部屋から足を踏み出して、静かに障子を閉める。人が居ないといっても、何となく悪いことをしている自覚はあるのだ。右左を確認して、昨日とは逆の方向へ進み出す。学園長の庵はきっと学園の奥にあるはず、ならばその逆を行けば正門にいけるのでは、といった安易な予想からだ。
「…お腹減ったのは事実だから。食べないと倒れちゃうから。」
仕方ないよね、と自分に言い訳しながら廊下を進んでいく。似たような廊下を右へ左へと進んでみるも、いっこうに正門へたどり着くことができない。ぐるぐるしているうちに、余計にお腹が減ってくる。
「…もうだめだ。」
お腹が減りすぎて、頭が回らない。ふら、っとめまいがして、壁に寄りかかった。少し休憩しよう。そう思って座り込んだときだった。
「大丈夫ですか?!」
声の主は焦ったようにさくらの前にしゃがみこんだ。
「土井先生…。」
心配そうな土井先生がさくらをうかがい見た。
「…恥ずかしながら、お腹が減ってしまって。食堂に案内していただけないでしょうか。」
その言葉を聞いた瞬間、土井先生は吹き出した。そして、ひとしきり笑い終わると、目にたまった涙をぬぐいながら、さくらに手を差し出した。
「丁度、昼食の時間なので呼びに来たんです。いきましょう。」
まだおかしそうに口元を上げながら、土井先生は言った。さくらとしても、恥ずかしい話とは思ったがここまで笑われるとは。何だかばつが悪く、自然と口をとがらせた。
さくらが向かっていた方向はどうやら正門とは方向が違ったようで、このまま進むと生徒長屋にたどり着いてしまうところだったという。そうなれば、食堂からもだいぶ遠ざかってしまうところだった。
「とはいえ、見知らぬ場所をうろうろされるのは感心しませんよ。」
歩きながら、土井先生はさくらの方をみて苦言を呈した。
「本当に面目次第もございません…。」
「ああして迷ってしまうこともありますし、今日の内に学園を案内するようにしましょう。午後の授業が終わってからになりますが、いかがです?」
何ともありがたい申し出に、さくらは大きく頷いた。
「ありがとうございます。ぜひ、」
お願いします、と言いかけたところで、どこから現れたのか深緑の装束をまとった少年が立ちはだかった。
「土井先生。お忙しい先生の代わり、私、立花仙蔵がご案内いたします。」
突然現れた少年は、利発そうな顔に笑顔を貼り付けて提案した。
「しかし、仙蔵。お前も午後からは授業と委員会で忙しいだろう。」
「六年生は午後から実習組と自習組で分かれるのです。い組の私と文次郎は自習組です。先ほど先生には許可を頂きました。委員会までにはご案内できると思いますのでご心配には及びません。」
流れるように口上を述べると、土井先生も納得したように首を縦に振った。
「日向さん、この子は六年い組、立花仙蔵です。作法委員会委員長で、しっかりした生徒です。彼に案内を任せてもよろしいでしょうか?」
こちらを見る土井先生の表情には、純粋に生徒を信頼している様子が伝わってくる。…先生のお墨付きがあるのだ、彼にお願いしよう。
「ええ、もちろんです。立花君、初めまして日向 さくらです。よろしくお願いしますね。」
こちらも笑顔で立花君にこたえる。それに、立花君も微笑を浮かべながら軽く会釈をした。
「日向さん、こちらに向かわれていたということは昼食はまだ召し上がっていませんよね。」
「ええ、」
「でしたら、丁度六年生の友人たちと昼食をとるんです。自己紹介もかねてご一緒させてください。その方が、後の案内もすぐできますし。」
食い気味な立花くんの態度に困惑するも、土井先生の方をみると、うんうん、と頷いている。
「それじゃあ、ご一緒させてもらいます。…土井先生、すみません。」
「いえいえ、これから他の生徒とも接する機会があるでしょうし、いいきっかけができましたね。」
嬉しそうな土井先生の表情に毒気を抜かれる。
「では、参りましょう。」
案内役は立花君にバトンタッチされ、食堂へと案内された。