星降る夜に
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
廊下を進む土井先生の後ろについて行く。夜ということと、似たような襖や障子ばかりで、自分がどこに向かっているのか分からなくなってきた。趣味で神社仏閣を巡るさくらではあるが、これだけ広大な屋敷では、方向感覚もなくなってくる。ただ、土井先生やほかの者たちにとっては、なれた学園で、迷いも無くずんずん進んでいく。
子供のころ大好きだったアニメの有名なキャラに案内され、内心うれしく思っているが、さくらは先ほどの教師たちの様子から、歓迎されていないことは重々承知している。話してみたい衝動を抑えて、静かに土井先生の後ろをついて行くより他に無かった。
「…こちらに来たのは初めてですか?」
「は…?」
まさか土井先生の方から話しかけられるとは思わず、さくらは素っ頓狂な声をあげた。それに、土井先生は焦ったように言葉を返した。
「いや、何でもありません。忘れてください。」
少し振り向いた土井先生は、月明かりに照らされて、困ったような顔を作っていた。
「いえ、2度目です。」
隠すことでもないだろう。土井先生は、さくらの返答に「そう、ですか…」と少し驚いたような声音で反応した。土井先生がさくらの話を信用してくれているか定かでは無い。しかし、興味を持っているのであろうことは感じられた。まだまだ、部屋への道のりは長そうだ。行きがけの駄賃に話してもいいだろう。それまで土井先生の後ろにいたのを、一歩前へ出て、隣に立った。肩を並べて歩き出したさくらをとがめるわけでもなく、土井先生はそのまま歩き出した。
「数週間、前のことです。私はある池で少年を助けました。」
正史丸くんの顔が思い出される。
「自分が違う時をさかのぼってやってきたのだと分かりました。その子は一命をとりとめ、彼の屋敷では宴が開かれました。高貴な身分の方々であるのだと分かりましたが、見ず知らずの怪しい身なりの私を歓迎してくださる心優しい方たちでした。」
あの宴の日のことが、まるで昨日のことのように思い出された。
「美しく優しい奥方、豪快で懐の深い主。その御子は、聡明で、主としての心根をすでに持っていました。」
美しい月夜に、ただ領民を思っていた少年。年端もいかぬ子が、一国の主としての顔でさくらに問いかけたのだ。「みなが、健やかに過ごせるのか。」と。彼の志を応援したかった。未来は平和だよ、と伝えることで、彼の未来も必ず明るいものになるのだと。
「その方々に会いたいとは思いませんか?」
土井先生の問いに「もちろん!」と間髪入れずに答えた。
「きっと、いい領主になるはずです。そう願って、私は元の場所へと帰りました。今が、そこからどれ程時間がたっているのか、それとも以前の世なのか、判断はつきませんが、もし会えるのなら。彼の作る国を見てみたい。」
輝く瞳の少年が、どのように国を治めるのか。もし、さくらの過ごしたときと同じだけの時間がすぎているのであれば、正史丸くんは、まだ少年のままだろう。あの出会いから、何を吸収し、どんな未来を思っているのか、聞いてみたい。
「会えるといいですね…」
正史丸くんのことを考えていたため、さくらの話を聞いていた土井先生が、どんな表情をしていたのか。さくらは気がつかない。
「そのためにも、まずは身の潔白を証明してここを出なくてはいけませんね!」
変なスイッチが入ったさくらは先ほどまでの落ち着いた様子とは打って変わって元気になった。この世界に味方がいるかもしれない。それは大きな希望だ。目標のできたさくらは、これ以上現状を怖がっていても仕方が無いという気持ちがうまれた。
せっかく、もう一度時間を超えてやってきたのだ。「うるま」の国へと行ってみよう。持ち前の切り替えの早さで、これからの行動を考え始める。
「こちらが、日向さんの部屋です。」
あれこれ考えているうちに部屋に到着し、案内された。
部屋には一組の布団と行灯、小さな机が置かれた、シンプルな部屋だ。要注意人物といえども、普通の部屋を与えてもらえたのはありがたい。
「私たち教師はこの長屋の並びで寝ていますので、何かあればお声がけください。」
ちなみに、土井先生の部屋は2つほど離れた場所にあり、さくらの隣には『松千代万』と書かれた木札が掲げられていた。
「松千代先生はあまり顔を出されませんから、隣の私か山田先生に声をかけてくださいね。」
「ありがとうございます。」
案内も含めてお礼を言うと、土井先生は、にこり、と笑って「お休みなさい。」と部屋へ戻っていった。
与えられた部屋の布団に、ばふん、と背を預けた。それと同時におそってくる睡魔に、意外と疲れているのだと認識した。
「そりゃ疲れるわ…。」
あれだけ敵対心を向けられ、見知らぬ土地で、命の危機があったといえば、誰だって緊張するだろう。一人になったことで、緊張の糸がとけたらしい。そのまま、まぶたが重くなるのに任せて、目を閉じた。
子供のころ大好きだったアニメの有名なキャラに案内され、内心うれしく思っているが、さくらは先ほどの教師たちの様子から、歓迎されていないことは重々承知している。話してみたい衝動を抑えて、静かに土井先生の後ろをついて行くより他に無かった。
「…こちらに来たのは初めてですか?」
「は…?」
まさか土井先生の方から話しかけられるとは思わず、さくらは素っ頓狂な声をあげた。それに、土井先生は焦ったように言葉を返した。
「いや、何でもありません。忘れてください。」
少し振り向いた土井先生は、月明かりに照らされて、困ったような顔を作っていた。
「いえ、2度目です。」
隠すことでもないだろう。土井先生は、さくらの返答に「そう、ですか…」と少し驚いたような声音で反応した。土井先生がさくらの話を信用してくれているか定かでは無い。しかし、興味を持っているのであろうことは感じられた。まだまだ、部屋への道のりは長そうだ。行きがけの駄賃に話してもいいだろう。それまで土井先生の後ろにいたのを、一歩前へ出て、隣に立った。肩を並べて歩き出したさくらをとがめるわけでもなく、土井先生はそのまま歩き出した。
「数週間、前のことです。私はある池で少年を助けました。」
正史丸くんの顔が思い出される。
「自分が違う時をさかのぼってやってきたのだと分かりました。その子は一命をとりとめ、彼の屋敷では宴が開かれました。高貴な身分の方々であるのだと分かりましたが、見ず知らずの怪しい身なりの私を歓迎してくださる心優しい方たちでした。」
あの宴の日のことが、まるで昨日のことのように思い出された。
「美しく優しい奥方、豪快で懐の深い主。その御子は、聡明で、主としての心根をすでに持っていました。」
美しい月夜に、ただ領民を思っていた少年。年端もいかぬ子が、一国の主としての顔でさくらに問いかけたのだ。「みなが、健やかに過ごせるのか。」と。彼の志を応援したかった。未来は平和だよ、と伝えることで、彼の未来も必ず明るいものになるのだと。
「その方々に会いたいとは思いませんか?」
土井先生の問いに「もちろん!」と間髪入れずに答えた。
「きっと、いい領主になるはずです。そう願って、私は元の場所へと帰りました。今が、そこからどれ程時間がたっているのか、それとも以前の世なのか、判断はつきませんが、もし会えるのなら。彼の作る国を見てみたい。」
輝く瞳の少年が、どのように国を治めるのか。もし、さくらの過ごしたときと同じだけの時間がすぎているのであれば、正史丸くんは、まだ少年のままだろう。あの出会いから、何を吸収し、どんな未来を思っているのか、聞いてみたい。
「会えるといいですね…」
正史丸くんのことを考えていたため、さくらの話を聞いていた土井先生が、どんな表情をしていたのか。さくらは気がつかない。
「そのためにも、まずは身の潔白を証明してここを出なくてはいけませんね!」
変なスイッチが入ったさくらは先ほどまでの落ち着いた様子とは打って変わって元気になった。この世界に味方がいるかもしれない。それは大きな希望だ。目標のできたさくらは、これ以上現状を怖がっていても仕方が無いという気持ちがうまれた。
せっかく、もう一度時間を超えてやってきたのだ。「うるま」の国へと行ってみよう。持ち前の切り替えの早さで、これからの行動を考え始める。
「こちらが、日向さんの部屋です。」
あれこれ考えているうちに部屋に到着し、案内された。
部屋には一組の布団と行灯、小さな机が置かれた、シンプルな部屋だ。要注意人物といえども、普通の部屋を与えてもらえたのはありがたい。
「私たち教師はこの長屋の並びで寝ていますので、何かあればお声がけください。」
ちなみに、土井先生の部屋は2つほど離れた場所にあり、さくらの隣には『松千代万』と書かれた木札が掲げられていた。
「松千代先生はあまり顔を出されませんから、隣の私か山田先生に声をかけてくださいね。」
「ありがとうございます。」
案内も含めてお礼を言うと、土井先生は、にこり、と笑って「お休みなさい。」と部屋へ戻っていった。
与えられた部屋の布団に、ばふん、と背を預けた。それと同時におそってくる睡魔に、意外と疲れているのだと認識した。
「そりゃ疲れるわ…。」
あれだけ敵対心を向けられ、見知らぬ土地で、命の危機があったといえば、誰だって緊張するだろう。一人になったことで、緊張の糸がとけたらしい。そのまま、まぶたが重くなるのに任せて、目を閉じた。