星降る夜に
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
大変なことになった。
学園長先生の庵にはずらりと黒の忍装束を身にまとった男女が並んでいる。その視線はすべて自分に向けられており、見るからに不審者をみるような鋭い目である。左右に分かれて座っている中には幼少期に見慣れた先生たちも含まれている。
…ほんとうに忍たまの世界だ。
土井先生や山田先生、シナ先生と主要メンバーは見覚えがある。皆の視線が痛くてうつむいていると、学園長先生が口を開いた。
「おぬし、名は何という?」
静寂の中で学園長先生の声はよく響いた。その言葉の返答を窺うように、全ての先生がさくらへと注意を一層強くした。さらに声を出しづらくなるような状況にさくらは生唾を飲み込んだ。あらがうことなど許されない空気を肌で感じる。アニメの中でのほのぼのとした世界観とは対極にある空気に戸惑いが隠せなかった。
「そう堅くならずともよい。ただ話すにも名を知らねば不都合もあるじゃろう。」
先ほどより少し柔らかい口調で学園長先生が先を促した。
このまま口をつぐんでばかりもいられない。
「日向 さくらと申します。」
「なぜここにおったのじゃ?」
「…分かりません。ただ、気付いたら池の中から引き上げられていました。」
「子供でも分かる嘘をつくな!」
恰幅のいい、いかつい教師が吠えた。そりゃ、そうだ。さくら自身でも信じられないことが起こっている。以前、似たようなことがあったため、少しは落ち着いていられるが、普通の感覚を持って入れば、子供じみた嘘だと思うだろう。
「この者が侵入したことは六年生が発見したとか。あの小松田君の目を逃れるとはどれほどの力量がある者なのか分かりませんぞ。」
メガネをかけたインテリっぽい先生が畳みかけるように言った。
「身分を明かすものを持っていないことも怪しいですな。」
疑わしいという視線を隠しもせず、隣の先生も続けた。
完全に、敵だと思われている。
さくら自身もこの状況を踏まえれば疑われるのは当たり前だと思う。ただ、この後のことを考えると、生きたままここを出られるのか…。服装から察するに、皆が忍び装束に身を包んでおり、勘違いされたままで無事にここを抜けだすことはかなり難しいことが察せられた。だからといって、ここでいくら状況を説明しても、否定をしても信じてもらえないだろう。そして、忍び相手に嘘が通用するとも思えない。さくらは正直に答えることにした。
「突然現れた女を信用できないとは重々心得ています。皆さんのご期待する回答はできないかもしれませんが、お尋ねされましたことには誠心誠意お答えいたします。」
自分にできるのは誠実であることだけだ。さくらの言葉を皮切りに先生方から矢継ぎ早に様々な質問がされる。
どこの国のものか、何をしている者か、ここにくるまでは何をしていたのか。
聞かれるままに答えるが、誰一人として納得した表情ではなかった。最初よりも重苦しい雰囲気だ。どうあっても先生方の気持ちを変えることはできないだろう。ここで、それができるのは一人しかない。
「さくら殿。お主の言うことはわしらには到底信用できるものではない。しかし、ここで手をかけることは得策ではないじゃろう。しばらく、ここに留まり、身の潔白が証明でき次第、解放することにする。」
学園長先生の言葉は決定事項だった。場が一瞬どよめくが、間髪入れずに学園長先生から指示が飛んだ。
「その身は教師長屋に預ける。一つ空きがあったであろう。」
そう言うと、学園長先生は、全ての先生を庵から解散させた。みな顔には出さないが、不信の目はごまかすことができなかった。鋭い視線を残して先生方は庵を退室していく。残ったのはさくらと学園長先生の二人だけだ。
「寛大な処置に感謝いたします。」
さくらは畳に額をつけるほど、頭を下げた。命が助かった。学園長先生の言葉一つで自信の生殺与奪は握られているのだと、緊張はぬぐえない。しかし、今日のところは生き延びることができた。
「わしもお主に興味があるのじゃよ。聞いたことのない地に、お主のしていた『会社』での仕事。それに、なんと言っても、お主は、この世の者たちとまとう空気が違う。」
「空気…ですか?」
「乱世を生き抜く図太さを感じられぬ、軟弱な空気じゃよ。」
『軟弱』という言葉に、ぴくりと反応してしまう。社会である程度の波にもまれてきたさくらとしては、そのような位置づけをされたのが内心面白くないのは当然のことだった。
「気を悪くしたようじゃな。すまぬ。」
「いえ…お気遣いなく。私は忍びの方々にとってみれば、軟弱な女ですから。」
「それは、そうとお主の部屋を案内せねばな。半助。」
「はい。」
音もなく、背後から声がかかった。とっさに振り返ると、たち膝で控える土井先生がいた。
(…いくら忍びでも、音もなく来られるとびっくりするな。)
「細かいことは、明日以降に伝えよう。今夜は休みなさい。」
「はい、失礼いたします。」
今一度さくらは学園長先生に頭を下げると、庵を後にした。
学園長先生の庵にはずらりと黒の忍装束を身にまとった男女が並んでいる。その視線はすべて自分に向けられており、見るからに不審者をみるような鋭い目である。左右に分かれて座っている中には幼少期に見慣れた先生たちも含まれている。
…ほんとうに忍たまの世界だ。
土井先生や山田先生、シナ先生と主要メンバーは見覚えがある。皆の視線が痛くてうつむいていると、学園長先生が口を開いた。
「おぬし、名は何という?」
静寂の中で学園長先生の声はよく響いた。その言葉の返答を窺うように、全ての先生がさくらへと注意を一層強くした。さらに声を出しづらくなるような状況にさくらは生唾を飲み込んだ。あらがうことなど許されない空気を肌で感じる。アニメの中でのほのぼのとした世界観とは対極にある空気に戸惑いが隠せなかった。
「そう堅くならずともよい。ただ話すにも名を知らねば不都合もあるじゃろう。」
先ほどより少し柔らかい口調で学園長先生が先を促した。
このまま口をつぐんでばかりもいられない。
「日向 さくらと申します。」
「なぜここにおったのじゃ?」
「…分かりません。ただ、気付いたら池の中から引き上げられていました。」
「子供でも分かる嘘をつくな!」
恰幅のいい、いかつい教師が吠えた。そりゃ、そうだ。さくら自身でも信じられないことが起こっている。以前、似たようなことがあったため、少しは落ち着いていられるが、普通の感覚を持って入れば、子供じみた嘘だと思うだろう。
「この者が侵入したことは六年生が発見したとか。あの小松田君の目を逃れるとはどれほどの力量がある者なのか分かりませんぞ。」
メガネをかけたインテリっぽい先生が畳みかけるように言った。
「身分を明かすものを持っていないことも怪しいですな。」
疑わしいという視線を隠しもせず、隣の先生も続けた。
完全に、敵だと思われている。
さくら自身もこの状況を踏まえれば疑われるのは当たり前だと思う。ただ、この後のことを考えると、生きたままここを出られるのか…。服装から察するに、皆が忍び装束に身を包んでおり、勘違いされたままで無事にここを抜けだすことはかなり難しいことが察せられた。だからといって、ここでいくら状況を説明しても、否定をしても信じてもらえないだろう。そして、忍び相手に嘘が通用するとも思えない。さくらは正直に答えることにした。
「突然現れた女を信用できないとは重々心得ています。皆さんのご期待する回答はできないかもしれませんが、お尋ねされましたことには誠心誠意お答えいたします。」
自分にできるのは誠実であることだけだ。さくらの言葉を皮切りに先生方から矢継ぎ早に様々な質問がされる。
どこの国のものか、何をしている者か、ここにくるまでは何をしていたのか。
聞かれるままに答えるが、誰一人として納得した表情ではなかった。最初よりも重苦しい雰囲気だ。どうあっても先生方の気持ちを変えることはできないだろう。ここで、それができるのは一人しかない。
「さくら殿。お主の言うことはわしらには到底信用できるものではない。しかし、ここで手をかけることは得策ではないじゃろう。しばらく、ここに留まり、身の潔白が証明でき次第、解放することにする。」
学園長先生の言葉は決定事項だった。場が一瞬どよめくが、間髪入れずに学園長先生から指示が飛んだ。
「その身は教師長屋に預ける。一つ空きがあったであろう。」
そう言うと、学園長先生は、全ての先生を庵から解散させた。みな顔には出さないが、不信の目はごまかすことができなかった。鋭い視線を残して先生方は庵を退室していく。残ったのはさくらと学園長先生の二人だけだ。
「寛大な処置に感謝いたします。」
さくらは畳に額をつけるほど、頭を下げた。命が助かった。学園長先生の言葉一つで自信の生殺与奪は握られているのだと、緊張はぬぐえない。しかし、今日のところは生き延びることができた。
「わしもお主に興味があるのじゃよ。聞いたことのない地に、お主のしていた『会社』での仕事。それに、なんと言っても、お主は、この世の者たちとまとう空気が違う。」
「空気…ですか?」
「乱世を生き抜く図太さを感じられぬ、軟弱な空気じゃよ。」
『軟弱』という言葉に、ぴくりと反応してしまう。社会である程度の波にもまれてきたさくらとしては、そのような位置づけをされたのが内心面白くないのは当然のことだった。
「気を悪くしたようじゃな。すまぬ。」
「いえ…お気遣いなく。私は忍びの方々にとってみれば、軟弱な女ですから。」
「それは、そうとお主の部屋を案内せねばな。半助。」
「はい。」
音もなく、背後から声がかかった。とっさに振り返ると、たち膝で控える土井先生がいた。
(…いくら忍びでも、音もなく来られるとびっくりするな。)
「細かいことは、明日以降に伝えよう。今夜は休みなさい。」
「はい、失礼いたします。」
今一度さくらは学園長先生に頭を下げると、庵を後にした。