星降る夜に
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目覚めると、見知らぬ天井で、隣には看護師さんがいた。私が目覚めたことに気づき、ほっとしたような顔をしていた。その後は、両親が駆けつけ、心配したと大きな声でどやされたり、それが落ち着いたところで医師からことの顛末を聞くことができた。
池に飛び込んだ私を職員や周りの参拝者が助けてくれたこと。過労によるものだろう、と医師の曖昧な見立てだった。原因ははっきりしないようだ。それもそうだろう。私が助けた子はやはり、だれにも見えていないようだったし、この世では説明できない何かが起こっていたのは確かだろう。
しばらくは、入院して安静にするようにとの診断で数日は病院でお世話になった。その後、職場に復帰し、いつもとかわらない生活を過ごしている。
仕事が終わり、買い物をして一人の部屋に帰ればいい時間だ。適当に夕飯を準備し、その間に風呂のお湯を張るようにして、何となしにテレビを流しておく。夜のニュースをぼーっと流し見ながら、夕飯を食べる。相変わらず代わり映えのしない政治やどこぞの国のスキャンダルが並んでいる。
あの不思議な体験はだれにも話していない。誰かに話しても夢か、疲れているのかと心配されるだろう。それならば、自分の心の中であの少年の思い出を秘めておきたい。あの美しい時間を誰かに話すことで汚されるような気がして、さくらはふとしたときに正史丸の笑顔を思い出して忙しい仕事にも自分を奮い立たせていた。彼らが残してくれた未来を、無駄にするようなことはしたくなかったのだ。精一杯生きてほしい、幸せでいてあってほしい。その幸せの先が今に続いているのならば、この時を私も懸命に生きなければ。毎日、なんとも同じ生活の繰り返しではあるが、その思いでなんとか日々を乗り切っていた。
夕飯を食べ終わると、さくらはゆったりと風呂に身を沈めた。ここのところ忙しかったため、気晴らしにバスソルトを入れる。さわやかな香りが鼻孔をくすぐる。これで明日もがんばれる。大きく息を吸って、温かな湯の中に全身を沈める。水中から浴室の照明がゆらゆら揺れて見えた。
(まるでお月様みたい・・・)
あの少年と見上げた月も満月だった。
彼はどんな生涯を送ったのだろう。
きっとみなから愛された彼のことだ。大人になっても人望厚い領主になったに違いない。
水中から手を伸ばす。
届くはずのない、あのときの月を思って、何となしに伸ばしたのだ。
それは空を切るはずが、誰かの力強い手で引っ張られた。
(・・・!?・・っだれ!?)
途端に背筋がひやっとした。変質者?強盗目的?それとも・・・
あらぬ想像が一瞬で頭の中を浮かんでは消える。
勢いよく引き上げられれば、目の前には、緑の着物の利発そうな少年がいた。
「おい!大丈夫か!」
引き上げてくれた先は土の上で、肌に土がまとわりついた。
「なんで池の中に裸で入ってるんだ?」
そう言われて、とっさに身を屈ませるが、隠しようもなく、うずくまった。
「あなたこそ、誰?ここはどこ?」
見ると和風建築と木々に覆われ、あのときのように時代を超えてきたのは察しがついた。
「私は七松小平太だ!」
そう元気よく胸を張って答える七松くんは、みたところ十代後半かそこらに見える。
「私は日向 さくらです。」
「さくらか!で、お前はなんでこんなところにいるんだ?」
七松君の口調は明るいが、その視線は鋭い。こういう相手がキレたら一番怖いのだ・・・。なんて答えればいいのだろう。裸一つで、「未来から来ました!」といっても不審者であるし・・・。
そう悩んでいると、七松君の背後から同じような着物を着た少年が二人現れた。
「小平太!お前、いきなり学園長先生のお庭に行ってどうした・・・っあああああ!?なんだ!?」
疲れた顔をしている少年はさくらに目をやるなり、夜でも分かるくらい顔を真っ赤にした。
「お前はいったいどこからそんな女を連れ込んだ!?」
その言葉にさくらはかちんときた。言うに事欠いて「そんな女」とは一体どういうことだ。確かに、全裸で女が転がっていれば不審だが、こちらも好き好んでこんな格好で飛ばされてきたのではない。そういってやりたいところを、ぐっと抑えた。この少年たちがどこの何かは分からない。ただ、こうも鍛えた十代はなにか特別なことをしているに違いない。下手に刺激しない方がいいだろう。もう一人が自分の着ていた上衣を脱いで、差し出してくれた。
「・・・もそもそ・・・」
と、声が小さいのと遠いので聞き取れなかったが、すかさず七松君が「長次が、着ていたもので悪いが、羽織ってくれ。だって!」
そう言われ、さくらは長次に向かって
「ありがとうございます。使わせていただきます。」と礼を言った。
さくらが長次の着物を着たところで、もう一人の失礼な少年がこちらをみた。
「このような深夜に侵入者とは。学園長先生のお命を狙いに来たのか?」
「・・・・え?」
暗殺?耳慣れない言葉に一瞬言葉を失った。
「文次郎、こんな細い腕で丸腰の女が暗殺者とは思えん。学園長先生に直接聞いてみよう!」
と、七松君が、近くにある庵に走り出し、ばしーん!と障子を開けた。それに、さくらだけでなく、文次郎君、長次君も口をあんぐりと開けた。中には布団で鼻提灯を膨らましながら寝ている老人がいた。しかし、七松君の障子の音で一気に覚醒したのか、鼻提灯は割れ、飛び起きた。
「な、何事じゃ!?」
「学園長先生!侵入者です!」
その言葉に学園長先生は瞳をぎらり、とさくらの方へ向けた。
「ほほう、お主、わしの命を狙いに来たのか?」
老人とはいえ、その眼光は鋭く、こちらを圧倒するものがある。ただ、その空気に飲まれてはあらぬ疑いをかけられてしまう。さくらは、それにはっきりと「違います!」と答えた。
学園長先生はその答えに、「ふむ。」と、答えたきりしばらく考えているようだった。そして、少年三人に「先生方を集めてきなさい。」と言づてして、解散させると、再びさくらの方を見た。
「その姿では寒かろう。ヘムへム!」
「ヘム!」
と、犬が二足歩行で女性ものの着物を用意して走ってきた。
青い頭巾に白い犬。そしてこの印象的な出で立ちの老人。
さくらは思い出した。
今回は時代をさかのぼったのではない。幼少期に見ていたあのアニメとうり二つの人物をみて、衝撃を受けた。自身に着物を渡す白い犬をみて「・・・ほん・・・もの」と、聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
池に飛び込んだ私を職員や周りの参拝者が助けてくれたこと。過労によるものだろう、と医師の曖昧な見立てだった。原因ははっきりしないようだ。それもそうだろう。私が助けた子はやはり、だれにも見えていないようだったし、この世では説明できない何かが起こっていたのは確かだろう。
しばらくは、入院して安静にするようにとの診断で数日は病院でお世話になった。その後、職場に復帰し、いつもとかわらない生活を過ごしている。
仕事が終わり、買い物をして一人の部屋に帰ればいい時間だ。適当に夕飯を準備し、その間に風呂のお湯を張るようにして、何となしにテレビを流しておく。夜のニュースをぼーっと流し見ながら、夕飯を食べる。相変わらず代わり映えのしない政治やどこぞの国のスキャンダルが並んでいる。
あの不思議な体験はだれにも話していない。誰かに話しても夢か、疲れているのかと心配されるだろう。それならば、自分の心の中であの少年の思い出を秘めておきたい。あの美しい時間を誰かに話すことで汚されるような気がして、さくらはふとしたときに正史丸の笑顔を思い出して忙しい仕事にも自分を奮い立たせていた。彼らが残してくれた未来を、無駄にするようなことはしたくなかったのだ。精一杯生きてほしい、幸せでいてあってほしい。その幸せの先が今に続いているのならば、この時を私も懸命に生きなければ。毎日、なんとも同じ生活の繰り返しではあるが、その思いでなんとか日々を乗り切っていた。
夕飯を食べ終わると、さくらはゆったりと風呂に身を沈めた。ここのところ忙しかったため、気晴らしにバスソルトを入れる。さわやかな香りが鼻孔をくすぐる。これで明日もがんばれる。大きく息を吸って、温かな湯の中に全身を沈める。水中から浴室の照明がゆらゆら揺れて見えた。
(まるでお月様みたい・・・)
あの少年と見上げた月も満月だった。
彼はどんな生涯を送ったのだろう。
きっとみなから愛された彼のことだ。大人になっても人望厚い領主になったに違いない。
水中から手を伸ばす。
届くはずのない、あのときの月を思って、何となしに伸ばしたのだ。
それは空を切るはずが、誰かの力強い手で引っ張られた。
(・・・!?・・っだれ!?)
途端に背筋がひやっとした。変質者?強盗目的?それとも・・・
あらぬ想像が一瞬で頭の中を浮かんでは消える。
勢いよく引き上げられれば、目の前には、緑の着物の利発そうな少年がいた。
「おい!大丈夫か!」
引き上げてくれた先は土の上で、肌に土がまとわりついた。
「なんで池の中に裸で入ってるんだ?」
そう言われて、とっさに身を屈ませるが、隠しようもなく、うずくまった。
「あなたこそ、誰?ここはどこ?」
見ると和風建築と木々に覆われ、あのときのように時代を超えてきたのは察しがついた。
「私は七松小平太だ!」
そう元気よく胸を張って答える七松くんは、みたところ十代後半かそこらに見える。
「私は日向 さくらです。」
「さくらか!で、お前はなんでこんなところにいるんだ?」
七松君の口調は明るいが、その視線は鋭い。こういう相手がキレたら一番怖いのだ・・・。なんて答えればいいのだろう。裸一つで、「未来から来ました!」といっても不審者であるし・・・。
そう悩んでいると、七松君の背後から同じような着物を着た少年が二人現れた。
「小平太!お前、いきなり学園長先生のお庭に行ってどうした・・・っあああああ!?なんだ!?」
疲れた顔をしている少年はさくらに目をやるなり、夜でも分かるくらい顔を真っ赤にした。
「お前はいったいどこからそんな女を連れ込んだ!?」
その言葉にさくらはかちんときた。言うに事欠いて「そんな女」とは一体どういうことだ。確かに、全裸で女が転がっていれば不審だが、こちらも好き好んでこんな格好で飛ばされてきたのではない。そういってやりたいところを、ぐっと抑えた。この少年たちがどこの何かは分からない。ただ、こうも鍛えた十代はなにか特別なことをしているに違いない。下手に刺激しない方がいいだろう。もう一人が自分の着ていた上衣を脱いで、差し出してくれた。
「・・・もそもそ・・・」
と、声が小さいのと遠いので聞き取れなかったが、すかさず七松君が「長次が、着ていたもので悪いが、羽織ってくれ。だって!」
そう言われ、さくらは長次に向かって
「ありがとうございます。使わせていただきます。」と礼を言った。
さくらが長次の着物を着たところで、もう一人の失礼な少年がこちらをみた。
「このような深夜に侵入者とは。学園長先生のお命を狙いに来たのか?」
「・・・・え?」
暗殺?耳慣れない言葉に一瞬言葉を失った。
「文次郎、こんな細い腕で丸腰の女が暗殺者とは思えん。学園長先生に直接聞いてみよう!」
と、七松君が、近くにある庵に走り出し、ばしーん!と障子を開けた。それに、さくらだけでなく、文次郎君、長次君も口をあんぐりと開けた。中には布団で鼻提灯を膨らましながら寝ている老人がいた。しかし、七松君の障子の音で一気に覚醒したのか、鼻提灯は割れ、飛び起きた。
「な、何事じゃ!?」
「学園長先生!侵入者です!」
その言葉に学園長先生は瞳をぎらり、とさくらの方へ向けた。
「ほほう、お主、わしの命を狙いに来たのか?」
老人とはいえ、その眼光は鋭く、こちらを圧倒するものがある。ただ、その空気に飲まれてはあらぬ疑いをかけられてしまう。さくらは、それにはっきりと「違います!」と答えた。
学園長先生はその答えに、「ふむ。」と、答えたきりしばらく考えているようだった。そして、少年三人に「先生方を集めてきなさい。」と言づてして、解散させると、再びさくらの方を見た。
「その姿では寒かろう。ヘムへム!」
「ヘム!」
と、犬が二足歩行で女性ものの着物を用意して走ってきた。
青い頭巾に白い犬。そしてこの印象的な出で立ちの老人。
さくらは思い出した。
今回は時代をさかのぼったのではない。幼少期に見ていたあのアニメとうり二つの人物をみて、衝撃を受けた。自身に着物を渡す白い犬をみて「・・・ほん・・・もの」と、聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。