星降る夜に
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山田先生に案内された先は、土井先生と山田先生の部屋だった。3人膝を突き合わせて座る。神妙な面持ちの山田先生に、さくらも土井先生も固唾を飲んで見つめる。
「まずは教師を代表して謝罪させてほしい。日向さんにあらぬ疑いをかけ、あまつさえ敵対心を持つ生徒を放置して、あなたを傷つけてしまった。孤独な環境で大変な思いをさせてしまった。申し訳ない。」
山田先生は深々と頭を下げた。突然の謝罪にさくらのほうが慌ててしまう。
「山田先生、顔をあげてください…!先生方は何も間違ってません。大切なお子さんを預かる立場で、仕方がなかったと分かっていますから。」
子供達の集う学舎に怪しい人物を留め置く。どれだけのリスクをはらんでいるのか。分からない訳がない。敵対する勢力の間者だったら?学園の者を傷つける輩だったら?先生方は気が休まらず、それこそ大変な思いだっただろう。
「それに上級生は後輩を心配してのことだった、と伺っています。私は気にしていませんから。同じ立場だったら、私はもっとあからさまに敵意を向けていたかもしれません。それを隠してくださっていただけ、皆さん優しいですよ。」
普通に過ごしていれば、ただの事務員として扱ってくれた。隔離するでもなく、生徒達と接する場所で働かせてくれたのだ。とても寛大な処置だと思う。…確かに、たまに感じる視線の鋭さ、旅の最後に向けられた刃。怖くなかったと言えば嘘になる。しかし、忍術学園の人達の優しい面を知っている。彼らが利己的な理由でつらく当たることなどない。誰かを守るための行動だったのだと理解できるからこそ、さくらは山田先生にこれ以上、頭を下げて欲しくなかった。
「山田先生、そういうお話だけで呼んだのではないのでしょう?」
あの場面で学園長先生と話すのではなく、あえて山田先生へとバトンタッチされたのだ。何か話しておきたいことがあるのだろう。
さくらが問いかけると山田先生は頭を上げた。そして、短く「うむ」と是と答え、引き出しから文箱を取り出した。
「1年は組の生徒らが、あなたに書いた手紙です。息子の利吉の伝手から日向さんに渡すと預かっていました。しかし、届けることのできないものと分かっていましたから。」
山田先生から渡された文箱の蓋を開けた。中にはたくさんの手紙が重ねられている。ざっと見ただけで10通以上はある。
「拝見しても?」
一言断りを入れ、2人が頷いたのを確認すると、1通1通開いてみた。短く「帰ってきてください。」「土井先生が大変なんです!」とあるもの、長い文章で土井先生の日常を報告するもの。は組の生徒達の毎日や、土井先生の失敗、そういうものが書かれていた。束になった手紙には、土井先生を心配する子供達の思いがこめられていた。さくらは自然と笑顔になった。
「土井先生、慕われてますね。」
「本人は隠し通せていると思っているのが、始末が悪いところですよ。ぼーっと、呆けた顔で物思いにふけっていましてな。」
さくらの言葉に答えるように、山田先生がぼやいた。隣の土井先生が「ちょっと…山田先生っ!」
と、まるで三者面談の保護者と生徒のような反応をしている。土井先生にとって、山田先生は父のような…頼れる存在なのだろう。なんだか微笑ましい気持ちで2人の掛け合いをみている。
「さくらさんの前で言わなくたっていいじゃないですか!」
「遅かれ早かれバレるんだから、恥ずかしがってんじゃないよ!」
「そうは言ってもですね…!」
「泣き顔みられて今更格好をつけることもないでしょうよ。日向さん、この男はね知っての通り、外面は良くても、不器用なんですよ。好いたおなごが心配だと言って、学園から追い出そうとするくらい気遣いが空回る男なんです。」
まさか…あの夜の話を山田先生も知って?
疑問を浮かべたさくらの表情を察したのか、土井先生が横から「後を尾けてたそうです」と説明を加えた。
それだけ心配だったと言うことなのか。
「こんな顔して、まともに恋もしたことがない男なんだから。初恋で難しい相手にいったもんだよ。怪しまれてた女性と、どうやって距離をつめるか。初心な男には難しかったんでしょうよ。…日向さんにはそちらでも嫌な思いをさせてしまいまして、バカ息子が申し訳ない。」
山田先生はその言葉の勢いのまま、土井先生の頭を乱暴に掴むと一緒に頭を下げた。「息子」という言葉に土井先生の口元が僅かに上がっている。迷惑そうな声を出していても、土井先生の僅かな変化が、彼の気持ちを表している。
「あの時は、私に余裕がなくて、土井先生のお気遣いにまで気持ちが回らなかったんです。」
あの惨劇に気持ちを持って行かれて、ネガティブになっていたと思う。
「それより…気になる言葉がありまして。その…好きな、おなごというのは私のことで?」
山田先生から、さらりと出てきた言葉。それに土井先生は否定するでもなく座っている。
正史丸くんを苦しい道へと導いた。
ぬくもりではなく、厳しさを与えた女に好意を…?
土井先生の方をまじまじと見つめた。
山田先生はその様子を見ると、静かに立ち上がった。
「あとは当人たちで話しなさい。」
山田先生が部屋を出る。残された土井先生とさくらは、向き合ったまま目線を泳がせている。
沈黙が長く続く。
最初に、それを破ったのは土井先生だった。
「…あなたを失って、自分の気持ちに気がつきました。…山田先生は随分前からお気付きだったようですが。」
土井先生が恥ずかしそうに指先で頬を掻いた。
さくらにとっては嬉しい言葉だ。土井先生が正史丸だと知ってからは、より一層、この人の幸せを願っていた。…我儘を言うならば、隣で同じ幸せを見られたら、と思うこともあった。
しかし、それを望んでいいのか…。
土井先生をまじまじと見た。いつもとは違う熱のこもった瞳がさくらを見つめている。
「あなたは私の情けない姿を色々とご覧になったでしょう…?そんな気持ちになれない、というのは分かっています。ですが、忍術学園で再び働かれるのでしたら…せめて同僚として、親しくすることは許していただけないでしょうか。」
土井先生の手がさくらの手をそっと握った。諦めた、と言いつつも行動ではどこか期待しているようなしぐさで。
「先生…ずるいですよ」
さくらが断りにくいように、わざと下手に話しているのだろう。過去の正史丸の生き方にさくらが責任を感じ、気持ちを心の奥へしまい込もうとしていたのに。
「ずるい男でしょう…?」
土井先生が含み笑いを浮かべた。
さくらは握られた手を握り返した。
見つめ合う2人の距離が縮まっていく。
そこて、声を上げたのは土井先生だった。
「お前たち…覗き見は趣味が悪いぞ。」
土井先生の声を合図に畳の下から、天井から、襖の裏から、小さな影が姿を現した。
は組の生徒たちが、にやにやしている。
「そんなに暇なら明日は確認テストだ!範囲は今までの学習したところまで!」
「ええー!」「そんなにたくさん…!」と絶望の声を上げるは組の生徒。
「分かったら、早くテスト勉強しなさーああい!」
土井先生が大声を上げると、全員が蜘蛛の子を散らすように去っていった。
まさか、人が隠れていたとは思わず、さくらは茫然とことの成り行きを見守るしかなかった。そして、喧騒が止んだところで、眼前に土井先生の顔が迫っていることに気がついた。あ、と思った時には唇に柔らかい感触。そして、いたずらが成功した子供のように笑う土井先生がいた。
「まずは教師を代表して謝罪させてほしい。日向さんにあらぬ疑いをかけ、あまつさえ敵対心を持つ生徒を放置して、あなたを傷つけてしまった。孤独な環境で大変な思いをさせてしまった。申し訳ない。」
山田先生は深々と頭を下げた。突然の謝罪にさくらのほうが慌ててしまう。
「山田先生、顔をあげてください…!先生方は何も間違ってません。大切なお子さんを預かる立場で、仕方がなかったと分かっていますから。」
子供達の集う学舎に怪しい人物を留め置く。どれだけのリスクをはらんでいるのか。分からない訳がない。敵対する勢力の間者だったら?学園の者を傷つける輩だったら?先生方は気が休まらず、それこそ大変な思いだっただろう。
「それに上級生は後輩を心配してのことだった、と伺っています。私は気にしていませんから。同じ立場だったら、私はもっとあからさまに敵意を向けていたかもしれません。それを隠してくださっていただけ、皆さん優しいですよ。」
普通に過ごしていれば、ただの事務員として扱ってくれた。隔離するでもなく、生徒達と接する場所で働かせてくれたのだ。とても寛大な処置だと思う。…確かに、たまに感じる視線の鋭さ、旅の最後に向けられた刃。怖くなかったと言えば嘘になる。しかし、忍術学園の人達の優しい面を知っている。彼らが利己的な理由でつらく当たることなどない。誰かを守るための行動だったのだと理解できるからこそ、さくらは山田先生にこれ以上、頭を下げて欲しくなかった。
「山田先生、そういうお話だけで呼んだのではないのでしょう?」
あの場面で学園長先生と話すのではなく、あえて山田先生へとバトンタッチされたのだ。何か話しておきたいことがあるのだろう。
さくらが問いかけると山田先生は頭を上げた。そして、短く「うむ」と是と答え、引き出しから文箱を取り出した。
「1年は組の生徒らが、あなたに書いた手紙です。息子の利吉の伝手から日向さんに渡すと預かっていました。しかし、届けることのできないものと分かっていましたから。」
山田先生から渡された文箱の蓋を開けた。中にはたくさんの手紙が重ねられている。ざっと見ただけで10通以上はある。
「拝見しても?」
一言断りを入れ、2人が頷いたのを確認すると、1通1通開いてみた。短く「帰ってきてください。」「土井先生が大変なんです!」とあるもの、長い文章で土井先生の日常を報告するもの。は組の生徒達の毎日や、土井先生の失敗、そういうものが書かれていた。束になった手紙には、土井先生を心配する子供達の思いがこめられていた。さくらは自然と笑顔になった。
「土井先生、慕われてますね。」
「本人は隠し通せていると思っているのが、始末が悪いところですよ。ぼーっと、呆けた顔で物思いにふけっていましてな。」
さくらの言葉に答えるように、山田先生がぼやいた。隣の土井先生が「ちょっと…山田先生っ!」
と、まるで三者面談の保護者と生徒のような反応をしている。土井先生にとって、山田先生は父のような…頼れる存在なのだろう。なんだか微笑ましい気持ちで2人の掛け合いをみている。
「さくらさんの前で言わなくたっていいじゃないですか!」
「遅かれ早かれバレるんだから、恥ずかしがってんじゃないよ!」
「そうは言ってもですね…!」
「泣き顔みられて今更格好をつけることもないでしょうよ。日向さん、この男はね知っての通り、外面は良くても、不器用なんですよ。好いたおなごが心配だと言って、学園から追い出そうとするくらい気遣いが空回る男なんです。」
まさか…あの夜の話を山田先生も知って?
疑問を浮かべたさくらの表情を察したのか、土井先生が横から「後を尾けてたそうです」と説明を加えた。
それだけ心配だったと言うことなのか。
「こんな顔して、まともに恋もしたことがない男なんだから。初恋で難しい相手にいったもんだよ。怪しまれてた女性と、どうやって距離をつめるか。初心な男には難しかったんでしょうよ。…日向さんにはそちらでも嫌な思いをさせてしまいまして、バカ息子が申し訳ない。」
山田先生はその言葉の勢いのまま、土井先生の頭を乱暴に掴むと一緒に頭を下げた。「息子」という言葉に土井先生の口元が僅かに上がっている。迷惑そうな声を出していても、土井先生の僅かな変化が、彼の気持ちを表している。
「あの時は、私に余裕がなくて、土井先生のお気遣いにまで気持ちが回らなかったんです。」
あの惨劇に気持ちを持って行かれて、ネガティブになっていたと思う。
「それより…気になる言葉がありまして。その…好きな、おなごというのは私のことで?」
山田先生から、さらりと出てきた言葉。それに土井先生は否定するでもなく座っている。
正史丸くんを苦しい道へと導いた。
ぬくもりではなく、厳しさを与えた女に好意を…?
土井先生の方をまじまじと見つめた。
山田先生はその様子を見ると、静かに立ち上がった。
「あとは当人たちで話しなさい。」
山田先生が部屋を出る。残された土井先生とさくらは、向き合ったまま目線を泳がせている。
沈黙が長く続く。
最初に、それを破ったのは土井先生だった。
「…あなたを失って、自分の気持ちに気がつきました。…山田先生は随分前からお気付きだったようですが。」
土井先生が恥ずかしそうに指先で頬を掻いた。
さくらにとっては嬉しい言葉だ。土井先生が正史丸だと知ってからは、より一層、この人の幸せを願っていた。…我儘を言うならば、隣で同じ幸せを見られたら、と思うこともあった。
しかし、それを望んでいいのか…。
土井先生をまじまじと見た。いつもとは違う熱のこもった瞳がさくらを見つめている。
「あなたは私の情けない姿を色々とご覧になったでしょう…?そんな気持ちになれない、というのは分かっています。ですが、忍術学園で再び働かれるのでしたら…せめて同僚として、親しくすることは許していただけないでしょうか。」
土井先生の手がさくらの手をそっと握った。諦めた、と言いつつも行動ではどこか期待しているようなしぐさで。
「先生…ずるいですよ」
さくらが断りにくいように、わざと下手に話しているのだろう。過去の正史丸の生き方にさくらが責任を感じ、気持ちを心の奥へしまい込もうとしていたのに。
「ずるい男でしょう…?」
土井先生が含み笑いを浮かべた。
さくらは握られた手を握り返した。
見つめ合う2人の距離が縮まっていく。
そこて、声を上げたのは土井先生だった。
「お前たち…覗き見は趣味が悪いぞ。」
土井先生の声を合図に畳の下から、天井から、襖の裏から、小さな影が姿を現した。
は組の生徒たちが、にやにやしている。
「そんなに暇なら明日は確認テストだ!範囲は今までの学習したところまで!」
「ええー!」「そんなにたくさん…!」と絶望の声を上げるは組の生徒。
「分かったら、早くテスト勉強しなさーああい!」
土井先生が大声を上げると、全員が蜘蛛の子を散らすように去っていった。
まさか、人が隠れていたとは思わず、さくらは茫然とことの成り行きを見守るしかなかった。そして、喧騒が止んだところで、眼前に土井先生の顔が迫っていることに気がついた。あ、と思った時には唇に柔らかい感触。そして、いたずらが成功した子供のように笑う土井先生がいた。