星降る夜に
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さくらは滲む視界を断ち切るように瞼をこすった。悲しんでばかりいられない。この貝紅で元気づけてくれた山本シナ先生。彼女が応援してくれたのは、あの場所で、精一杯できることをこなしていたさくらだったからだ。ならば、それに恥じないよう、こちらの世界でも生きていきたい。涙を拭った腕を離す。目の前に映るであろう星空を見上げたところで、さくらは驚きで目を見開いた。
見上げた空は快晴。澄んだ青が広がる空。
そして、傍らでは竹箒で落ち葉を掃き集める音。
音のする方へ顔を向けると、そこには見知った事務員の制服に身を包んだ青年がいた。すこし口を尖らせて、鼻歌混じりに、小松田くんが忍術学園の正門を掃除している。
神様、悪戯が過ぎるんじゃないでしょうか。現代で生きる覚悟を決めた途端にこの仕打ち。さくらの心が揺れ動くのを楽しんでいるんじゃなかろうか。目に見えない「何か」に悪態をついてみるも返答があるはずもない。鼻歌を歌いながら掃き掃除をしていた小松田君が、さくらの姿に気がつくと、大きく目を見開いた。
「あ…!さくらさん!」
持っていた竹箒を地面に落として、しばらく立ち尽くしている。やはり驚きだろう。急にいなくなった人物が、また急にやって来たのだ。お化けでも見たような顔をしている。
「こ、小松田くん。久しぶり」
なんと声をかけて良いのか考えた末、出て来たのは当たり障りのない言葉だった。小松田君はさくらの声を聞くや否やこちらへと駆け出した。
「さくらさんっ!」
小松田くんとは何だかんだ、忍術学園で一番多くを過ごした人だ。寂しく思ってくれていたのかと思うと純粋に嬉しい。弟を迎えるような気持ちで、さくらは駆け寄ってくる小松田くんを迎えるように腕を広げた。
「入門表にサインしてくださいっ!」
懐から取り出した入門票がさくらの目の前に提示される。
「あ、はい……」
小松田くんの勢いに押されて言われたまま入門表にサインをする。小松田くんはサインを確認すると満足そうに懐に仕舞い直した。
「さくらさん戻ってきてくれてよかった〜!ご実家の方はもういいんですかぁ?」
いつもの間延びした話し方。癒される。自然と口元が上がってるものの、ご実家の…とは?内心で疑問符を浮かべる。
「ご実家って…」
「ご実家のことで急に帰られるって聞いて。驚きましたよ。朝来たら突然さくらさんの荷物は綺麗になってるし、吉野先生も知ってたら早く教えてくれればいいのに、僕だけ当日に知らされてびっくりしましたよ〜。」
…なんとなく状況は把握できた。おそらく、あの消えた夜に先生方だけで口裏を合わせてくれたんだろう。他の者たちを動揺させないよう当たり障りのない理由をつけて。ならば、それに乗っておいた方がいいだろう。
「まあ…色々落ち着いたからねぇ。小松田君、挨拶もできなくてごめんね。急なことだったから、そういうのすっ飛ばして帰っちゃって。小松田くんに仕事突然ふってきちゃって大変だったでしょう。」
人員が1人減ったのだ。その穴埋めは小松田くんもやってくれたに違いない。そういうと小松田くんは口を尖らせた。
「僕…このお仕事が好きだから苦じゃないですよ。でも、さくらさんと一緒にお仕事してたときは、もっと楽しかったなって。それに関しては、ちょっと寂しかったです。」
拗ねたような表情の小松田くん。あの短期間でここまで慕ってくれてたのかと思うと本当に嬉しい。いじらしい言動に頭の一つでも撫でたくなる。しかし、同僚にそんな行動を起こせるわけもない。
「ああー!!もしかして日向さんじゃない?!」
遠くから子供の声が聞こえる。先ほどの声を皮切りに「あ!本当だ!」「さくらさんだ!!」など満面に喜色をたたえて、は組の子供たちが駆け寄ってきた。
「さくらさん、おかえりなさい!」
乱太郎がそういうと、他の子供達も一様に「おかえりなさい」だとか、「よかったぁー!」という声が上がった。子供達から、なんの迷いもなくかけられる言葉。ここが帰る場所なのだと、ここがさくらの居場所なのだと教えてもらっているようだ。こちらも自然と笑顔が溢れる。
「……ただいま。みんなは相変わらず元気そうね。」
みんなの顔を見回す。いつものように血色のいい顔色、輝くような瞳の子供達。食堂のおばちゃんや先生方からの愛情を受けて、今日もみんな元気に学園生活を送っているようだ。しかし、さくらの言葉に庄左衛門が首を横に振った。
「ただ…土井先生は不調のようなんです。」
続けて兵太夫、団蔵、、伊助、虎若が続く。
「なんだかぼーっとしていることがあるし」
「昨日は教科書を逆さまにして授業したり」
「抜き打ちテストもやらなくなったんです。」
「丸つけも間違えちゃうこともあったんですよ」
子供達の話を聞くと、およそ真面目な土井先生らしくない行動だ。
しんべえ、喜三太も心配そうな顔をしている。
「ご飯を残しちゃうこともあったんです」
「僕のなめさんが教室をお散歩してても気が付かないんです」
金吾がこれまでのことを説明してくれる。
「それで、僕たち日向さんがいなくなってから土井先生の様子がおかしいと思って、みんなで日向さんを探してたんです。」
まさかの展開に驚き声をあげた。
「ええ…!みんなで私を探してたの!?」
しかし、どうやっても見つからないだろう。その時のことを思い出したのか、みんなしゅんとしている。
三次郎がしゅんとしながら答えた。
「でも、探しても日向さんと会うことはできなくて…」
それに乱太郎が言葉をつげた。
「山田先生に日向さんは遠くのご実家に帰られたって聞いて、みんなで手紙を出したんです。それを読んで帰ってきてくださったんですよね。」
疑いのない瞳で確認するように見上げられる。
……ここで読んでませんとは流石に口が裂けても言えない。皆の期待するような視線を一身に受けているのだ。
「みんなお手紙ありがとう。土井先生のことが心配なのはよく分かったわ。」
しかし、ここへ再びやってきたからといって学園長先生が受け入れてくれるのか。あの時は、物珍しさと身分を明らかにするために置いてくれていたのだ。今回、ここでさくらを再び雇うメリットは何もない。
「……もし事務員の募集があったらお願いしようかしら。」
子供達の期待を裏切るような結果にはしたくない。それに…さくら自身も忍術学園で再び働けたらという思いもある。あの人の近くで、皆に慕われる幸せな姿を見られたら。
すると、突然あたりに爆音と白煙が上がった。
咄嗟に、音の方向に背を向け子供達を守るように遮った。
「ゴホッ…ゲホッ…オホン!」
白煙の中から掠れた老人の咳き込む声が聞こえる。それが聞こえると、皆なにが起こったのか理解して、そちらに体を向けた。白煙が落ち着いてくると、学園長が姿を現した。
「日向 さくらの事務員復帰を許可するっ!」
学園長先生の言葉には組の子供達は嬉しそうに飛び上がった。
「学園長先生っ!一体なんの騒ぎですか!?」
爆音に駆けつけた山田先生と土井先生が心配そうな顔をしている。しかし、状況を把握したところで、やれやれ、とため息をついた。そして、さくらの姿を見つけると二人は驚いたように目を見開いた。
「さくらさん…」
土井先生が呟くような声でさくらの名前を呼んだ。驚きすぎて固まってしまっている。
「驚かせて申し訳ありません、あの…戻ってきちゃいました。」
さくらは面目ない、というように頭をかいた。喧嘩別れのような形で姿を消してしまったのだ。どう話していいのか分からず、しかし皆の前で現代に戻っていたと説明するわけにもいかず曖昧に言葉を濁した。
さくらと土井先生の間に沈黙が流れる。その様子を周りは固唾を飲んで見守っている。
どれくらいの時間が経っただろうか。動かない土井先生に痺れを切らしたのか、きり丸が声をあげた。
「土井先生っ!しっかりしてくださいよ!さくらさんと話した方が良いんじゃないっスか?」
きり丸の声で現実に意識が戻ってきたのか、土井先生は反射的に「ああ…!そうだな」と声を出した。隣にいる山田先生は小さく息をついた。
「学園長先生、ここは私に預けていただけますか。」
山田先生の言葉に学園長先生が短く「うむ」と頷いた。
「さあ、お前たちは委員会があるだろう。……土井先生、日向さんはこちらに。」
山田先生の一声では組の子供達は「はーい!」と元気よく返事をすると、「日向さん!土井先生のことお願いしますね!」「それじゃあ、また!」と散り散りになっていった。学園長先生もいつの間にか姿を消し、残ったのは3人。山田先生について、教師長屋の方へと向かった。
見上げた空は快晴。澄んだ青が広がる空。
そして、傍らでは竹箒で落ち葉を掃き集める音。
音のする方へ顔を向けると、そこには見知った事務員の制服に身を包んだ青年がいた。すこし口を尖らせて、鼻歌混じりに、小松田くんが忍術学園の正門を掃除している。
神様、悪戯が過ぎるんじゃないでしょうか。現代で生きる覚悟を決めた途端にこの仕打ち。さくらの心が揺れ動くのを楽しんでいるんじゃなかろうか。目に見えない「何か」に悪態をついてみるも返答があるはずもない。鼻歌を歌いながら掃き掃除をしていた小松田君が、さくらの姿に気がつくと、大きく目を見開いた。
「あ…!さくらさん!」
持っていた竹箒を地面に落として、しばらく立ち尽くしている。やはり驚きだろう。急にいなくなった人物が、また急にやって来たのだ。お化けでも見たような顔をしている。
「こ、小松田くん。久しぶり」
なんと声をかけて良いのか考えた末、出て来たのは当たり障りのない言葉だった。小松田君はさくらの声を聞くや否やこちらへと駆け出した。
「さくらさんっ!」
小松田くんとは何だかんだ、忍術学園で一番多くを過ごした人だ。寂しく思ってくれていたのかと思うと純粋に嬉しい。弟を迎えるような気持ちで、さくらは駆け寄ってくる小松田くんを迎えるように腕を広げた。
「入門表にサインしてくださいっ!」
懐から取り出した入門票がさくらの目の前に提示される。
「あ、はい……」
小松田くんの勢いに押されて言われたまま入門表にサインをする。小松田くんはサインを確認すると満足そうに懐に仕舞い直した。
「さくらさん戻ってきてくれてよかった〜!ご実家の方はもういいんですかぁ?」
いつもの間延びした話し方。癒される。自然と口元が上がってるものの、ご実家の…とは?内心で疑問符を浮かべる。
「ご実家って…」
「ご実家のことで急に帰られるって聞いて。驚きましたよ。朝来たら突然さくらさんの荷物は綺麗になってるし、吉野先生も知ってたら早く教えてくれればいいのに、僕だけ当日に知らされてびっくりしましたよ〜。」
…なんとなく状況は把握できた。おそらく、あの消えた夜に先生方だけで口裏を合わせてくれたんだろう。他の者たちを動揺させないよう当たり障りのない理由をつけて。ならば、それに乗っておいた方がいいだろう。
「まあ…色々落ち着いたからねぇ。小松田君、挨拶もできなくてごめんね。急なことだったから、そういうのすっ飛ばして帰っちゃって。小松田くんに仕事突然ふってきちゃって大変だったでしょう。」
人員が1人減ったのだ。その穴埋めは小松田くんもやってくれたに違いない。そういうと小松田くんは口を尖らせた。
「僕…このお仕事が好きだから苦じゃないですよ。でも、さくらさんと一緒にお仕事してたときは、もっと楽しかったなって。それに関しては、ちょっと寂しかったです。」
拗ねたような表情の小松田くん。あの短期間でここまで慕ってくれてたのかと思うと本当に嬉しい。いじらしい言動に頭の一つでも撫でたくなる。しかし、同僚にそんな行動を起こせるわけもない。
「ああー!!もしかして日向さんじゃない?!」
遠くから子供の声が聞こえる。先ほどの声を皮切りに「あ!本当だ!」「さくらさんだ!!」など満面に喜色をたたえて、は組の子供たちが駆け寄ってきた。
「さくらさん、おかえりなさい!」
乱太郎がそういうと、他の子供達も一様に「おかえりなさい」だとか、「よかったぁー!」という声が上がった。子供達から、なんの迷いもなくかけられる言葉。ここが帰る場所なのだと、ここがさくらの居場所なのだと教えてもらっているようだ。こちらも自然と笑顔が溢れる。
「……ただいま。みんなは相変わらず元気そうね。」
みんなの顔を見回す。いつものように血色のいい顔色、輝くような瞳の子供達。食堂のおばちゃんや先生方からの愛情を受けて、今日もみんな元気に学園生活を送っているようだ。しかし、さくらの言葉に庄左衛門が首を横に振った。
「ただ…土井先生は不調のようなんです。」
続けて兵太夫、団蔵、、伊助、虎若が続く。
「なんだかぼーっとしていることがあるし」
「昨日は教科書を逆さまにして授業したり」
「抜き打ちテストもやらなくなったんです。」
「丸つけも間違えちゃうこともあったんですよ」
子供達の話を聞くと、およそ真面目な土井先生らしくない行動だ。
しんべえ、喜三太も心配そうな顔をしている。
「ご飯を残しちゃうこともあったんです」
「僕のなめさんが教室をお散歩してても気が付かないんです」
金吾がこれまでのことを説明してくれる。
「それで、僕たち日向さんがいなくなってから土井先生の様子がおかしいと思って、みんなで日向さんを探してたんです。」
まさかの展開に驚き声をあげた。
「ええ…!みんなで私を探してたの!?」
しかし、どうやっても見つからないだろう。その時のことを思い出したのか、みんなしゅんとしている。
三次郎がしゅんとしながら答えた。
「でも、探しても日向さんと会うことはできなくて…」
それに乱太郎が言葉をつげた。
「山田先生に日向さんは遠くのご実家に帰られたって聞いて、みんなで手紙を出したんです。それを読んで帰ってきてくださったんですよね。」
疑いのない瞳で確認するように見上げられる。
……ここで読んでませんとは流石に口が裂けても言えない。皆の期待するような視線を一身に受けているのだ。
「みんなお手紙ありがとう。土井先生のことが心配なのはよく分かったわ。」
しかし、ここへ再びやってきたからといって学園長先生が受け入れてくれるのか。あの時は、物珍しさと身分を明らかにするために置いてくれていたのだ。今回、ここでさくらを再び雇うメリットは何もない。
「……もし事務員の募集があったらお願いしようかしら。」
子供達の期待を裏切るような結果にはしたくない。それに…さくら自身も忍術学園で再び働けたらという思いもある。あの人の近くで、皆に慕われる幸せな姿を見られたら。
すると、突然あたりに爆音と白煙が上がった。
咄嗟に、音の方向に背を向け子供達を守るように遮った。
「ゴホッ…ゲホッ…オホン!」
白煙の中から掠れた老人の咳き込む声が聞こえる。それが聞こえると、皆なにが起こったのか理解して、そちらに体を向けた。白煙が落ち着いてくると、学園長が姿を現した。
「日向 さくらの事務員復帰を許可するっ!」
学園長先生の言葉には組の子供達は嬉しそうに飛び上がった。
「学園長先生っ!一体なんの騒ぎですか!?」
爆音に駆けつけた山田先生と土井先生が心配そうな顔をしている。しかし、状況を把握したところで、やれやれ、とため息をついた。そして、さくらの姿を見つけると二人は驚いたように目を見開いた。
「さくらさん…」
土井先生が呟くような声でさくらの名前を呼んだ。驚きすぎて固まってしまっている。
「驚かせて申し訳ありません、あの…戻ってきちゃいました。」
さくらは面目ない、というように頭をかいた。喧嘩別れのような形で姿を消してしまったのだ。どう話していいのか分からず、しかし皆の前で現代に戻っていたと説明するわけにもいかず曖昧に言葉を濁した。
さくらと土井先生の間に沈黙が流れる。その様子を周りは固唾を飲んで見守っている。
どれくらいの時間が経っただろうか。動かない土井先生に痺れを切らしたのか、きり丸が声をあげた。
「土井先生っ!しっかりしてくださいよ!さくらさんと話した方が良いんじゃないっスか?」
きり丸の声で現実に意識が戻ってきたのか、土井先生は反射的に「ああ…!そうだな」と声を出した。隣にいる山田先生は小さく息をついた。
「学園長先生、ここは私に預けていただけますか。」
山田先生の言葉に学園長先生が短く「うむ」と頷いた。
「さあ、お前たちは委員会があるだろう。……土井先生、日向さんはこちらに。」
山田先生の一声では組の子供達は「はーい!」と元気よく返事をすると、「日向さん!土井先生のことお願いしますね!」「それじゃあ、また!」と散り散りになっていった。学園長先生もいつの間にか姿を消し、残ったのは3人。山田先生について、教師長屋の方へと向かった。