星降る夜に
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ベランダから星空を見上げる。
都会の夜空は街の明かりで見える星の数はわずかだ。
「ふぅ……疲れた」
高坂くんの親切な申し出に言葉を濁し、その後はそそくさと自室へと帰ってきてしまった。思わず口から漏れてしまった言葉を、片手に持った缶ビールで流し込む。隠し事をしながら笑うのは、こんなに大変なのか。愛想笑いくらい、日常ですることもある。しかし、明確に隠し事をして、それを誤魔化し続けるのはなかなか精神力がいる。しかも相手は本気で自分を心配してくれている人たちだ。
今更ながら、土井先生の苦労の一端を垣間見たような気がする。忍術学園や同僚の山田先生、皆土井先生のことを大切にしてくれる人たちだ。仕事仲間として、良き教師として。その人たちに自身の過去を気取られぬように『普通に』過ごし続けるのは大変なことだろう。あの夜の惨劇を忘れられるはずがない。夢の中で、または誰かの言動で呼び起こされる記憶に蓋をして穏やかな表情で教師を務め上げる。さくらなど遠く及ばない強い精神力だ。
「ここはあなたがいるべき場所ではない」
あの言葉の意味は、土井先生の優しさだったのだろうか。それとも……。
さくらとしては忍術学園での生活は目の前の仕事を精一杯こなしてきたつもりだ。素性が知れないと、怪しまれることもあったが、さくらを思ってくれる人も確かにいた。もう一方の手に握っていた貝紅に視線を落とした。現代に比べれば環境も、さくらを思ってくれる人もわずかな世界。しかし、恋しく思っている自分がいる。
*************************
放課後の1年は組の教室で小さな頭をつき合わせる子供達の輪が出来上がっていた。
「やっぱり、変だよ。」
「なーんか、上の空だよね。」
兵太夫と三次郎がうんうん、と頷きあう。
「団蔵の字を朱書きしなくなっちゃったし」
「虎若の度を超えた筋トレにお小言は言わないし」
「僕のナメさんが教室をお散歩しても気が付かないんだよぅ」
虎若、団蔵、喜三太が報告する。
「土井先生、僕にランチの付け合わせくれたり……食欲無いのかな」
「それは、練り物だったからだろ」
しんべえの言葉に金吾がツッコミを入れた。
「……事務員の日向 さくらさんがいなくなってからだよね。」
乱太郎がポツリと言った。
「日向さんは実家に帰られたんだよね。少し顔を出してもらったら、土井先生元気になるかなぁ」
伊助が言った。
「でも、日向さんにも、きっとご事情があるよ。ご実家の場所もわからないんじゃ、簡単に来てもらえるか分からない。それに土井先生の不調の原因が何かはっきりしないのに、わざわざ来てもらうのは申し訳ないよ」
冷静に庄左ヱ門が言った。
「まあ、本当に日向さんが原因とは限らないからなぁ」
兵太夫の言葉に頷く者もいる。
「怒られるのが少なくなるのはいいよな」
虎若が兵太夫の言葉にのると、隣の団蔵も頷いた。しかし、しんべえは心配そうに眉を八の字に下げた。
「このまま土井先生の食が細くなったら……」
「本当に病気になっちゃうかも知れないよ」
乱太郎も心配そうに言葉を続けた。乱太郎の言葉に不安になったのか、は組の子供達の表情が曇る。その中で、庄左ヱ門がきり丸に顔を向けた。
「きり丸はどう思う?」
「俺は……」
言い淀むきり丸に視線が集まる。
「土井先生に元気になって欲しい。……土井先生、きっと元気がない理由は俺たちに教えないと思うんだ。だから、さくらさんに聞いたら何かわかるかも知れない。」
そこまで聞くと庄左ヱ門は片手に握り拳をして立ち上がった。
「よし!僕たちで日向 さくらさんを探して、土井先生の不調の理由を突き止めよう!」
庄左ヱ門が拳を突き上げるのと同時に皆が「おー!!」と同じく拳を突き上げた。は組の作戦実行である。
そこからは組の行動は早かった。
次の休みに手分けしてさくらの郷里を探し出すことにしたのだ。同室の者でペアを組んで、方々に散った。さくらの人相や、同じ苗字の者を人伝に探したり、手がかりとなりそうなものは全て駆使して捜索にあたった。しかし、子供の足で一日に捜索出来る範囲は限られている。一日目は近隣の村々をあたってみたが、どのペアもいい収穫は得られなかった。皆で合流して、帰路に着く。
「もっと遠くに住んでいらっしゃるのかなあ」
「じゃあ次は何日かお休みをもらって行ってみようよ!」
庄左ヱ門の言葉に団蔵が明るく提案する。誰もがやる気に満ち溢れている。団蔵の言葉に賛同して、皆次の休みはどのあたりへ行こうかと歩きながら相談を始める。茜色の夕日がは組の子供達を照らしている。夕日が忍術学園を照らし、長い影を落としている。その正門では誰かが立っている。逆光で顔は見えない。しかし、近づいていくうちに、その人物がはっきりとわかった。
「山田先生!」
見知った先生とわかり、は組全員で嬉しそうに駆け寄った。
「お前たち、みんなで出かけていたのか。」
「僕たち、土井先生の不調の原因を探すために元事務員の日向 さくらさんを探していたんです。」
代表して庄左ヱ門が答えた。
「それで、一日中姿が見えないと思ったら、外へ探しに行っていたのだな。」
「今日は…ダメだったけど」
「次のお休みは、もっと遠くへ行ってみようって話し合ってたんです」
「きっと、日向さんにあったら土井先生は元気になると思って!」
「ご飯もたくさん食べられるようになると思うんです!」
口々に話し始める。山田先生は一通り子供達の声を聞くと、うむ、と顎に手をやって考えるようなそぶりを見せた。
「しかしなあ、日向さんは遠くの郷里へ帰られると聞いているぞ。」
「山田先生、さくらさんの居場所をご存知ですか!?」
乱太郎が身を乗り出した。
「私も詳しくは知らないんだが、後で学園長先生に聞いてみよう。手紙を届けるくらいなら、利吉に頼んでやってもらうとしよう。手紙を渡したい者は後で私のところへ持ってきなさい。」
山田先生の提案に子供達の顔が輝く。
口々に文通相手になってくれたら土井先生も喜ぶかも!だとか、なんてお手紙を書こうかなあ。と話しながら、入門表にサインを書いて忍たま長屋へと戻っていく。
山田先生は生徒たちの後ろ姿を見ながら、小さくため息をついた。
素性の知れない日向 さくらという人物が来てから、教師、上級生らは彼女の動向に目を光らせていた。敵方の侵入者ではないのか、学園長の命を狙っているのでは、機密文書を持ち出すのでは。あらゆる可能性が考えられ、危険視していた者が多い。しかし、肝心の日向さんは事務員の仕事をきっちりとこなし、朗らかに学園の者と接している。本当に普通の娘だった。そして、乱太郎きり丸しんべえが山賊に襲われ、自らの身を投げ打って助けたことが、彼女の見方を変えるきっかけとなった。新野先生の見立てによれば、体つきは一般的な子女よりも筋力がなく、およそ忍びとは思えない体躯をしていること。そして、勝てないと分かっていても、子供たちを守ろうとする優しくも強い気持ちが、先生方の心を打った。半助は最初から信じていたようだが、何か思うところがあったのやもしれん。
そして「漆間」へと旅立った二人。そこで距離を縮めて帰ってきたのだと思っていた。二人が抱き合う姿が、…半助が無防備に涙を流す姿が心寄せあったのだと思っていたのだ。
教員長屋へ戻ると、半助は生徒たちのテストに赤を入れているところだった。いつものように胃をさすりながら、「教えたはずだ…」とぼやいている。
「子供たちに心配をかけているようだぞ。」
そういうと、半助はテスト用紙から顔を上げた。
「どうしました?」
全く気がついていないらしい。昼間の食欲減退も、時々ぼうっとしていることも。この男は隠し通せていると思っているのだ。
「日向さんを探しに、は組の生徒たちが街を歩き回っていたそうだ。」
そういうと、半助は視線をわずかに揺らした。
「…そうでしたか。」
「子供に心配されるとは、まだまだ青いなあ」
茶々を入れると、むすっとした表情でこちらを見返している。
旅から戻って、気落ちしていた日向さん。なんの事情かは知らないが、それを元気づけるために夜空を見せに行ったはずの男が。
「ここはあなたがいるべき場所ではない」
なぜ、突き放すような物言いをするのか。
確かに、危険の多い職業だ。一般人には別の世界で生きる方がはるかに安全で幸せだろう。しかし、お互いが思い合っているのは外から見ればよく分かる。
日向さんは消える前に悲しそうな表情を半助に向けていた。半助の言葉が、ここを去る引き金となってしまったのだとしたら。あの不可思議な現象を夢と思いたくとも、目の前の男も同じ者を見ていた。そのことは疑いようのない事実だとして、重要なのは、半助が心を許せる女性が、半助の空回った優しさで傷つき、去ってしまったとしたら、とても勿体無い。
「……若いなあ」
あれこれ言うのも野暮だろう。部屋に用意している鉄瓶で急須に茶を入れる。二人分の湯呑みに茶を注ぐと、半助の机に一つを置いた。
「さあ、休憩にしよう。」
二人で温かい茶に口をつける。自然とホッと口から息が漏れた。自分にできるのは、温かい茶を淹れてやり、半助が何か言いたくなった時には全力で聞いてやる事だけだ。それまでは、子供達のことは、こちらで何とかしてやろう。目尻を下げて茶を飲む半助を見ながら、山田はそう心で決めたのだった。
都会の夜空は街の明かりで見える星の数はわずかだ。
「ふぅ……疲れた」
高坂くんの親切な申し出に言葉を濁し、その後はそそくさと自室へと帰ってきてしまった。思わず口から漏れてしまった言葉を、片手に持った缶ビールで流し込む。隠し事をしながら笑うのは、こんなに大変なのか。愛想笑いくらい、日常ですることもある。しかし、明確に隠し事をして、それを誤魔化し続けるのはなかなか精神力がいる。しかも相手は本気で自分を心配してくれている人たちだ。
今更ながら、土井先生の苦労の一端を垣間見たような気がする。忍術学園や同僚の山田先生、皆土井先生のことを大切にしてくれる人たちだ。仕事仲間として、良き教師として。その人たちに自身の過去を気取られぬように『普通に』過ごし続けるのは大変なことだろう。あの夜の惨劇を忘れられるはずがない。夢の中で、または誰かの言動で呼び起こされる記憶に蓋をして穏やかな表情で教師を務め上げる。さくらなど遠く及ばない強い精神力だ。
「ここはあなたがいるべき場所ではない」
あの言葉の意味は、土井先生の優しさだったのだろうか。それとも……。
さくらとしては忍術学園での生活は目の前の仕事を精一杯こなしてきたつもりだ。素性が知れないと、怪しまれることもあったが、さくらを思ってくれる人も確かにいた。もう一方の手に握っていた貝紅に視線を落とした。現代に比べれば環境も、さくらを思ってくれる人もわずかな世界。しかし、恋しく思っている自分がいる。
*************************
放課後の1年は組の教室で小さな頭をつき合わせる子供達の輪が出来上がっていた。
「やっぱり、変だよ。」
「なーんか、上の空だよね。」
兵太夫と三次郎がうんうん、と頷きあう。
「団蔵の字を朱書きしなくなっちゃったし」
「虎若の度を超えた筋トレにお小言は言わないし」
「僕のナメさんが教室をお散歩しても気が付かないんだよぅ」
虎若、団蔵、喜三太が報告する。
「土井先生、僕にランチの付け合わせくれたり……食欲無いのかな」
「それは、練り物だったからだろ」
しんべえの言葉に金吾がツッコミを入れた。
「……事務員の日向 さくらさんがいなくなってからだよね。」
乱太郎がポツリと言った。
「日向さんは実家に帰られたんだよね。少し顔を出してもらったら、土井先生元気になるかなぁ」
伊助が言った。
「でも、日向さんにも、きっとご事情があるよ。ご実家の場所もわからないんじゃ、簡単に来てもらえるか分からない。それに土井先生の不調の原因が何かはっきりしないのに、わざわざ来てもらうのは申し訳ないよ」
冷静に庄左ヱ門が言った。
「まあ、本当に日向さんが原因とは限らないからなぁ」
兵太夫の言葉に頷く者もいる。
「怒られるのが少なくなるのはいいよな」
虎若が兵太夫の言葉にのると、隣の団蔵も頷いた。しかし、しんべえは心配そうに眉を八の字に下げた。
「このまま土井先生の食が細くなったら……」
「本当に病気になっちゃうかも知れないよ」
乱太郎も心配そうに言葉を続けた。乱太郎の言葉に不安になったのか、は組の子供達の表情が曇る。その中で、庄左ヱ門がきり丸に顔を向けた。
「きり丸はどう思う?」
「俺は……」
言い淀むきり丸に視線が集まる。
「土井先生に元気になって欲しい。……土井先生、きっと元気がない理由は俺たちに教えないと思うんだ。だから、さくらさんに聞いたら何かわかるかも知れない。」
そこまで聞くと庄左ヱ門は片手に握り拳をして立ち上がった。
「よし!僕たちで日向 さくらさんを探して、土井先生の不調の理由を突き止めよう!」
庄左ヱ門が拳を突き上げるのと同時に皆が「おー!!」と同じく拳を突き上げた。は組の作戦実行である。
そこからは組の行動は早かった。
次の休みに手分けしてさくらの郷里を探し出すことにしたのだ。同室の者でペアを組んで、方々に散った。さくらの人相や、同じ苗字の者を人伝に探したり、手がかりとなりそうなものは全て駆使して捜索にあたった。しかし、子供の足で一日に捜索出来る範囲は限られている。一日目は近隣の村々をあたってみたが、どのペアもいい収穫は得られなかった。皆で合流して、帰路に着く。
「もっと遠くに住んでいらっしゃるのかなあ」
「じゃあ次は何日かお休みをもらって行ってみようよ!」
庄左ヱ門の言葉に団蔵が明るく提案する。誰もがやる気に満ち溢れている。団蔵の言葉に賛同して、皆次の休みはどのあたりへ行こうかと歩きながら相談を始める。茜色の夕日がは組の子供達を照らしている。夕日が忍術学園を照らし、長い影を落としている。その正門では誰かが立っている。逆光で顔は見えない。しかし、近づいていくうちに、その人物がはっきりとわかった。
「山田先生!」
見知った先生とわかり、は組全員で嬉しそうに駆け寄った。
「お前たち、みんなで出かけていたのか。」
「僕たち、土井先生の不調の原因を探すために元事務員の日向 さくらさんを探していたんです。」
代表して庄左ヱ門が答えた。
「それで、一日中姿が見えないと思ったら、外へ探しに行っていたのだな。」
「今日は…ダメだったけど」
「次のお休みは、もっと遠くへ行ってみようって話し合ってたんです」
「きっと、日向さんにあったら土井先生は元気になると思って!」
「ご飯もたくさん食べられるようになると思うんです!」
口々に話し始める。山田先生は一通り子供達の声を聞くと、うむ、と顎に手をやって考えるようなそぶりを見せた。
「しかしなあ、日向さんは遠くの郷里へ帰られると聞いているぞ。」
「山田先生、さくらさんの居場所をご存知ですか!?」
乱太郎が身を乗り出した。
「私も詳しくは知らないんだが、後で学園長先生に聞いてみよう。手紙を届けるくらいなら、利吉に頼んでやってもらうとしよう。手紙を渡したい者は後で私のところへ持ってきなさい。」
山田先生の提案に子供達の顔が輝く。
口々に文通相手になってくれたら土井先生も喜ぶかも!だとか、なんてお手紙を書こうかなあ。と話しながら、入門表にサインを書いて忍たま長屋へと戻っていく。
山田先生は生徒たちの後ろ姿を見ながら、小さくため息をついた。
素性の知れない日向 さくらという人物が来てから、教師、上級生らは彼女の動向に目を光らせていた。敵方の侵入者ではないのか、学園長の命を狙っているのでは、機密文書を持ち出すのでは。あらゆる可能性が考えられ、危険視していた者が多い。しかし、肝心の日向さんは事務員の仕事をきっちりとこなし、朗らかに学園の者と接している。本当に普通の娘だった。そして、乱太郎きり丸しんべえが山賊に襲われ、自らの身を投げ打って助けたことが、彼女の見方を変えるきっかけとなった。新野先生の見立てによれば、体つきは一般的な子女よりも筋力がなく、およそ忍びとは思えない体躯をしていること。そして、勝てないと分かっていても、子供たちを守ろうとする優しくも強い気持ちが、先生方の心を打った。半助は最初から信じていたようだが、何か思うところがあったのやもしれん。
そして「漆間」へと旅立った二人。そこで距離を縮めて帰ってきたのだと思っていた。二人が抱き合う姿が、…半助が無防備に涙を流す姿が心寄せあったのだと思っていたのだ。
教員長屋へ戻ると、半助は生徒たちのテストに赤を入れているところだった。いつものように胃をさすりながら、「教えたはずだ…」とぼやいている。
「子供たちに心配をかけているようだぞ。」
そういうと、半助はテスト用紙から顔を上げた。
「どうしました?」
全く気がついていないらしい。昼間の食欲減退も、時々ぼうっとしていることも。この男は隠し通せていると思っているのだ。
「日向さんを探しに、は組の生徒たちが街を歩き回っていたそうだ。」
そういうと、半助は視線をわずかに揺らした。
「…そうでしたか。」
「子供に心配されるとは、まだまだ青いなあ」
茶々を入れると、むすっとした表情でこちらを見返している。
旅から戻って、気落ちしていた日向さん。なんの事情かは知らないが、それを元気づけるために夜空を見せに行ったはずの男が。
「ここはあなたがいるべき場所ではない」
なぜ、突き放すような物言いをするのか。
確かに、危険の多い職業だ。一般人には別の世界で生きる方がはるかに安全で幸せだろう。しかし、お互いが思い合っているのは外から見ればよく分かる。
日向さんは消える前に悲しそうな表情を半助に向けていた。半助の言葉が、ここを去る引き金となってしまったのだとしたら。あの不可思議な現象を夢と思いたくとも、目の前の男も同じ者を見ていた。そのことは疑いようのない事実だとして、重要なのは、半助が心を許せる女性が、半助の空回った優しさで傷つき、去ってしまったとしたら、とても勿体無い。
「……若いなあ」
あれこれ言うのも野暮だろう。部屋に用意している鉄瓶で急須に茶を入れる。二人分の湯呑みに茶を注ぐと、半助の机に一つを置いた。
「さあ、休憩にしよう。」
二人で温かい茶に口をつける。自然とホッと口から息が漏れた。自分にできるのは、温かい茶を淹れてやり、半助が何か言いたくなった時には全力で聞いてやる事だけだ。それまでは、子供達のことは、こちらで何とかしてやろう。目尻を下げて茶を飲む半助を見ながら、山田はそう心で決めたのだった。