星降る夜に

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上座に座る御仁は、笑顔で迎えてくださった。

「倅が世話になった!わしはこの屋敷の主、漆間 時国と申す。今日は礼を尽くしたもてなしをさせていただく。存分に楽しまれよ。」

豪快な物言いに屋敷の主としての自信と、どこの者ともしれぬ女を招く人の良さがにじみ出ていた。精悍な顔つきで、男らしい力強さがうかがえる。正史丸くんの見目の良さはお母さんから来ているのかと思ったが、りりしい眉などは父親ゆずりなのだな、と感じた。

「わたくし、日向 さくらと申します。このような豪華な宴をご用意くださり、ありがとうございます。」

「日向とな・・・?ここらでは聞かぬ姓であるな。旅の者か?」
「ええ、各地の寺院に参拝しております。」

嘘ではないが、旅の者というといささか大仰な気はする。しかし、ここで変に説明するよりは、話を合わせた方が無難だろう。
正史丸くんと時国さんの間に席が設けられ、そこに促される。時国さんから大きな酒瓶から白濁した酒を盃についでもらいながら、話をした。それは、趣味で回った各地の寺の話や、そこで見た、祭事の様子などであった。時国さんや正史丸くん、お母様も興味津々に話を聞いてくださった。昔は遠出をする機会が少なく、こうして旅の者からの話が楽しみのひとつだったのだな、と感じる。

宴が進むうちに、遠巻きにいた家臣たちが、上座へ酌をしに来た。時国さんと私に盃を注いでくれる。女だからと嫌煙していた者も、時国さんの態度で、同じようにもてなしをしてくれる。それに対応しながら、互いに酒を注ぎ合い、縁側では女たちが舞を舞い、これが、極楽かという様子である。正史丸君も初めの時の青白い顔が赤みを帯び、元気になってきたようだった。

「若君、お加減はいかがですか?」

この時代に、正史丸君とはさすがに失礼だと思い、若君と正史丸君を呼んだ。それに、今まで舞をみて楽しそうに笑っていた顔がこちらを向いた。

さくら殿。礼が遅くなって申し訳ありません。此度は助けていただきまことにありがとうございます。少し休みまして、気分もよくなって参りました。」

そういって、にこりと笑う表情は本当に美少年で、こちらもつられて笑顔になった。

「それは良かったです。ですが、なぜ池に入られたのです?」

初めて見たときから不思議であったのだ。まるで自ら飛び込むように池に身を投げた様子は、物事の分別のつく頃である彼にとって理由がなければ、説明がつかない行動だ。正史丸くんは、思い出そうとしているようだったが、首をひねっている。

「・・・私にも分からないのです。からだが引き込まれるような感じがしたことは覚えているのですが・・・」

これは、まさかオカルトか?
と背筋が寒くなる。時国さんは、隣でそれを聞きながら、「いずれにせよ、倅が助かって良かった!」とおおざっぱに切り上げ、酒をあおっていた。さすが、主の器がでかい・・・というより、豪快だ。先ほどよりも物言いが豪快になっているのは酔いが回っているからなのだろうか。ついでに、私の盃も満たしてくるので、こちらも酔いが進む。時国さんの隣にいたお母様はお酒は引き上げさせて、優雅にこちらの様子をほほえんで見ていらした。
いや、見ていないで旦那を止めてくださいよ。と思ったのは内緒だ。

そろそろ限界に近づき、外の風を吸うべく、部屋から引き上げた。
すでに空は闇に包まれ、満月と星々がきらめいていた。現代の生活ではお目にかかれないほどの満天の星にため息がこぼれる。

「きれい・・・」

さくら殿の御代では星は見えぬのですか?」

驚いて振り返ると正史丸くんが立っていた。

「今、・・・・何て?」

彼の言い方は、まるで当然かのようで、私がこの時代の者でないことはわかりきっているかのような、そんな物言いだ。今までも、こんなことがあったのだろうか?それとも・・・彼らが私を呼んで・・・?薄ら寒い妄想にとりつかれそうになる。

「父上、母上が、あなたは私を助けるために遣わされた天女様だと申しておりました。あなたが天に帰るまで、私たちでお世話をしてご恩を返すのだと。」
「おもしろいこと考えるわね。それで、正史丸くんもそれを信じているの?」
「はい。さくら殿の話す祭りの話は、今は聞いたこともない祭事もありました。きっと未来のお話なのだろう、と思います。」

昔の人は信心深いのだな・・・。いや、この親子だけなのかもしれないが。

「それなら、手っ取り早い。私はこの時代から大体1000年以上未来からやってきたと思う。君が池に落ちるのをこちらの時代で見つけて、助けに来たんだよ。」
「そう・・・でしたか。」

正史丸くんは驚いたように、言葉を句切った。自分で核心をついたにも関わらず、まさかそれほど遠い未来人がきたとは思わなかったのだろう。

さくら殿。ひとつお聞きしたい。」

およそ年端のいかない少年とは思えない真剣な顔つきの正史丸くんがいた。

「漆間家、そして領地の者は健やかに過ごせるのでしょうか。」

次期当主としては当然の質問だろう。彼は早くも当主としての責任を果たそうと、こうして人気のいないところについてきたのか。幼いながらも知恵の回る行動に感心する。しかし、私は「漆間」という名を歴史の授業で聞いたことがない。一豪族について学ぶような専門的な研究をしていたわけでもないから、彼の質問をそのまま答えることは難しかった。

「ごめんなさい。私はこの領地についての未来を知らないの。」

そういうと、正史丸くんは悲しそうに頭を下げた。そんな姿を見て、このまま帰すのはかわいそうで、言葉を続けた。

「でも、未来の日の本は平和よ。戦も飢饉もなく、子供たちは勉学に励んで好きな仕事を選べるのよ。」

「そうですか・・・!」

正史丸くんの瞳が輝く。

「そんな未来があるのも、あなたや先人が必死に生き抜いてくれたからよ。平和な日本をつくってくれてありがとう。」

うれしそうな正史丸くんに、こちらも胸がほっこりする。その頭をやさしくなでると、正史丸くんは頬を赤く染めた。

「・・・・さくらさん。体が・・・!!」

月の光に照らされた部分が薄くなっていく。
ここらが潮時か。

泣きそうな正史丸くんの頭を消えかかった手でなでる。
こんな短い時を過ごした人との別れを惜しめるのは、正史丸くんがたくさんの人に愛されて、素直に育ってきたからだろう。これも何かの縁だ。彼には生涯、幸せに過ごしてほしい。

「正史丸くん。元気でね。助けた命、無駄にしちゃだめよ!」

目の前が白くかすんでいく。正史丸くんが去り際に「また、お会いできますように!毎日、お祈りします!」と、涙目の彼の言葉に、こちらも目頭が熱くなった。

「ええ、また!!」

ぼやけていた視界が白く包まれた。
ああ、これでもとの世界へ帰るのだ、と感じた。









******








ふと、水の音が聞こえた気がして目を覚ました。
隣には、同僚でもあり恩人の山田先生が寝ている。しかし、こちらの布擦れの音に気づいたようで、ちらりと目を向けた。

「半助、何かあったか?」

「いえ、夢を見ていたようで。・・・何でもありません。」


久しぶりに幼い頃の夢をみた。
白い光に包まれた、かの女性のことを。

さくらさん・・・・。
私、あなたにいわれた通り、何とか生き抜いてますよ。


満月、満天の星が光り輝く夜のことであった。
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