星降る夜に
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「あ、きれい。」
「ああ〜!ナデシコですねぇ。」
今日も今日とて広大な学園の落ち葉掃きだ。隣の小松田くんがさくらの声で、撫子に目を向けた。細く伸びる茎の先端に、柔らかな薄紅の花弁が小さく色付いている。野の草が生い茂る中で、淡い色が浮かび上がるように咲く様子が、目に止まった。
「小松田くんは、お花に詳しいのね。」
「僕、扇屋の息子ですから!」
えっへん!と自慢げに胸を張る小松田くん。
「扇屋さんなら色んな絵柄の商品を見ているものね。」
「お客さんに説明するので、一通りの花は分かりますよぉ。」
小松田くんの意外な一面を見た気がする。小松田くんのおかげで、さくらにとっては小さな野花でしかないものが、形を成すように輪郭を持って見えてくる。女性を撫子に喩えて上品さを表すことがあるが、今まで実物を見たことがなかった。喩えられるように、茎も葉も花びらでさえ繊細な花が、可憐で楚々とした印象を与える気がする。現代ではそういう草花が群生する場所は少なくなってきた。さくらも現代では、自然とは縁遠い場所で過ごしてきた。こうして花を愛でる余裕があるのは、この時代のいいところかもしれない。
小松田くんが掃除の合間に咲いている花を教えてくれる。撫子に女郎花、秋の草花が季節の移ろいを知らせてくれる。
「もう秋なのねぇ。さつまいもが美味しい季節よね。」
「さくらさんは花より団子ですねぇ。」
おかしそうに笑う小松田くんと一緒に、「確かに」と笑い合う。そんな小さなことが、さくらにとっては、ここでの日常が戻って来たのだな、と感じさせるのだった。
学園に帰って来てからというもの、今までとかわりない日常を過ごさせてもらっている。あの話し合いの後、5、6年生は出会った頃と変わらずに親切な笑顔を貼り付けているし、(きっと下級生に気付かれないように)先生方も変わらず、すれ違えば挨拶をして、少し談笑をして。忍びというのは、やはり本心を隠すのがうまいなあ、と心の隅で妙に感心している今日この頃である。
小松田くんの提案で、学園に撫子を飾ろうと、2人で撫子の花束を胸に抱え、学園を回ることとなった。小松田くんは忍たまの教室、さくらの方は特別教室である。くのたま長屋は、すでに礼儀作法の授業などで花を飾っているらしため、必要ないそうだ。教室の数が多いため、手分けして作業することにする。食堂のおばちゃんは、嬉しそうに「まあ綺麗ね!」とルンルンとカウンターに撫子を飾ってくれたり、医務室の新野先生は、「部屋が明るくなりますね。」と、快く受け取ってくださり、図書室では、姿を見せない松千代先生が「ありがとうございます」と、出どころの分からない場所から声をかけてくださったり、おおむね好意的な反応をいただいている。この調子で、先生方の仕事部屋にもお邪魔して飾り付けさせていただく。ここも先生方は、いつものように「ありがとう」と親しみやすい笑顔で受け取ってくださる。くのたま長屋は必要ないとのことだが、山本シナ先生だけお渡ししないのも、とさくらは、ほとんど足を踏み入れたことのない、くのたま長屋へと足を踏み入れた。
男子禁制、忍たまたちにとっては、おっかない存在のくのたま。さくらも怖々、敷地に足を踏み入れる。忍たまの学舎に比べると小ぶりな建物、その面前には手入れの行き届いた日本庭園が広がっていた。
「きれい……。」
思わず声が漏れ出る。こんな素敵な場所があったとは。心なしか、空気も清々しい気がする。庭を奥へと進んでいく。誰か人はいないだろうか。小松田くんには山本シナ先生のお部屋を聞かなかったのだ。くのたまの敷地ならば誰か生徒に会えば分かるだろう、と気軽に入ってしまった。しかし、予想に反して、敷地内は静寂に包まれている。時より鳥の声や風が葉を揺らす音だけが聞こえる。……もしかして野外実習が行われている日だったのだろうか。不思議なほど物音のしない敷地で不安が募ってくる。
流石に、引き返そう、と来た道を振り返った時だった。
「あら、事務員の日向さんね。」
背後から、よく通る女性の声が聞こえた。先ほどまで進んでいた道の方へと向き直ると、若い方の山本シナ先生が立っていた。いつ、いらっしゃったのだろう。足音も、人影も感じられなかった。
「こんにちは、山本シナ先生。」
「事務員さんが来るのは珍しいわね。何か御用かしら?」
こうして近くで見ると、雰囲気のある美女だ。すっと伸びた背筋と、整った顔。空気に圧倒され、言葉を継げるのさえ忘れてしまうほどだ。
「日向さん?」
「あ……!その、小松田くんと撫子を学園に飾っていまして!山本シナ先生のお部屋にもお一ついかがかな、と参上した次第です。」
残りわずかになっている撫子の花をシナ先生の方へと近づけた。すると、それに顔を近づけ、柔らかく微笑んだ。綺麗な紅を引いた形のいい唇が弧を描いている。それさえも絵になる。
「綺麗ね、ありがとう。」
そういうと、シナ先生はさくらの手から撫子を受け取った。
「そうだわ。お礼に、これを使って。」
シナ先生はおもむろに懐から手のひらに乗るほどの大きさの貝殻を取り出した。……貝殻?と一瞬、疑問を浮かべたさくらだったが、合わせられた貝殻が開かれると、その内側には鮮やかな紅が照り輝いていた。思わず感嘆の声をあげると、シナ先生は笑みを深くした。
「任務で購入したのだけど、普段使ってるのはまだ沢山あるの。よかったら日向さんに使ってもらえると嬉しいわ。」
「こんな高価なもの……!いただけません!」
旅をしているうちに、いろいろな物の値段を見る機会はたくさんあった。その中でも、「紅」ほど高価な代物はない。ましてや、路面でほとんど売っていないほど希少で、見つければ、高値で売られている。ここで事務員をさせてもらっているとはいえ、僅かばかりの給金いただく身の上としては手の出せない代物だ。「余ったから、どうぞ」と軽く渡せてしまう金額ではないのだ。
「遠慮するような物じゃないのよ。初めは玉虫色だったのが、褪色してしまってるの。まだ、色に遜色ないから使えるわ。せっかくなら、綺麗な色のうちに使ってあげたいでしょう?」
そうして、さくらの手に貝紅を握らせた。
「……それに、お化粧は女の武器よ。ここで頑張っているあなたに、何かできたらって思っていたの。同じ職場で働く女同士でしょう。だから、ね。」
パチン、とウインクするとシナ先生は後ろへと大きく飛び退いた。返そうにも、機敏すぎてさくらがついていけないのを良いことに、ささっと屋根の方へと飛び移った。
「お花、飾らせてもらうわ!ありがとう事務員の日向さん!」
最後の言葉を残してシナ先生の姿が消えた。さくらが起こった出来事に呆けていると、周囲では人の声が聞こえてくることに気がついた。先ほどまで姿の見えなかったくのたま達があちらこちらに見える。狐に摘まれたような気分である。しかし、手の平には先ほどの貝殻が握られている。それだけが、現実であることを教えてくれていた。
一日が終わり、静かな夜。
子供達も、先生方も就寝しているのか、虫の囁きだけが聞こえる静かな夜だ。1人布団の中に潜り込み、眠ろうと試みても、今日もうまく寝付くことができない。旅から戻り、さくらは満足に寝られなくなってしまっている。
夜になると思い出してしまう。月明かりの中で見た、あの惨劇。女たちの悲鳴、……そして、正史丸の母の死を。初めて人が死ぬのを見た。それも見知った人が殺される瞬間を。正史丸の母の死に様が頭から離れない。帰ってからは、いつも夜中に目が覚めてしまうのだ。
さくらでさえ、こうなのだ。当時の正史丸くん、そして土井先生にとっては、比べるまでもない。想像することしかできなかった土井先生の苦しみの一端を、ほんの少し知っただけだ。こんな心を、打ち明けることなど恥ずかしくてできない。ただ日々の仕事をやり過ごして、普段通りに過ごしてみている。……しかし、シナ先生にはお見通しだったのかもしれない。さくらはシナ先生からもらった貝紅を手に、自室を後にした。
夜の忍術学園を行くあてもなく歩いてみる。
虫の音と、自身が歩く草履が、土を蹴る音だけがする。
夜風に緑の香りが乗って、さくらの元へと届く。澄んだ空気が頬を撫ででいく。自然の香りを胸いっぱいに吸ってみる。少しだけ、気持ちが凪いでくる。やはり、気分転換に歩いてみるのがよかったのかもしれない。今日は少しでも寝られるかもしれない。
あてどなく歩いていたが、昼間に小松田くんから教えてもらった撫子が、月明かりに照らされているのに気がついた。知らぬ間に校舎の近くまで来てしまっていたらしい。……楚々と繊細な花を咲かせる撫子が、あの美しい人を思い出させる。気持ちを紛らわせようとしても、囚われてしまう。
「風邪をひきますよ。」
後ろから見知った人の声がする。
土井先生は優しい声音でさくらに呼びかけた。
振り向くと、夜着に羽織姿の土井先生が立っていた。その手にはもう一つ、羽織が握られている。心配してついて来てくれたのだろうか。土井先生は持って来た羽織をさくらの肩にそっと掛けた。
「お散歩ですか?」
「ええ、少し……気分転換に。」
「この辺りは生徒の仕掛けた罠がありますよ。危ないのでご一緒しましょう。」
有無を言わさず、土井先生が隣に並んだ。
「ああ〜!ナデシコですねぇ。」
今日も今日とて広大な学園の落ち葉掃きだ。隣の小松田くんがさくらの声で、撫子に目を向けた。細く伸びる茎の先端に、柔らかな薄紅の花弁が小さく色付いている。野の草が生い茂る中で、淡い色が浮かび上がるように咲く様子が、目に止まった。
「小松田くんは、お花に詳しいのね。」
「僕、扇屋の息子ですから!」
えっへん!と自慢げに胸を張る小松田くん。
「扇屋さんなら色んな絵柄の商品を見ているものね。」
「お客さんに説明するので、一通りの花は分かりますよぉ。」
小松田くんの意外な一面を見た気がする。小松田くんのおかげで、さくらにとっては小さな野花でしかないものが、形を成すように輪郭を持って見えてくる。女性を撫子に喩えて上品さを表すことがあるが、今まで実物を見たことがなかった。喩えられるように、茎も葉も花びらでさえ繊細な花が、可憐で楚々とした印象を与える気がする。現代ではそういう草花が群生する場所は少なくなってきた。さくらも現代では、自然とは縁遠い場所で過ごしてきた。こうして花を愛でる余裕があるのは、この時代のいいところかもしれない。
小松田くんが掃除の合間に咲いている花を教えてくれる。撫子に女郎花、秋の草花が季節の移ろいを知らせてくれる。
「もう秋なのねぇ。さつまいもが美味しい季節よね。」
「さくらさんは花より団子ですねぇ。」
おかしそうに笑う小松田くんと一緒に、「確かに」と笑い合う。そんな小さなことが、さくらにとっては、ここでの日常が戻って来たのだな、と感じさせるのだった。
学園に帰って来てからというもの、今までとかわりない日常を過ごさせてもらっている。あの話し合いの後、5、6年生は出会った頃と変わらずに親切な笑顔を貼り付けているし、(きっと下級生に気付かれないように)先生方も変わらず、すれ違えば挨拶をして、少し談笑をして。忍びというのは、やはり本心を隠すのがうまいなあ、と心の隅で妙に感心している今日この頃である。
小松田くんの提案で、学園に撫子を飾ろうと、2人で撫子の花束を胸に抱え、学園を回ることとなった。小松田くんは忍たまの教室、さくらの方は特別教室である。くのたま長屋は、すでに礼儀作法の授業などで花を飾っているらしため、必要ないそうだ。教室の数が多いため、手分けして作業することにする。食堂のおばちゃんは、嬉しそうに「まあ綺麗ね!」とルンルンとカウンターに撫子を飾ってくれたり、医務室の新野先生は、「部屋が明るくなりますね。」と、快く受け取ってくださり、図書室では、姿を見せない松千代先生が「ありがとうございます」と、出どころの分からない場所から声をかけてくださったり、おおむね好意的な反応をいただいている。この調子で、先生方の仕事部屋にもお邪魔して飾り付けさせていただく。ここも先生方は、いつものように「ありがとう」と親しみやすい笑顔で受け取ってくださる。くのたま長屋は必要ないとのことだが、山本シナ先生だけお渡ししないのも、とさくらは、ほとんど足を踏み入れたことのない、くのたま長屋へと足を踏み入れた。
男子禁制、忍たまたちにとっては、おっかない存在のくのたま。さくらも怖々、敷地に足を踏み入れる。忍たまの学舎に比べると小ぶりな建物、その面前には手入れの行き届いた日本庭園が広がっていた。
「きれい……。」
思わず声が漏れ出る。こんな素敵な場所があったとは。心なしか、空気も清々しい気がする。庭を奥へと進んでいく。誰か人はいないだろうか。小松田くんには山本シナ先生のお部屋を聞かなかったのだ。くのたまの敷地ならば誰か生徒に会えば分かるだろう、と気軽に入ってしまった。しかし、予想に反して、敷地内は静寂に包まれている。時より鳥の声や風が葉を揺らす音だけが聞こえる。……もしかして野外実習が行われている日だったのだろうか。不思議なほど物音のしない敷地で不安が募ってくる。
流石に、引き返そう、と来た道を振り返った時だった。
「あら、事務員の日向さんね。」
背後から、よく通る女性の声が聞こえた。先ほどまで進んでいた道の方へと向き直ると、若い方の山本シナ先生が立っていた。いつ、いらっしゃったのだろう。足音も、人影も感じられなかった。
「こんにちは、山本シナ先生。」
「事務員さんが来るのは珍しいわね。何か御用かしら?」
こうして近くで見ると、雰囲気のある美女だ。すっと伸びた背筋と、整った顔。空気に圧倒され、言葉を継げるのさえ忘れてしまうほどだ。
「日向さん?」
「あ……!その、小松田くんと撫子を学園に飾っていまして!山本シナ先生のお部屋にもお一ついかがかな、と参上した次第です。」
残りわずかになっている撫子の花をシナ先生の方へと近づけた。すると、それに顔を近づけ、柔らかく微笑んだ。綺麗な紅を引いた形のいい唇が弧を描いている。それさえも絵になる。
「綺麗ね、ありがとう。」
そういうと、シナ先生はさくらの手から撫子を受け取った。
「そうだわ。お礼に、これを使って。」
シナ先生はおもむろに懐から手のひらに乗るほどの大きさの貝殻を取り出した。……貝殻?と一瞬、疑問を浮かべたさくらだったが、合わせられた貝殻が開かれると、その内側には鮮やかな紅が照り輝いていた。思わず感嘆の声をあげると、シナ先生は笑みを深くした。
「任務で購入したのだけど、普段使ってるのはまだ沢山あるの。よかったら日向さんに使ってもらえると嬉しいわ。」
「こんな高価なもの……!いただけません!」
旅をしているうちに、いろいろな物の値段を見る機会はたくさんあった。その中でも、「紅」ほど高価な代物はない。ましてや、路面でほとんど売っていないほど希少で、見つければ、高値で売られている。ここで事務員をさせてもらっているとはいえ、僅かばかりの給金いただく身の上としては手の出せない代物だ。「余ったから、どうぞ」と軽く渡せてしまう金額ではないのだ。
「遠慮するような物じゃないのよ。初めは玉虫色だったのが、褪色してしまってるの。まだ、色に遜色ないから使えるわ。せっかくなら、綺麗な色のうちに使ってあげたいでしょう?」
そうして、さくらの手に貝紅を握らせた。
「……それに、お化粧は女の武器よ。ここで頑張っているあなたに、何かできたらって思っていたの。同じ職場で働く女同士でしょう。だから、ね。」
パチン、とウインクするとシナ先生は後ろへと大きく飛び退いた。返そうにも、機敏すぎてさくらがついていけないのを良いことに、ささっと屋根の方へと飛び移った。
「お花、飾らせてもらうわ!ありがとう事務員の日向さん!」
最後の言葉を残してシナ先生の姿が消えた。さくらが起こった出来事に呆けていると、周囲では人の声が聞こえてくることに気がついた。先ほどまで姿の見えなかったくのたま達があちらこちらに見える。狐に摘まれたような気分である。しかし、手の平には先ほどの貝殻が握られている。それだけが、現実であることを教えてくれていた。
一日が終わり、静かな夜。
子供達も、先生方も就寝しているのか、虫の囁きだけが聞こえる静かな夜だ。1人布団の中に潜り込み、眠ろうと試みても、今日もうまく寝付くことができない。旅から戻り、さくらは満足に寝られなくなってしまっている。
夜になると思い出してしまう。月明かりの中で見た、あの惨劇。女たちの悲鳴、……そして、正史丸の母の死を。初めて人が死ぬのを見た。それも見知った人が殺される瞬間を。正史丸の母の死に様が頭から離れない。帰ってからは、いつも夜中に目が覚めてしまうのだ。
さくらでさえ、こうなのだ。当時の正史丸くん、そして土井先生にとっては、比べるまでもない。想像することしかできなかった土井先生の苦しみの一端を、ほんの少し知っただけだ。こんな心を、打ち明けることなど恥ずかしくてできない。ただ日々の仕事をやり過ごして、普段通りに過ごしてみている。……しかし、シナ先生にはお見通しだったのかもしれない。さくらはシナ先生からもらった貝紅を手に、自室を後にした。
夜の忍術学園を行くあてもなく歩いてみる。
虫の音と、自身が歩く草履が、土を蹴る音だけがする。
夜風に緑の香りが乗って、さくらの元へと届く。澄んだ空気が頬を撫ででいく。自然の香りを胸いっぱいに吸ってみる。少しだけ、気持ちが凪いでくる。やはり、気分転換に歩いてみるのがよかったのかもしれない。今日は少しでも寝られるかもしれない。
あてどなく歩いていたが、昼間に小松田くんから教えてもらった撫子が、月明かりに照らされているのに気がついた。知らぬ間に校舎の近くまで来てしまっていたらしい。……楚々と繊細な花を咲かせる撫子が、あの美しい人を思い出させる。気持ちを紛らわせようとしても、囚われてしまう。
「風邪をひきますよ。」
後ろから見知った人の声がする。
土井先生は優しい声音でさくらに呼びかけた。
振り向くと、夜着に羽織姿の土井先生が立っていた。その手にはもう一つ、羽織が握られている。心配してついて来てくれたのだろうか。土井先生は持って来た羽織をさくらの肩にそっと掛けた。
「お散歩ですか?」
「ええ、少し……気分転換に。」
「この辺りは生徒の仕掛けた罠がありますよ。危ないのでご一緒しましょう。」
有無を言わさず、土井先生が隣に並んだ。