星降る夜に
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心なしか急いでいるような土井先生の様子に、疑問符が浮かぶ。軽食を準備して、ゆっくり寛ごうとしていた矢先のことであった。たかが虫ひとつで、その場を離れるだろうか。内心訝しく思いながらも、これ以上踏み込ませない笑顔を向けられてしまえば、静かに後をついていくより他にない。…まさか、敵襲だったのだろうか?いや、2人とも狙われるようなものはない。相手としてならタソガレドキの諸泉くんだろうが、忍者が白昼堂々、多くの人目のある中、忍具を使うだろうか。いや、その線は薄いだろう。ならば、人混みの中に怪しい人物が?
「さくらさん。顔が険しくなっていますよ。」
「あっ、すいません。」
土井先生がこちらを安心させるように、柔らかく微笑んだ。
「この辺りの、ごろつきだと思います。若い夫婦は狙われやすいですから。」
女を人質にすれば、男から金を巻き上げられる。
そのまま女を売れば、さらに金になる。
あの山賊たちが思い出された。
骨が軋むような痛み、息をするだけで差し込む激痛。土の香り、湿った男たちの息遣い…。いままで思い出さなかった感覚が体に蘇ってくるようだった。
「さくらさん・・・?」
こちらを覗き込んでいる土井先生に、現実に引き戻された。
「・・・あ、土井先生がいれば安心ですね。全然気がつきませんでした。」
「先生ですからね。一度、宿を確保しておきましょう。その後、食事にしましょうか。さくらさん、ご希望はありますか?」
「そうですねぇ。ああ、お蕎麦にしましょう!この辺り、のぼりがいくつも上がってましたし、きっと有名なんですよね。」
こわばっていたさくらの表情が緩んだ。その変化に土井は気がつきながら、素知らぬふりをして、笑顔で会話を続けた。
「お蕎麦、いいですね。」
何に、引っかかったのか。予想はできたが、わざわざ掘り起こす必要もない。彼女にとって、今後の方がよほど、堪えるものだろう。どちらも背負い切れるほど、この人が強いとは思えない。たとえ、未来の世界から「希望」を与えてくれた人だとしても、その実、ただの女性であることに変わりない。今は、本人も気が付かぬうちに心の奥深くにしまているようだが、それが開いてしまえば、支えが必要になる。その支えに自分自身が「なりきれる」のか。忍が己の本心を隠しきれぬとはなんとも情けない話であっても、幼い頃の「正史丸」がどうしても頭をもたげてくるのだ。
宿屋の店主に話をつけたところで、二人は近くの蕎麦屋に向かった。宿場に軒を連ねる飲食店は様々あり、そのどれもが客で賑わっている。その中の一つを選んで、店内に入ると、若い娘が元気よく「いらっしゃい!」」と声をかけてくれる。その明るい雰囲気と同じく、店も和気藹々とした雰囲気が漂い。席で食事を楽しむものたちは、皆笑顔でそばにありついている。
「良さそうですね。」
小声で土井先生に声をかけると、こちらに笑顔でうなづいた。
そのまま案内された席へつき、2人前の蕎麦を注文した。客はひっきりなしに入れ替わり立ち替わり、忙しそうである。しかし、木製の机は綺麗に清められ、清潔感がある。しばらくすると、盆に載ったそばがやってきた。ざるそばを想像していたが、いくつかの白磁の小皿に分けられたそばと、わさびや大根、ネギの薬味の器と、徳利が運ばれてきた。さくらが目をみはっているところで、女中から「徳利は酒じゃなくてつゆだからねー!」と慣れた様子で配膳を終えて行ってしまった。
「ここら辺の蕎麦はこうして出されるみたいですよ。色々な味が楽しめそうですね。」
土井先生が、のほほん、とした様子で教えてくれる。すでにワサビを蕎麦つゆに溶かして食べ始めている。順応性が高いのはいいことだ。さくらも提供された時は驚いたものの、よく見れば見知った薬味で見知ったそばだ。口に含めば、そばの香ばしい香りとワサビの鼻に抜ける感じ、そして、つゆの出汁がきいて、うまい。
二人して夢中でそばを啜り、お腹が満たされたところで、店を出た。相変わらず道は多くに人が行き交っている。
「どんどん、栄えてきている感じがしますね。」
最初に訪れた宿場も人は多くいたが、進むにつれて宿場の賑わいが増してきているように思う。
「特に、ここは栄えていますね。少し先には海がありますから、貿易も盛んなんでしょう。」
海といえば、南蛮、だけでなく中国や近隣諸国から物資を運べる。しかも、陸路とは違い水路は速く、大量だ。物が集まれば人が集まる。このように宿場が賑わうのも納得だ。
「さくらさん、そろそろ戻りましょうか。」
明日も長い距離を歩くのだ。早々に宿に戻った方がいいだろう。体力のないさくらを思えば、あまりウロウロしても明日に響いてしまう。本人もわかっているのか、「はい」と頷き、宿のある方へ向かい始める。
「ああ・・・あ〜」
ふらり、と物陰が動く気配がして土井は咄嗟に手を差し出した。幸いにもくだんの人物は倒れそうなところを支えてもらった形となり、転倒を免れた。土井の隣にいるさくらとは反対隣のため、完全に見知らぬ人物である。顔を上げたところを見ると、老婆であった。額から冷や汗を流している様子から、立ちくらみだろうか。その様子を見ていたさくらがすぐに土井が支えている反対側に周り、二人で老婆の体を支えてやる。
「おばあさん、大丈夫?」
明らかに顔色の悪い様子に、さくらは土井先生の方に目線をやった。土井先生の方もこちらに目線を向け、頷いた。
「少し座れる場所へ行きましょう。」
そうして、二人で脇を抱えて喧騒から離れた場所へとつれて行ってやる。手近な木の下でゆっくり腰を下ろすと、老婆は安堵のため息を吐きながらゆっくり深呼吸した。しばらく、そのようにしていると落ち着いてきたのか、二人に目線を向けた。
「ありがとう・・・。人混みに酔うてしもうた。」
「たくさん人がいると疲れちゃいますよね。どうぞ、お水。」
そうしてさくらは自分の竹筒を老婆に手渡してやる。その水を口に含むと、青白かった顔色も少し落ち着いてきた。
「おばあさん、一人ですか?」
土井先生が問いかけると老婆は首を横に振った。
「爺さんとあるいとったんじゃが、はぐれてしもうた。探しておったところで気分が悪くなってしまったんじゃ。」
話を聞いていくと、老夫婦での旅をしていたらしい。この人混みの中、はぐれてしまい、合流することもできずにいたということだ。
「おじいさんの特徴を教えてもらえますか?探してきますよ。」
さくらの言葉に土井は慌てて言葉を継げた。
「いいえ、さくらさんはここでおばあさんの介抱をしてあげてください。私が探してきますから。」
土井先生の慌て方から、さくら一人で捜索すると思ったらしい。しかし、当初は二人で探そうと考えていたが、確かにおばあさんも回復したばかりだ。ここは土井先生の提案に乗っておいた方がいいだろう。
「申し訳ないね、それじゃあお願いしようかね。」
老婆はそういうと申し訳なさそうに頭を下げた。そして、土井先生は相手の特徴を聞き終えると、「少しここで待っていてくださいね。」と人混みの中へかけていった。
老婆と二人でその背中を見送る。しばらくして老婆が口を開いた。
「いい旦那さんだねえ。」
「・・・ありがとうございます。」
「で、馴れ初めは?」
ずいっと顔を寄せてくるのに気押される。いつの時代も、この手の話には興味が尽きない。
「いえ、世間様と似たり寄ったりな話ですよ。」
「それが聞きたいんだよ。」
お茶を濁そうにも逃してくれないらしい。こんなことならば、初めに設定を詳しく相談しておくんだった・・・。さくらは内心、焦っているが、そのような顔を出しては、こういう輩はまた別の方向から質問を投げかけてくる。変に掘られて、怪しまれるのも藪蛇だ。
さくらは、うーん、と少し照れたようにしながら話を続けた。
「ほら、近所で年頃の人がいるよって話でね。少し会ってみたら、ほら良い男でしょう?」
そういうと、老婆の方は深く頷いた。そう、土井先生は顔がいいのだ。
「これは、と思っていたら、向こうも、ね。それで事が進んでいったって話ですよ。」
即興の小芝居だ。しかし、変に作り込むより、これくらい大雑把の方が修正が効くだろう。
「お互い、良いと思ったってわけかい。いいねえ。まだ新婚だろう?」
「ええ、」
「敬語なんか使ってるから、どっかのお武家さんの人かと思ったけど、違ったんだねえ。」
老婆の視線が心なしか刺さる。斜め方向に疑われている。どうにか挽回せねばと頭の中をフル回転させる。
「お武家・・・」
「なーんか、他人行儀というかね。まあ、新婚ならそんなもんかね。」
しかし、老婆の方は一人で納得してくれたらしい。こうして旅の人と話すのはなかなかリスキーである。変な緊張で、知らずさくらの額から冷や汗が一筋流れ出た。
「おーい!」
見知った声がしてそちらに目線を向ける。そこには土井先生と翁の姿があった。老婆の方は、腰を上げた。
「あんたー!」
無事に会え、二人とも安堵の表情を浮かべている。その後ろでさくらの方も色んな意味で胸を撫で下ろした。その様子に土井先生が隣に来て小さく耳打ちした。
「何かありました?」
「女性は噂好きですから。」
そういうと、察してくれたのか、「少しすり合わせが必要ですね。」と答えた。
老夫婦を見送り、再び土井とさくらは目的の宿へ向かった。目的地はもうすぐそこだ。進行方向へ体をむけ、老夫婦に背を向ける形で歩いていく。その後ろ姿を、鋭い2つの視線が射抜いた。それに、土井がちらり、と後方へ視線を向けると、先ほど老婆たちのいた場所から人影が消えていた。
「さくらさん。顔が険しくなっていますよ。」
「あっ、すいません。」
土井先生がこちらを安心させるように、柔らかく微笑んだ。
「この辺りの、ごろつきだと思います。若い夫婦は狙われやすいですから。」
女を人質にすれば、男から金を巻き上げられる。
そのまま女を売れば、さらに金になる。
あの山賊たちが思い出された。
骨が軋むような痛み、息をするだけで差し込む激痛。土の香り、湿った男たちの息遣い…。いままで思い出さなかった感覚が体に蘇ってくるようだった。
「さくらさん・・・?」
こちらを覗き込んでいる土井先生に、現実に引き戻された。
「・・・あ、土井先生がいれば安心ですね。全然気がつきませんでした。」
「先生ですからね。一度、宿を確保しておきましょう。その後、食事にしましょうか。さくらさん、ご希望はありますか?」
「そうですねぇ。ああ、お蕎麦にしましょう!この辺り、のぼりがいくつも上がってましたし、きっと有名なんですよね。」
こわばっていたさくらの表情が緩んだ。その変化に土井は気がつきながら、素知らぬふりをして、笑顔で会話を続けた。
「お蕎麦、いいですね。」
何に、引っかかったのか。予想はできたが、わざわざ掘り起こす必要もない。彼女にとって、今後の方がよほど、堪えるものだろう。どちらも背負い切れるほど、この人が強いとは思えない。たとえ、未来の世界から「希望」を与えてくれた人だとしても、その実、ただの女性であることに変わりない。今は、本人も気が付かぬうちに心の奥深くにしまているようだが、それが開いてしまえば、支えが必要になる。その支えに自分自身が「なりきれる」のか。忍が己の本心を隠しきれぬとはなんとも情けない話であっても、幼い頃の「正史丸」がどうしても頭をもたげてくるのだ。
宿屋の店主に話をつけたところで、二人は近くの蕎麦屋に向かった。宿場に軒を連ねる飲食店は様々あり、そのどれもが客で賑わっている。その中の一つを選んで、店内に入ると、若い娘が元気よく「いらっしゃい!」」と声をかけてくれる。その明るい雰囲気と同じく、店も和気藹々とした雰囲気が漂い。席で食事を楽しむものたちは、皆笑顔でそばにありついている。
「良さそうですね。」
小声で土井先生に声をかけると、こちらに笑顔でうなづいた。
そのまま案内された席へつき、2人前の蕎麦を注文した。客はひっきりなしに入れ替わり立ち替わり、忙しそうである。しかし、木製の机は綺麗に清められ、清潔感がある。しばらくすると、盆に載ったそばがやってきた。ざるそばを想像していたが、いくつかの白磁の小皿に分けられたそばと、わさびや大根、ネギの薬味の器と、徳利が運ばれてきた。さくらが目をみはっているところで、女中から「徳利は酒じゃなくてつゆだからねー!」と慣れた様子で配膳を終えて行ってしまった。
「ここら辺の蕎麦はこうして出されるみたいですよ。色々な味が楽しめそうですね。」
土井先生が、のほほん、とした様子で教えてくれる。すでにワサビを蕎麦つゆに溶かして食べ始めている。順応性が高いのはいいことだ。さくらも提供された時は驚いたものの、よく見れば見知った薬味で見知ったそばだ。口に含めば、そばの香ばしい香りとワサビの鼻に抜ける感じ、そして、つゆの出汁がきいて、うまい。
二人して夢中でそばを啜り、お腹が満たされたところで、店を出た。相変わらず道は多くに人が行き交っている。
「どんどん、栄えてきている感じがしますね。」
最初に訪れた宿場も人は多くいたが、進むにつれて宿場の賑わいが増してきているように思う。
「特に、ここは栄えていますね。少し先には海がありますから、貿易も盛んなんでしょう。」
海といえば、南蛮、だけでなく中国や近隣諸国から物資を運べる。しかも、陸路とは違い水路は速く、大量だ。物が集まれば人が集まる。このように宿場が賑わうのも納得だ。
「さくらさん、そろそろ戻りましょうか。」
明日も長い距離を歩くのだ。早々に宿に戻った方がいいだろう。体力のないさくらを思えば、あまりウロウロしても明日に響いてしまう。本人もわかっているのか、「はい」と頷き、宿のある方へ向かい始める。
「ああ・・・あ〜」
ふらり、と物陰が動く気配がして土井は咄嗟に手を差し出した。幸いにもくだんの人物は倒れそうなところを支えてもらった形となり、転倒を免れた。土井の隣にいるさくらとは反対隣のため、完全に見知らぬ人物である。顔を上げたところを見ると、老婆であった。額から冷や汗を流している様子から、立ちくらみだろうか。その様子を見ていたさくらがすぐに土井が支えている反対側に周り、二人で老婆の体を支えてやる。
「おばあさん、大丈夫?」
明らかに顔色の悪い様子に、さくらは土井先生の方に目線をやった。土井先生の方もこちらに目線を向け、頷いた。
「少し座れる場所へ行きましょう。」
そうして、二人で脇を抱えて喧騒から離れた場所へとつれて行ってやる。手近な木の下でゆっくり腰を下ろすと、老婆は安堵のため息を吐きながらゆっくり深呼吸した。しばらく、そのようにしていると落ち着いてきたのか、二人に目線を向けた。
「ありがとう・・・。人混みに酔うてしもうた。」
「たくさん人がいると疲れちゃいますよね。どうぞ、お水。」
そうしてさくらは自分の竹筒を老婆に手渡してやる。その水を口に含むと、青白かった顔色も少し落ち着いてきた。
「おばあさん、一人ですか?」
土井先生が問いかけると老婆は首を横に振った。
「爺さんとあるいとったんじゃが、はぐれてしもうた。探しておったところで気分が悪くなってしまったんじゃ。」
話を聞いていくと、老夫婦での旅をしていたらしい。この人混みの中、はぐれてしまい、合流することもできずにいたということだ。
「おじいさんの特徴を教えてもらえますか?探してきますよ。」
さくらの言葉に土井は慌てて言葉を継げた。
「いいえ、さくらさんはここでおばあさんの介抱をしてあげてください。私が探してきますから。」
土井先生の慌て方から、さくら一人で捜索すると思ったらしい。しかし、当初は二人で探そうと考えていたが、確かにおばあさんも回復したばかりだ。ここは土井先生の提案に乗っておいた方がいいだろう。
「申し訳ないね、それじゃあお願いしようかね。」
老婆はそういうと申し訳なさそうに頭を下げた。そして、土井先生は相手の特徴を聞き終えると、「少しここで待っていてくださいね。」と人混みの中へかけていった。
老婆と二人でその背中を見送る。しばらくして老婆が口を開いた。
「いい旦那さんだねえ。」
「・・・ありがとうございます。」
「で、馴れ初めは?」
ずいっと顔を寄せてくるのに気押される。いつの時代も、この手の話には興味が尽きない。
「いえ、世間様と似たり寄ったりな話ですよ。」
「それが聞きたいんだよ。」
お茶を濁そうにも逃してくれないらしい。こんなことならば、初めに設定を詳しく相談しておくんだった・・・。さくらは内心、焦っているが、そのような顔を出しては、こういう輩はまた別の方向から質問を投げかけてくる。変に掘られて、怪しまれるのも藪蛇だ。
さくらは、うーん、と少し照れたようにしながら話を続けた。
「ほら、近所で年頃の人がいるよって話でね。少し会ってみたら、ほら良い男でしょう?」
そういうと、老婆の方は深く頷いた。そう、土井先生は顔がいいのだ。
「これは、と思っていたら、向こうも、ね。それで事が進んでいったって話ですよ。」
即興の小芝居だ。しかし、変に作り込むより、これくらい大雑把の方が修正が効くだろう。
「お互い、良いと思ったってわけかい。いいねえ。まだ新婚だろう?」
「ええ、」
「敬語なんか使ってるから、どっかのお武家さんの人かと思ったけど、違ったんだねえ。」
老婆の視線が心なしか刺さる。斜め方向に疑われている。どうにか挽回せねばと頭の中をフル回転させる。
「お武家・・・」
「なーんか、他人行儀というかね。まあ、新婚ならそんなもんかね。」
しかし、老婆の方は一人で納得してくれたらしい。こうして旅の人と話すのはなかなかリスキーである。変な緊張で、知らずさくらの額から冷や汗が一筋流れ出た。
「おーい!」
見知った声がしてそちらに目線を向ける。そこには土井先生と翁の姿があった。老婆の方は、腰を上げた。
「あんたー!」
無事に会え、二人とも安堵の表情を浮かべている。その後ろでさくらの方も色んな意味で胸を撫で下ろした。その様子に土井先生が隣に来て小さく耳打ちした。
「何かありました?」
「女性は噂好きですから。」
そういうと、察してくれたのか、「少しすり合わせが必要ですね。」と答えた。
老夫婦を見送り、再び土井とさくらは目的の宿へ向かった。目的地はもうすぐそこだ。進行方向へ体をむけ、老夫婦に背を向ける形で歩いていく。その後ろ姿を、鋭い2つの視線が射抜いた。それに、土井がちらり、と後方へ視線を向けると、先ほど老婆たちのいた場所から人影が消えていた。