星降る夜に
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「いかがしたのですか?」
声の方をみると、艶やかな黒髪を床まで垂らし、あでやかな打ち掛けを着た女性が境内から呼びかけていた。それに気づいた男たちはすぐさま頭を下げ、身を低くして答えた。
「御方様!若君が池で溺れましたところに我らが駆けつけ、お助け致したところでございます。」
「正史丸(せいしまる)は無事なのですか!?」
そう言って、お供の侍女らしき女たちをつれてすぐそばまで駆け寄ってきた。それに恭しく頭を下げる男と、現れた女性にさくらは、はて?と疑問が浮かんだ。時代劇のような出で立ちと、会話の様子に、これは何が起こっているのだ?と。
「これ!御方様の御前じゃ!頭を下げぬか!!」
そう言って、隣にいた男の一人がさくらの頭を無理矢理下げさせた。まるでどこぞの殿様の妻にするような応対に面食らいつつも、流れに任せてさくらは頭を下げた。その、正史丸くんのお母様は、彼に駆け寄ると、ぬれるのも気にせず、彼の無事を確認した。息があるのが分かると、ほっとしたように安堵の表情を浮かべた。
豊かな黒髪が白い肌を縁取り、形のいい眉の下で伏し目がちになっている目元。長い睫が桜色の頬に陰を落としていたが。やがて、目線を上げ、やわらかな視線がさくらに注がれた。美人というだけでは形容し尽くせない、可憐さとあでやかさを併せ持った魅力的な女性に、一瞬で目を奪われた。同性からみても、どきっとする雰囲気を持つ女性だ。
「よいのです。この者も正史丸を助けたのですか?」
「我らが若様をお捜しの折、池の方が騒がしく、駆けつけてみるとこの者が若様を引き上げているところでございました。」
「そうでしたか。わが子を助けていただきありがとうございます。女子という身でありながら、ようこの子を救い上げてくださりました・・・!」
「いえ、私もとっさのことでしたので何が何やら。とにかく助けなくてはと必死でした。ですが、女の力では池からあげることもできず、この方たちがいなければ息子さんを引き上げることも難しかったと思います。」
「謙遜なされて・・・近くに我が屋敷があります。濡れたままでは風邪を引いてしまいます。どうぞ、こちらへ。」
そう言って、正史丸くんのお母様はさくらの手を引いて立ち上がった。少年の方は、男の一人が自分の羽織を着せて、抱きかかえて立ち上がった。しかし、もう一人の男が、それを阻むような口調で進言した。
「御方様!そのような奇天烈な身なりの、どこの者ともしれぬ女をお屋敷に招くなど!」
それに、正史丸くんのお母様は柔和ながらも強い口調で言い含めた。
「我が一族の跡取りの命を救っていただいたのです。それをずぶ濡れのまま捨て置く方が漆間(うるま)家の名折れですよ。」
そうぴしゃりと口を閉ざされた。
そこからは、お屋敷へ向かうことになった。
さきほどいた場所は、参拝していた神社で間違いなかった。しかし、参道の石畳は苔むし、先ほどあった大木は若木が茂る様へと変貌していた。
(これは神隠しというやつなのかな?)
そういう話は、どこぞの都市伝説やオカルト系でよく聞くが、まさか自分の身に起こるとは。それぞれ過去に行ったり、違う世界に行ったり話によってまちまちだ。周りの着物姿や髪型からいって過去に飛ばされたとみるのが有力そうだ。ここで変に騒いでも家臣が面倒そうなので、静かに従って歩く。
きっと、このような非現実的な状況に遭遇すれば誰しも動転するのであろう。しかし、さくらには妙な自信があった。帰れるという自信だ。どこからそんな気持ちが沸いてくるのか自分でも不思議だが、「ここは落ち着いて過ごせば大丈夫。」と心の内から知らされるのだ。そういう声がすると言うよりは、そういう思考を植え付けられているというか、なんとも形容しがたいが、とにかくさくらは変に騒がなければ元の世界に帰れるという確信があった。だから、誰彼かまわず「ここはどこ?」「いつの時代なの?」と聞くこともなく、黙って後ろをついて行くのだった。
人間、予想外のことが起こると案外冷静で、多少いつもの自分にはない感覚があるといっても「神隠しだから」と謎のパワーワードで自分で納得できてしまうもののようだ。
***
しばらく山を下りていくと、大きな屋敷が見えた。
そこからは侍女に伴われて風呂に行き、着替えを手渡されるも着物の着付けなどできるはずもなく、申し訳なくも着替えさせてもらい、宴の席へ呼ばれた。この時代の女と同じ着物に、髪は後ろでまとめられ、先ほどの現代の服装を着て屋敷に入った時よりも、この時代にそまったような感覚になる。
大広間にはすでに多くの家臣とみられる男たちとそれに酌をする侍女たち、そして上座にはこの屋敷の主人とみられる恰幅のいい男が座っていた。その隣には先ほどの正史丸くんのお母様、まだ顔色はよくないが、さわやかな色味の着物と袴姿の正史丸くんがいた。
声の方をみると、艶やかな黒髪を床まで垂らし、あでやかな打ち掛けを着た女性が境内から呼びかけていた。それに気づいた男たちはすぐさま頭を下げ、身を低くして答えた。
「御方様!若君が池で溺れましたところに我らが駆けつけ、お助け致したところでございます。」
「正史丸(せいしまる)は無事なのですか!?」
そう言って、お供の侍女らしき女たちをつれてすぐそばまで駆け寄ってきた。それに恭しく頭を下げる男と、現れた女性にさくらは、はて?と疑問が浮かんだ。時代劇のような出で立ちと、会話の様子に、これは何が起こっているのだ?と。
「これ!御方様の御前じゃ!頭を下げぬか!!」
そう言って、隣にいた男の一人がさくらの頭を無理矢理下げさせた。まるでどこぞの殿様の妻にするような応対に面食らいつつも、流れに任せてさくらは頭を下げた。その、正史丸くんのお母様は、彼に駆け寄ると、ぬれるのも気にせず、彼の無事を確認した。息があるのが分かると、ほっとしたように安堵の表情を浮かべた。
豊かな黒髪が白い肌を縁取り、形のいい眉の下で伏し目がちになっている目元。長い睫が桜色の頬に陰を落としていたが。やがて、目線を上げ、やわらかな視線がさくらに注がれた。美人というだけでは形容し尽くせない、可憐さとあでやかさを併せ持った魅力的な女性に、一瞬で目を奪われた。同性からみても、どきっとする雰囲気を持つ女性だ。
「よいのです。この者も正史丸を助けたのですか?」
「我らが若様をお捜しの折、池の方が騒がしく、駆けつけてみるとこの者が若様を引き上げているところでございました。」
「そうでしたか。わが子を助けていただきありがとうございます。女子という身でありながら、ようこの子を救い上げてくださりました・・・!」
「いえ、私もとっさのことでしたので何が何やら。とにかく助けなくてはと必死でした。ですが、女の力では池からあげることもできず、この方たちがいなければ息子さんを引き上げることも難しかったと思います。」
「謙遜なされて・・・近くに我が屋敷があります。濡れたままでは風邪を引いてしまいます。どうぞ、こちらへ。」
そう言って、正史丸くんのお母様はさくらの手を引いて立ち上がった。少年の方は、男の一人が自分の羽織を着せて、抱きかかえて立ち上がった。しかし、もう一人の男が、それを阻むような口調で進言した。
「御方様!そのような奇天烈な身なりの、どこの者ともしれぬ女をお屋敷に招くなど!」
それに、正史丸くんのお母様は柔和ながらも強い口調で言い含めた。
「我が一族の跡取りの命を救っていただいたのです。それをずぶ濡れのまま捨て置く方が漆間(うるま)家の名折れですよ。」
そうぴしゃりと口を閉ざされた。
そこからは、お屋敷へ向かうことになった。
さきほどいた場所は、参拝していた神社で間違いなかった。しかし、参道の石畳は苔むし、先ほどあった大木は若木が茂る様へと変貌していた。
(これは神隠しというやつなのかな?)
そういう話は、どこぞの都市伝説やオカルト系でよく聞くが、まさか自分の身に起こるとは。それぞれ過去に行ったり、違う世界に行ったり話によってまちまちだ。周りの着物姿や髪型からいって過去に飛ばされたとみるのが有力そうだ。ここで変に騒いでも家臣が面倒そうなので、静かに従って歩く。
きっと、このような非現実的な状況に遭遇すれば誰しも動転するのであろう。しかし、さくらには妙な自信があった。帰れるという自信だ。どこからそんな気持ちが沸いてくるのか自分でも不思議だが、「ここは落ち着いて過ごせば大丈夫。」と心の内から知らされるのだ。そういう声がすると言うよりは、そういう思考を植え付けられているというか、なんとも形容しがたいが、とにかくさくらは変に騒がなければ元の世界に帰れるという確信があった。だから、誰彼かまわず「ここはどこ?」「いつの時代なの?」と聞くこともなく、黙って後ろをついて行くのだった。
人間、予想外のことが起こると案外冷静で、多少いつもの自分にはない感覚があるといっても「神隠しだから」と謎のパワーワードで自分で納得できてしまうもののようだ。
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しばらく山を下りていくと、大きな屋敷が見えた。
そこからは侍女に伴われて風呂に行き、着替えを手渡されるも着物の着付けなどできるはずもなく、申し訳なくも着替えさせてもらい、宴の席へ呼ばれた。この時代の女と同じ着物に、髪は後ろでまとめられ、先ほどの現代の服装を着て屋敷に入った時よりも、この時代にそまったような感覚になる。
大広間にはすでに多くの家臣とみられる男たちとそれに酌をする侍女たち、そして上座にはこの屋敷の主人とみられる恰幅のいい男が座っていた。その隣には先ほどの正史丸くんのお母様、まだ顔色はよくないが、さわやかな色味の着物と袴姿の正史丸くんがいた。