星降る夜に
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まさかの学園長先生のお達しで、さくらは土井先生と共に旅支度をして、忍術学園を発った。
授業や教師の仕事で忙しい土井先生に同行してもらうことに気が引けていたが、土井先生だけでなく、山田先生や学園長先生も「気にしなくていい」と言って旅の準備を着々と進めていった。肝心の、は組の授業は大木先生と利吉君が助っ人に入ってくれることになった。利吉君といえば今をときめく売れっ子忍者。そんな人物に教えてもらえるとあっては一年い組だけでなく他の学年の生徒も羨ましそうにしていた。
出立の日は、は組の生徒たちが見送りに出てきてくれた。
「土井先生、さくらさん、は組のことはお任せください。」
きりっとした表情の黒木君が胸を張っては組の先頭に立っている。
「しっかり者の庄左ヱ門のことだ。私が戻ってくるまで、は組のことを頼んだよ。」
土井先生は、そう言って黒木君の肩をたたいた。
その後も一人一人が土井先生に向けての言葉を述べ、もはや土井先生のお別れ会状態になっていた。先生と離れるのがきっと寂しいんだろうな、連れ出してしまって申し訳ない、と思いながら「なめさんのお世話がんばります!」「鼻水はちゃんとちーん!ってします!」というような、ほのぼのしたお別れの挨拶が続いていった。
最後に乱太郎が土井先生に挨拶をして、これでいよいよ出発かと思いきや、「さくらさん!」と乱太郎が名前を呼んだ。
「無事に帰ってきてくださいね。保健委員として、もしさくらさんが怪我をしたら……」
乱太郎が自分の下衣をぎゅっと握りしめた。心なしか目元が湿っている。山賊に襲われたときの事が思い出されているのだろうか。こういう姿を見ると、善法寺君が言っていたことが思い出される。
『残された者がどれほどつらいか。……生きることを諦めないでください。』
今まさに、善法寺君の言ったとおり乱太郎につらい思いをさせてしまっている。さくらは腰を折って、乱太郎と目線を合わせた。そして、握りしめていた手をそっと包んだ。
「もう無茶はしない、約束します。」
さくらの言葉に乱太郎が大きく頷いた。
「もし怪我をしたら、私や善法寺保健委員会委員長が全力で手当てをします。」
「お願いするわね。」
「乱太郎、私が付いている間にさくらさんが傷つくようなことは起こらないようにする。安心しなさい。」
土井先生が隣にきて乱太郎の頭を優しく撫でた。土井先生の言葉で乱太郎の表情が少し柔らかくなった。「はい!」と元気な返事をしてくれる。
「さくらさん、土井先生も男なんですから、そっちは気をつけてくださいよ。」
と、きり丸がウインクして冗談めかして言ったところで「きり丸っ!」と土井先生が焦ったように諫めた。
「大丈夫よ、きり丸。土井先生はそんな心配ないわよ、ね。先生。」
と、土井先生の方へ視線を向けると、「え、ええ」と言葉をつまらせて返答があった。……子供の冗談に動揺しすぎでは。思わぬ反応にさくらのほうも焦ってしまうが、子供の手前そのような反応を見せるわけにもいかず、気付かないふりをして、は組の子達に向き直った。
「は組の皆さん、大事な土井先生のこと少しだけお借りします。用事を終えたらすぐに戻ってくるから、みんなもそれまで元気で!」
「人をモノみたいに言うのは良くありませんよ。…みんな大木先生や利吉くんの言うことをよく聞いて、しっかり勉強するんだぞ。帰ったら確認テストだ!」
土井先生がそういうと、は組の全員が「ええー」と途端に嫌そうな表情になった。テストを受けない私でも、この展開は同情してしまう。しかし、これも土井先生なりに湿った雰囲気を払拭してくれたのか、とも思う。先程まで泣きそうだった子達の表情がいつもの様子に戻っていた。
は組のみんなの見送りの中、さくらは土井先生と学園を後にした。
しばらく学園の周りにある森の中を進む。鬱蒼とした木々の間を縫うように進んでいくのだが、舗装された道ではないためいつもより歩みが遅くなってしまう。しかし、土井先生は慣れたもののようで、まるで平坦な道を歩くようにスイスイと進んでいく。さすが忍術学園の教師。すぐ前を歩いていた土井先生の背中が前へ前へと進んでいってしまう。それに追いつこうとさくらも先ほどより速く足を動かす。仕事を空けてまで付き合ってもらっているのだ。こんなところで足手まといになりたくはない。しかし、進めど土井先生との距離は近くなるばかりか遠ざかっていくような気がする。焦って歩調が早まってくると、それを察したかのように土井先生が振り向いた。
「すみません、少しゆっくり行きましょう。」
離れてしまった距離を縮め、土井先生が目の前まで来てくれる。
「こちらこそ、遅くなって申し訳ないです。運動不足なのは、いけないですね。」
立ち止まると途端に息が上がってくる。想像以上に自身の体力のなさに気付かされる。
「いえ、女性と歩くのに配慮のない私が悪いんです。さくらさん、まだ道は長いですから、ゆっくりいきましょう。」
そう言って土井先生が手を差し出してくれる。優しい言葉に甘えて、その手を取った。
「少し先に茶屋があるんです。そこまで頑張りましょうね。」
爽やかな笑顔でさくらを鼓舞してくれる。まるで1年は組の生徒たちに相対してしているときのような先生の表情が、自然とさくらを前向きな気持ちにさせてくれた。
「はい、先生!」
元気よく答えると、土井先生は少し困った顔をしながらも、「じゃあ行きましょう」と手を引いてくれた。
そこからは、1人で歩くより、幾分か楽に進むことができた。獣道の中でも比較的歩きやすい場所を歩けている気がする。おそらく土井先生が歩きやすい道を選んでくださっているのだろう。隣で歩いている土井先生は、木の根やぬかるみで歩きにくそうな場所でも、なんともないようにスイスイと歩いている。さすが本職は違う。手を引いてもらいながらさくらは感心しながら道を進んでいった。
そして、森の木々の間から光が差し込んでくると、街道へと出てくることができた。道行く人々はさくらたちと同じように旅支度に身を包んで、歩いていく。若者たちが楽しそう談笑しながら歩いていたり、背に大きな荷箱を担ぐ行商人のような者や、肩に竿のようなものを担いで足早に駆けていく飛脚。想像していた以上にこの時代の街道は賑わいを見せている。乱太郎、きり丸、しんべえと歩いたあの道は、人通りもほとんどない場所だった。あれは近海の海へと続くもので、街道とは性格の異なるものだったのだと実感させられる。驚きで足を止めているさくらの隣で土井先生が声をかけた。
「さくらさん、ここから人目が多くなります。どうぞ私のことは先生ではなく、半助と呼んでください。」
学園のことは市井では存在が知られていないのだ。年頃の男女で旅をして、「先生」と呼んでいる関係。どういう繋がりなのか、関心を引いてしまうようなこと自体が危険だろう。しかし、呼び名を変えたところで、男女2人ならば、お節介焼きの者から関係を聞かれることもあるだろう。
「何なら、旦那様の方が自然かもしれませんよ。」
夫婦ならばそれ以上何も聞かれまい。半分冗談で提案してみると、土井先生は思案顔で少し間をあけると頷いた。
「確かに、そうですね。ならば、私も••••••」
先ほどまで隣で頷いていた土井先生の顔がすぐそばに、ぐっと近づいた。鼻先が触れ合いそうな距離に土井先生がいる。その吐息が感じられるほど。
「さくらと呼んでみましょうか。」
いかん、破壊力が。
さすが初恋キラーの異名を持つ男。その二つ名は伊達じゃない。予想だにしなかった展開にさくらの方が硬直してしまう。いや、まさかそうくるとは思わなかったのだ。きっと土井先生なら少し照れ笑いをして、流してくれるだろうと思っていたのに。正面から受け止めで豪速球で返してくるような反応は心の準備をしていなかった。
土井先生は、にこりと笑ってすぐに距離を空けた。
「冗談ですよ、ですが夫婦の方が何かと便利ですね。旅の間はそれでいきましょうか。」
柔和そうな微笑みをたたえて土井先生は再びさくらの手を引いた。
『それ』がどれを指しているのかさくらには再度質問する度胸はなかった。藪蛇になってもまずい。ちょっと悪戯心を出してみたら大火傷だ。大いに後悔して困り顔のさくらを横目に、土井先生は楽しそうに小さく笑った。
授業や教師の仕事で忙しい土井先生に同行してもらうことに気が引けていたが、土井先生だけでなく、山田先生や学園長先生も「気にしなくていい」と言って旅の準備を着々と進めていった。肝心の、は組の授業は大木先生と利吉君が助っ人に入ってくれることになった。利吉君といえば今をときめく売れっ子忍者。そんな人物に教えてもらえるとあっては一年い組だけでなく他の学年の生徒も羨ましそうにしていた。
出立の日は、は組の生徒たちが見送りに出てきてくれた。
「土井先生、さくらさん、は組のことはお任せください。」
きりっとした表情の黒木君が胸を張っては組の先頭に立っている。
「しっかり者の庄左ヱ門のことだ。私が戻ってくるまで、は組のことを頼んだよ。」
土井先生は、そう言って黒木君の肩をたたいた。
その後も一人一人が土井先生に向けての言葉を述べ、もはや土井先生のお別れ会状態になっていた。先生と離れるのがきっと寂しいんだろうな、連れ出してしまって申し訳ない、と思いながら「なめさんのお世話がんばります!」「鼻水はちゃんとちーん!ってします!」というような、ほのぼのしたお別れの挨拶が続いていった。
最後に乱太郎が土井先生に挨拶をして、これでいよいよ出発かと思いきや、「さくらさん!」と乱太郎が名前を呼んだ。
「無事に帰ってきてくださいね。保健委員として、もしさくらさんが怪我をしたら……」
乱太郎が自分の下衣をぎゅっと握りしめた。心なしか目元が湿っている。山賊に襲われたときの事が思い出されているのだろうか。こういう姿を見ると、善法寺君が言っていたことが思い出される。
『残された者がどれほどつらいか。……生きることを諦めないでください。』
今まさに、善法寺君の言ったとおり乱太郎につらい思いをさせてしまっている。さくらは腰を折って、乱太郎と目線を合わせた。そして、握りしめていた手をそっと包んだ。
「もう無茶はしない、約束します。」
さくらの言葉に乱太郎が大きく頷いた。
「もし怪我をしたら、私や善法寺保健委員会委員長が全力で手当てをします。」
「お願いするわね。」
「乱太郎、私が付いている間にさくらさんが傷つくようなことは起こらないようにする。安心しなさい。」
土井先生が隣にきて乱太郎の頭を優しく撫でた。土井先生の言葉で乱太郎の表情が少し柔らかくなった。「はい!」と元気な返事をしてくれる。
「さくらさん、土井先生も男なんですから、そっちは気をつけてくださいよ。」
と、きり丸がウインクして冗談めかして言ったところで「きり丸っ!」と土井先生が焦ったように諫めた。
「大丈夫よ、きり丸。土井先生はそんな心配ないわよ、ね。先生。」
と、土井先生の方へ視線を向けると、「え、ええ」と言葉をつまらせて返答があった。……子供の冗談に動揺しすぎでは。思わぬ反応にさくらのほうも焦ってしまうが、子供の手前そのような反応を見せるわけにもいかず、気付かないふりをして、は組の子達に向き直った。
「は組の皆さん、大事な土井先生のこと少しだけお借りします。用事を終えたらすぐに戻ってくるから、みんなもそれまで元気で!」
「人をモノみたいに言うのは良くありませんよ。…みんな大木先生や利吉くんの言うことをよく聞いて、しっかり勉強するんだぞ。帰ったら確認テストだ!」
土井先生がそういうと、は組の全員が「ええー」と途端に嫌そうな表情になった。テストを受けない私でも、この展開は同情してしまう。しかし、これも土井先生なりに湿った雰囲気を払拭してくれたのか、とも思う。先程まで泣きそうだった子達の表情がいつもの様子に戻っていた。
は組のみんなの見送りの中、さくらは土井先生と学園を後にした。
しばらく学園の周りにある森の中を進む。鬱蒼とした木々の間を縫うように進んでいくのだが、舗装された道ではないためいつもより歩みが遅くなってしまう。しかし、土井先生は慣れたもののようで、まるで平坦な道を歩くようにスイスイと進んでいく。さすが忍術学園の教師。すぐ前を歩いていた土井先生の背中が前へ前へと進んでいってしまう。それに追いつこうとさくらも先ほどより速く足を動かす。仕事を空けてまで付き合ってもらっているのだ。こんなところで足手まといになりたくはない。しかし、進めど土井先生との距離は近くなるばかりか遠ざかっていくような気がする。焦って歩調が早まってくると、それを察したかのように土井先生が振り向いた。
「すみません、少しゆっくり行きましょう。」
離れてしまった距離を縮め、土井先生が目の前まで来てくれる。
「こちらこそ、遅くなって申し訳ないです。運動不足なのは、いけないですね。」
立ち止まると途端に息が上がってくる。想像以上に自身の体力のなさに気付かされる。
「いえ、女性と歩くのに配慮のない私が悪いんです。さくらさん、まだ道は長いですから、ゆっくりいきましょう。」
そう言って土井先生が手を差し出してくれる。優しい言葉に甘えて、その手を取った。
「少し先に茶屋があるんです。そこまで頑張りましょうね。」
爽やかな笑顔でさくらを鼓舞してくれる。まるで1年は組の生徒たちに相対してしているときのような先生の表情が、自然とさくらを前向きな気持ちにさせてくれた。
「はい、先生!」
元気よく答えると、土井先生は少し困った顔をしながらも、「じゃあ行きましょう」と手を引いてくれた。
そこからは、1人で歩くより、幾分か楽に進むことができた。獣道の中でも比較的歩きやすい場所を歩けている気がする。おそらく土井先生が歩きやすい道を選んでくださっているのだろう。隣で歩いている土井先生は、木の根やぬかるみで歩きにくそうな場所でも、なんともないようにスイスイと歩いている。さすが本職は違う。手を引いてもらいながらさくらは感心しながら道を進んでいった。
そして、森の木々の間から光が差し込んでくると、街道へと出てくることができた。道行く人々はさくらたちと同じように旅支度に身を包んで、歩いていく。若者たちが楽しそう談笑しながら歩いていたり、背に大きな荷箱を担ぐ行商人のような者や、肩に竿のようなものを担いで足早に駆けていく飛脚。想像していた以上にこの時代の街道は賑わいを見せている。乱太郎、きり丸、しんべえと歩いたあの道は、人通りもほとんどない場所だった。あれは近海の海へと続くもので、街道とは性格の異なるものだったのだと実感させられる。驚きで足を止めているさくらの隣で土井先生が声をかけた。
「さくらさん、ここから人目が多くなります。どうぞ私のことは先生ではなく、半助と呼んでください。」
学園のことは市井では存在が知られていないのだ。年頃の男女で旅をして、「先生」と呼んでいる関係。どういう繋がりなのか、関心を引いてしまうようなこと自体が危険だろう。しかし、呼び名を変えたところで、男女2人ならば、お節介焼きの者から関係を聞かれることもあるだろう。
「何なら、旦那様の方が自然かもしれませんよ。」
夫婦ならばそれ以上何も聞かれまい。半分冗談で提案してみると、土井先生は思案顔で少し間をあけると頷いた。
「確かに、そうですね。ならば、私も••••••」
先ほどまで隣で頷いていた土井先生の顔がすぐそばに、ぐっと近づいた。鼻先が触れ合いそうな距離に土井先生がいる。その吐息が感じられるほど。
「さくらと呼んでみましょうか。」
いかん、破壊力が。
さすが初恋キラーの異名を持つ男。その二つ名は伊達じゃない。予想だにしなかった展開にさくらの方が硬直してしまう。いや、まさかそうくるとは思わなかったのだ。きっと土井先生なら少し照れ笑いをして、流してくれるだろうと思っていたのに。正面から受け止めで豪速球で返してくるような反応は心の準備をしていなかった。
土井先生は、にこりと笑ってすぐに距離を空けた。
「冗談ですよ、ですが夫婦の方が何かと便利ですね。旅の間はそれでいきましょうか。」
柔和そうな微笑みをたたえて土井先生は再びさくらの手を引いた。
『それ』がどれを指しているのかさくらには再度質問する度胸はなかった。藪蛇になってもまずい。ちょっと悪戯心を出してみたら大火傷だ。大いに後悔して困り顔のさくらを横目に、土井先生は楽しそうに小さく笑った。
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