星降る夜に
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「さくらさーん!閉館時間っスよー!」
はっとして、さくらは本から顔を上げた。声のする方にはきり丸が経っており、時間になったため声をかけてくれたらしい。もうそんな時間が経っていたのか。様々な本を見ている内に時間が来てしまったようだ。
「ごめんなさい。もうそんな時間なのね。」
「何か気になる本ありました?」
そういってきり丸がさくらが持っている本をのぞき込んだ。
「意外と真面目な本選ぶんスね。」
「意外とは失礼ね。」
「いやいや、さくらさんというか女の人は、化粧だとか簪に興味があると……」
じろり、と鋭い視線を向けてみるときり丸はしどろもどろに言い訳をし始めた。本当に怒っているわけではないが、冷や汗をだらだら流している様子が可哀想に思えてきた。以前にくのいちの子にでも手酷い仕打ちをされたのだろうか。この年頃の男の子は時々、女子の逆鱗に触れる言葉を『うっかり』話してしまうこともあるし……。自身の遠い記憶をよみがえらせ、そんなことを考えた。しかも、普通の女の子ではなく、くのいちだ。言葉だけでなく、物理的にも何か仕返しが来てもおかしくない。あわあわしているきり丸に向けた視線をいつものように穏やかなものに変える。
「大丈夫、怒ってないから。」
そういうと明らかにほっと胸をなで下ろし、小さくため息をついている。これは確実に『物理的』な何かもあったな、と思わせる安堵の仕方に、忍たまも大変だと同情させられた。
「それじゃ、カウンター行きましょう。」
切り替えの早いきり丸に手を引かれて、そのままカウンターまで足を進めた。先ほどまで見るのを躊躇していたが、これも運だと思って、中在家君に本を差し出すと、貸し出し手続きを完了させてくれた。
夕食後、落ち着いて文机に借りた本を置いて、広げてみる。和紙の柔らかなページをめくると、現代の目次のある本とは違い、本文から始められている。読み進めていくと、聞きなじみのある『源氏』や『北条』の名前や『木耳』や『茶乱』、『黄昏』という名前が混在している。どの城主が誰と戦い、どのような戦法が使われたかを大まかに記したものらしい。ただ、九州や東北といった土地の記載が無いことから、京都を中心とした本州の戦を集めたものらしかった。目次がないため、次の戦で『うるま』が出てくるのではないか、そう思うと読み進める手が止まらない。夜が更けてきてもさくらの手は止まらず、結局、空が白んでくる頃まで読み明かしてしまった。
こんな無謀な夜更かしは久しぶりにした。そのため、頭は霧がかかったように冴えないし、体も重い。もう、若くないのだと実感するのだが、時すでに遅し。今日も業務が待っているのだ。
ふらつく体に鞭打ち、事務室にやってくると、笑顔の小松田君が出迎えてくれた。
「おはようございまーす!」
彼はいつだって元気だ。本当に羨ましい。
「…お、はよう小松田君。」
こちらも笑顔で挨拶を試みるが、失敗しているらしい。小松田君が心配そうにこちらをのぞき込んでいる。上目遣いで窺う猫目も可愛いものだなあ、と通常では考えないようなことが頭に浮かんでくるとは相当キテるらしい。
「さくらさん顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
「日向さん、病み上がりなんだから無理はいけないよ。」
小松田君の後ろから声がすると思ったら、吉野先生はすでにご自分の席にいらっしゃる。上司にまで心配をかけて夜更かししたなんて、社会人として恥ずかしい。ただ、ここでお茶を濁すと強制的に医務室に連行されそうな二人の視線を感じ、正直に話すことにする。
「いえ、昨日借りた本を読みふけってしまいまして、すみません。カテキンをとれば目が覚めると思いますので、ご心配には及びませんよ。…さあ!私お茶淹れますね!」
目覚ましついでに皆の分のお茶も入れて、配っていく。小松田君が「僕も手伝いますぅ」と言ってくれたが、丁重にお断りをして、小松田君、事務員のおばちゃん、吉野先生、自分の分を机においていく。
勤務前の一杯と言うことで、皆でお茶をすすっていると、吉野先生が口を開いた。
「日向さんが読みふけってしまう本とは、どんなものなんです?」
「戦や大名について書かれた本ですね。」
何となしに答えると吉野先生の視線が一瞬鋭くなった。
この視線は覚えている。
初めて学園長庵で浴びた先生方の『目』だ。
一緒に働いているとはいえ、さくらの身の潔白が証明されたわけではない。現に、学園長先生からもそのような宣言はされていないし、学園から出てもいいというお達しもない。仕事で他の先生方と話す機会もあり、皆普通に接してくださるから忘れてしまいそうになるが、私は『部外者』だ。
「日向さんは勉強熱心ですね。」
すぐにいつもの穏やかな吉野先生に戻った。さくらは笑顔で「ありがとうございます」と返した。
あの後、頭が冴えて通常運転で仕事にかかることができたが、相変わらず顔色は悪いらしい。食堂のおばちゃんにランチを受け取るときに「栄養つけないとだめよ」と一品サービスしてもらったので、悪いことばかりではない。生徒の波がはけた食堂は、ちらほら人がまばらにいるだけだ。手近な席に着いて、昼食を摂っていると、目の前に黒装束が目に付いた。
「ここ、いいですか?」
土井先生の申し出にさくらは頷いた。
「もちろんいいですよ、どうぞ。」
そう言うと土井先生は笑顔で「ありがとう」と言って向かいの席に腰を落ち着けた。
向かいに座ってお互いに選んだランチに口を付ける。おばちゃんのチキン南蛮は自家製ソースが絡んで舌がとろけそうなほど美味しい。土井先生も同じメニューを選んでおり、同じく、美味しそうに頬張っている。土井先生と食事をするのは初めてだ。いつも食堂に来たと思ったらいつの間にかいなくなっているし、常に次の予定があって忙しそうにしている。誰かと一緒に来ている場面と言えば山田先生だろうか。それもは組の授業の話をしながら食事をされていた気がする。こうして顔をつきあわせて食事をするのは新鮮だ。目の前で小鉢に手を添えて箸をつけ、所作が美しい。所作は家庭環境が現れるひとつであるが、土井先生はいいお家の息子さんだったのか、はたまた忍者は様々な人物になりきる必要があるから会得したのか。
「あんまり見られると食べにくいですね。」
土井先生がこちらを苦笑しながら見ている。
「すみません、食べ方がきれいだったものですから…」
「ありがとうございます、さくらさんもおきれいだと思いますよ。」
微笑んで余裕の返しをするあたり、言われ慣れているらしい。
「さくらさん、お仕事、無理されていませんか?」
土井先生にも顔色の悪さはばれているようで、こちらを心配そうに窺っている。
「こちらのお仕事も慣れてきましたし、今日は読書で夜更かししてしまって。もう無理できる歳ではないですね。」
「なにかおもしろい本があったんです?」
「いえ、まあ……」
先ほどの吉野先生の視線が思い出された。土井先生も同じように不信に思うのだろうか。歯切れの悪い返答になおさら不信に思われるかも知れない。
「大名と戦の本です。私はこのあたりのことは何も知りませんから。」
正直に答える。今、土井先生はどんな表情をしているだろうか。恐る恐る視線を向けると、何か思案しているようだ。あの『目』でみられないものの、やはり思うところはあるのだな…。
「あなたはここへ来たとき、二回目だとおっしゃっていましたね。」
「ええ、」
「以前、会った者たちに会いたいと、その本を読まれていたのですか?」
こちらに視線を向ける土井先生の目には不信の色はなかった。ただ、何かを確認するようにさくらへ問いかけているように思えた。あの日の会話を覚えていたのか。
「いつかここを出られたら、会いに行きたいと思っています。」
学園長先生からいつ許しが出るか分からない。いつ身の潔白が証明されるかも分からない。だが、この世界に『うるま』の人々がいるのならば、彼らに会いたい。あの夫婦は息災だろうか。温かく迎え入れてくれた感謝を伝え、元気でやっていると伝えたい。また、さくらにとって、助けた男の子正史丸の成長が一番気になっているところだ。彼が大切に思っている領地がどのように成長しているか、彼自身もどんな領主となっているか。できることなら元気な姿をこの目で見たい。
「……もう存在しないかもしれませんよ。随分前の時代かも知れません。それでも探しに行くんですか。」
「たとえそうだとしても、彼らが生きていた場所で手を合わせます。私を受け入れてくれた人たちです。あのときの感謝と今の私のことをお伝えしたい。」
生きているとは限らない。時代がずれていれば彼らが亡くなった後の様子しかうかがい知ることはできない。だが、『うるま』が興した領地や領民には彼らの面影がきっと、どこかで息づいている。
土井先生は真剣なさくらの表情をしばらく見つめていると、ふっと息を吐いた。
「私から学園長先生にご相談してみましょう。」
「え?なにを?」
「あなたが『うるま』という国を訪れたいという相談ですよ。付き添いで私が行きましょう。」
突然の打診で何を言われているのか分からなかったが、言葉の意味を理解するとさくらは驚き、目をしばたたかせた。
「いえいえ土井先生もお忙しいでしょうし、そんな曖昧な情報で学園長先生がお許しになるはずが……」
「許す!!」
どおおおん!!っと白煙を出しながら学園長先生が登場した。
「土井先生と日向 さくらの外出を許可する!!」
学園長先生が宣言し終わったところで、背後から食堂のおばちゃんがおおきなしゃもじを構えて近づいてきた。
「学園長先生!!ここでそんなもの出さないでください!!」
おばちゃんの剣幕に押され、学園長先生は仕事は終わったとばかりにそそくさと食堂の出入り口から退散していった。
一連の様子を食堂の端でみていた鉢屋三郎と尾浜勘右衛門が小さく頷いた。
(外で泳がせてしっぽをつかめ、ということか)
(三郎、実習をかねて尾行できないか学園長先生と木下先生に相談してみよう)
はっとして、さくらは本から顔を上げた。声のする方にはきり丸が経っており、時間になったため声をかけてくれたらしい。もうそんな時間が経っていたのか。様々な本を見ている内に時間が来てしまったようだ。
「ごめんなさい。もうそんな時間なのね。」
「何か気になる本ありました?」
そういってきり丸がさくらが持っている本をのぞき込んだ。
「意外と真面目な本選ぶんスね。」
「意外とは失礼ね。」
「いやいや、さくらさんというか女の人は、化粧だとか簪に興味があると……」
じろり、と鋭い視線を向けてみるときり丸はしどろもどろに言い訳をし始めた。本当に怒っているわけではないが、冷や汗をだらだら流している様子が可哀想に思えてきた。以前にくのいちの子にでも手酷い仕打ちをされたのだろうか。この年頃の男の子は時々、女子の逆鱗に触れる言葉を『うっかり』話してしまうこともあるし……。自身の遠い記憶をよみがえらせ、そんなことを考えた。しかも、普通の女の子ではなく、くのいちだ。言葉だけでなく、物理的にも何か仕返しが来てもおかしくない。あわあわしているきり丸に向けた視線をいつものように穏やかなものに変える。
「大丈夫、怒ってないから。」
そういうと明らかにほっと胸をなで下ろし、小さくため息をついている。これは確実に『物理的』な何かもあったな、と思わせる安堵の仕方に、忍たまも大変だと同情させられた。
「それじゃ、カウンター行きましょう。」
切り替えの早いきり丸に手を引かれて、そのままカウンターまで足を進めた。先ほどまで見るのを躊躇していたが、これも運だと思って、中在家君に本を差し出すと、貸し出し手続きを完了させてくれた。
夕食後、落ち着いて文机に借りた本を置いて、広げてみる。和紙の柔らかなページをめくると、現代の目次のある本とは違い、本文から始められている。読み進めていくと、聞きなじみのある『源氏』や『北条』の名前や『木耳』や『茶乱』、『黄昏』という名前が混在している。どの城主が誰と戦い、どのような戦法が使われたかを大まかに記したものらしい。ただ、九州や東北といった土地の記載が無いことから、京都を中心とした本州の戦を集めたものらしかった。目次がないため、次の戦で『うるま』が出てくるのではないか、そう思うと読み進める手が止まらない。夜が更けてきてもさくらの手は止まらず、結局、空が白んでくる頃まで読み明かしてしまった。
こんな無謀な夜更かしは久しぶりにした。そのため、頭は霧がかかったように冴えないし、体も重い。もう、若くないのだと実感するのだが、時すでに遅し。今日も業務が待っているのだ。
ふらつく体に鞭打ち、事務室にやってくると、笑顔の小松田君が出迎えてくれた。
「おはようございまーす!」
彼はいつだって元気だ。本当に羨ましい。
「…お、はよう小松田君。」
こちらも笑顔で挨拶を試みるが、失敗しているらしい。小松田君が心配そうにこちらをのぞき込んでいる。上目遣いで窺う猫目も可愛いものだなあ、と通常では考えないようなことが頭に浮かんでくるとは相当キテるらしい。
「さくらさん顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
「日向さん、病み上がりなんだから無理はいけないよ。」
小松田君の後ろから声がすると思ったら、吉野先生はすでにご自分の席にいらっしゃる。上司にまで心配をかけて夜更かししたなんて、社会人として恥ずかしい。ただ、ここでお茶を濁すと強制的に医務室に連行されそうな二人の視線を感じ、正直に話すことにする。
「いえ、昨日借りた本を読みふけってしまいまして、すみません。カテキンをとれば目が覚めると思いますので、ご心配には及びませんよ。…さあ!私お茶淹れますね!」
目覚ましついでに皆の分のお茶も入れて、配っていく。小松田君が「僕も手伝いますぅ」と言ってくれたが、丁重にお断りをして、小松田君、事務員のおばちゃん、吉野先生、自分の分を机においていく。
勤務前の一杯と言うことで、皆でお茶をすすっていると、吉野先生が口を開いた。
「日向さんが読みふけってしまう本とは、どんなものなんです?」
「戦や大名について書かれた本ですね。」
何となしに答えると吉野先生の視線が一瞬鋭くなった。
この視線は覚えている。
初めて学園長庵で浴びた先生方の『目』だ。
一緒に働いているとはいえ、さくらの身の潔白が証明されたわけではない。現に、学園長先生からもそのような宣言はされていないし、学園から出てもいいというお達しもない。仕事で他の先生方と話す機会もあり、皆普通に接してくださるから忘れてしまいそうになるが、私は『部外者』だ。
「日向さんは勉強熱心ですね。」
すぐにいつもの穏やかな吉野先生に戻った。さくらは笑顔で「ありがとうございます」と返した。
あの後、頭が冴えて通常運転で仕事にかかることができたが、相変わらず顔色は悪いらしい。食堂のおばちゃんにランチを受け取るときに「栄養つけないとだめよ」と一品サービスしてもらったので、悪いことばかりではない。生徒の波がはけた食堂は、ちらほら人がまばらにいるだけだ。手近な席に着いて、昼食を摂っていると、目の前に黒装束が目に付いた。
「ここ、いいですか?」
土井先生の申し出にさくらは頷いた。
「もちろんいいですよ、どうぞ。」
そう言うと土井先生は笑顔で「ありがとう」と言って向かいの席に腰を落ち着けた。
向かいに座ってお互いに選んだランチに口を付ける。おばちゃんのチキン南蛮は自家製ソースが絡んで舌がとろけそうなほど美味しい。土井先生も同じメニューを選んでおり、同じく、美味しそうに頬張っている。土井先生と食事をするのは初めてだ。いつも食堂に来たと思ったらいつの間にかいなくなっているし、常に次の予定があって忙しそうにしている。誰かと一緒に来ている場面と言えば山田先生だろうか。それもは組の授業の話をしながら食事をされていた気がする。こうして顔をつきあわせて食事をするのは新鮮だ。目の前で小鉢に手を添えて箸をつけ、所作が美しい。所作は家庭環境が現れるひとつであるが、土井先生はいいお家の息子さんだったのか、はたまた忍者は様々な人物になりきる必要があるから会得したのか。
「あんまり見られると食べにくいですね。」
土井先生がこちらを苦笑しながら見ている。
「すみません、食べ方がきれいだったものですから…」
「ありがとうございます、さくらさんもおきれいだと思いますよ。」
微笑んで余裕の返しをするあたり、言われ慣れているらしい。
「さくらさん、お仕事、無理されていませんか?」
土井先生にも顔色の悪さはばれているようで、こちらを心配そうに窺っている。
「こちらのお仕事も慣れてきましたし、今日は読書で夜更かししてしまって。もう無理できる歳ではないですね。」
「なにかおもしろい本があったんです?」
「いえ、まあ……」
先ほどの吉野先生の視線が思い出された。土井先生も同じように不信に思うのだろうか。歯切れの悪い返答になおさら不信に思われるかも知れない。
「大名と戦の本です。私はこのあたりのことは何も知りませんから。」
正直に答える。今、土井先生はどんな表情をしているだろうか。恐る恐る視線を向けると、何か思案しているようだ。あの『目』でみられないものの、やはり思うところはあるのだな…。
「あなたはここへ来たとき、二回目だとおっしゃっていましたね。」
「ええ、」
「以前、会った者たちに会いたいと、その本を読まれていたのですか?」
こちらに視線を向ける土井先生の目には不信の色はなかった。ただ、何かを確認するようにさくらへ問いかけているように思えた。あの日の会話を覚えていたのか。
「いつかここを出られたら、会いに行きたいと思っています。」
学園長先生からいつ許しが出るか分からない。いつ身の潔白が証明されるかも分からない。だが、この世界に『うるま』の人々がいるのならば、彼らに会いたい。あの夫婦は息災だろうか。温かく迎え入れてくれた感謝を伝え、元気でやっていると伝えたい。また、さくらにとって、助けた男の子正史丸の成長が一番気になっているところだ。彼が大切に思っている領地がどのように成長しているか、彼自身もどんな領主となっているか。できることなら元気な姿をこの目で見たい。
「……もう存在しないかもしれませんよ。随分前の時代かも知れません。それでも探しに行くんですか。」
「たとえそうだとしても、彼らが生きていた場所で手を合わせます。私を受け入れてくれた人たちです。あのときの感謝と今の私のことをお伝えしたい。」
生きているとは限らない。時代がずれていれば彼らが亡くなった後の様子しかうかがい知ることはできない。だが、『うるま』が興した領地や領民には彼らの面影がきっと、どこかで息づいている。
土井先生は真剣なさくらの表情をしばらく見つめていると、ふっと息を吐いた。
「私から学園長先生にご相談してみましょう。」
「え?なにを?」
「あなたが『うるま』という国を訪れたいという相談ですよ。付き添いで私が行きましょう。」
突然の打診で何を言われているのか分からなかったが、言葉の意味を理解するとさくらは驚き、目をしばたたかせた。
「いえいえ土井先生もお忙しいでしょうし、そんな曖昧な情報で学園長先生がお許しになるはずが……」
「許す!!」
どおおおん!!っと白煙を出しながら学園長先生が登場した。
「土井先生と日向 さくらの外出を許可する!!」
学園長先生が宣言し終わったところで、背後から食堂のおばちゃんがおおきなしゃもじを構えて近づいてきた。
「学園長先生!!ここでそんなもの出さないでください!!」
おばちゃんの剣幕に押され、学園長先生は仕事は終わったとばかりにそそくさと食堂の出入り口から退散していった。
一連の様子を食堂の端でみていた鉢屋三郎と尾浜勘右衛門が小さく頷いた。
(外で泳がせてしっぽをつかめ、ということか)
(三郎、実習をかねて尾行できないか学園長先生と木下先生に相談してみよう)