星降る夜に
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傷の具合が良くなってくると、さくらは事務の仕事に戻ることにした。新野先生からは渋い顔をされ、善法寺君と乱太郎には、じとーっと同じような疑いのまなざしを受けながらも許可された。しかし、まだ全快というわけではない。新野先生には、初めは負担の軽いものからするようにと口を酸っぱくして言い含められた。そこまで心配されるようなキャラでもないのに…と思ったが、怪我をした経緯を考えれば心配されても無理は無いのかと思いなおした。
「放課後、必ず傷の具合を見せに来てくださいね。」
ずい、と善法寺君がさくらの顔に自身の顔を近づけて言った。
「忘れても私が必ず連れて来ますからね!」
乱太郎も腰に手を当てて、こちらに顔を近づけて言った。年下にここまで心配をさせてしまうとは、不甲斐なく思うも、こうやって本当に自分を思ってくれているのだと感じるのは素直に嬉しい。
「分かりました。必ず、仕事の後に医務室に来ます。」
心配そうな三人に、「お世話になりました。」とお礼を一言言うと、さくらは事務員の仕事場へと向かった。
事務室に着くと、小松田君が目に涙をためながら出迎えてくれた。
「さくらさああん!!無事でよかったああ!!」
思い切り肩を掴んで存在を確かめるようにさくらの肩を揺らした。
「痛い!!いたい!!」
ふさがっていた傷口に衝撃が走る。小松田君、心配してくれたのは嬉しいけど、また傷が増えそうです。
「小松田君。日向君が痛がっているだろう。」
事務室に現れた吉野先生によって小松田君の暴走は止められた。さくらは振り返って、吉野先生へ頭を下げた。
「お休みの間、ご心配とご迷惑をおかけしました。いつも通りとは行きませんが、今日から業務に戻らせて頂きます。改めてよろしくお願いします。」
そう言うと、吉野先生はにこりと笑った。
「君は学園の生徒を守ってくれた。なにも気負う必要はない。…しかし、君がいてくれると小松田君のミスが減るから戻ってきてくれて助かるよ。」
「吉野先生ぇ~!!」
小松田君は不服そうに頬を膨らませた。久々の小松田君の雰囲気にほっこりする。
「小松田君も今日からまたよろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします~!」
復帰初日は事務室内で出来る業務をやらせてもらうことになった。主にお茶をひっくり返す小松田君を事前にサポートしたり、重要書類に墨をこぼしそうになる小松田君のサポートした。ほぼ小松田君要員のさくらであったが、吉野先生も事務員のおばちゃんも落ち着いて仕事ができて満足そうだった。一日の業務をつつがなく終えて、保健室へ向かった。
少し早かったらしく、新野先生の姿も見えず、保健室は無人であった。少しすれば保健委員の生徒が来るだろうと、部屋で待っていると、天井の方で、がたっ、と物音が聞こえた。何事かとさくらが見上げると現れたのは包帯姿の忍であった。こちらをじいっと見つめる感情の読めない男。幻覚か、幽霊か、思わぬ事態に体が硬直してしまう。すると、男は唯一みえる瞳をにやり、と細めた。
「おもしろい子がいるねえ。」
「……あの、あなたは?」
「ただの曲者だよ。」
自分のことを曲者という男を簡単に学園に侵入させてしまうとは。忍術学園というのだから優秀な先生がいらっしゃるはずが、それをかいくぐってここまでやってくる男がすごいのだろうか。それよりも……曲者のわりに、学園長庵では無く、保健室にくるとは一体どういうことだろうか。疑問ばかり浮かび、さらに余裕そうな男の得体の知れなさに不気味さを感じた。
障子が開く音でさくらは大きく振り向いた。そこにいたのは善法寺君だった。さくらはとっさに入り口に体当たりするように善法寺君の体を押し出した。突然の出来事に驚く善法寺君にさくらは「にげて…!!」と短く言った。こんなやばそうな男、何をするか分からない。生徒だけでも逃がさなくては、と思っての行動だった。しかし、さくらの体当たりによろけた善法寺君は、一、二歩後退しただけで、さくらの体をがっちりと支えると、天井の人物を仰ぎ見た。
「雑渡さん、こんにちは。」
「こんにちは、伊作君。こちらが事務員の日向 さくらさんかな。」
先ほどより柔和な雰囲気を出しながら雑渡さんと呼ばれた男が天井から音も無く降り立った。善法寺君は胸の中にいるさくらに声をかけた。
「さくらさん心配いりませんよ。この人はタソガレドキの忍組頭の雑渡昆奈門さんです。保健室にはこうして遊びにいらっしゃるんです。」
「悪い城の忍組頭のはずなんだけどねえ……。」
「それはまずいんじゃ……」
「雑渡さんは学園で何かすることはありませんから大丈夫ですよ。いつも保健室でお茶を飲んだり、保健委員の一年生と話をするくらいですから。」
当の保健委員会委員長は、のほほんとしている。それに毒気が抜け、さくらは再び部屋に戻って腰を下ろした。善法寺君も部屋に入ると、さくらの治療の準備を始めた。その隣で雑渡さんはいつの間にか懐から取り出した竹筒にさしたストローから水分補給している。飲み物を口にしているにもかかわらず覆面は取らずに器用に飲んでいる。どうやっているのだろう、と不思議に思って見ていると目が合った。
「君が乱太郎君たちを山賊から助けたそうだね。女伊達ら凄腕なら、ぜひうちの城で働いてほしいね。」
「いえ、偶然が重なって助かったようなものですから。」
言葉を濁すと、雑渡さんはいぶかしそうに首をかしげた。
「それじゃあ、どうやって山賊から三人を逃がしたんだい?」
雑渡さんの口ぶりからするとまるでさくらが山賊をたたきのめしたような言い方だ。一体どうやって噂が広まっているのか。
「私は戦いも出来ませんし、こう……色仕掛けといいますか。お恥ずかしながら私は三人に指示するだけで、思い切り荷車を引いて山賊を怯ませてくれたおかげで逃げ切れたんです。」
色仕掛けといっても当時は必死で、冷静に考えればこんな女一人になびいてくれたのは山賊がかなり欲求不満だったのだろう。でなければ袖にされていたに違いない。
「もう私は助からないだろうと腹をくくっていましたが、ここの生徒さんが助けに来てくれて命拾いしました。」
そういうと善法寺君は眉に皺を寄せた。
「……さくらさん、無理に話さなくて良いんですよ。雑渡さん、今日は治療がありますから、これで。」
暗にもう帰ってくれ、という善法寺君の言葉に了承したのか雑渡さんはひらり、と音も無く天井に舞い上がった。
「日向さん、すまないね。それじゃあ失礼するよ。」
雑渡さんは音も無く天井から姿を消した。
善法寺君の方を向き直ると、てきぱきと治療をしてくれた。しかし、普段の柔和な表情とは違い、硬い表情をしている。嫌なことを聞かせてしまっただろうか、と心配になるが、本人が何も言わないのでそっとしておくことにする。軟膏を塗り直して包帯を巻き直してもらい、再び服を着込んだ。
「善法寺君、ありがとう。」
「……さくらさん」
笑顔で善法寺君にお礼を言うと、言いにくそうに善法寺君がさくらの名前を呼んだ。どうしたのだろう、と言葉の続きを待つ。
「僕は保健委員会委員長です。命を粗末にすることは許せません。確かに乱太郎たちはさくらさんに救われました。でも、あなたが無残に亡くなった姿をみたら彼らはどう思いますか?きっとあなたを見捨てた自分たちのことを許せなくなる。」
「それは、私が勝手に指示したことで…!」
「だとしても!!」
鋭い善法寺君の視線がさくらを見据えた。
「残された者がどれほどつらいか。……生きることを諦めないでください。あなたを失って悲しむ者を思ってください。」
そこまで言われて、自分の浅はかな行動に気がつかされた。あのときは必死だった。しかし、それは言い訳だ。私は三人が自身のために悲しんでくれることなど微塵も考えていなかったのだ。だからあんな行動にも出られた。この世界に身寄りのない自分にできることは身を投げる事だと、どこかで自暴自棄になっていたのかも知れない。
ここで出会った人を思い浮かべる。乱太郎、きり丸、しんべえ、善法寺君、小松田君、新野先生、土井先生……。私を気にかけてくれる人がいるのだ。ここでできた縁がある。
「ごめんなさい……。」
そういうと、善法寺君はいつもの柔和な顔に戻った。
「今日は乱太郎も当番の日なんです。昨日からさくらさんの復帰を心配していましたから、少し話してやってくれませんか。」
すっかり優しい先輩の顔になった善法寺君の提案にさくらは大きく頷いた。
「放課後、必ず傷の具合を見せに来てくださいね。」
ずい、と善法寺君がさくらの顔に自身の顔を近づけて言った。
「忘れても私が必ず連れて来ますからね!」
乱太郎も腰に手を当てて、こちらに顔を近づけて言った。年下にここまで心配をさせてしまうとは、不甲斐なく思うも、こうやって本当に自分を思ってくれているのだと感じるのは素直に嬉しい。
「分かりました。必ず、仕事の後に医務室に来ます。」
心配そうな三人に、「お世話になりました。」とお礼を一言言うと、さくらは事務員の仕事場へと向かった。
事務室に着くと、小松田君が目に涙をためながら出迎えてくれた。
「さくらさああん!!無事でよかったああ!!」
思い切り肩を掴んで存在を確かめるようにさくらの肩を揺らした。
「痛い!!いたい!!」
ふさがっていた傷口に衝撃が走る。小松田君、心配してくれたのは嬉しいけど、また傷が増えそうです。
「小松田君。日向君が痛がっているだろう。」
事務室に現れた吉野先生によって小松田君の暴走は止められた。さくらは振り返って、吉野先生へ頭を下げた。
「お休みの間、ご心配とご迷惑をおかけしました。いつも通りとは行きませんが、今日から業務に戻らせて頂きます。改めてよろしくお願いします。」
そう言うと、吉野先生はにこりと笑った。
「君は学園の生徒を守ってくれた。なにも気負う必要はない。…しかし、君がいてくれると小松田君のミスが減るから戻ってきてくれて助かるよ。」
「吉野先生ぇ~!!」
小松田君は不服そうに頬を膨らませた。久々の小松田君の雰囲気にほっこりする。
「小松田君も今日からまたよろしくね。」
「こちらこそよろしくお願いします~!」
復帰初日は事務室内で出来る業務をやらせてもらうことになった。主にお茶をひっくり返す小松田君を事前にサポートしたり、重要書類に墨をこぼしそうになる小松田君のサポートした。ほぼ小松田君要員のさくらであったが、吉野先生も事務員のおばちゃんも落ち着いて仕事ができて満足そうだった。一日の業務をつつがなく終えて、保健室へ向かった。
少し早かったらしく、新野先生の姿も見えず、保健室は無人であった。少しすれば保健委員の生徒が来るだろうと、部屋で待っていると、天井の方で、がたっ、と物音が聞こえた。何事かとさくらが見上げると現れたのは包帯姿の忍であった。こちらをじいっと見つめる感情の読めない男。幻覚か、幽霊か、思わぬ事態に体が硬直してしまう。すると、男は唯一みえる瞳をにやり、と細めた。
「おもしろい子がいるねえ。」
「……あの、あなたは?」
「ただの曲者だよ。」
自分のことを曲者という男を簡単に学園に侵入させてしまうとは。忍術学園というのだから優秀な先生がいらっしゃるはずが、それをかいくぐってここまでやってくる男がすごいのだろうか。それよりも……曲者のわりに、学園長庵では無く、保健室にくるとは一体どういうことだろうか。疑問ばかり浮かび、さらに余裕そうな男の得体の知れなさに不気味さを感じた。
障子が開く音でさくらは大きく振り向いた。そこにいたのは善法寺君だった。さくらはとっさに入り口に体当たりするように善法寺君の体を押し出した。突然の出来事に驚く善法寺君にさくらは「にげて…!!」と短く言った。こんなやばそうな男、何をするか分からない。生徒だけでも逃がさなくては、と思っての行動だった。しかし、さくらの体当たりによろけた善法寺君は、一、二歩後退しただけで、さくらの体をがっちりと支えると、天井の人物を仰ぎ見た。
「雑渡さん、こんにちは。」
「こんにちは、伊作君。こちらが事務員の日向 さくらさんかな。」
先ほどより柔和な雰囲気を出しながら雑渡さんと呼ばれた男が天井から音も無く降り立った。善法寺君は胸の中にいるさくらに声をかけた。
「さくらさん心配いりませんよ。この人はタソガレドキの忍組頭の雑渡昆奈門さんです。保健室にはこうして遊びにいらっしゃるんです。」
「悪い城の忍組頭のはずなんだけどねえ……。」
「それはまずいんじゃ……」
「雑渡さんは学園で何かすることはありませんから大丈夫ですよ。いつも保健室でお茶を飲んだり、保健委員の一年生と話をするくらいですから。」
当の保健委員会委員長は、のほほんとしている。それに毒気が抜け、さくらは再び部屋に戻って腰を下ろした。善法寺君も部屋に入ると、さくらの治療の準備を始めた。その隣で雑渡さんはいつの間にか懐から取り出した竹筒にさしたストローから水分補給している。飲み物を口にしているにもかかわらず覆面は取らずに器用に飲んでいる。どうやっているのだろう、と不思議に思って見ていると目が合った。
「君が乱太郎君たちを山賊から助けたそうだね。女伊達ら凄腕なら、ぜひうちの城で働いてほしいね。」
「いえ、偶然が重なって助かったようなものですから。」
言葉を濁すと、雑渡さんはいぶかしそうに首をかしげた。
「それじゃあ、どうやって山賊から三人を逃がしたんだい?」
雑渡さんの口ぶりからするとまるでさくらが山賊をたたきのめしたような言い方だ。一体どうやって噂が広まっているのか。
「私は戦いも出来ませんし、こう……色仕掛けといいますか。お恥ずかしながら私は三人に指示するだけで、思い切り荷車を引いて山賊を怯ませてくれたおかげで逃げ切れたんです。」
色仕掛けといっても当時は必死で、冷静に考えればこんな女一人になびいてくれたのは山賊がかなり欲求不満だったのだろう。でなければ袖にされていたに違いない。
「もう私は助からないだろうと腹をくくっていましたが、ここの生徒さんが助けに来てくれて命拾いしました。」
そういうと善法寺君は眉に皺を寄せた。
「……さくらさん、無理に話さなくて良いんですよ。雑渡さん、今日は治療がありますから、これで。」
暗にもう帰ってくれ、という善法寺君の言葉に了承したのか雑渡さんはひらり、と音も無く天井に舞い上がった。
「日向さん、すまないね。それじゃあ失礼するよ。」
雑渡さんは音も無く天井から姿を消した。
善法寺君の方を向き直ると、てきぱきと治療をしてくれた。しかし、普段の柔和な表情とは違い、硬い表情をしている。嫌なことを聞かせてしまっただろうか、と心配になるが、本人が何も言わないのでそっとしておくことにする。軟膏を塗り直して包帯を巻き直してもらい、再び服を着込んだ。
「善法寺君、ありがとう。」
「……さくらさん」
笑顔で善法寺君にお礼を言うと、言いにくそうに善法寺君がさくらの名前を呼んだ。どうしたのだろう、と言葉の続きを待つ。
「僕は保健委員会委員長です。命を粗末にすることは許せません。確かに乱太郎たちはさくらさんに救われました。でも、あなたが無残に亡くなった姿をみたら彼らはどう思いますか?きっとあなたを見捨てた自分たちのことを許せなくなる。」
「それは、私が勝手に指示したことで…!」
「だとしても!!」
鋭い善法寺君の視線がさくらを見据えた。
「残された者がどれほどつらいか。……生きることを諦めないでください。あなたを失って悲しむ者を思ってください。」
そこまで言われて、自分の浅はかな行動に気がつかされた。あのときは必死だった。しかし、それは言い訳だ。私は三人が自身のために悲しんでくれることなど微塵も考えていなかったのだ。だからあんな行動にも出られた。この世界に身寄りのない自分にできることは身を投げる事だと、どこかで自暴自棄になっていたのかも知れない。
ここで出会った人を思い浮かべる。乱太郎、きり丸、しんべえ、善法寺君、小松田君、新野先生、土井先生……。私を気にかけてくれる人がいるのだ。ここでできた縁がある。
「ごめんなさい……。」
そういうと、善法寺君はいつもの柔和な顔に戻った。
「今日は乱太郎も当番の日なんです。昨日からさくらさんの復帰を心配していましたから、少し話してやってくれませんか。」
すっかり優しい先輩の顔になった善法寺君の提案にさくらは大きく頷いた。