星降る夜に
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頭が割れるように痛い。体中のあちこちがきしむように痛んだ。
「これだけ殴れば大人しくなるな。」
三人がかりで取り囲まれ、殴りつけられ、さくらは泥と自身の血でまみれていた。リーダーの男はさくらが苦しそうに体を曲げているのを見ると満足そうな顔をした。女の甘言に惑わされて獲物を取り逃がしたとあっては、腹も立つのだろう。対するさくらの方は、ぜえぜえと荒い息を吐いて、痛みをどう逃がせば良いのか分からない体を丸めてこれ以上殴られないようにするしかなかった。
乱太郎たちが助けを呼ぶまで命があるとは思えない。兵庫水軍もここからでは大声を出したところで波の音にかき消されて気付かれないだろう。
詰んだ……。
ぎらぎらと獣のような視線を向ける男たちは、先ほどのどう猛な視線からまとわりつくような視線へと変わっていた。何をされるのか、すぐに分かった。だからといって、逃げられるような状況でもない。乱太郎たちを逃がしたことに後悔はない。ただ、全員で無事に帰還するための技量が自身に無い事が悔やまれる。ここで変わり果てた姿になったさくらを見て、乱太郎たちはどう思うのだろう。そう思うと胸が痛んだ。
男たちの手が伸びる。
「やめて…!!触らないで!!」
はねのけた腕を絡め取られる。男たちは下卑た笑みを浮かべてさくらに覆い被さった。男たちの手がさくらの着物を剥いでいく。着物はすぐにはだけて、あられもない姿にされた。
「いや!!!」
「大人しくしろ!!!」
思い切り頬の殴られ、頭がぐらりと揺れた。耳の奥がきーんと鳴り、そのまま意識が遠のいていく。
……どうせ穢されるならば、意識がないだけましか。
半ば諦めて意識を失う寸前、さくらの瞳には男たちの影とは別の人影が映った。それを確認する前にさくらの視界は暗くなった。
さくらが目を覚ますと、木漏れ日を背景に頭巾の少年たちがこちらをのぞき込んでいる瞳と目が合った。
「気付かれましたか。」
そのうちの一人が落ち着いた様子で声をかけた。くせっ毛の黒髪に長い睫毛で整った顔立ちの子だ。その隣の人なつっこそうな少年が安堵したような表情を見せた。
「よかったあ。」
「……あの、どうして。」
状況が飲み込めず、さくらがしどろもどろになっていると、安堵の表情を浮かべた少年が答えた。
「僕たち実習で丁度通りかかったら、あなたを見つけたんです。襲われているようだったので、山賊を倒して、安全な場所に移ってきたところだったんですよ。」
見たところ、忍術学園の生徒のようだ。濃紺のような色は一体何年生だったか。
「ありがとうございます、助けて頂かなければ今頃どうなっていたか…。」
男たちを思い出すと、背筋に冷たいものが伝った。
「ところで、あんな山奥で何をされていたんです?女性が通るには危険な場所ですよ。」
黒髪の少年が怪訝そうに質問した。
「実は今日の夕食の魚を乱太郎、きり丸、しんべえと一緒に兵庫水軍の方に頂きに行っていたんです。その帰り道で山賊に出会って、あんな事態に…。」
そう説明すると二人とも、気の毒そうな顔をした。学園長先生の突然の思いつきで、とは言わなかったが、なにやら察してくれているらしい。
「実習中にご迷惑おかけしてすみません。私のせいで実習の点数が付かなくなるなんてことはないですか?私の方から先生方にお話させて頂きますし、」
彼らが実習中だったからこそ、助かったが、それで彼らの点数が無くなってしまえば非常に申し訳ない。さらに謝罪の言葉を言い募ろうとしたところで、新たな人影が木の上から降りてきた。
「実習については私の方から先生に説明してきた。『モノ』は奪取していた上に、人助けをしたんだ。いくらか加点もつけるよう『交渉』したさ。」
同じ顔をしているうちの一人が得意げに話した。その隣で、もう一人は疲れた顔をしている。その『交渉』とやらが、気を揉むようなものだったのかもしれない。
遅れてもう一つ影が木の上から降りてくる。灰色のボリュームのある髪に、がっしりとした体つきの少年だ。
「忍術学園にも事情を説明してきた。新野先生が用意して待ってくださってる。」
そう言うと、灰色の髪の少年がこちらにひざまずいた。
「事務員の日向 さくらさんですよね。」
「はい、あなたは…?まだ入ったばかりで生徒の名前は覚えていなくてごめんなさい。」
「気にしないでください。俺は五年ろ組の竹谷八左ヱ門です。なるべく傷に負担がかからないよう抱えて行きますが、つらくなったらおっしゃってください。」
竹谷君は言うやいなやさくらを横抱きにして持ち上げた。体をぐらつかせることなく立ち上がる。
「おお、いい男だな、八左ヱ門。」
「茶化すなよ三郎。」
「さあ、日向さんの傷が悪化しないうちに戻ろう。」
黒髪の少年が皆に声をかけた。それを合図に、五人が走り出した。さくらが走るよりも何倍も速いスピードでかけていく。流れる木々をみると、本当に人間が走っているのか疑ってしまいそうな速さだ。それでも息一つ乱さず、女一人を抱えて走る竹谷君、そして余裕そうな四人もすごい。
「日向さん、大丈夫ですか?」
「ありがとう、竹谷君。思ったより、痛くないわ。」
ずきずきと傷自体は痛むものの、移動によっての振動はほとんど伝わってこない。そう笑顔で竹谷君に返すと、竹谷君もにかっと笑って返した。
「もうすぐ学園に着きますからね。」
自身より一回りは下である少年がとても頼りになる男に見える。時代というのもあるだろうが、それにしてもしっかりした子だ。運んでもらっているにもかかわらず、そんな事を考えながら揺られていた。
「さくらさあああん!!!」
学園の門をくぐると、乱太郎、きり丸、しんべえが涙を浮かべて駆け寄ってきた。それを見ると、さくらは竹谷の腕から降りて、三人を抱きしめた。衝撃で体中のあちこちが痛んだが、それよりも三人の無事を確かめられた嬉しさで、力いっぱい、三人に腕を回した。
「三人とも怪我はない?」
「僕たちは全然っす!」
「それよりもさくらさんが傷だらけじゃないですか!」
「お魚ちゃんと届けました!!」
三者三様の出迎えに自然と笑顔になってしまう。
「私は大丈夫。ちゃんと約束を守って帰ってこれたのね。本当に良かった。」
そう言うと再び三人は目に涙を浮かべて、わんわん泣き出した。それを見かねたのか、黒髪の少年が声をかける。
「乱太郎、きり丸、しんべえ。日向さんは怪我の治療が必要だ。乱太郎、新野先生の手伝いに一緒に来てくれ。」
「はい!!久々知先輩、分かりました!!」
すると、久々知君と竹谷君がさくらの両腕を自身の肩にまわして、歩行の補助に回ってくれる。その後ろから乱太郎が付き添い、医務室へと向かった。
「これだけ殴れば大人しくなるな。」
三人がかりで取り囲まれ、殴りつけられ、さくらは泥と自身の血でまみれていた。リーダーの男はさくらが苦しそうに体を曲げているのを見ると満足そうな顔をした。女の甘言に惑わされて獲物を取り逃がしたとあっては、腹も立つのだろう。対するさくらの方は、ぜえぜえと荒い息を吐いて、痛みをどう逃がせば良いのか分からない体を丸めてこれ以上殴られないようにするしかなかった。
乱太郎たちが助けを呼ぶまで命があるとは思えない。兵庫水軍もここからでは大声を出したところで波の音にかき消されて気付かれないだろう。
詰んだ……。
ぎらぎらと獣のような視線を向ける男たちは、先ほどのどう猛な視線からまとわりつくような視線へと変わっていた。何をされるのか、すぐに分かった。だからといって、逃げられるような状況でもない。乱太郎たちを逃がしたことに後悔はない。ただ、全員で無事に帰還するための技量が自身に無い事が悔やまれる。ここで変わり果てた姿になったさくらを見て、乱太郎たちはどう思うのだろう。そう思うと胸が痛んだ。
男たちの手が伸びる。
「やめて…!!触らないで!!」
はねのけた腕を絡め取られる。男たちは下卑た笑みを浮かべてさくらに覆い被さった。男たちの手がさくらの着物を剥いでいく。着物はすぐにはだけて、あられもない姿にされた。
「いや!!!」
「大人しくしろ!!!」
思い切り頬の殴られ、頭がぐらりと揺れた。耳の奥がきーんと鳴り、そのまま意識が遠のいていく。
……どうせ穢されるならば、意識がないだけましか。
半ば諦めて意識を失う寸前、さくらの瞳には男たちの影とは別の人影が映った。それを確認する前にさくらの視界は暗くなった。
さくらが目を覚ますと、木漏れ日を背景に頭巾の少年たちがこちらをのぞき込んでいる瞳と目が合った。
「気付かれましたか。」
そのうちの一人が落ち着いた様子で声をかけた。くせっ毛の黒髪に長い睫毛で整った顔立ちの子だ。その隣の人なつっこそうな少年が安堵したような表情を見せた。
「よかったあ。」
「……あの、どうして。」
状況が飲み込めず、さくらがしどろもどろになっていると、安堵の表情を浮かべた少年が答えた。
「僕たち実習で丁度通りかかったら、あなたを見つけたんです。襲われているようだったので、山賊を倒して、安全な場所に移ってきたところだったんですよ。」
見たところ、忍術学園の生徒のようだ。濃紺のような色は一体何年生だったか。
「ありがとうございます、助けて頂かなければ今頃どうなっていたか…。」
男たちを思い出すと、背筋に冷たいものが伝った。
「ところで、あんな山奥で何をされていたんです?女性が通るには危険な場所ですよ。」
黒髪の少年が怪訝そうに質問した。
「実は今日の夕食の魚を乱太郎、きり丸、しんべえと一緒に兵庫水軍の方に頂きに行っていたんです。その帰り道で山賊に出会って、あんな事態に…。」
そう説明すると二人とも、気の毒そうな顔をした。学園長先生の突然の思いつきで、とは言わなかったが、なにやら察してくれているらしい。
「実習中にご迷惑おかけしてすみません。私のせいで実習の点数が付かなくなるなんてことはないですか?私の方から先生方にお話させて頂きますし、」
彼らが実習中だったからこそ、助かったが、それで彼らの点数が無くなってしまえば非常に申し訳ない。さらに謝罪の言葉を言い募ろうとしたところで、新たな人影が木の上から降りてきた。
「実習については私の方から先生に説明してきた。『モノ』は奪取していた上に、人助けをしたんだ。いくらか加点もつけるよう『交渉』したさ。」
同じ顔をしているうちの一人が得意げに話した。その隣で、もう一人は疲れた顔をしている。その『交渉』とやらが、気を揉むようなものだったのかもしれない。
遅れてもう一つ影が木の上から降りてくる。灰色のボリュームのある髪に、がっしりとした体つきの少年だ。
「忍術学園にも事情を説明してきた。新野先生が用意して待ってくださってる。」
そう言うと、灰色の髪の少年がこちらにひざまずいた。
「事務員の日向 さくらさんですよね。」
「はい、あなたは…?まだ入ったばかりで生徒の名前は覚えていなくてごめんなさい。」
「気にしないでください。俺は五年ろ組の竹谷八左ヱ門です。なるべく傷に負担がかからないよう抱えて行きますが、つらくなったらおっしゃってください。」
竹谷君は言うやいなやさくらを横抱きにして持ち上げた。体をぐらつかせることなく立ち上がる。
「おお、いい男だな、八左ヱ門。」
「茶化すなよ三郎。」
「さあ、日向さんの傷が悪化しないうちに戻ろう。」
黒髪の少年が皆に声をかけた。それを合図に、五人が走り出した。さくらが走るよりも何倍も速いスピードでかけていく。流れる木々をみると、本当に人間が走っているのか疑ってしまいそうな速さだ。それでも息一つ乱さず、女一人を抱えて走る竹谷君、そして余裕そうな四人もすごい。
「日向さん、大丈夫ですか?」
「ありがとう、竹谷君。思ったより、痛くないわ。」
ずきずきと傷自体は痛むものの、移動によっての振動はほとんど伝わってこない。そう笑顔で竹谷君に返すと、竹谷君もにかっと笑って返した。
「もうすぐ学園に着きますからね。」
自身より一回りは下である少年がとても頼りになる男に見える。時代というのもあるだろうが、それにしてもしっかりした子だ。運んでもらっているにもかかわらず、そんな事を考えながら揺られていた。
「さくらさあああん!!!」
学園の門をくぐると、乱太郎、きり丸、しんべえが涙を浮かべて駆け寄ってきた。それを見ると、さくらは竹谷の腕から降りて、三人を抱きしめた。衝撃で体中のあちこちが痛んだが、それよりも三人の無事を確かめられた嬉しさで、力いっぱい、三人に腕を回した。
「三人とも怪我はない?」
「僕たちは全然っす!」
「それよりもさくらさんが傷だらけじゃないですか!」
「お魚ちゃんと届けました!!」
三者三様の出迎えに自然と笑顔になってしまう。
「私は大丈夫。ちゃんと約束を守って帰ってこれたのね。本当に良かった。」
そう言うと再び三人は目に涙を浮かべて、わんわん泣き出した。それを見かねたのか、黒髪の少年が声をかける。
「乱太郎、きり丸、しんべえ。日向さんは怪我の治療が必要だ。乱太郎、新野先生の手伝いに一緒に来てくれ。」
「はい!!久々知先輩、分かりました!!」
すると、久々知君と竹谷君がさくらの両腕を自身の肩にまわして、歩行の補助に回ってくれる。その後ろから乱太郎が付き添い、医務室へと向かった。