アズカバンの囚人編
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勤務初日の朝から非常に気分を害されてしまったが、そこから午前中までの仕事はとどこおりなく進んだ。フィルチ指導のもと、仕事の多くは清掃であった。フクロウ小屋の掃除とえさやり、空き教室、トイレの掃除、監督生の風呂場の清掃。今まで、広大なホグワーツ城を一人で管理してきたのかと思うと頭が下がる。
サクラは一人、トロフィー室の盾や表彰カップなどを磨いていた。フィルチはどこへ行ったかというと、禁じられた廊下に影をみたとかで、生徒の罰則に走って行ってしまった。行きがけに、午後からは図書室の仕事があるぞ、とダンブルドアからの伝言を伝えてくれた。やはり、それほど悪い人ではないと思う。
中性洗剤を薄めた液をタオルに浸してトロフィーを磨いていく。煤のはった様子を見ると、床は綺麗だが、やはり細かいところまでは一人で出来ないのだろう。人員が増えたのだから、手の届かなかった部分で少しでも力になりたい、と思うのだった。
昼食休憩まで残りわずかとなったが、まだ多くのトロフィーが残されている。今、磨き上げているものを終えたら一度、図書室へ挨拶をして、それから休憩をいれよう。黄金の輝きを取り戻しつつあるトロフィーを磨き上げる。
そのとき、入り口から足音が聞こえてきた。
フィルチだろうか。ならば、残りは明日に終わらせてもよいか確認をしよう、と振り向く。しかし、そこには小柄なフィルチではなく、すらっと背の高い、しかし、くたびれた服とすこし乱れた鷲色の髪の男が立っていた。手には大きな旅行バックが握られていた。
「こんにちは、お嬢さん。掃除の邪魔をしてしまったかな。」
「こんにちは。そろそろ休憩をと思っていましたから、お気になさらず。ここに御用ですか?」
「ああ、そうなんだ。友人のものを見に来たんだけどいいかな。」
「ええ、どうぞ。…といっても私の部屋でもありませんしご自由にご覧下さい。」
そういうと、男はお礼をいい、場所がわかっているのか迷うことなく目的の場所まで歩いていく。丁度、先ほど磨いていたメダルの前で足を止めた。そして、メダルを見ると感嘆の声を上げた。
「久しぶりに見たけど、昔と変わらないくらい輝いているよ。これは君が?」
話しかけられるとは思わず、トロフィー磨きに専念しようとしていた手を止め、男のほうを見た。
「ええ。せっかくの名誉あるものですから、きれいにしてあげたいな、と思いまして。」
まだ学期終わりでもないのに、この大荷物。くたびれた風貌とくれば察しが付く。しかし、私がこの世界の知識を持っていることを知っているのは校長と魔法薬学教授の二人だけだ。初対面の人物にいきなり名前を呼ばれるのは気味悪く思われるだろう。話のひっかかりになりそうなメダルのほうへ足を進めた。
案の定、彼が見ていたのはジェームズ・ポッターのメダルだった。
「ご友人というのはジェームズ・ポッター・・・?」
「ああ、そうなんだよ。同級生でね。同じグリフィンドールだった。」
「では、先生は母校でお勤めになられたのですね。」
「しかし、それも今日で終わりなんだけどね・・・。最後のお別れに友人へ挨拶しに来たんだ。」
その瞳はさみしそうにゆれていた。
彼の境遇の中で普通の人間と過ごすことのできる日々というのは夢のようであったのだろう。一人の教師として周りには慕ってくれる生徒が多くいたに違いないことは物語のなかでもうかがえたのだ。それを思うと何とも切ない。
「会って間もない私がいうのも失礼だと思いますが、私も魔法が使えたら先生の授業を受けてみたかったです。」
「君、・・・そうか。まだ、名前を聞いてなかったね。僕はリーマス・J・ルーピン。君は?」
ごめん、と謝罪しないのは彼なりの配慮なのだろう。優しい人なのに、世間では彼の性格の前に人狼としての性質をみてしまう。私も物語で読んでいなければ同じように考えてしまっていただろう。しかし、彼の責任でないところで彼の生き方が決められていくと思うと、世の中の不条理を感じてしまう。
そして、彼の正体を周囲にばらまいた、あの不健康な太った蝙蝠にまたふつふつと怒りが湧いてくるのだ。
しかし、そのようなことは現時点で何も知らないことになっているのだ。下手に表情に出してしまえば、察しのいい彼には気付かれてしまうだろう。私は何食わぬ顔で答えた。
「サクラ ヒナタです。今日からフィルチさんの助手といいますか、基本的に掃除・雑務担当でお仕事させていただいています。」
「機会があれば君ともう少しお話してみたかったな。これでお別れとは残念だよ。」
社交辞令といっても甘いはにかんだ笑顔に少し胸が高鳴った。さすがブラックの友人なだけある。女の喜ばせ方を自然と身に着けている。
「この世界にいれば、また、どこかでお会いできるかもしれません。」
「そうだね。そのときはゆっくりお茶にでも誘っていいかな。」
「ええ、喜んで。甘いケーキとおいしい紅茶を楽しみにしています。」
彼にとっては二度と会うことはない人物と思われているのだろう。だから、ここまで大胆な話ができるのだとも思う。しかし、ダンブルドアの駒となったからには、必ずもう一度、会うことになるのだ。
来るべきときまで、約束は大切にとっておこう。
来た時よりも少しだけ背筋の伸びた背中が部屋を後にしていく。
これからハリーは四年生。大切な友人の息子を近くで守れない彼にかわって、多くの友人が手を差し伸べてくれる。それが伝えられないのはもどかしいが、きっとハリーがブラックへの手紙で伝えてくれるだろう。彼の悲しみも少しの辛抱なのだ。私は私で与えられた役目を遂行しなくては。
まだ帰ってこないフィルチを尻目に、掃除用具を片付け始めた。昼食の前にマダム・ピンスに挨拶しにいこう。丁度同じ階にある図書室へ向けてサクラも向かった。
サクラは一人、トロフィー室の盾や表彰カップなどを磨いていた。フィルチはどこへ行ったかというと、禁じられた廊下に影をみたとかで、生徒の罰則に走って行ってしまった。行きがけに、午後からは図書室の仕事があるぞ、とダンブルドアからの伝言を伝えてくれた。やはり、それほど悪い人ではないと思う。
中性洗剤を薄めた液をタオルに浸してトロフィーを磨いていく。煤のはった様子を見ると、床は綺麗だが、やはり細かいところまでは一人で出来ないのだろう。人員が増えたのだから、手の届かなかった部分で少しでも力になりたい、と思うのだった。
昼食休憩まで残りわずかとなったが、まだ多くのトロフィーが残されている。今、磨き上げているものを終えたら一度、図書室へ挨拶をして、それから休憩をいれよう。黄金の輝きを取り戻しつつあるトロフィーを磨き上げる。
そのとき、入り口から足音が聞こえてきた。
フィルチだろうか。ならば、残りは明日に終わらせてもよいか確認をしよう、と振り向く。しかし、そこには小柄なフィルチではなく、すらっと背の高い、しかし、くたびれた服とすこし乱れた鷲色の髪の男が立っていた。手には大きな旅行バックが握られていた。
「こんにちは、お嬢さん。掃除の邪魔をしてしまったかな。」
「こんにちは。そろそろ休憩をと思っていましたから、お気になさらず。ここに御用ですか?」
「ああ、そうなんだ。友人のものを見に来たんだけどいいかな。」
「ええ、どうぞ。…といっても私の部屋でもありませんしご自由にご覧下さい。」
そういうと、男はお礼をいい、場所がわかっているのか迷うことなく目的の場所まで歩いていく。丁度、先ほど磨いていたメダルの前で足を止めた。そして、メダルを見ると感嘆の声を上げた。
「久しぶりに見たけど、昔と変わらないくらい輝いているよ。これは君が?」
話しかけられるとは思わず、トロフィー磨きに専念しようとしていた手を止め、男のほうを見た。
「ええ。せっかくの名誉あるものですから、きれいにしてあげたいな、と思いまして。」
まだ学期終わりでもないのに、この大荷物。くたびれた風貌とくれば察しが付く。しかし、私がこの世界の知識を持っていることを知っているのは校長と魔法薬学教授の二人だけだ。初対面の人物にいきなり名前を呼ばれるのは気味悪く思われるだろう。話のひっかかりになりそうなメダルのほうへ足を進めた。
案の定、彼が見ていたのはジェームズ・ポッターのメダルだった。
「ご友人というのはジェームズ・ポッター・・・?」
「ああ、そうなんだよ。同級生でね。同じグリフィンドールだった。」
「では、先生は母校でお勤めになられたのですね。」
「しかし、それも今日で終わりなんだけどね・・・。最後のお別れに友人へ挨拶しに来たんだ。」
その瞳はさみしそうにゆれていた。
彼の境遇の中で普通の人間と過ごすことのできる日々というのは夢のようであったのだろう。一人の教師として周りには慕ってくれる生徒が多くいたに違いないことは物語のなかでもうかがえたのだ。それを思うと何とも切ない。
「会って間もない私がいうのも失礼だと思いますが、私も魔法が使えたら先生の授業を受けてみたかったです。」
「君、・・・そうか。まだ、名前を聞いてなかったね。僕はリーマス・J・ルーピン。君は?」
ごめん、と謝罪しないのは彼なりの配慮なのだろう。優しい人なのに、世間では彼の性格の前に人狼としての性質をみてしまう。私も物語で読んでいなければ同じように考えてしまっていただろう。しかし、彼の責任でないところで彼の生き方が決められていくと思うと、世の中の不条理を感じてしまう。
そして、彼の正体を周囲にばらまいた、あの不健康な太った蝙蝠にまたふつふつと怒りが湧いてくるのだ。
しかし、そのようなことは現時点で何も知らないことになっているのだ。下手に表情に出してしまえば、察しのいい彼には気付かれてしまうだろう。私は何食わぬ顔で答えた。
「サクラ ヒナタです。今日からフィルチさんの助手といいますか、基本的に掃除・雑務担当でお仕事させていただいています。」
「機会があれば君ともう少しお話してみたかったな。これでお別れとは残念だよ。」
社交辞令といっても甘いはにかんだ笑顔に少し胸が高鳴った。さすがブラックの友人なだけある。女の喜ばせ方を自然と身に着けている。
「この世界にいれば、また、どこかでお会いできるかもしれません。」
「そうだね。そのときはゆっくりお茶にでも誘っていいかな。」
「ええ、喜んで。甘いケーキとおいしい紅茶を楽しみにしています。」
彼にとっては二度と会うことはない人物と思われているのだろう。だから、ここまで大胆な話ができるのだとも思う。しかし、ダンブルドアの駒となったからには、必ずもう一度、会うことになるのだ。
来るべきときまで、約束は大切にとっておこう。
来た時よりも少しだけ背筋の伸びた背中が部屋を後にしていく。
これからハリーは四年生。大切な友人の息子を近くで守れない彼にかわって、多くの友人が手を差し伸べてくれる。それが伝えられないのはもどかしいが、きっとハリーがブラックへの手紙で伝えてくれるだろう。彼の悲しみも少しの辛抱なのだ。私は私で与えられた役目を遂行しなくては。
まだ帰ってこないフィルチを尻目に、掃除用具を片付け始めた。昼食の前にマダム・ピンスに挨拶しにいこう。丁度同じ階にある図書室へ向けてサクラも向かった。