アズカバンの囚人編
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あてがわれたのは、ワンルームとシャワールームのついた部屋だった。シングルベットと引き出し付きの机、小さなクローゼットがある。一人暮らしにはちょうどいい大きさの部屋だ。
サクラは白いシーツに体を横たえた。
夜はとうに暮れ、すべての生物が静止したあの独特な空気が流れている。先ほどまでの緊張の糸が途切れたのか、体は1センチも動かせないほど重く感じた。
はあ、と大きなため息をついた。
あの後、ホグワーツで過ごすためにいくつかの打ち合わせをし、ここまで案内されてきた。指輪については校長室で厳重に保管されることとなった。たとえ身につけて異変がないとしても、その慎重さは必要だろう。
ここでの当面の生活は、今の時期が夏季休暇間際ということもあり、生徒が少なくなる夏季休業時期も使ってフィルチの手伝いや図書室の雑務を覚えることになった。学期の終わりには用務員として学生たちに紹介される。その際、マグルの侵入ができないこの敷地内ではスクイブということで話を通すことにした。
明日からは、職員として働くことになる。
サクラにとって仕事をすることは苦痛というほどでもなかった。現代では普通に働いてきた身からすれば、職をもらって毎日のルーティーンができるほうがありがたい。それよりも、ここまでの道案内での空気がサクラを精神的に疲弊させた。
道案内はもちろん校長自らというわけではなく、スネイプだった。『丁寧』な職場への歓迎の言葉と『耳にタコができる』ほど『親切』な敷地内でのルールをご享受いただいた。
彼の嫌がらせはジェームズ憎さの行動かと思っていたが、本来の性格にも起因しているのではないか。
手首には縄の跡が赤く残っている。これくらいの傷、すぐ治せるはずなのに、処置もしてくれず、部屋に押し込まれた。ここまで散々、魔法やら拘束され精神をすり減らす状況にあった女性に対してする態度だろうか。
「せめて傷薬くらい渡してくれたっていいじゃない。」
明日、医務室で処置してもらうまで辛抱するしかないか。今日の段階ではあきらめて早々に寝てしまおう。掛け布団を引きはがし、ベッドに潜り込もうとすると、枕の上に、まるで魔法のように着替えと薬瓶があらわれた。
このような配慮は、ダンブルドアだろう。
「屋敷しもべ妖精かしら?…お気遣いありがとう。使わせてもらうわ。」
まだ部屋にいるか分からないが、部屋を見渡しながら礼を言った。
* * *
あのあと熟睡し、目が覚めたのはいつもの起床時間だった。どれだけ遅く寝ても、やはり社会人としての癖は抜けきらない。体内時計はここでも正確さを発揮してくれた。
机の上には新たな着替えと靴が用意されていた。顔を洗い、身支度を整える。動きやすいよう、白いシャツとリネンのパンツスタイルで、革のひも付きのブーツはすべてサクラの体に合うサイズで見繕われていた。フィルチの服装を小ぎれいにしたといえばいいだろうか。はたから見れば自分も管理人の一人であることが一目瞭然のため、これはこれでありがたい。
しかし、
「さすがにこの歳ですっぴんは恥ずかしい・・・。」
鏡に映る自分の顔は目の下は青黒いクマで縁取られ、疲労が見て取れる。こんな顔で学校内を歩き回るのは、気が引けた。
もしかしたら・・・、と望みをかけて机の引き出しを開けてみた。すると、簡単なメイク用品と髪留めが用意されていた。ここの屋敷しもべ妖精は女性なのではないか。そう思えるほど、十分な支度を準備してくれていた。
一通り準備が終わり、部屋から出た。このフロアは大広間、奥には職員室とフィルチの部屋、そしてサクラの部屋がある。特別用のない限り生徒が寄り付くことのない場所だ。向かいにあるフィルチの部屋をノックする。
「おはようございます。今日から用務員として参りました。サクラ ヒナタです。」
ノックからほどなくドアが開いた。もう支度をおえたフィルチが顔をのぞかせた。そのくたびれたしわの目立つ服からは、もしかしたら夜もその服装なのかもしれないが、映画のときと同じく、シャツに大きめのパンツスタイルであった。
「今朝、ダンブルドア校長から話があった奴か。」
「はい、朝早くから押しかけて申し訳ありません。」
「この時間なら大体、起きてる。ノリスの飯の用意をして1時間後には仕事を始めてる。お前も1時間後にそこのフロアに集合だ。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
あっけなく挨拶が終わり拍子抜けしてしまった。
小説や映画のなかでは意地悪い人物として描かれているが、この対応をみるに、ぶっきらぼうな言い方であるだけで、対応としてはいたって普通である。読者としてこの世界を見る場合はハリーの印象に左右されやすい。現実世界での人間は、悪い部分だけの人物はいない。この世界でも同じで、小説では人物の一面が取りざたされているに過ぎないのだろう。
一時間のうちに大広間で食事をし、図書室でマダムピンスに挨拶をしよう。簡単な計画を立て、大広間へと向かった。
生徒が来るにはまだ早い時間らしく、広間の前では職員がまばらに食事をとっていた。その中に、スネイプとマクゴナガルの姿があった。スネイプはサクラを目の端にとらえるとじっとりとねめつめるような視線を送った。できるならば離れた場所、それも入り口近くの隅で食事をしたいところだが、職員用のテーブルを使うよう昨夜、『親切』な助言があったのだ。昨日の今日で忘れたのだと思われるのは、確実にスネイプの馬鹿にした笑みに遭遇することになる。
サクラは何食わぬ顔でスネイプの隣に腰を下ろした。
「おはようございます。スネイプ先生。」
「ああ、おはよう。ミスヒナタ。」
スネイプもゆがんだ顔を一瞬で元に戻し、何食わぬ顔でカップに口をつけた。スネイプの向こう隣りにいるマクゴナガルがこちらに顔をむけた。
「あなたがミスヒナタですね。」
「はじめまして、サクラ ヒナタです。今日から用務員としてお世話になります。」
よろしくお願いします、と頭を下げると、マクゴナガルの優し気な笑みが浮かんだ。丁度机に現れた朝食に手を伸ばす。食事を摂りながら、スネイプを隔てて、マクゴナガルは生徒の一日のスケジュール、どこの教授がどんな仕事をしているか簡単に説明を聞かせてくれた。名前を聞けば顔を何となく思い出せるため、説明も頭に入りやすかった。
「学校内は危険な場所や迷いやすい場所もあります。フィルチやわたくしたちに尋ねてくださいね。」
「ありがとうございます。昨日はスネイプ先生にここでの決まりや学校内のことを教えていただいたのですが、まだ完全に覚えきれていなかったので、心強いです。」
「まあ!そうでしたか!」
マクゴナガルの表情がぱっと明るくなった。
「若い人同士、親睦を深めることも必要ですね。」
その言葉にサクラは苦笑いをすることでごまかした。しかし、スネイプにいたっては露骨に嫌そうな顔をしている。こちらも親睦を深めるつもりもないが、あからさまな態度は気分が悪い。
「吾輩は若者というほど、この者ほど若くはありませんぞ。」
「わたくしからすれば、どちらもまだまだ若いですわ。」
「未成年と同じにされては困る。」
サクラが口に運びかけていたベーコンが滑り落ち、皿の上に戻った。
「スネイプ先生、私のことをいくつとお思いなのです?」
「18か19だろう。」
「私、数年前に大学卒業して、働いていたのですが。」
その言葉に今度はスネイプだけでなく、マクゴナガルも持っていたフォークを取り落とした。アジア人は若く見られるとよく聞くが10歳ほど若く見られるとはこちらも衝撃的だ。
「アジアの女性は若々しくて素敵よ。ねえ、セブルス。」
「吾輩にそのような話を振られても返答しかねますな。」
切り替えのはやいスネイプは一服の紅茶を飲み始めた。
「ひとつ言えるのは活動的な服装が余計子供っぽい体型を助長しているのでは。」
「・・・なんですって?」
つまり、私の体型が子供っぽいと言いたいと?
固く握ったこぶしでテーブルをたたきそうになるのを理性で抑える。勤務初日で印象を悪くしてはいけない。職場に一人はいる嫌味な上司と思えば、致し方ない。そう言い聞かせた。
スネイプはすました顔で紅茶を飲み干すと席を立った。
「では、吾輩は授業準備があるのでお先に。」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、大きな蝙蝠のような黒のマントを翻していった。残されたマクゴナガルはサクラの額に浮かぶ青筋に気づかぬふりをして、なだめるべくデザートをサクラの皿の上に用意した。
「仕事初日が肝心ですよ。朝はよく食べて力をつけて、初仕事励んできなさい。」
サクラは、きれいに用意されたデザートの皿にお礼を言いながら、勢いよくタルトをほおばった。
サクラは白いシーツに体を横たえた。
夜はとうに暮れ、すべての生物が静止したあの独特な空気が流れている。先ほどまでの緊張の糸が途切れたのか、体は1センチも動かせないほど重く感じた。
はあ、と大きなため息をついた。
あの後、ホグワーツで過ごすためにいくつかの打ち合わせをし、ここまで案内されてきた。指輪については校長室で厳重に保管されることとなった。たとえ身につけて異変がないとしても、その慎重さは必要だろう。
ここでの当面の生活は、今の時期が夏季休暇間際ということもあり、生徒が少なくなる夏季休業時期も使ってフィルチの手伝いや図書室の雑務を覚えることになった。学期の終わりには用務員として学生たちに紹介される。その際、マグルの侵入ができないこの敷地内ではスクイブということで話を通すことにした。
明日からは、職員として働くことになる。
サクラにとって仕事をすることは苦痛というほどでもなかった。現代では普通に働いてきた身からすれば、職をもらって毎日のルーティーンができるほうがありがたい。それよりも、ここまでの道案内での空気がサクラを精神的に疲弊させた。
道案内はもちろん校長自らというわけではなく、スネイプだった。『丁寧』な職場への歓迎の言葉と『耳にタコができる』ほど『親切』な敷地内でのルールをご享受いただいた。
彼の嫌がらせはジェームズ憎さの行動かと思っていたが、本来の性格にも起因しているのではないか。
手首には縄の跡が赤く残っている。これくらいの傷、すぐ治せるはずなのに、処置もしてくれず、部屋に押し込まれた。ここまで散々、魔法やら拘束され精神をすり減らす状況にあった女性に対してする態度だろうか。
「せめて傷薬くらい渡してくれたっていいじゃない。」
明日、医務室で処置してもらうまで辛抱するしかないか。今日の段階ではあきらめて早々に寝てしまおう。掛け布団を引きはがし、ベッドに潜り込もうとすると、枕の上に、まるで魔法のように着替えと薬瓶があらわれた。
このような配慮は、ダンブルドアだろう。
「屋敷しもべ妖精かしら?…お気遣いありがとう。使わせてもらうわ。」
まだ部屋にいるか分からないが、部屋を見渡しながら礼を言った。
* * *
あのあと熟睡し、目が覚めたのはいつもの起床時間だった。どれだけ遅く寝ても、やはり社会人としての癖は抜けきらない。体内時計はここでも正確さを発揮してくれた。
机の上には新たな着替えと靴が用意されていた。顔を洗い、身支度を整える。動きやすいよう、白いシャツとリネンのパンツスタイルで、革のひも付きのブーツはすべてサクラの体に合うサイズで見繕われていた。フィルチの服装を小ぎれいにしたといえばいいだろうか。はたから見れば自分も管理人の一人であることが一目瞭然のため、これはこれでありがたい。
しかし、
「さすがにこの歳ですっぴんは恥ずかしい・・・。」
鏡に映る自分の顔は目の下は青黒いクマで縁取られ、疲労が見て取れる。こんな顔で学校内を歩き回るのは、気が引けた。
もしかしたら・・・、と望みをかけて机の引き出しを開けてみた。すると、簡単なメイク用品と髪留めが用意されていた。ここの屋敷しもべ妖精は女性なのではないか。そう思えるほど、十分な支度を準備してくれていた。
一通り準備が終わり、部屋から出た。このフロアは大広間、奥には職員室とフィルチの部屋、そしてサクラの部屋がある。特別用のない限り生徒が寄り付くことのない場所だ。向かいにあるフィルチの部屋をノックする。
「おはようございます。今日から用務員として参りました。サクラ ヒナタです。」
ノックからほどなくドアが開いた。もう支度をおえたフィルチが顔をのぞかせた。そのくたびれたしわの目立つ服からは、もしかしたら夜もその服装なのかもしれないが、映画のときと同じく、シャツに大きめのパンツスタイルであった。
「今朝、ダンブルドア校長から話があった奴か。」
「はい、朝早くから押しかけて申し訳ありません。」
「この時間なら大体、起きてる。ノリスの飯の用意をして1時間後には仕事を始めてる。お前も1時間後にそこのフロアに集合だ。」
「はい。よろしくお願いいたします。」
あっけなく挨拶が終わり拍子抜けしてしまった。
小説や映画のなかでは意地悪い人物として描かれているが、この対応をみるに、ぶっきらぼうな言い方であるだけで、対応としてはいたって普通である。読者としてこの世界を見る場合はハリーの印象に左右されやすい。現実世界での人間は、悪い部分だけの人物はいない。この世界でも同じで、小説では人物の一面が取りざたされているに過ぎないのだろう。
一時間のうちに大広間で食事をし、図書室でマダムピンスに挨拶をしよう。簡単な計画を立て、大広間へと向かった。
生徒が来るにはまだ早い時間らしく、広間の前では職員がまばらに食事をとっていた。その中に、スネイプとマクゴナガルの姿があった。スネイプはサクラを目の端にとらえるとじっとりとねめつめるような視線を送った。できるならば離れた場所、それも入り口近くの隅で食事をしたいところだが、職員用のテーブルを使うよう昨夜、『親切』な助言があったのだ。昨日の今日で忘れたのだと思われるのは、確実にスネイプの馬鹿にした笑みに遭遇することになる。
サクラは何食わぬ顔でスネイプの隣に腰を下ろした。
「おはようございます。スネイプ先生。」
「ああ、おはよう。ミスヒナタ。」
スネイプもゆがんだ顔を一瞬で元に戻し、何食わぬ顔でカップに口をつけた。スネイプの向こう隣りにいるマクゴナガルがこちらに顔をむけた。
「あなたがミスヒナタですね。」
「はじめまして、サクラ ヒナタです。今日から用務員としてお世話になります。」
よろしくお願いします、と頭を下げると、マクゴナガルの優し気な笑みが浮かんだ。丁度机に現れた朝食に手を伸ばす。食事を摂りながら、スネイプを隔てて、マクゴナガルは生徒の一日のスケジュール、どこの教授がどんな仕事をしているか簡単に説明を聞かせてくれた。名前を聞けば顔を何となく思い出せるため、説明も頭に入りやすかった。
「学校内は危険な場所や迷いやすい場所もあります。フィルチやわたくしたちに尋ねてくださいね。」
「ありがとうございます。昨日はスネイプ先生にここでの決まりや学校内のことを教えていただいたのですが、まだ完全に覚えきれていなかったので、心強いです。」
「まあ!そうでしたか!」
マクゴナガルの表情がぱっと明るくなった。
「若い人同士、親睦を深めることも必要ですね。」
その言葉にサクラは苦笑いをすることでごまかした。しかし、スネイプにいたっては露骨に嫌そうな顔をしている。こちらも親睦を深めるつもりもないが、あからさまな態度は気分が悪い。
「吾輩は若者というほど、この者ほど若くはありませんぞ。」
「わたくしからすれば、どちらもまだまだ若いですわ。」
「未成年と同じにされては困る。」
サクラが口に運びかけていたベーコンが滑り落ち、皿の上に戻った。
「スネイプ先生、私のことをいくつとお思いなのです?」
「18か19だろう。」
「私、数年前に大学卒業して、働いていたのですが。」
その言葉に今度はスネイプだけでなく、マクゴナガルも持っていたフォークを取り落とした。アジア人は若く見られるとよく聞くが10歳ほど若く見られるとはこちらも衝撃的だ。
「アジアの女性は若々しくて素敵よ。ねえ、セブルス。」
「吾輩にそのような話を振られても返答しかねますな。」
切り替えのはやいスネイプは一服の紅茶を飲み始めた。
「ひとつ言えるのは活動的な服装が余計子供っぽい体型を助長しているのでは。」
「・・・なんですって?」
つまり、私の体型が子供っぽいと言いたいと?
固く握ったこぶしでテーブルをたたきそうになるのを理性で抑える。勤務初日で印象を悪くしてはいけない。職場に一人はいる嫌味な上司と思えば、致し方ない。そう言い聞かせた。
スネイプはすました顔で紅茶を飲み干すと席を立った。
「では、吾輩は授業準備があるのでお先に。」
勝ち誇ったような笑みを浮かべて、大きな蝙蝠のような黒のマントを翻していった。残されたマクゴナガルはサクラの額に浮かぶ青筋に気づかぬふりをして、なだめるべくデザートをサクラの皿の上に用意した。
「仕事初日が肝心ですよ。朝はよく食べて力をつけて、初仕事励んできなさい。」
サクラは、きれいに用意されたデザートの皿にお礼を言いながら、勢いよくタルトをほおばった。