アズカバンの囚人編
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手首に衝撃が走った。
それと同時に手首の圧迫感がなくなる。
おそるおそる見ると、今まで手首を縛っていた縄が切られていた。
「校長・・・これは」
スネイプは片眉を吊り上げ、不満そうな表情で抗議の声をあげた。
「この者をどうするおつもりで?まさかこのまま帰すなどということはないでしょうな。」
「もちろん、このままマグルの世界へ帰すことは難しいの。」
「では…!」
スネイプがダンブルドアに一歩つめよった。
「ミスヒナタ、お主も承知の通り、魔法界には危険が迫っておる。このまま放り出すのはそれを加速させるやもしれん。」
「つまり…私が闇の陣営の手に落ちる可能性を言っておられるのですか?」
「その指輪があちら側に渡ったとき、この世界だけでなく、そなたの世界にも影響が及ぶ可能性もある。そうなる前にホグワーツでそなたを保護したいのじゃが、どうかの?」
ダンブルドアはさも選択肢があるように言う。しかし、この状況で私には多くの道は残されていないのだ。この指輪がヴォルデモートのものであってもそうでなくても、これを持つ私には興味なく、虫けら同然に殺され、指輪は奪われるだろう。この時期に、この指輪にかかわる話は本の中ではされていない。シナリオが変われば結末が変わってしまうことだって十分にあり得る。そして、この指輪によって私の世界へと道がつながってしまったら。
それも最悪の方向に進んでしまう可能性が高まるだけだ。
「しかし、この指輪をこちらで保護していただければ、それで十分ではありませんか?」
ただ、その危険性は私が指輪を所持したまま、ホグワーツを出るときを想定したものだ。守りの盤石なここで厳重に保護をしておけば、しかるべきときにダンブルドアによって消滅させてしまえばいい。
「もうひとつ、そなた自身の価値をヴォルデモートが見出したとしたら。」
「…未来の知識のことでしょうか。」
「いかにも。」
最終巻までの知識がどこかで漏れてしまえば、私という存在そのものが未来を左右することもある。それは、これからのダンブルドアの計画に大きな狂いを出すものになるだろう。
「しかし、私に忘却呪文をおかけになって外の世界に放っておけばよいでしょう。私はただのマグル。お二人がお考えのような特殊な力は持っていませんよ。」
「お望みとあらば今すぐにでも街に放りだしてやろう。」
スネイプはそう言って杖をこちらに向けた。しかし、向けるだけで一向に呪文は発せられない。スネイプにとって、闇の魔術に対抗しうる可能性として見られているのだろうが、やはり目の中で燃える闘争心は隠し切れないようだ。
目の前の二人は闇の魔術に影響されないという部分に大きな力を見出しているようだが、だからといってマグルがこれからの物語において、手出しできるような範囲があるとは思えない。
「・・・ダンブルドア校長は私の知識に価値を見出しておいでで?」
ヴォルデモートにとって価値があるのならば、同じくここでも価値ある知識だろう。しかし、ダンブルドアはそうであるとも否ともとれる曖昧な表情をした。
「未来は移りゆくものじゃよ。たとえその行く末を知るものがあろうと、あくまで可能性のひとつにすぎぬ。」
「その可能性を知るべきではないと思いますが・・・。」
「だが、一筋の希望にすがりたいと思う者もある。」
「・・・ハリーのことですか?私にもスネイプ教授と同じく彼を守る盾になれと?」
私の知識は今後、危険の中に身を置くハリーにとって、彼を守るものになるに違いない。しかし、その道を自ら選択し、最終決戦にたどり着いたからこそ、彼はヴォルデモートに勝利し、成長を遂げることができたのだ。
「ヴォルデモートに打ち勝つには、ハリー自身が困難に立ち向かうことが必要じゃ。しかし、まだ10代の少年一人に世界の運命を委ねるは、ちと荷が重い。未来を告げろとは言わぬ。ただ未来を知るお主の力でハリーだけでは救えぬものが救えるやもしれぬ。」
「そこに私のメリットはなにがあるのです?記憶を失ってマグルの生活をするほうがはるかに安全です。」
私は世界を救いにきた勇者でも、ヒーローでもない。偶然という悪運によってこの世界に飛ばされてきた、ただの会社員だ。自分を犠牲にしてまで救う義理もないし、結末を知る身としてはわざわざ自分が介入することはないとも思う。
「ダンブルドア!このような輩に期待しても無駄です。利益があればあちらの陣営に行くことも考えられますぞ!」
「私は自己犠牲の精神で戦うほど善人でもないし、ただのマグルにそんな高尚な人格を期待するほうがどうかしてるわ!」
卑しい人間だ、と言われているようで腹が立った。私がダンブルドアの話に全て賛同すると思っているか。最終巻まで読んでわかってはいたが、ある意味ひとを駒のように考えるからこそ出てくるお願いだろう。そして、その願いに対価を支払うのは、スネイプもリリーの件で知っているだろう。最終的にリリーは助からなかったが、やっていることはあの時と同じではないか。
「そなたの怒りはもっともじゃ。慣れない土地で会ったばかりの者の願いをたやすく聞くは善人か思慮の浅いものだけじゃよ。」
「ミスヒナタ、君が元の世界に戻るために儂は力を尽くそう。そしてホグワーツにいる限り、身の安全を保障しよう。」
「戻り方がわかるのですか?」
ダンブルドアの言葉にひとつの希望が生まれた。
「すぐにというわけではない。前例がないことであるからホグワーツにある多くの知識と、微力ながら儂も伝手を当ってみることもできる。一人で探すよりは有効な手であると思うがの。」
確かに、この歴史ある学校と、絶大な力を持つ魔法使いの手を借りれば、日常へと舞い戻る可能性は一人の時よりも高まる。
しかし、ひとつ問題がある。ここはハリーが6年生の頃には闇の陣営の手が迫ってくる。魔法の使えないマグルが生きながらえるのは難しい。それまでに帰る術を見つける必要がある。
「ハリーは現在何年生です?」
「それは返答するに必要なことなのかの?」
ダンブルドアの言葉にうなづく。
「ハリーは3年生を終える頃じゃよ。知っているとは思うが、今は医務室じゃよ。」
であるならば、あと2年。
日常を取り戻すために、非日常へ身を投げる覚悟をしよう。
「では、そのお話お受けいたします。」
打算といわれようと、力ない自身を守るための唯一の道だ。
2年間、未来の知識をもとにハリーとその周辺の人物の助けとなろう。マグルの力でできる数少ない一手を。