炎のゴブレット編
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ダンスパーティの終わったホグワーツには再び静寂がやってきていた。残っていた生徒達はしばしの休暇を自宅で過ごすため帰省し、残った者たちもゆったりと時間を過ごしていた。サクラも例に漏れず、寒さの厳しいホグワーツで平穏な日々を送っていた。いつもより少ない仕事が終われば、生徒の少ない図書室で目にとまった本を読み、最終課題の日に役立てるものを探していた。これまで魔法薬学や呪文にこだわっていた分野を動物の生態、兵法、武術などに広げて、今後のヒントになりそうなものがないか手当たり次第に読みあさっていた。
表向き休暇ということになっているクラウチ氏の行方は分からないまま、ムーディに特別な動きもないまま時間が過ぎている。二人が協力関係であったならば、別行動している可能性があるし、クラウチが裏切ったのであればその身が危険であるだろう。どちらにしてもクラウチの安否を確認できなければ何の確証もない推理である。サクラは図書館の配架業務を終えると、そのまま夕食のために大広間へと向かった。
大広間には既に生徒がまばらに食事をし、職員用のテーブルも同じく僅かな者が席に着いているばかりだ。まだ時間が早いこともあり、職員も遅いようだ。しかし、珍しいことにスネイプが席に着いている。夏休み期間や通常では朝顔を合わせることは多くても、夕食はかぶらないことの方が多い。ましてやこんな『健康的』な時間に食事とは。内心疑問府を浮かべていても、それを表に出すことはせず、サクラはいつものように定位置であるスネイプの隣へ座った。サクラの隣で、いつもの澄ました顔でナイフとフォークを動かしている。…あんな学生のような、スネイプらしからぬ言動とは反対に、このような場ではいつも通りでいるらしい。帰省中のため、職員もほとんどいない。マクゴナガルもまだ戻ってきていないようで、いつもの席の近くにはスネイプの他に座る者はいなかった。
「ずいぶんとゆったり過ごせているようで。」
自身の更に料理を盛り付けながら、隣の男に話しかける。ちらり、とこちらを見てスネイプが片方の口端をあげた。
「そちらも随分『ゆったり読書を楽しんでいるようで』結構ですな。」
『あの夜』以来、スネイプの元へ通うことをやめていた。その代わりに図書館での調べ物にいそしんでいたことを指しているのだろう。
「禁書の棚も見せて頂けることになりましたので、趣味に時間が使えて嬉しい限りですわ。」
サクラも愛想笑いで返す。一晩共にしたからと束縛するつもりはない。『何も無かった』かのように返せば、スネイプの口端が下がった。
「それは…よかった。」
苦虫をかみつぶしたような顔で返答される。……この男は、あの夜を無かったことにはしたくないのか?愛する者を失った者同士、傷をなめ合いたいとでも?このような場所で聞くことも憚られ、口にする代わりにミートパイを頬張った。ソースの味の濃さに集中すれば、さっきわいた馬鹿な考えはなりを潜める。早々に食事を切り上げてしまおう、と隣で優雅に夕食を楽しむ男を尻目に食べるスピードを速める。
「随分と急いでおられますな。」
「ええ。」
素っ気なく返すと、スネイプに右手を取られた。
「我が輩のおすすめをお渡ししよう。」
有無を言わさず視線を合わせられる。…なにをいらだっているのか、スネイプの眉間の皺が更に濃くなっているように感じる。
「今夜、我が輩の…」
そこまで言ったところで、頭上からフクロウたちの鳴き声が響いた。見上げれば、配達する手紙や小包を机の上に落としていく。多くは生徒達宛てだが、ちらほら教職員のほうへも手紙がやってきていた。そのうちの一通が##さくら##とスネイプの目の前に、はらりと落ちていった。
瞬時にスネイプがサクラから手を離して手紙を拾った。そして、宛名をみると、サクラへ寄越した。
宛名の他、差出人のない手紙だ。この世界でサクラに手紙を出す人間は多くない。警戒の色でスネイプの方を見ると、小さく頷いた。危険なものは確認できないようだ。ならば、その場で開封する。
手紙には短く、『珍しい花のお茶をまた頂きたい』とだけ書かれていた。ここにも差出人は書かれていない。…だが、そのお茶を出した人物はホグワーツで一人だけだ。隣で見ているスネイプは何の事か分からないようだったが、##さくら##には確信がある。顔を突き合わせているスネイプに小声で伝えた。
「今すぐあなたの部屋へ。」
ムーディの姿が見えない今がチャンスだ。原作には無かった流れを無駄になどするものか。サクラの真剣な表情でスネイプは事態を悟った。二人ですぐさま大広間を後にした。
ムーディの影が無い事を確認しながらスネイプの部屋へたどり着く。扉を閉めるとほっと安堵の息が出た。
「それで、相手は?」
先ほどとは打ってかわり、スネイプは冷静ながらも短く問いかけた。
「クラウチ氏です。ここに記してあるお茶を知っているのはダンブルドア、バグマン、クラウチ、そして私だけです。……なにか魔法で文章が隠してありませんか?」
「いや、ない。痕跡を辿られるのがまずい場所にいるのかもしれん。」
クラウチは闇側と袂を分かつことにしたのだろうか。……それも憶測でしかないが、Jr.をアズカバンから脱獄させ、その息子が自由に動き回っている。ならば、ひいてはウォルデモートにも荷担していると思っていた。どちらにしても、追っ手を撒いてでも、サクラに連絡してきたことには意味がある。
「…私を介してダンブルドアに助けを求めているのでは?」
「その可能性もあるが、罠の可能性もある。お前は一度襲われているだろう。」
三本の箒でのことが思い出される。下世話な男の言葉と荒い息。今も首筋で感じるようで、忘れるように乱暴に擦った。
「思い出したくもない。ですが、これが本当に助けを求めているなら、クラウチ氏の身柄は確保しておいた方が良いですよ。証人は多い方が良い。」
息子の悪事はディメンターのキスで不可能になってしまうのだ。ならば父親、しかも魔法省での権力を有していた男からの言葉があれば。世間の声は一気にハリーやダンブルドアに味方するだろう。無用な裁判や校長職を辞する必要もない。しかし、スネイプはこの話に乗り気ではないようだ。渋い顔のまま、沈黙している。
「……シリウス ブラックの屋敷へ彼を匿いましょう。かならず彼が必要になります。」
「だが、罠の可能性も捨て切れまい。」
「だから、ダンブルドアはあなたと私を組ませたのでしょう?魔法はそちらにお任せしますよ。」
そういうと、スネイプは面食らったような表情をみせた。
サクラから初めて協力を申し出たのだ。これが驚かずにはいられまい。散々、一人で抱え込んでいたのが吹っ切れたように……あの青年を救うために。
サクラは逡巡すると、部屋にある暖炉に目を留めた。
「この暖炉、校長室とシリウス邸に繋げられますか?目撃者は少なくしたいので。」
それに是と応えると、魔法で三つの暖炉を繋げる。学校外のため、あまり長くは持たない。燃えさかる炎が緑に変わる。サクラは真剣な表情で暖炉の炎を見つめる。この賭けがどちらに転ぶか、それはここにいる誰にも分からなかった。
表向き休暇ということになっているクラウチ氏の行方は分からないまま、ムーディに特別な動きもないまま時間が過ぎている。二人が協力関係であったならば、別行動している可能性があるし、クラウチが裏切ったのであればその身が危険であるだろう。どちらにしてもクラウチの安否を確認できなければ何の確証もない推理である。サクラは図書館の配架業務を終えると、そのまま夕食のために大広間へと向かった。
大広間には既に生徒がまばらに食事をし、職員用のテーブルも同じく僅かな者が席に着いているばかりだ。まだ時間が早いこともあり、職員も遅いようだ。しかし、珍しいことにスネイプが席に着いている。夏休み期間や通常では朝顔を合わせることは多くても、夕食はかぶらないことの方が多い。ましてやこんな『健康的』な時間に食事とは。内心疑問府を浮かべていても、それを表に出すことはせず、サクラはいつものように定位置であるスネイプの隣へ座った。サクラの隣で、いつもの澄ました顔でナイフとフォークを動かしている。…あんな学生のような、スネイプらしからぬ言動とは反対に、このような場ではいつも通りでいるらしい。帰省中のため、職員もほとんどいない。マクゴナガルもまだ戻ってきていないようで、いつもの席の近くにはスネイプの他に座る者はいなかった。
「ずいぶんとゆったり過ごせているようで。」
自身の更に料理を盛り付けながら、隣の男に話しかける。ちらり、とこちらを見てスネイプが片方の口端をあげた。
「そちらも随分『ゆったり読書を楽しんでいるようで』結構ですな。」
『あの夜』以来、スネイプの元へ通うことをやめていた。その代わりに図書館での調べ物にいそしんでいたことを指しているのだろう。
「禁書の棚も見せて頂けることになりましたので、趣味に時間が使えて嬉しい限りですわ。」
サクラも愛想笑いで返す。一晩共にしたからと束縛するつもりはない。『何も無かった』かのように返せば、スネイプの口端が下がった。
「それは…よかった。」
苦虫をかみつぶしたような顔で返答される。……この男は、あの夜を無かったことにはしたくないのか?愛する者を失った者同士、傷をなめ合いたいとでも?このような場所で聞くことも憚られ、口にする代わりにミートパイを頬張った。ソースの味の濃さに集中すれば、さっきわいた馬鹿な考えはなりを潜める。早々に食事を切り上げてしまおう、と隣で優雅に夕食を楽しむ男を尻目に食べるスピードを速める。
「随分と急いでおられますな。」
「ええ。」
素っ気なく返すと、スネイプに右手を取られた。
「我が輩のおすすめをお渡ししよう。」
有無を言わさず視線を合わせられる。…なにをいらだっているのか、スネイプの眉間の皺が更に濃くなっているように感じる。
「今夜、我が輩の…」
そこまで言ったところで、頭上からフクロウたちの鳴き声が響いた。見上げれば、配達する手紙や小包を机の上に落としていく。多くは生徒達宛てだが、ちらほら教職員のほうへも手紙がやってきていた。そのうちの一通が##さくら##とスネイプの目の前に、はらりと落ちていった。
瞬時にスネイプがサクラから手を離して手紙を拾った。そして、宛名をみると、サクラへ寄越した。
宛名の他、差出人のない手紙だ。この世界でサクラに手紙を出す人間は多くない。警戒の色でスネイプの方を見ると、小さく頷いた。危険なものは確認できないようだ。ならば、その場で開封する。
手紙には短く、『珍しい花のお茶をまた頂きたい』とだけ書かれていた。ここにも差出人は書かれていない。…だが、そのお茶を出した人物はホグワーツで一人だけだ。隣で見ているスネイプは何の事か分からないようだったが、##さくら##には確信がある。顔を突き合わせているスネイプに小声で伝えた。
「今すぐあなたの部屋へ。」
ムーディの姿が見えない今がチャンスだ。原作には無かった流れを無駄になどするものか。サクラの真剣な表情でスネイプは事態を悟った。二人ですぐさま大広間を後にした。
ムーディの影が無い事を確認しながらスネイプの部屋へたどり着く。扉を閉めるとほっと安堵の息が出た。
「それで、相手は?」
先ほどとは打ってかわり、スネイプは冷静ながらも短く問いかけた。
「クラウチ氏です。ここに記してあるお茶を知っているのはダンブルドア、バグマン、クラウチ、そして私だけです。……なにか魔法で文章が隠してありませんか?」
「いや、ない。痕跡を辿られるのがまずい場所にいるのかもしれん。」
クラウチは闇側と袂を分かつことにしたのだろうか。……それも憶測でしかないが、Jr.をアズカバンから脱獄させ、その息子が自由に動き回っている。ならば、ひいてはウォルデモートにも荷担していると思っていた。どちらにしても、追っ手を撒いてでも、サクラに連絡してきたことには意味がある。
「…私を介してダンブルドアに助けを求めているのでは?」
「その可能性もあるが、罠の可能性もある。お前は一度襲われているだろう。」
三本の箒でのことが思い出される。下世話な男の言葉と荒い息。今も首筋で感じるようで、忘れるように乱暴に擦った。
「思い出したくもない。ですが、これが本当に助けを求めているなら、クラウチ氏の身柄は確保しておいた方が良いですよ。証人は多い方が良い。」
息子の悪事はディメンターのキスで不可能になってしまうのだ。ならば父親、しかも魔法省での権力を有していた男からの言葉があれば。世間の声は一気にハリーやダンブルドアに味方するだろう。無用な裁判や校長職を辞する必要もない。しかし、スネイプはこの話に乗り気ではないようだ。渋い顔のまま、沈黙している。
「……シリウス ブラックの屋敷へ彼を匿いましょう。かならず彼が必要になります。」
「だが、罠の可能性も捨て切れまい。」
「だから、ダンブルドアはあなたと私を組ませたのでしょう?魔法はそちらにお任せしますよ。」
そういうと、スネイプは面食らったような表情をみせた。
サクラから初めて協力を申し出たのだ。これが驚かずにはいられまい。散々、一人で抱え込んでいたのが吹っ切れたように……あの青年を救うために。
サクラは逡巡すると、部屋にある暖炉に目を留めた。
「この暖炉、校長室とシリウス邸に繋げられますか?目撃者は少なくしたいので。」
それに是と応えると、魔法で三つの暖炉を繋げる。学校外のため、あまり長くは持たない。燃えさかる炎が緑に変わる。サクラは真剣な表情で暖炉の炎を見つめる。この賭けがどちらに転ぶか、それはここにいる誰にも分からなかった。
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