炎のゴブレット編
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クリスマスが終われば、家に帰る者も出てくるため、校内は静かな日々へと戻っていった。初めてここへ来てから、数ヶ月。夏休みの期間であった。あの頃と同じように職員と僅かな生徒たちのみの大広間で食事をとる。あの夜以来、片付けや生徒の帰省で慌ただしく、スネイプとはほとんど会うことがなかった。会ったとしても大勢の生徒の集団に紛れてすれ違うくらいだ。しかし、こうして落ち着いた生活になってくると食事の席では必ず顔を合わせることになってしまう。セドリックと顔を合わせなくて良いことに安堵していたが、スネイプと顔を合わせるのも何だか気まずい。
今日まであちらから話しかけてくる様子もなく過ごしていたが、今、教職員用の席で隣り合って座って朝食を取っている。非常に気まずい。口に運んでいるソーセージの味さえ感じられず、ただ黙々と食事を進めるしかない。隣をちらりと窺うと、スネイプもまた黙々と食事を進めている。普段と変わらない様が反対に気になってしまうが、それをこちらから指摘するのも、まるで自分が気になって仕方が無いと暗に示しているようで面白くない。サクラとしても男女の関係に耐性がないわけでもなく、人並みの経験はしているつもりだ。だからといって知人と流れで一夜を共にしてしまうことは未経験だ。頭の中はぐるぐると混乱しているが、表情には出さないようにするのがせいぜいだった。
「サクラ、休暇は何か予定はあるのですか?」
「……え、あ」
スネイプとは反対隣にいるマクゴナガルが声をかけた。しかし、他のことに気を取られていたサクラは対応が遅れた。
「どうしました?ぼーっとしているなんてあなたらしくありませんね。」
「…行事ごとが終わって気が抜けているのかもしれませんね。私は特に予定は入れていませんが、マクゴナガル先生の方はご予定は?」
「私は故郷へ少し顔を出したら、あとはこちらで過ごすつもりですよ。セブルス、あなたも冬期休暇はここで過ごすのですよね。」
「……そのつもりですが。」
突然話を振られたスネイプは片方の眉を上げてマクゴナガルの方をみた。サクラもいぶかしげにマクゴナガルの方をみた。
「セブルスは休暇も仕事を詰め込みますから。サクラと息抜きにお茶にでも行ってくるといいですよ。三本の箒の近くに新しいカフェが出来たそうですから、是非私に感想を教えてください。」
マクゴナガルは本気で良いことを言ったというように良い笑顔をこちらに向けている。身寄りの無いサクラにとって、マクゴナガルが学校で一番年の近いスネイプを引き合いに出して気を遣っているのだろうと感じられる。ただ、今はその親切がとてもいたたまれない気持ちにさせるのだ。マクゴナガルの手前、気まずいので行きませんとは言い出しにくい。「なぜ我が輩がこの者と。」と、一番に断る可能性のあるスネイプをちらり、と窺い見た。ばちり、と視線が交わる。その目尻が下がったように見えた。
「そうですな。たまには外出も悪くない。」
思いも寄らない言葉にサクラだけでなくマクゴナガルも目を丸くした。
数日後、件のカフェにやってきた二人は、向かい合ってティーカップを口にしているところであった。なぜこうなってしまったのか。当日まで困惑していたサクラであったが、クローゼットの中でも落ち着いた女性らしいデザインのニットワンピースを手にして、マットなボルドーの鮮やかなリップと、それに合わせたゴールドを差し色したメイクで用意をととのえていた。いわゆるデートとしての体裁を整えてしまった形である。普段よりも華やかなメイクに嫌みのひとつでも言われやしないか、と戦々恐々としていたが、当のスネイプは気付いた風でも待ち合わせに現れたのだった。代わり映えのしない黒いローブとネイビーの詰め襟のジャケットに身を包んでいる。待ち合わせでは、リーマスのようにエスコートするわけでもなく、一瞥すると、「いくぞ。」とすたすた店内へと入っていってしまった。
マクゴナガル推薦の店は、ソファー席のみのゆったりとした空間のカフェであった。重厚感のあるテーブルや調度品と、アンティークらしい食器類が調和していた。簡単なアフタヌーンティーのメニューを注文し、用意されたところでスネイプが杖を一振りした。
「クラウチ氏が行方不明だ。どこにいる?」
開口一番、そんな話題をだされて、がくりと肩を落とした。少しでもデートらしく装ってきた自分が……意識していた事が、ばからしく思えてくる。湯気の立つ琥珀色の紅茶を口に含んだ。華やかな香りが口いっぱいに広がった。そのおいしさで気持ちを落ち着けると、スネイプの方を見据えた。
「私が知っていると?あいにくですが、彼の所在は分かりません。ただ、『まだ』生きています。前にも言いましたが私が知っているのはハリーに関することです。今、クラウチ氏がどこで身を潜めているかは知らないんです。……さっきの、防音の呪文か何かですよね?」
一応確認を取ると、スネイプは静かに頷いた。
「ですが、彼は必ずホグワーツに現れます。そのときは生きて証言させなくてはなりません。リーマスさんとシリウスさんが探してくれているでしょうが、校内に…特に禁じられた森で秘密裏に配置しておいた方がいいかもしれません。」
「何を証言させるのだ?闇に寝返ったとでも言わせるつもりか?そんな事を易々と証言するわけがない。第一、なぜ身を隠す?普段通りにしていればホグワーツに自由に出入りできるものを。」
「私も全ての展開を覚えているわけではないのですが……」
あの膨大なページを全て覚えるなど至難の業だ。せいぜい大きな事件やそのときの人物たちの動きは把握しているが、クラウチ氏はそれほど注目していた人物ではなかったため記憶が曖昧な部分もあるのだ。今更ながら、もっと読み込んでおけば良かったと悔やまれる。そうすれば、セドリック救出の糸口が見いだせるのかも知れないのに……。サクラの表情が暗くなったことに気付きながらも、スネイプはお茶を口にして、それを眺めるだけだ。互いにスコーンやサンドイッチに手をつけながらしばらく時間を過ごす。
「内通者は狡猾です。第三の課題までにこちら側が勘づいたと分かれば対処のしようがなくなります。」
「その者とクラウチ氏が近しい仲だから、お前はクラウチが自白すると言っているのだな?もしくは、その内通者が言い逃れできないものをクラウチが持っているのか。…だが、ムーディとの関係など聞いたことがない。」
いいところを突いてくる。クラウチは第三の課題の前にダンブルドアに真実を告げに来るはずだ。彼の心変わりなのか、息子の悪行を止めるためなのか、禁じられた森に現れた父親をムーディに化けた息子のクラウチjrがひっそりと殺害してしまうのだ。それは避けなくてはならない。闇の帝王が復活したのだと、そのために犯した罪を白状させなくては、人々の知らないところで闇の力がどんどん増してしまうのだ。少しでも力を削げば、リーマスやシリウス…彼らの大切な人を生かすことが出来るかも知れない。
地位のある厳格な男として知られるクラウチ氏の言葉は裁判でも重いだろう。そして、ウォルデモートの臣下であるjrは生かして同胞を告発させねばならない。彼らが生きることで、闇の力を削ぐことができるのだ。
「第三の課題までは今まで通り静観していただけませんか?ただ、その前夜までは禁じられた森を注意してほしいんです。」
今はここまで言うので限界だ。クラウチjrに気取られぬためにも、直前まで伝えない方が良い。スネイプはカップ片手に話を聞いていたが、おもむろにテーブルに置くと、ずいっとサクラの前に身を乗り出した。
「まだ言わないつもりか。我々が事前に知っておくことで対策がとれるとは思わないのか。」
魔法が使えるスネイプやダンブルドアらが作戦を練れば、きっとウォルデモートの復活は阻止できるだろう。しかし、阻止した後は…?今だ残るウォルデモートの魂の残骸がある限り、物語とは違った展開で復活を再び画策する者が出てくるだろう。ハリーに危険な橋を渡らせることになるとは理解している。だが、彼らを倒すには、一番物事がうまくいっていると思わせているときが隙が出来るのだ。だからこそ、できるだけ流れは変えたくない。
サクラがスネイプから顔をそらすと、向かい合っていた顔が離れ、小さなため息が聞こえた。
「……次の課題までは何もないのだな。」
乱暴にソファーに座り直したスネイプは、ため息とともにそう言った。
「ええ、何もとは言いませんが、対処すべき問題はないと思いますよ。」
何となく気まずい雰囲気のまま、店を出る。外は相変わらず雪が積もっており、厚手のコートを着込んでも、足の先から冷たさが伝わってくるようだった。少し前をいくスネイプが歩くたびに、コートの端に蹴上げた雪が白く色をつけた。ぼんやりとその様子をみながらホグワーツに到着すると、サクラの自室の前まで送ってくれた。一応はエスコートの心得はあるらしい。
「今日はありがとうございました。」
事務的に、愛想笑いを浮かべながらスネイプに今日のお礼を伝える。色気のない話ばかりであったが、今回はスネイプに奢ってもらった手前、感謝は口にしておく。リーマスのような素敵なエスコートを期待していたわけではないが、こんな休日ならば一人でカフェに行けば良かったと半ば感じてしまうのも無理は無いと思う。
にこり、と笑って手早く自室に戻ろうとドアに手をかけたところで上からスネイプの手が重ねられた。どうしたのか、と振り向くといつものように無表情のスネイプの顔がこちらを見つめていた。
「我が輩はダンブルドアからお前と協力しろと言われている。…必要なものがあれば言え。一人で行動してまた迷惑をかけられても困るのでね。」
暗に、三本の箒での襲撃を言っているのだろう。そして、ダンスパーティでの無警戒な行動を。その後のスネイプとのやりとりが勝手に思い出され、知らぬうちに首元が熱くなってくる。顔まで火照ってくるようで、とっさにドアの方へ向き直した。「分かりました。お伝えしますので、…では」とドアノブを引くと、後ろでぼそり、とスネイプの声がした。
「そのワンピース…似合っている。」
聞き間違いかと思い、とっさに振り向くと、スネイプはすでに踵を返して歩を進めているところであった。しかし、振り向いた瞬間、ちらりと見えたスネイプの耳が赤く見えたのは気のせいだろうか…。
「なに……?どういうこと?」
不意打ちの言葉に胸はどくどくと波打っている。きっといま鏡で自分の顔を確かめたら間抜けな顔をしているにちがいない。困惑を隠せず、赤くなる頬を押さえて、サクラは自室に飛び込んだ。
今日まであちらから話しかけてくる様子もなく過ごしていたが、今、教職員用の席で隣り合って座って朝食を取っている。非常に気まずい。口に運んでいるソーセージの味さえ感じられず、ただ黙々と食事を進めるしかない。隣をちらりと窺うと、スネイプもまた黙々と食事を進めている。普段と変わらない様が反対に気になってしまうが、それをこちらから指摘するのも、まるで自分が気になって仕方が無いと暗に示しているようで面白くない。サクラとしても男女の関係に耐性がないわけでもなく、人並みの経験はしているつもりだ。だからといって知人と流れで一夜を共にしてしまうことは未経験だ。頭の中はぐるぐると混乱しているが、表情には出さないようにするのがせいぜいだった。
「サクラ、休暇は何か予定はあるのですか?」
「……え、あ」
スネイプとは反対隣にいるマクゴナガルが声をかけた。しかし、他のことに気を取られていたサクラは対応が遅れた。
「どうしました?ぼーっとしているなんてあなたらしくありませんね。」
「…行事ごとが終わって気が抜けているのかもしれませんね。私は特に予定は入れていませんが、マクゴナガル先生の方はご予定は?」
「私は故郷へ少し顔を出したら、あとはこちらで過ごすつもりですよ。セブルス、あなたも冬期休暇はここで過ごすのですよね。」
「……そのつもりですが。」
突然話を振られたスネイプは片方の眉を上げてマクゴナガルの方をみた。サクラもいぶかしげにマクゴナガルの方をみた。
「セブルスは休暇も仕事を詰め込みますから。サクラと息抜きにお茶にでも行ってくるといいですよ。三本の箒の近くに新しいカフェが出来たそうですから、是非私に感想を教えてください。」
マクゴナガルは本気で良いことを言ったというように良い笑顔をこちらに向けている。身寄りの無いサクラにとって、マクゴナガルが学校で一番年の近いスネイプを引き合いに出して気を遣っているのだろうと感じられる。ただ、今はその親切がとてもいたたまれない気持ちにさせるのだ。マクゴナガルの手前、気まずいので行きませんとは言い出しにくい。「なぜ我が輩がこの者と。」と、一番に断る可能性のあるスネイプをちらり、と窺い見た。ばちり、と視線が交わる。その目尻が下がったように見えた。
「そうですな。たまには外出も悪くない。」
思いも寄らない言葉にサクラだけでなくマクゴナガルも目を丸くした。
数日後、件のカフェにやってきた二人は、向かい合ってティーカップを口にしているところであった。なぜこうなってしまったのか。当日まで困惑していたサクラであったが、クローゼットの中でも落ち着いた女性らしいデザインのニットワンピースを手にして、マットなボルドーの鮮やかなリップと、それに合わせたゴールドを差し色したメイクで用意をととのえていた。いわゆるデートとしての体裁を整えてしまった形である。普段よりも華やかなメイクに嫌みのひとつでも言われやしないか、と戦々恐々としていたが、当のスネイプは気付いた風でも待ち合わせに現れたのだった。代わり映えのしない黒いローブとネイビーの詰め襟のジャケットに身を包んでいる。待ち合わせでは、リーマスのようにエスコートするわけでもなく、一瞥すると、「いくぞ。」とすたすた店内へと入っていってしまった。
マクゴナガル推薦の店は、ソファー席のみのゆったりとした空間のカフェであった。重厚感のあるテーブルや調度品と、アンティークらしい食器類が調和していた。簡単なアフタヌーンティーのメニューを注文し、用意されたところでスネイプが杖を一振りした。
「クラウチ氏が行方不明だ。どこにいる?」
開口一番、そんな話題をだされて、がくりと肩を落とした。少しでもデートらしく装ってきた自分が……意識していた事が、ばからしく思えてくる。湯気の立つ琥珀色の紅茶を口に含んだ。華やかな香りが口いっぱいに広がった。そのおいしさで気持ちを落ち着けると、スネイプの方を見据えた。
「私が知っていると?あいにくですが、彼の所在は分かりません。ただ、『まだ』生きています。前にも言いましたが私が知っているのはハリーに関することです。今、クラウチ氏がどこで身を潜めているかは知らないんです。……さっきの、防音の呪文か何かですよね?」
一応確認を取ると、スネイプは静かに頷いた。
「ですが、彼は必ずホグワーツに現れます。そのときは生きて証言させなくてはなりません。リーマスさんとシリウスさんが探してくれているでしょうが、校内に…特に禁じられた森で秘密裏に配置しておいた方がいいかもしれません。」
「何を証言させるのだ?闇に寝返ったとでも言わせるつもりか?そんな事を易々と証言するわけがない。第一、なぜ身を隠す?普段通りにしていればホグワーツに自由に出入りできるものを。」
「私も全ての展開を覚えているわけではないのですが……」
あの膨大なページを全て覚えるなど至難の業だ。せいぜい大きな事件やそのときの人物たちの動きは把握しているが、クラウチ氏はそれほど注目していた人物ではなかったため記憶が曖昧な部分もあるのだ。今更ながら、もっと読み込んでおけば良かったと悔やまれる。そうすれば、セドリック救出の糸口が見いだせるのかも知れないのに……。サクラの表情が暗くなったことに気付きながらも、スネイプはお茶を口にして、それを眺めるだけだ。互いにスコーンやサンドイッチに手をつけながらしばらく時間を過ごす。
「内通者は狡猾です。第三の課題までにこちら側が勘づいたと分かれば対処のしようがなくなります。」
「その者とクラウチ氏が近しい仲だから、お前はクラウチが自白すると言っているのだな?もしくは、その内通者が言い逃れできないものをクラウチが持っているのか。…だが、ムーディとの関係など聞いたことがない。」
いいところを突いてくる。クラウチは第三の課題の前にダンブルドアに真実を告げに来るはずだ。彼の心変わりなのか、息子の悪行を止めるためなのか、禁じられた森に現れた父親をムーディに化けた息子のクラウチjrがひっそりと殺害してしまうのだ。それは避けなくてはならない。闇の帝王が復活したのだと、そのために犯した罪を白状させなくては、人々の知らないところで闇の力がどんどん増してしまうのだ。少しでも力を削げば、リーマスやシリウス…彼らの大切な人を生かすことが出来るかも知れない。
地位のある厳格な男として知られるクラウチ氏の言葉は裁判でも重いだろう。そして、ウォルデモートの臣下であるjrは生かして同胞を告発させねばならない。彼らが生きることで、闇の力を削ぐことができるのだ。
「第三の課題までは今まで通り静観していただけませんか?ただ、その前夜までは禁じられた森を注意してほしいんです。」
今はここまで言うので限界だ。クラウチjrに気取られぬためにも、直前まで伝えない方が良い。スネイプはカップ片手に話を聞いていたが、おもむろにテーブルに置くと、ずいっとサクラの前に身を乗り出した。
「まだ言わないつもりか。我々が事前に知っておくことで対策がとれるとは思わないのか。」
魔法が使えるスネイプやダンブルドアらが作戦を練れば、きっとウォルデモートの復活は阻止できるだろう。しかし、阻止した後は…?今だ残るウォルデモートの魂の残骸がある限り、物語とは違った展開で復活を再び画策する者が出てくるだろう。ハリーに危険な橋を渡らせることになるとは理解している。だが、彼らを倒すには、一番物事がうまくいっていると思わせているときが隙が出来るのだ。だからこそ、できるだけ流れは変えたくない。
サクラがスネイプから顔をそらすと、向かい合っていた顔が離れ、小さなため息が聞こえた。
「……次の課題までは何もないのだな。」
乱暴にソファーに座り直したスネイプは、ため息とともにそう言った。
「ええ、何もとは言いませんが、対処すべき問題はないと思いますよ。」
何となく気まずい雰囲気のまま、店を出る。外は相変わらず雪が積もっており、厚手のコートを着込んでも、足の先から冷たさが伝わってくるようだった。少し前をいくスネイプが歩くたびに、コートの端に蹴上げた雪が白く色をつけた。ぼんやりとその様子をみながらホグワーツに到着すると、サクラの自室の前まで送ってくれた。一応はエスコートの心得はあるらしい。
「今日はありがとうございました。」
事務的に、愛想笑いを浮かべながらスネイプに今日のお礼を伝える。色気のない話ばかりであったが、今回はスネイプに奢ってもらった手前、感謝は口にしておく。リーマスのような素敵なエスコートを期待していたわけではないが、こんな休日ならば一人でカフェに行けば良かったと半ば感じてしまうのも無理は無いと思う。
にこり、と笑って手早く自室に戻ろうとドアに手をかけたところで上からスネイプの手が重ねられた。どうしたのか、と振り向くといつものように無表情のスネイプの顔がこちらを見つめていた。
「我が輩はダンブルドアからお前と協力しろと言われている。…必要なものがあれば言え。一人で行動してまた迷惑をかけられても困るのでね。」
暗に、三本の箒での襲撃を言っているのだろう。そして、ダンスパーティでの無警戒な行動を。その後のスネイプとのやりとりが勝手に思い出され、知らぬうちに首元が熱くなってくる。顔まで火照ってくるようで、とっさにドアの方へ向き直した。「分かりました。お伝えしますので、…では」とドアノブを引くと、後ろでぼそり、とスネイプの声がした。
「そのワンピース…似合っている。」
聞き間違いかと思い、とっさに振り向くと、スネイプはすでに踵を返して歩を進めているところであった。しかし、振り向いた瞬間、ちらりと見えたスネイプの耳が赤く見えたのは気のせいだろうか…。
「なに……?どういうこと?」
不意打ちの言葉に胸はどくどくと波打っている。きっといま鏡で自分の顔を確かめたら間抜けな顔をしているにちがいない。困惑を隠せず、赤くなる頬を押さえて、サクラは自室に飛び込んだ。