炎のゴブレット編
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代表選手の入場を見届けると食事が始まった。いつもの食事とは違い、七面鳥やクリスマスケーキなどクリスマス仕様の料理が並んでいた。それらを食べ尽くしてしまうと、ダンブルドアが杖を一振りし、全てのテーブルを壁際に寄せて大きなスペースを作った。そうなれば職員も生徒たちも立ち上がるより他なかった。はじめに代表選手のダンスが始まると、人々の視線がそちらに向けられた。サクラも同じように中央の代表選手とそのパートナーへと視線を向けた。スローなテンポに合わせて、4組がダンスを始めた。……セドリックとチョウは互いに微笑み、見つめ合いながら体を揺らしている。その幸せそうな微笑みが数日前までは自身に向けられていたと思うと胸が苦しくなった。
一曲終わると、代表選手たちの周りを他の生徒や職員などが混じって踊り始めた。まさか職員まで一緒に踊るとは。もとより、運営側でそのような予定があるとは予想していなかったサクラは、あいにくダンスの心得などない。壁の花になって、皆が踊る様子を見つめることにした。ムーディがシニストラ先生とステップを踏んでいる。ぎこちなく踊ってはいるが確実に中央にいるハリーの方へと向かっていた。そして、ハリーに短く何かを話すと、ハリーが笑っているのが見えた。やはり、彼はムーディ…クラウチjrのことを信頼しているようだ。ウォルデモートの影が忍び寄る中、実践的な魔法を教えるムーディは、まさにヒーローだ。不気味な見た目に相反して彼がハリーを思いやる描写はお話のなかでもされてきた。騙されてしまうのも仕方がないだろう。……今日は彼がハリーに危害を加えるような展開はなかったはずだ。このまま静観でいいだろう。
ほかの職員をみるとダンブルドアとマダム・マクシームが踊っていたり、マクゴナガルとハグリッド、フリットウィックとマダム・ピンスなど意外な組み合わせもあれば、思い思いにこの時を楽しんでいた。ダンスも何曲か続くうちに踊る者もいれば、端にある椅子で休んでいる者も出始め、サクラもその中に溶け込んで相変わらず壁に寄りかかって飲み物を口にしていた。
……これがお酒なら気持ちも紛らわせられたのに。
グラスにはノンアルコールのシャンパン。学生のパーティのため酒類は提供しないのだ。見ないようにしていても目に入ってくるセドリックたちに、お酒の力でも借りて思考を鈍らせられたらいいのにと考え始めていた。暇そうにしていれば、数人の職員や生徒にダンスの誘いをされた。しかし、経験も無く、そんな気分にもなれず全て断ってしまった。このままバグマンなど断りにくい人物にまで声をかけられてはたまらない。パーティの片付けは明日の予定であるし、今日やるべき事は全て終えた。管理人が一人消えたところで誰も気がつかないだろう。厨房で料理用のワインでも一本頂いて静かに飲もう、とサクラは大広間をあとにした。
厨房でドビーに会い、チップを渡せば上等のワインといくつかのつまみをバスケットに包んでくれた。それを持って、一人になれる場所を探してさまよった。何となく自室で飲むのは虚しく思え、ならば見晴らしの良い場所で、といいスポットをいくつか歩いているのだ。しかし、仲睦まじい先客がいたりと、場所取りもなかなかはかどらない。パラ園の近くまでくると、そこではハリーとロンに怒鳴りつけるスネイプ、その隣にはカルカロフがいた。スネイプは二人をひとにらみすると、いつもの黒マントを翻してその場を去って行った。それに急いでカルカロフが続いていった。カルカロフの落ち着かない様子が気になり、サクラはそのあとを追った。
二人はそのまま地下のスリザリン寮の方へと向かっていた。人気の無い廊下で、カルカロフの顔が松明にてらされて浮かび上がった。不安そうな表情で、まるでスネイプに助けを求めているように見えた。…ウォルデモートが息を吹き返し、ハリーにもその影響が出ている状況だ。元死喰い人の刻印にも何かしら変化が出てもおかしくない時期だろう。あれは、主人の呼びかけなどに反応して濃くなることもあったはずだ。その印の変化に慌てて元同胞に助けを求めたというところだろうか。対するスネイプは迷惑そうに、言葉を返している。静かな廊下で話しているのは二人だけであるにもかかわらず、その声がサクラに届くことは無かった。そして、話は終わりだとでもいう雰囲気のスネイプにカルカロフは諦めたように元来た道を戻り始めた。それは丁度サクラが様子を窺っている廊下を通るということだ。見つかればまずい、と柱のくぼんだ影になった所へと身を潜ませた。サクラの隠れた柱のすぐ脇をカルカロフが足早に歩いて行く。幸い、暗いドレスに助けられ、カルカロフはサクラに気付かず、通り過ぎていった。ほっと一息ついて、柱の影から身を出すと、目の前にはスネイプが立ちふさがっていた。
「盗み聞きとはいい趣味だな。」
スネイプはいつものように眉間に皺を寄せてサクラを見下ろしていた。サクラはすぐに立ち上がり、ドレスの裾の汚れを払った。
「お褒めにあずかり光栄です。逃亡の計画でも持ちかけられましたか?」
冷静に返すと、まさかスネイプはさらに眉間の皺を深めた。どうやら図星のようだ。
「貴様の方こそ、わざわざ酒まで用意して我が輩を訪ねにきたと?」
「まさか。一人で飲みたい気分なんです。」
「この状況で夜中に『一人』で飲むだと?貴様の記憶力と危機管理能力は鶏程度なのか?それとも忘却呪文でも駆けられたか?」
スネイプがずい、とサクラの顔に己の顔を近づけた。
「数週間前に我が輩が貴様の背に軟膏を塗ってやったことは記憶の隅をつつかねば出てこないか?それとも今度は体中に軟膏を塗ってやれば満足かな。」
そこまで言われ、サクラは三本の箒であったことを思い出した。セドリックのことに気を取られていいたこともあるが、忘れておきたい記憶をわざわざ掘り起こす気もなかった……とは言い訳だ。
「お前の知る『今日の出来事』には問題がないから心配がないとでも?」
そう言われて、サクラの方がちら、と視線を外した。スネイプの言葉はまさにサクラが思っていたことだ。今日はハリーにも学校にも危険なこと起きない。そう『知っている』からこそ自由に歩き回っているのだ。
「では、お前が襲われたのは『知っている事』だったのか?」
スネイプが言わんとしていることが察せられた。
「…いいえ。」
しかし、『心配してくれているのか』と冗談を言うにはスネイプの雰囲気があまりにも刺々しく、短く返すだけだった。
「来い。」
そう言うと、スネイプは一足先に歩き始めた。付いてくるだろうと振り向きもしないのが嫌みな感じだが、ついて行かなければあとから今の何十倍も小言を言われるだろうと予想できてしまえば、サクラは大人しくついていくことにした。
到着したのはスネイプの自室であった。部屋に通されると、スネイプは奥のドアノブに手をかけた。
「我が輩は隣で休んでいる。我が輩の睡眠を邪魔しない程度に好きに使え。」
まさか場所提供をしてくれるとは思わず、唖然とスネイプを見つめた。
「…あの、…どうして?」
「校内をうろつかれてまた仕事を増やされては迷惑だ。我が輩がすぐ対処できる場所で飲み潰れられた方が幾分かマシだ。」
スネイプは淡々とそう返すと、杖をひとふりした。部屋がろうそくのやわらかな灯りで照らされ、一人がけのソファが二人がけ用に大きくなった。
「眠るならそのソファを使え。」
「……ありがとう、ございます。」
おおよそこの男から発せられないであろう親切な言葉の数々に困惑しながらも、なんとか感謝の言葉を口にした。すると、用は済んだとばかりに扉を開けると、すぐにベッドルームへと消えていった。
スネイプがいなくなると、サクラはソファに腰を下ろし、バスケットの中身を取り出した。ソーセージやチーズ、ドライフルーツなどを並べ、ワインをグラスに注いだ。赤い液体がろうそくの灯りに照らされて鈍く光る。心なしか花の心地よい香りがする。それはワインからなのか、それともスネイプの魔法によるものなのか。ただ、殺風景な自室で味気ない晩酌をするよりは、幾分かいい。スネイプの雑多な書物が立てかけられた本棚や羊皮紙の山がうずたかく積まれた机など、所狭しと収納された部屋が己を包んでくれているようで、傷心の身にはこの空間が居心地よく感じた。それに、隣に誰かいる、というだけで孤独な心が少し紛らわされるようにも思えた。
グラスの中身を何度か空にしていくうちに自身の体は漂う水草のようにふわふわと揺れ動いていった。それと同じくして思考もぼんやりとしてくる。ろうそくの灯りがぼやぼやと輪郭をなくしていくのに、酔いが回ってきているのだと認識させられた。しかし、いくら酒で自身の気持ちを覆い隠そうとしても、セドリックの表情が頭にちらついて離れてくれない。湖畔でお茶をしたときの楽しそうな表情、お見舞いのときには朝日に照らされた笑顔が眩しかった…。そして、必要の部屋で彼の熱いまなざしを…。
好きだった。初めはこの青年を死の淵から救いたい、と大義名分を掲げていた。だが、きっと初めから私は彼に恋をしていたのだ。生徒だから、職員だからと常識に縛られ、自分の気持ちを隠して。拒否したときの彼はどんな気持ちだったろうか。傷ついた顔をさせてしまった。代表選手として大きなプレッシャーを抱える中で、サクラはセドリックの気持ちを推し量るのではなく、ただ自分の思いをぶつけて去ったのだ。あのあと、どんな気持ちで、どんな精神状態で彼は課題を乗り越えなければならなかったのか。自分が彼にした仕打ちと比べれば、今日の事など些細なことなのだ。
セドリックへの申し訳なさと、理性で抑えても抑えきれない喪失感にサクラの瞳から涙がこぼれ落ちた。つらい思いをさせてしまったセドリックに幸せがきたのならば、サクラも喜ばなくてはならないのに。アルコールによって歯止めのきかない感情が涙を止まらなくさせた。
「あまり深酒をするな。」
片手に持っていたグラスが取り上げられた。それを机に置くと、この部屋の主が隣に腰掛けた。二人がけのソファに向き合うようにスネイプがこちらを見つめている。濡れた視界はぼんやりとその姿をうつすだけだ。だた、その声が僅かに穏やかな声音に聞こえた。
「酒で忘れられない思いならば、いくら飲んでも無駄だ。」
スネイプは何もかも見透かしたような言葉を囁いた。全て分かっている。だからこそ、この部屋に招いてくれたのだと、この瞬間になって気がついた。
「なら、どうすれば……?」
答えの分かる問いを投げかけた。ぼやける視界にスネイプの顔が近づいてくる。それに合わせて目を閉じると、溜まっていた涙の雫が頬を伝った。それをぬぐうようにスネイプの手のひらがサクラの頬を覆った。
一曲終わると、代表選手たちの周りを他の生徒や職員などが混じって踊り始めた。まさか職員まで一緒に踊るとは。もとより、運営側でそのような予定があるとは予想していなかったサクラは、あいにくダンスの心得などない。壁の花になって、皆が踊る様子を見つめることにした。ムーディがシニストラ先生とステップを踏んでいる。ぎこちなく踊ってはいるが確実に中央にいるハリーの方へと向かっていた。そして、ハリーに短く何かを話すと、ハリーが笑っているのが見えた。やはり、彼はムーディ…クラウチjrのことを信頼しているようだ。ウォルデモートの影が忍び寄る中、実践的な魔法を教えるムーディは、まさにヒーローだ。不気味な見た目に相反して彼がハリーを思いやる描写はお話のなかでもされてきた。騙されてしまうのも仕方がないだろう。……今日は彼がハリーに危害を加えるような展開はなかったはずだ。このまま静観でいいだろう。
ほかの職員をみるとダンブルドアとマダム・マクシームが踊っていたり、マクゴナガルとハグリッド、フリットウィックとマダム・ピンスなど意外な組み合わせもあれば、思い思いにこの時を楽しんでいた。ダンスも何曲か続くうちに踊る者もいれば、端にある椅子で休んでいる者も出始め、サクラもその中に溶け込んで相変わらず壁に寄りかかって飲み物を口にしていた。
……これがお酒なら気持ちも紛らわせられたのに。
グラスにはノンアルコールのシャンパン。学生のパーティのため酒類は提供しないのだ。見ないようにしていても目に入ってくるセドリックたちに、お酒の力でも借りて思考を鈍らせられたらいいのにと考え始めていた。暇そうにしていれば、数人の職員や生徒にダンスの誘いをされた。しかし、経験も無く、そんな気分にもなれず全て断ってしまった。このままバグマンなど断りにくい人物にまで声をかけられてはたまらない。パーティの片付けは明日の予定であるし、今日やるべき事は全て終えた。管理人が一人消えたところで誰も気がつかないだろう。厨房で料理用のワインでも一本頂いて静かに飲もう、とサクラは大広間をあとにした。
厨房でドビーに会い、チップを渡せば上等のワインといくつかのつまみをバスケットに包んでくれた。それを持って、一人になれる場所を探してさまよった。何となく自室で飲むのは虚しく思え、ならば見晴らしの良い場所で、といいスポットをいくつか歩いているのだ。しかし、仲睦まじい先客がいたりと、場所取りもなかなかはかどらない。パラ園の近くまでくると、そこではハリーとロンに怒鳴りつけるスネイプ、その隣にはカルカロフがいた。スネイプは二人をひとにらみすると、いつもの黒マントを翻してその場を去って行った。それに急いでカルカロフが続いていった。カルカロフの落ち着かない様子が気になり、サクラはそのあとを追った。
二人はそのまま地下のスリザリン寮の方へと向かっていた。人気の無い廊下で、カルカロフの顔が松明にてらされて浮かび上がった。不安そうな表情で、まるでスネイプに助けを求めているように見えた。…ウォルデモートが息を吹き返し、ハリーにもその影響が出ている状況だ。元死喰い人の刻印にも何かしら変化が出てもおかしくない時期だろう。あれは、主人の呼びかけなどに反応して濃くなることもあったはずだ。その印の変化に慌てて元同胞に助けを求めたというところだろうか。対するスネイプは迷惑そうに、言葉を返している。静かな廊下で話しているのは二人だけであるにもかかわらず、その声がサクラに届くことは無かった。そして、話は終わりだとでもいう雰囲気のスネイプにカルカロフは諦めたように元来た道を戻り始めた。それは丁度サクラが様子を窺っている廊下を通るということだ。見つかればまずい、と柱のくぼんだ影になった所へと身を潜ませた。サクラの隠れた柱のすぐ脇をカルカロフが足早に歩いて行く。幸い、暗いドレスに助けられ、カルカロフはサクラに気付かず、通り過ぎていった。ほっと一息ついて、柱の影から身を出すと、目の前にはスネイプが立ちふさがっていた。
「盗み聞きとはいい趣味だな。」
スネイプはいつものように眉間に皺を寄せてサクラを見下ろしていた。サクラはすぐに立ち上がり、ドレスの裾の汚れを払った。
「お褒めにあずかり光栄です。逃亡の計画でも持ちかけられましたか?」
冷静に返すと、まさかスネイプはさらに眉間の皺を深めた。どうやら図星のようだ。
「貴様の方こそ、わざわざ酒まで用意して我が輩を訪ねにきたと?」
「まさか。一人で飲みたい気分なんです。」
「この状況で夜中に『一人』で飲むだと?貴様の記憶力と危機管理能力は鶏程度なのか?それとも忘却呪文でも駆けられたか?」
スネイプがずい、とサクラの顔に己の顔を近づけた。
「数週間前に我が輩が貴様の背に軟膏を塗ってやったことは記憶の隅をつつかねば出てこないか?それとも今度は体中に軟膏を塗ってやれば満足かな。」
そこまで言われ、サクラは三本の箒であったことを思い出した。セドリックのことに気を取られていいたこともあるが、忘れておきたい記憶をわざわざ掘り起こす気もなかった……とは言い訳だ。
「お前の知る『今日の出来事』には問題がないから心配がないとでも?」
そう言われて、サクラの方がちら、と視線を外した。スネイプの言葉はまさにサクラが思っていたことだ。今日はハリーにも学校にも危険なこと起きない。そう『知っている』からこそ自由に歩き回っているのだ。
「では、お前が襲われたのは『知っている事』だったのか?」
スネイプが言わんとしていることが察せられた。
「…いいえ。」
しかし、『心配してくれているのか』と冗談を言うにはスネイプの雰囲気があまりにも刺々しく、短く返すだけだった。
「来い。」
そう言うと、スネイプは一足先に歩き始めた。付いてくるだろうと振り向きもしないのが嫌みな感じだが、ついて行かなければあとから今の何十倍も小言を言われるだろうと予想できてしまえば、サクラは大人しくついていくことにした。
到着したのはスネイプの自室であった。部屋に通されると、スネイプは奥のドアノブに手をかけた。
「我が輩は隣で休んでいる。我が輩の睡眠を邪魔しない程度に好きに使え。」
まさか場所提供をしてくれるとは思わず、唖然とスネイプを見つめた。
「…あの、…どうして?」
「校内をうろつかれてまた仕事を増やされては迷惑だ。我が輩がすぐ対処できる場所で飲み潰れられた方が幾分かマシだ。」
スネイプは淡々とそう返すと、杖をひとふりした。部屋がろうそくのやわらかな灯りで照らされ、一人がけのソファが二人がけ用に大きくなった。
「眠るならそのソファを使え。」
「……ありがとう、ございます。」
おおよそこの男から発せられないであろう親切な言葉の数々に困惑しながらも、なんとか感謝の言葉を口にした。すると、用は済んだとばかりに扉を開けると、すぐにベッドルームへと消えていった。
スネイプがいなくなると、サクラはソファに腰を下ろし、バスケットの中身を取り出した。ソーセージやチーズ、ドライフルーツなどを並べ、ワインをグラスに注いだ。赤い液体がろうそくの灯りに照らされて鈍く光る。心なしか花の心地よい香りがする。それはワインからなのか、それともスネイプの魔法によるものなのか。ただ、殺風景な自室で味気ない晩酌をするよりは、幾分かいい。スネイプの雑多な書物が立てかけられた本棚や羊皮紙の山がうずたかく積まれた机など、所狭しと収納された部屋が己を包んでくれているようで、傷心の身にはこの空間が居心地よく感じた。それに、隣に誰かいる、というだけで孤独な心が少し紛らわされるようにも思えた。
グラスの中身を何度か空にしていくうちに自身の体は漂う水草のようにふわふわと揺れ動いていった。それと同じくして思考もぼんやりとしてくる。ろうそくの灯りがぼやぼやと輪郭をなくしていくのに、酔いが回ってきているのだと認識させられた。しかし、いくら酒で自身の気持ちを覆い隠そうとしても、セドリックの表情が頭にちらついて離れてくれない。湖畔でお茶をしたときの楽しそうな表情、お見舞いのときには朝日に照らされた笑顔が眩しかった…。そして、必要の部屋で彼の熱いまなざしを…。
好きだった。初めはこの青年を死の淵から救いたい、と大義名分を掲げていた。だが、きっと初めから私は彼に恋をしていたのだ。生徒だから、職員だからと常識に縛られ、自分の気持ちを隠して。拒否したときの彼はどんな気持ちだったろうか。傷ついた顔をさせてしまった。代表選手として大きなプレッシャーを抱える中で、サクラはセドリックの気持ちを推し量るのではなく、ただ自分の思いをぶつけて去ったのだ。あのあと、どんな気持ちで、どんな精神状態で彼は課題を乗り越えなければならなかったのか。自分が彼にした仕打ちと比べれば、今日の事など些細なことなのだ。
セドリックへの申し訳なさと、理性で抑えても抑えきれない喪失感にサクラの瞳から涙がこぼれ落ちた。つらい思いをさせてしまったセドリックに幸せがきたのならば、サクラも喜ばなくてはならないのに。アルコールによって歯止めのきかない感情が涙を止まらなくさせた。
「あまり深酒をするな。」
片手に持っていたグラスが取り上げられた。それを机に置くと、この部屋の主が隣に腰掛けた。二人がけのソファに向き合うようにスネイプがこちらを見つめている。濡れた視界はぼんやりとその姿をうつすだけだ。だた、その声が僅かに穏やかな声音に聞こえた。
「酒で忘れられない思いならば、いくら飲んでも無駄だ。」
スネイプは何もかも見透かしたような言葉を囁いた。全て分かっている。だからこそ、この部屋に招いてくれたのだと、この瞬間になって気がついた。
「なら、どうすれば……?」
答えの分かる問いを投げかけた。ぼやける視界にスネイプの顔が近づいてくる。それに合わせて目を閉じると、溜まっていた涙の雫が頬を伝った。それをぬぐうようにスネイプの手のひらがサクラの頬を覆った。