炎のゴブレット編
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冬期休暇の前日、授業は午前で終了した。午後からは帰宅の準備をする生徒のために設けてあるのだ。しかし、今年ばかりはホグワーツに残る多くの生徒が校内にあふれていた。各々の寮で過ごす者もいれば、大広間で談笑する者。そして、図書館で静かに過ごす者もいた。サクラは午後からの図書館業務のため、館内で返却図書の配架を行っていた。夏期休暇に比べると人の数は多いようだが、それでも、普段の図書館に比べれば、静かな空間だ。この時期にここへやってくるのは、よほど本好きか勉強好きな生徒だろう。ゆえに落ち着いた雰囲気の中でサクラも業務にあたることができていた。
本を指定の本棚へと戻しているところで、見知った後ろ姿があった。ウェーブのかかった栗毛色の長い髪と、ため息が聞こえ、近づいてみる。ハーマイオニーがいつものように分厚い本を開きながらため息をついているところであった。ただ、目線は本ではない。どこか遠くを見つめるように物憂げな瞳だ。
「ハーマイオニー、どうかしたの?」
彼女の普段見せないような表情に心配になりサクラは声をかけてしまった。それに気がついたハーマイオニーが本から視線を上げてサクラを見た。
「……サクラさん。」
見上げた顔はやはり元気がなさそうである。「隣座ってもいい?」とハーマイオニーに確認をとって、彼女が頷いたところで座った。仕事もあるが、少しの時間だけだ。思い悩む少女を放ってはおけない。あとでマダムピンスに見つかったら謝ろう。
「浮かない顔ね。なにか悩み事?」
「ええ……」
「誰かに話して楽になるなら、私でよければ話してみる?」
言葉を濁す様子に言いづらいことなのかと思われる。しかし、なにか言おうとしているハーマイオニーに話すタイミングを任せて待った。すると、視線を泳がせて落ち着かない様子だったのが、意を決したようにこちらを向いた。
「サクラさんは男性とお付き合いしたことはありますか…?」
予想外の質問にこちらが面食らってしまう。一瞬言葉に詰まったが、すぐにハーマイオニーが悩んでいることが察せられた。この時期、ダンスパーティで話題は持ちきりだ。そして、本の中でロンはハーマイオニーを誘うこともなく、最後までパートナーを探すのに苦労していたことを思い出した。
「まあ、それなりにお付き合いはさせてもらったわ。それで、ハーマイオニーは誰かに告白でもされたのかしら?」
そう聞くとハーマイオニーの顔がみるみる赤くなった。
「いえ、告白ではなくて…あの」
頭脳明晰の彼女がここまでしどろもどろになるのが新鮮である。この様子だと、クラムに誘われたのだろうか。
「ダンスパーティに誘われたんです。でも、受けてもいいのか、…私その人とあまり話したこともないし、どうしたらいいのか。」
きっとぎりぎりまでロンが誘ってくれるのを期待しているんだろう。ハーマイオニーの乙女心が分かる分、もどかしくも応援したくなる。しかし、ロンにはお灸が必要だ。これほど素敵な女性の魅力にまだ気がついていないのだ。今回はそれを確認させる絶好の機会だろう。
「ハーマイオニー。あなたがその人を何となく好きになれないなら、その感覚を大切にするべきよ。ただ、そうじゃないのならいいきっかけになるんじゃないかしら。恋愛も人間関係もまずはお互いを知ることからだと思うわ。その人と過ごしてみて素敵な部分を知ることができるかもしれない。」
そう言うも、ハーマイオニーの表情には、まだ迷いがある。やはり、ロンのことを…。
「それに、……その姿をみてあなたの魅力に気付く人もでてくるかもしれないじゃない。」
サクラの言葉にハーマイオニーは、はっと表情を変えた。やはり、察しが良いようだ。
「一緒に踊る相手だけが会場にいるわけじゃないですものね。」
「そうそう。だから、めいっぱいお洒落をして、目を引くのよ。気になる人をその気にさせるには、あせらせることも大切よ。」
ハーマイオニーは「あせらせる…」と復唱して、頷いた。大人びた彼女もやはり十代の女の子だ。可愛らしい様子に自然と笑顔がこぼれた。
休暇が始まって2、3日はフレッドとジョージが開発した『カナリア・クリーム』が話題になった。大広間の食事に仕込んでいるらしく、それを食べた者は突然わっと羽が生えるのだ。大広間には羽が舞い上がり、騒然となる。しかも、教師も食事をしている席で忍ばせるのだから相当の手練れだ。犯人は双子だろうと誰もが検討をつけているが、いかんせん『証拠』がない。マクゴナガルに詰問されても素知らぬ顔の二人はやはり肝が据わっている。来年、あの騒動を起こして退学する未来を知っているだけに、サクラはある意味感心していた。ただ、それを片付けるのは管理人のフィルチとサクラで、食事中に騒動がおこるたびにフィルチはいらいらしながらぞんざいに箒を振り回すし、サクラも3日目になるとさすがに笑ってばかりもいられない。掃除をしている最中に双子に近寄ると「次に仕掛けたら、部屋にあるまずい代物をマクゴナガル先生に届けるわよ。」と耳打ちした。それに、「どうしてサクラさんが男子寮にはいれるのさ。」と笑っていたフレッドに満面の笑みを浮かべて答えた。
「優しい『妖精さん』にクリスマスプレゼントをしたのよ。その代わり、掃除が大変で困ってるからお願いって話したら、『トン・タン・トフィー』をあなたたちの部屋から持ってきてくれたわよ。」
目の前に例のあめ玉をかざした。学校では使っていないようだが、これでダドリーの舌を何倍にもした悪戯菓子だ。
「これをマクゴナガル先生に渡したら、……いえ、やはり薬学に精通するスネイプ先生にお渡ししたら」
どうなるかしら?
微笑みを浮かべる様は優しい雰囲気を醸し出しているがサクラの脅しに双子は生唾を飲み込んだ。その一件以来、双子の悪戯はなりを潜め、クリスマスの準備に集中することができた。
クリスマス当日、目を覚ますとベッドに見慣れない箱が置かれていた。大人になってからクリスマスを受け取ることは少なくなっていた。しかも、差出人を見るとダンブルドア、マクゴナガル、リーマスだ。思いがけない人たちからのプレゼントにサクラはまじまじと送られてきた箱を見つめた。手に収まる小さな箱が1つと、細長い箱、そして手のひらほどの大きさの箱があった。それに一つづつ手紙が添えられていた。
リーマスからは「この間はありがとう、お礼にささやかながらプレゼントを贈ったよ。ドレスに似合うと思って。それじゃあ、クリスマス楽しんで。」と書かれたクリスマスカードがつけられていた。箱を開けると中には三日月のシルエットのゴールドの細身のネックレスが入っていた。夜空を模したようなあのドレスにきっと似合うだろう。
マクゴナガルからは「メリークリスマス。初めてのホグワーツでのクリスマスが良いものでありますように。ガーネットは持つ者の身を守ってくれるといいます。そして、積み上げてきたことを成功へ導くとも。あなたの幸せを心から願っているわ。」と綺麗な筆記体で綴られたクリスマスカードは魔法がかけられているのか、飛び出すツリーの上から雪が降っていた。箱を開けると中には緋色の宝石がはめられたイヤリングが入っていた。決して主張しないなかにも落ち着いた光を放つ様は、マクゴナガルそのもののようだ。そして、この宝石に込められた思いにマクゴナガルのサクラに対する慈愛の気持ちが伝わってきた。魔法を使えないサクラの身を案じ、しかし遠ざけるのではなく、ハリーを守り、闇に打ち勝つための『成功へ導く』一人として思ってくれていることが何より嬉しかった。今日のドレスに差し色でつけるのがいいだろう。あたたかい気持ちでガーネットのイヤリングを優しく撫でた。
そして、ダンブルドアからは夜空にきらめく星が美しいクリスマスカードに「君が持つべきもののようだ。君が選んだように『これ』も選んだ。これの声を聞けるのはきっとサクラ、君だろう。」中身は、この世界へ来てダンブルドアに渡したはずの指輪であった。その古びたリングは灯りのオレンジを反射して、てらてらと光っていた。黒い宝石がその光を吸い込むように鈍く輝いていた。
「なぜ……」
これは闇の魔術が使われているものであるはずだ。だからこそダンブルドアが厳重に保管していたはずなのに。ダンブルドアが何を意図してこれを返したのか、サクラには見当が付かず、首をかしげた。しかし、ダンブルドアが調べた上でサクラの元に返ってきたのならば、こちらで保管するより他ないだろう。クローゼットの目立たない場所へとそれを隠した。サクラ以外でこの部屋に出入りするのは屋敷僕だけだ。彼らがわざわざサクラの部屋を荒らしてまわるようなことはするまい。手をつけなさそうな下着が入っている引き出しの奥底に入れておく。
朝から夕方までは会場の準備が残っている。急いで支度をすると、サクラは仕事へと向かった。
本を指定の本棚へと戻しているところで、見知った後ろ姿があった。ウェーブのかかった栗毛色の長い髪と、ため息が聞こえ、近づいてみる。ハーマイオニーがいつものように分厚い本を開きながらため息をついているところであった。ただ、目線は本ではない。どこか遠くを見つめるように物憂げな瞳だ。
「ハーマイオニー、どうかしたの?」
彼女の普段見せないような表情に心配になりサクラは声をかけてしまった。それに気がついたハーマイオニーが本から視線を上げてサクラを見た。
「……サクラさん。」
見上げた顔はやはり元気がなさそうである。「隣座ってもいい?」とハーマイオニーに確認をとって、彼女が頷いたところで座った。仕事もあるが、少しの時間だけだ。思い悩む少女を放ってはおけない。あとでマダムピンスに見つかったら謝ろう。
「浮かない顔ね。なにか悩み事?」
「ええ……」
「誰かに話して楽になるなら、私でよければ話してみる?」
言葉を濁す様子に言いづらいことなのかと思われる。しかし、なにか言おうとしているハーマイオニーに話すタイミングを任せて待った。すると、視線を泳がせて落ち着かない様子だったのが、意を決したようにこちらを向いた。
「サクラさんは男性とお付き合いしたことはありますか…?」
予想外の質問にこちらが面食らってしまう。一瞬言葉に詰まったが、すぐにハーマイオニーが悩んでいることが察せられた。この時期、ダンスパーティで話題は持ちきりだ。そして、本の中でロンはハーマイオニーを誘うこともなく、最後までパートナーを探すのに苦労していたことを思い出した。
「まあ、それなりにお付き合いはさせてもらったわ。それで、ハーマイオニーは誰かに告白でもされたのかしら?」
そう聞くとハーマイオニーの顔がみるみる赤くなった。
「いえ、告白ではなくて…あの」
頭脳明晰の彼女がここまでしどろもどろになるのが新鮮である。この様子だと、クラムに誘われたのだろうか。
「ダンスパーティに誘われたんです。でも、受けてもいいのか、…私その人とあまり話したこともないし、どうしたらいいのか。」
きっとぎりぎりまでロンが誘ってくれるのを期待しているんだろう。ハーマイオニーの乙女心が分かる分、もどかしくも応援したくなる。しかし、ロンにはお灸が必要だ。これほど素敵な女性の魅力にまだ気がついていないのだ。今回はそれを確認させる絶好の機会だろう。
「ハーマイオニー。あなたがその人を何となく好きになれないなら、その感覚を大切にするべきよ。ただ、そうじゃないのならいいきっかけになるんじゃないかしら。恋愛も人間関係もまずはお互いを知ることからだと思うわ。その人と過ごしてみて素敵な部分を知ることができるかもしれない。」
そう言うも、ハーマイオニーの表情には、まだ迷いがある。やはり、ロンのことを…。
「それに、……その姿をみてあなたの魅力に気付く人もでてくるかもしれないじゃない。」
サクラの言葉にハーマイオニーは、はっと表情を変えた。やはり、察しが良いようだ。
「一緒に踊る相手だけが会場にいるわけじゃないですものね。」
「そうそう。だから、めいっぱいお洒落をして、目を引くのよ。気になる人をその気にさせるには、あせらせることも大切よ。」
ハーマイオニーは「あせらせる…」と復唱して、頷いた。大人びた彼女もやはり十代の女の子だ。可愛らしい様子に自然と笑顔がこぼれた。
休暇が始まって2、3日はフレッドとジョージが開発した『カナリア・クリーム』が話題になった。大広間の食事に仕込んでいるらしく、それを食べた者は突然わっと羽が生えるのだ。大広間には羽が舞い上がり、騒然となる。しかも、教師も食事をしている席で忍ばせるのだから相当の手練れだ。犯人は双子だろうと誰もが検討をつけているが、いかんせん『証拠』がない。マクゴナガルに詰問されても素知らぬ顔の二人はやはり肝が据わっている。来年、あの騒動を起こして退学する未来を知っているだけに、サクラはある意味感心していた。ただ、それを片付けるのは管理人のフィルチとサクラで、食事中に騒動がおこるたびにフィルチはいらいらしながらぞんざいに箒を振り回すし、サクラも3日目になるとさすがに笑ってばかりもいられない。掃除をしている最中に双子に近寄ると「次に仕掛けたら、部屋にあるまずい代物をマクゴナガル先生に届けるわよ。」と耳打ちした。それに、「どうしてサクラさんが男子寮にはいれるのさ。」と笑っていたフレッドに満面の笑みを浮かべて答えた。
「優しい『妖精さん』にクリスマスプレゼントをしたのよ。その代わり、掃除が大変で困ってるからお願いって話したら、『トン・タン・トフィー』をあなたたちの部屋から持ってきてくれたわよ。」
目の前に例のあめ玉をかざした。学校では使っていないようだが、これでダドリーの舌を何倍にもした悪戯菓子だ。
「これをマクゴナガル先生に渡したら、……いえ、やはり薬学に精通するスネイプ先生にお渡ししたら」
どうなるかしら?
微笑みを浮かべる様は優しい雰囲気を醸し出しているがサクラの脅しに双子は生唾を飲み込んだ。その一件以来、双子の悪戯はなりを潜め、クリスマスの準備に集中することができた。
クリスマス当日、目を覚ますとベッドに見慣れない箱が置かれていた。大人になってからクリスマスを受け取ることは少なくなっていた。しかも、差出人を見るとダンブルドア、マクゴナガル、リーマスだ。思いがけない人たちからのプレゼントにサクラはまじまじと送られてきた箱を見つめた。手に収まる小さな箱が1つと、細長い箱、そして手のひらほどの大きさの箱があった。それに一つづつ手紙が添えられていた。
リーマスからは「この間はありがとう、お礼にささやかながらプレゼントを贈ったよ。ドレスに似合うと思って。それじゃあ、クリスマス楽しんで。」と書かれたクリスマスカードがつけられていた。箱を開けると中には三日月のシルエットのゴールドの細身のネックレスが入っていた。夜空を模したようなあのドレスにきっと似合うだろう。
マクゴナガルからは「メリークリスマス。初めてのホグワーツでのクリスマスが良いものでありますように。ガーネットは持つ者の身を守ってくれるといいます。そして、積み上げてきたことを成功へ導くとも。あなたの幸せを心から願っているわ。」と綺麗な筆記体で綴られたクリスマスカードは魔法がかけられているのか、飛び出すツリーの上から雪が降っていた。箱を開けると中には緋色の宝石がはめられたイヤリングが入っていた。決して主張しないなかにも落ち着いた光を放つ様は、マクゴナガルそのもののようだ。そして、この宝石に込められた思いにマクゴナガルのサクラに対する慈愛の気持ちが伝わってきた。魔法を使えないサクラの身を案じ、しかし遠ざけるのではなく、ハリーを守り、闇に打ち勝つための『成功へ導く』一人として思ってくれていることが何より嬉しかった。今日のドレスに差し色でつけるのがいいだろう。あたたかい気持ちでガーネットのイヤリングを優しく撫でた。
そして、ダンブルドアからは夜空にきらめく星が美しいクリスマスカードに「君が持つべきもののようだ。君が選んだように『これ』も選んだ。これの声を聞けるのはきっとサクラ、君だろう。」中身は、この世界へ来てダンブルドアに渡したはずの指輪であった。その古びたリングは灯りのオレンジを反射して、てらてらと光っていた。黒い宝石がその光を吸い込むように鈍く輝いていた。
「なぜ……」
これは闇の魔術が使われているものであるはずだ。だからこそダンブルドアが厳重に保管していたはずなのに。ダンブルドアが何を意図してこれを返したのか、サクラには見当が付かず、首をかしげた。しかし、ダンブルドアが調べた上でサクラの元に返ってきたのならば、こちらで保管するより他ないだろう。クローゼットの目立たない場所へとそれを隠した。サクラ以外でこの部屋に出入りするのは屋敷僕だけだ。彼らがわざわざサクラの部屋を荒らしてまわるようなことはするまい。手をつけなさそうな下着が入っている引き出しの奥底に入れておく。
朝から夕方までは会場の準備が残っている。急いで支度をすると、サクラは仕事へと向かった。