アズカバンの囚人編
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付け焼き刃の誤魔化しは流石に無理があったな。とゴブレットを飲みながらサクラは己の失態に反省をしていた。このような駆け引きが慣れていないとはいえ、マグルがホグワーツを知っているのはおかしいと気付くことさえできなかったとは。いくら本で読み親しんでいても現実のマグルはこの場所を考えもしないのだ。いや、むしろ夢であると思っていたからこそ、何手先まで読もうとしなかったというところもある。
現実。
薄々、感じてはいたがこれは現実なのではないか。夢にしては五感で感じるものにリアリティを感じるのだ。縄の感覚、石の床の冷たさ、ゴブレットの中身のとろみ。そして、私を支える教授の腕のあたたかみと、嗅いだことのないような薬品の香り。
ゴブレットの中身を飲み干したことをスネイプが確認し、その場からゴブレットをさっと消した。
いよいよ尋問がはじまる。先ほど校長から真実を話すようすすめられた。しかし、これが現実だとするならば、いっそのこと真実薬で全てを話した方がいい。きっと私の立場では全てが都合のいい空想にしか思われないだろう。現状の囚われの身から脱するため、と腹を括って真実薬を飲んだ。
しかし、最終巻まで彼らの人生を読んできたサクラにとって、彼らはただの紙面のキャラクターと割り切ることはできなかった。とくに己の命を、人生を、たったひとりの女性に捧げた彼の生き方を誰かが考え出し、作り上げたものだとは語りたくない。しかし、この現状を打開する別の策を考えられるはずもない。
「さて、何から話していただこうか。」
スネイプの視線がサクラを値踏みするかのようにねっとりと纏わりつく。この状況を楽しんでいる様子はまさしく手段を選ばない『誇り高い』スリザリンの寮監だ。
「先ほどの質問をしよう。どうやってここに来た?なぜホグワーツを知っている?」
「日本から来ました。この指輪をはめたところで意識を失い、気づけば森の中にいました。ホグワーツについては私のいた場所では書物となっています。興味のある者でしたら、簡単に知ることができます。」
考える間もなく口からするすると言葉が溢れる。自分の口なのに勝手に動かされる感覚は不思議なものだ。
「マグルの間で魔法界のことが露見しているのか?」
スネイプは訝しげな表情をした。自分の作った薬に間違いはないはずという思いと、サクラの話す内容がにわかには信じられないという思いがせめぎ合っているのだろう。
「マグルといいますか、私の生きている世界には魔法界というものは存在しません。そしてその書物を書いた者も魔法界とは関わりのない人物です。故に誰かが魔法界、そしてホグワーツの情報を流したわけではありません。」
「ではお前の世界とこちらをつなげるのはその書物というわけか。その者がなぜ魔法界を書き著しているのかは分からないのか。」
これ以上は話したくない。
彼の運命が作者によって作り上げられたものだと己の口から告げたくない。これまでの彼の苦しみは全て虚構にあるなど、彼の生き方や苦労を否定するようだから。
「彼女の国では魔女や精霊は身近なものです。きっと民間伝承などから構想したのではないでしょうか。」
「つまり我らの世界はその者が構想したものであると?」
「ええ。」
気持ちとは裏腹に口からは真実だけが滑り落ちていく。
「…これまでの出来事も全て?」
「…はい。」
残酷な言葉を止めることができない。私の答えは、彼にとってリリーを救えなかったことが定められていた結末であったと同義である。これほど絶望する答えがあるだろうか。
表情こそ眉間が険しくなるだけであったが、一瞬体勢を崩し、後ろへ一歩下がった。
「すいません…。」
「なぜお主が謝る。儂らが飲ませた薬は真実しか語れぬ。ときに真実とは刃になるとは承知の上じゃ。」
「いいえ。私は自分が助かりたいがために、あなた方を傷つけると分かっていながら薬を飲んだのです。」
「…そこまで言うということは、過去の全てを知っているということかの。」
「この世界の全てではありません。私が知っているのはハリーに関わるものだけ。」
「では、その指輪はどう説明するのだ。闇の魔術がかけられた指輪を所持し、闇の陣営との関係を疑われても仕方あるまい。」
スネイプがサクラに問うた。先ほどの動揺を素早く隠し、さすが閉心術に長けた魔法使いだ。
「祖母は生前から美術品を収集していました。私はそこにあった1つを譲り受けました。なぜそのような代物があったかは分かりません。」
「お前の祖母が闇の陣営に与するものであった可能性も捨てきれまい。」
「セブルス。あの者がどんな理由であれマグルの手を借りるかの。」
「あの者…ということは、この指輪はヴォルデモートのものなのですか?」
「おそらく、そうじゃろう。そこから強力な闇の魔法を感じる。そのような物を作り出せるのは生憎この世界に1人しかおらん。」
確かにあれほどマグルを憎んでいる人物が自分の物を渡すはずないだろう。マルフォイ家や信用のおける部下たちのもとに置いておくのが自然である。
ならば、なぜ私の世界にヴォルデモートのものが存在しているのだろうか。
「なんらかの理由でこの世界と私の世界に繋がりができ、指輪が私の世界に渡ってきた、ということでしょうか。」
「やもしれん。姿現しに失敗した体はあちらに飛ばされると言うが、指輪が時空を超えていったということもあるのじゃろう。」
「偶然、私が指にはめたことで世界がつながってしまったのでしょうか?もしくは時空を超えて姿現しをさせる魔法はあるのですか?」
ここは大きな問題だろう。
これが意図的になされた魔法であるとすれば、関わっている私は無関係ではいられまい。校長は髭を撫で付け思案している。後ろ手になっている私の指に光る宝石をしばらくじっと見ていた。
「儂の知る限りそのような魔法は存在せぬ。それがポートキーである可能性もあるが、そのような代物を使うのは非常に危険なことじゃ。」
「そして、そのような代物を身につけ続けて正気を保っているこの者もなかなか稀有な存在でありましょうな。」
それまで私と校長の会話を静かに聞いていたと思ったら、教授が話しに加わった。
「たしかにの。去年の日記もしかるに持ち主に影響をもたらしておった。」
「その影響を受けないのは知らぬ間に『あちら側』の保護を受けているのやもしれません。真実が明らかになるまで、このまま閉じ込めておくのがよいかと思いますが。」
この男、さっきまで黙っていたと思ったら、どうしても私を敵として処理したいのだな。これでは真実薬を飲んで話した意味がない。
「そうじゃの。セブルスの言う通りじゃ。」
そう言ってダンブルドアは私に杖を向けた。
現実。
薄々、感じてはいたがこれは現実なのではないか。夢にしては五感で感じるものにリアリティを感じるのだ。縄の感覚、石の床の冷たさ、ゴブレットの中身のとろみ。そして、私を支える教授の腕のあたたかみと、嗅いだことのないような薬品の香り。
ゴブレットの中身を飲み干したことをスネイプが確認し、その場からゴブレットをさっと消した。
いよいよ尋問がはじまる。先ほど校長から真実を話すようすすめられた。しかし、これが現実だとするならば、いっそのこと真実薬で全てを話した方がいい。きっと私の立場では全てが都合のいい空想にしか思われないだろう。現状の囚われの身から脱するため、と腹を括って真実薬を飲んだ。
しかし、最終巻まで彼らの人生を読んできたサクラにとって、彼らはただの紙面のキャラクターと割り切ることはできなかった。とくに己の命を、人生を、たったひとりの女性に捧げた彼の生き方を誰かが考え出し、作り上げたものだとは語りたくない。しかし、この現状を打開する別の策を考えられるはずもない。
「さて、何から話していただこうか。」
スネイプの視線がサクラを値踏みするかのようにねっとりと纏わりつく。この状況を楽しんでいる様子はまさしく手段を選ばない『誇り高い』スリザリンの寮監だ。
「先ほどの質問をしよう。どうやってここに来た?なぜホグワーツを知っている?」
「日本から来ました。この指輪をはめたところで意識を失い、気づけば森の中にいました。ホグワーツについては私のいた場所では書物となっています。興味のある者でしたら、簡単に知ることができます。」
考える間もなく口からするすると言葉が溢れる。自分の口なのに勝手に動かされる感覚は不思議なものだ。
「マグルの間で魔法界のことが露見しているのか?」
スネイプは訝しげな表情をした。自分の作った薬に間違いはないはずという思いと、サクラの話す内容がにわかには信じられないという思いがせめぎ合っているのだろう。
「マグルといいますか、私の生きている世界には魔法界というものは存在しません。そしてその書物を書いた者も魔法界とは関わりのない人物です。故に誰かが魔法界、そしてホグワーツの情報を流したわけではありません。」
「ではお前の世界とこちらをつなげるのはその書物というわけか。その者がなぜ魔法界を書き著しているのかは分からないのか。」
これ以上は話したくない。
彼の運命が作者によって作り上げられたものだと己の口から告げたくない。これまでの彼の苦しみは全て虚構にあるなど、彼の生き方や苦労を否定するようだから。
「彼女の国では魔女や精霊は身近なものです。きっと民間伝承などから構想したのではないでしょうか。」
「つまり我らの世界はその者が構想したものであると?」
「ええ。」
気持ちとは裏腹に口からは真実だけが滑り落ちていく。
「…これまでの出来事も全て?」
「…はい。」
残酷な言葉を止めることができない。私の答えは、彼にとってリリーを救えなかったことが定められていた結末であったと同義である。これほど絶望する答えがあるだろうか。
表情こそ眉間が険しくなるだけであったが、一瞬体勢を崩し、後ろへ一歩下がった。
「すいません…。」
「なぜお主が謝る。儂らが飲ませた薬は真実しか語れぬ。ときに真実とは刃になるとは承知の上じゃ。」
「いいえ。私は自分が助かりたいがために、あなた方を傷つけると分かっていながら薬を飲んだのです。」
「…そこまで言うということは、過去の全てを知っているということかの。」
「この世界の全てではありません。私が知っているのはハリーに関わるものだけ。」
「では、その指輪はどう説明するのだ。闇の魔術がかけられた指輪を所持し、闇の陣営との関係を疑われても仕方あるまい。」
スネイプがサクラに問うた。先ほどの動揺を素早く隠し、さすが閉心術に長けた魔法使いだ。
「祖母は生前から美術品を収集していました。私はそこにあった1つを譲り受けました。なぜそのような代物があったかは分かりません。」
「お前の祖母が闇の陣営に与するものであった可能性も捨てきれまい。」
「セブルス。あの者がどんな理由であれマグルの手を借りるかの。」
「あの者…ということは、この指輪はヴォルデモートのものなのですか?」
「おそらく、そうじゃろう。そこから強力な闇の魔法を感じる。そのような物を作り出せるのは生憎この世界に1人しかおらん。」
確かにあれほどマグルを憎んでいる人物が自分の物を渡すはずないだろう。マルフォイ家や信用のおける部下たちのもとに置いておくのが自然である。
ならば、なぜ私の世界にヴォルデモートのものが存在しているのだろうか。
「なんらかの理由でこの世界と私の世界に繋がりができ、指輪が私の世界に渡ってきた、ということでしょうか。」
「やもしれん。姿現しに失敗した体はあちらに飛ばされると言うが、指輪が時空を超えていったということもあるのじゃろう。」
「偶然、私が指にはめたことで世界がつながってしまったのでしょうか?もしくは時空を超えて姿現しをさせる魔法はあるのですか?」
ここは大きな問題だろう。
これが意図的になされた魔法であるとすれば、関わっている私は無関係ではいられまい。校長は髭を撫で付け思案している。後ろ手になっている私の指に光る宝石をしばらくじっと見ていた。
「儂の知る限りそのような魔法は存在せぬ。それがポートキーである可能性もあるが、そのような代物を使うのは非常に危険なことじゃ。」
「そして、そのような代物を身につけ続けて正気を保っているこの者もなかなか稀有な存在でありましょうな。」
それまで私と校長の会話を静かに聞いていたと思ったら、教授が話しに加わった。
「たしかにの。去年の日記もしかるに持ち主に影響をもたらしておった。」
「その影響を受けないのは知らぬ間に『あちら側』の保護を受けているのやもしれません。真実が明らかになるまで、このまま閉じ込めておくのがよいかと思いますが。」
この男、さっきまで黙っていたと思ったら、どうしても私を敵として処理したいのだな。これでは真実薬を飲んで話した意味がない。
「そうじゃの。セブルスの言う通りじゃ。」
そう言ってダンブルドアは私に杖を向けた。