炎のゴブレット編
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スネイプのおかげであれほどつらかった体は回復し、仕事へと復帰することが出来るようになった。会う人会う人に体調を心配され、いつの間にかホグワーツでの居場所が出来ていたことに気がついた。庭掃除をしていれば、スプラウトが実習が終わった生徒たちに手伝いに回らせて、サポートをしてくれた。廊下掃除をしていれば、フリットウィックが呪文で手の届きにくい場所の掃除を代わりに『一瞬で』してくれた。図書館ではマダム・ピンスが負担の少ない業務を振り分けてくれたし、ハーマイオニーも内緒で書庫の整理を買って出てくれた。午後にはハグリットがお手製のケーキを届けてくれたり、考えられないほど手厚いサポートだ。…マダム・ポンフリーではなく、スネイプの看病というあり得ない事態に、皆が事態を大きく見過ぎている可能性は、なきにしもあらずだ…。それにしても……、
「……なんだか過保護な気もするわね。」
ハグリッドの大きなケーキを両手で抱えながら、厨房の方へ歩きながらサクラは独り言をこぼした。マダム・ピンスには早上がりさせてもらい、夕食まで時間がある。ならば、おやつにハグリットのケーキと厨房で紅茶を煎れて、ゆっくりするのもいい。そう思っての行動だった。
「過保護なものですか。」
鋭い声が背後から聞こえた。驚いて振り返ると、仁王立ちをしたマクゴナガルがこちらを見据えていた。あまりの威圧感に、自然と後ずさった。しかし、サクラの様子など気にも留めず、マクゴナガルはこちらへ歩を進めた。鼻先が触れそうなくらい、眉間に皺を寄せた厳しい顔が近づけられる。
「不逞の輩に襲われたとききました。セブルスによれば禁じられた呪文だったとか。」
周りに聞こえないよう小声ではあったが、あきらかに怒っている。
「真実を知っているのはダンブルドアと私だけですが、だからといって見過ごすわけにはいきませんよ。まさか、サクラ。あなた一人で危ない橋を渡っているのではありませんね?」
「いいえ、…まさか。」
『まだ』です、とはさすがに口が裂けても言えない。
「私にとっても今回の件は不意打ちでしたよ。」
「…あなたに何かあったらと思うと、…今回の事は、本当に心臓が止まるかと思いましたよ。」
厳しい表情をしていたマクゴナガルは、言いよどんだのち、心配そうな顔を向けた。いつでも、マクゴナガルはサクラを娘のように思ってくれている。厳しいながらも温かさのある言葉に、それを感じる。
「…あなたの勇気は私たちにとって、心強いものです。ですが、向こう見ずな行いによって得られるものは、私たちが必要とするものではありません。それは得るものより失うもののほうがはるかに多いからです。…サクラ、ハリーだけが大切な存在なのではありません。あなた自身も未来の世界で大切な存在なのですよ。」
マクゴナガルの温かい手がサクラの肩に優しく置かれた。この世界でサクラに大きな愛を与えてくれる存在は、本当に得がたいものだ。純粋に、そのような存在がいてくれることが心強く感じられる。
しかし、サクラも同じく、守りたい命があるのだ。
あの青年が、どうしてあんな男たちの手にかからなければならないのか。皆に愛され、今回の大会だけでなく、多くの場面で活躍するであろう人物だ。作品として見ていた時とは違い、ここで生きる者たちは、みなが血の通った人間であると、肌で感じる。これまでの関わりの中で、セドリックの人柄の良さはサクラにも感じることが出来る。だからこそ、放ってはおけないのだ。
あの好青年の命の灯火が消えかかっているなど、誰が想像できようか。知っているのは自分だけなのだ。…そして、それを食い止めることで後々の影響を最も受けないのはサクラだけであろう。この世界の人間では無い自分自身が、一番自由に動ける存在であるはずだ。…例え、危険を冒そうとも、私には戻る場所がある。ある…はずなのだ。
「……サクラ?どうしました?」
心配そうにこちらを窺うマクゴナガルの声で、はっと意識がこちらへ戻された。すぐに平静を取り戻し、愛想笑いをはりつけた。
「先生、ありがとうございます。…肝に銘じます。」
サクラの様子を不審に思いながら、マクゴナガルはそれ以上追及しようとはしなかった。そして、思い出したかのように、自身の懐から小さな瓶を取り出した。
「安らぎの水薬です。私や周りに頼ってくれれば良いのですが、弱音を吐かないあなたです。少しは役に立つと思いますよ。…出来ることならば使わずに済むようにしてほしいものですが。」
そういってサクラの手の中に瓶を渡した。それにサクラは苦笑いをした。
厨房で紅茶をいれ、先ほどもらった安らぎの水薬をポットに一滴垂らす。今夜はスネイプの治癒魔法もかけてもらえないのだ。嫌なことを思い出さなくてもいいように飲んでおこう。せわしなく厨房を走り回っている屋敷僕たちは、明らかにサクラを邪魔そうに思っている。視線から十分伝わる。そのため、さっさと厨房から退室すると、今度は、セドリックがハッフルパフ寮から出てきたところだった。お互いに、目が合う。
「こんにちは、セドリック。」
「…やあ、サクラさん。」
一拍おいてセドリックが答えた。それに違和感を覚えつつも、サクラは、セドリックに近づいた。
「もしかして忙しかったかしら?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ…まだ寝込んでいるのかと思っていたから驚いたんだ。」
「薬のおかげで回復したわよ。ああ、そうだ。ガーベラの花束、ありがとう。あれ、セドリックよね?」
「ああ、うん…そうだよ。気に入ってくれた?」
何だかしどろもどろなセドリックの様子が珍しく、サクラは、ずいっとセドリックの顔をのぞき込んだ。いつもならば、目を見て話すはずが、一度も目が合わないのだ。…何か気になることでもあるのだろうか。ふと、フレッドたちの話していた事が思い出される。
「……まさか、あなたまでスネイプ先生と何かあったとでも思ってる?」
サクラの言葉に、あちこち目線を泳がせていたのが、ぴたりと止まった。その様子にサクラの口から盛大にため息が漏れた。
「病人相手にあるわけないじゃない。…若い子たちって想像たくましいわね。」
あり得ない、と言ったサクラの様子に今度はセドリックが顔をのぞき込んだ。
「本当に『何も』なかったんだね?」
先ほどとは打って変わり、その気迫にサクラの方が驚かされる。
「え、ええ。薬を飲んで、眠っていただけ。」
サクラの説明に、セドリックが安心したように息をついた。
「それなら、いいんだ。サクラさん、今からお茶するの?」
「ハグリットからケーキをもらったの。少し休憩しようと思って。」
すると、セドリックはいつものように爽やかな笑みを添えて、サクラの持っていたポットをすっと取り上げた。
「僕もご一緒させていただけないかな。レディ。」
セドリックに連れられて、やってきたのは塔の8階であった。何の変哲も無い石壁に向かって、セドリックがなにやら唱えながら何度か、歩き回った。すると、木製のドアが現れた。…まさか、これは。
「あったりなかったりするんだけど、暖かいところでお茶にしたかったんだ。」
そう言って、ドアを開いて、サクラを招き入れた。部屋の中に入ると、暖炉の火が燃えさかり、暖色系の絨毯が幾重にもひかれた上には、重厚なソファーとローテーブル。そして、趣味の良いティーカップや食器類が並べられていた。まさに『お茶をするのに最適な部屋』だ。
「…必要の部屋。」
サクラのつぶやきにセドリックが答えた。
「サクラさんも知ってたんだね。…さあ、座って。」
促されたソファーに隣り合って座る。座り心地の良い弾力のあるソファだ。セドリックは、ケーキを切り分けて、皿に盛り付けてくれる。
「一人になりたかったときに、丁度見つけたんだ。願いによって部屋の内装が変わるみたいでね。ここならゆっくりできる。気に入ってくれた?」
ケーキが乗った皿を差し出してくれるのに「ありがとう」と返して、いただく。多くの人に囲まれて笑顔でいたセドリックにも、一人になりたい時があるのだな。…確かに、今は以前に比べるとはるかに多くの生徒がセドリックを囲んでいる。それだけではなく、取り巻きの外でもセドリックの一挙一動は見られているといってもいいだろう。普通の人間であれば、疲れてしまうのは無理は無い。
「ええ、とっても良い部屋ね。でも、私に知らせてもよかったの?一人になれる数少ない場所でしょう?」
「サクラさんは特別。」
含んだような微笑みが向けられ、胸がざわつく。しかし、その答えを探すようなことはするべきでは無い。大人としての理性がブレーキをかけた。
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。たまにお邪魔しちゃおうかしら。」
軽口をたたきながら、ポットの紅茶を注いでいく。琥珀色の液体が、白磁のカップのなかで輝いている。セドリックに片方のカップを渡し、自身もそれに口をつけた。わずかにだが、普段の紅茶と風味が変わっている気がするが、気になるほどでも無い。セドリックの方も、何か言うわけでもなく紅茶を嚥下した。
「サクラさんとこうしてお茶をしたのも、随分昔のことみたいに思えるな。」
「そうね……あのときはまだ、代表選手じゃなかったのよね。」
いよいよ彼に試練がやってくるのだ。そう思うと、自然と顔をうつむかせた。
「……やっぱり心配?」
窺うようにセドリックがこちらを見ている。大人としては、ここで笑顔のひとつでも見せてやらなければなるまい。不安と緊張でいっぱいなのはセドリックの方なのだ。
「セドリックが、いろんな本で調べたり、実践の練習をしているのを知ってるわ。だから、信じて応援するだけよ。」
そう言って、笑いかけるも、セドリックの表情は曇っていく。
「……サクラさん」
セドリックの手が、サクラの頬にのびた。あたたかな手のひらがサクラの頬を包んだ。…まるで大切なものに触れるように、そっと。
「そんな顔しないで。」
セドリックはサクラの頬を指先で優しく撫でる。そして、セドリックの瞳の中には眉を下げて、見つめるサクラがうつっていた。
「僕は大丈夫だよ。サクラさんが応援してくれるなら、絶対に乗り越えられる。だから…」
優しく微笑むセドリックの瞳に吸い込まれるように、互いの距離が縮まっていく。甘く柔らかな感触を味わうように、互いに瞳を閉じた。
「……なんだか過保護な気もするわね。」
ハグリッドの大きなケーキを両手で抱えながら、厨房の方へ歩きながらサクラは独り言をこぼした。マダム・ピンスには早上がりさせてもらい、夕食まで時間がある。ならば、おやつにハグリットのケーキと厨房で紅茶を煎れて、ゆっくりするのもいい。そう思っての行動だった。
「過保護なものですか。」
鋭い声が背後から聞こえた。驚いて振り返ると、仁王立ちをしたマクゴナガルがこちらを見据えていた。あまりの威圧感に、自然と後ずさった。しかし、サクラの様子など気にも留めず、マクゴナガルはこちらへ歩を進めた。鼻先が触れそうなくらい、眉間に皺を寄せた厳しい顔が近づけられる。
「不逞の輩に襲われたとききました。セブルスによれば禁じられた呪文だったとか。」
周りに聞こえないよう小声ではあったが、あきらかに怒っている。
「真実を知っているのはダンブルドアと私だけですが、だからといって見過ごすわけにはいきませんよ。まさか、サクラ。あなた一人で危ない橋を渡っているのではありませんね?」
「いいえ、…まさか。」
『まだ』です、とはさすがに口が裂けても言えない。
「私にとっても今回の件は不意打ちでしたよ。」
「…あなたに何かあったらと思うと、…今回の事は、本当に心臓が止まるかと思いましたよ。」
厳しい表情をしていたマクゴナガルは、言いよどんだのち、心配そうな顔を向けた。いつでも、マクゴナガルはサクラを娘のように思ってくれている。厳しいながらも温かさのある言葉に、それを感じる。
「…あなたの勇気は私たちにとって、心強いものです。ですが、向こう見ずな行いによって得られるものは、私たちが必要とするものではありません。それは得るものより失うもののほうがはるかに多いからです。…サクラ、ハリーだけが大切な存在なのではありません。あなた自身も未来の世界で大切な存在なのですよ。」
マクゴナガルの温かい手がサクラの肩に優しく置かれた。この世界でサクラに大きな愛を与えてくれる存在は、本当に得がたいものだ。純粋に、そのような存在がいてくれることが心強く感じられる。
しかし、サクラも同じく、守りたい命があるのだ。
あの青年が、どうしてあんな男たちの手にかからなければならないのか。皆に愛され、今回の大会だけでなく、多くの場面で活躍するであろう人物だ。作品として見ていた時とは違い、ここで生きる者たちは、みなが血の通った人間であると、肌で感じる。これまでの関わりの中で、セドリックの人柄の良さはサクラにも感じることが出来る。だからこそ、放ってはおけないのだ。
あの好青年の命の灯火が消えかかっているなど、誰が想像できようか。知っているのは自分だけなのだ。…そして、それを食い止めることで後々の影響を最も受けないのはサクラだけであろう。この世界の人間では無い自分自身が、一番自由に動ける存在であるはずだ。…例え、危険を冒そうとも、私には戻る場所がある。ある…はずなのだ。
「……サクラ?どうしました?」
心配そうにこちらを窺うマクゴナガルの声で、はっと意識がこちらへ戻された。すぐに平静を取り戻し、愛想笑いをはりつけた。
「先生、ありがとうございます。…肝に銘じます。」
サクラの様子を不審に思いながら、マクゴナガルはそれ以上追及しようとはしなかった。そして、思い出したかのように、自身の懐から小さな瓶を取り出した。
「安らぎの水薬です。私や周りに頼ってくれれば良いのですが、弱音を吐かないあなたです。少しは役に立つと思いますよ。…出来ることならば使わずに済むようにしてほしいものですが。」
そういってサクラの手の中に瓶を渡した。それにサクラは苦笑いをした。
厨房で紅茶をいれ、先ほどもらった安らぎの水薬をポットに一滴垂らす。今夜はスネイプの治癒魔法もかけてもらえないのだ。嫌なことを思い出さなくてもいいように飲んでおこう。せわしなく厨房を走り回っている屋敷僕たちは、明らかにサクラを邪魔そうに思っている。視線から十分伝わる。そのため、さっさと厨房から退室すると、今度は、セドリックがハッフルパフ寮から出てきたところだった。お互いに、目が合う。
「こんにちは、セドリック。」
「…やあ、サクラさん。」
一拍おいてセドリックが答えた。それに違和感を覚えつつも、サクラは、セドリックに近づいた。
「もしかして忙しかったかしら?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ…まだ寝込んでいるのかと思っていたから驚いたんだ。」
「薬のおかげで回復したわよ。ああ、そうだ。ガーベラの花束、ありがとう。あれ、セドリックよね?」
「ああ、うん…そうだよ。気に入ってくれた?」
何だかしどろもどろなセドリックの様子が珍しく、サクラは、ずいっとセドリックの顔をのぞき込んだ。いつもならば、目を見て話すはずが、一度も目が合わないのだ。…何か気になることでもあるのだろうか。ふと、フレッドたちの話していた事が思い出される。
「……まさか、あなたまでスネイプ先生と何かあったとでも思ってる?」
サクラの言葉に、あちこち目線を泳がせていたのが、ぴたりと止まった。その様子にサクラの口から盛大にため息が漏れた。
「病人相手にあるわけないじゃない。…若い子たちって想像たくましいわね。」
あり得ない、と言ったサクラの様子に今度はセドリックが顔をのぞき込んだ。
「本当に『何も』なかったんだね?」
先ほどとは打って変わり、その気迫にサクラの方が驚かされる。
「え、ええ。薬を飲んで、眠っていただけ。」
サクラの説明に、セドリックが安心したように息をついた。
「それなら、いいんだ。サクラさん、今からお茶するの?」
「ハグリットからケーキをもらったの。少し休憩しようと思って。」
すると、セドリックはいつものように爽やかな笑みを添えて、サクラの持っていたポットをすっと取り上げた。
「僕もご一緒させていただけないかな。レディ。」
セドリックに連れられて、やってきたのは塔の8階であった。何の変哲も無い石壁に向かって、セドリックがなにやら唱えながら何度か、歩き回った。すると、木製のドアが現れた。…まさか、これは。
「あったりなかったりするんだけど、暖かいところでお茶にしたかったんだ。」
そう言って、ドアを開いて、サクラを招き入れた。部屋の中に入ると、暖炉の火が燃えさかり、暖色系の絨毯が幾重にもひかれた上には、重厚なソファーとローテーブル。そして、趣味の良いティーカップや食器類が並べられていた。まさに『お茶をするのに最適な部屋』だ。
「…必要の部屋。」
サクラのつぶやきにセドリックが答えた。
「サクラさんも知ってたんだね。…さあ、座って。」
促されたソファーに隣り合って座る。座り心地の良い弾力のあるソファだ。セドリックは、ケーキを切り分けて、皿に盛り付けてくれる。
「一人になりたかったときに、丁度見つけたんだ。願いによって部屋の内装が変わるみたいでね。ここならゆっくりできる。気に入ってくれた?」
ケーキが乗った皿を差し出してくれるのに「ありがとう」と返して、いただく。多くの人に囲まれて笑顔でいたセドリックにも、一人になりたい時があるのだな。…確かに、今は以前に比べるとはるかに多くの生徒がセドリックを囲んでいる。それだけではなく、取り巻きの外でもセドリックの一挙一動は見られているといってもいいだろう。普通の人間であれば、疲れてしまうのは無理は無い。
「ええ、とっても良い部屋ね。でも、私に知らせてもよかったの?一人になれる数少ない場所でしょう?」
「サクラさんは特別。」
含んだような微笑みが向けられ、胸がざわつく。しかし、その答えを探すようなことはするべきでは無い。大人としての理性がブレーキをかけた。
「あら、嬉しいこと言ってくれるわね。たまにお邪魔しちゃおうかしら。」
軽口をたたきながら、ポットの紅茶を注いでいく。琥珀色の液体が、白磁のカップのなかで輝いている。セドリックに片方のカップを渡し、自身もそれに口をつけた。わずかにだが、普段の紅茶と風味が変わっている気がするが、気になるほどでも無い。セドリックの方も、何か言うわけでもなく紅茶を嚥下した。
「サクラさんとこうしてお茶をしたのも、随分昔のことみたいに思えるな。」
「そうね……あのときはまだ、代表選手じゃなかったのよね。」
いよいよ彼に試練がやってくるのだ。そう思うと、自然と顔をうつむかせた。
「……やっぱり心配?」
窺うようにセドリックがこちらを見ている。大人としては、ここで笑顔のひとつでも見せてやらなければなるまい。不安と緊張でいっぱいなのはセドリックの方なのだ。
「セドリックが、いろんな本で調べたり、実践の練習をしているのを知ってるわ。だから、信じて応援するだけよ。」
そう言って、笑いかけるも、セドリックの表情は曇っていく。
「……サクラさん」
セドリックの手が、サクラの頬にのびた。あたたかな手のひらがサクラの頬を包んだ。…まるで大切なものに触れるように、そっと。
「そんな顔しないで。」
セドリックはサクラの頬を指先で優しく撫でる。そして、セドリックの瞳の中には眉を下げて、見つめるサクラがうつっていた。
「僕は大丈夫だよ。サクラさんが応援してくれるなら、絶対に乗り越えられる。だから…」
優しく微笑むセドリックの瞳に吸い込まれるように、互いの距離が縮まっていく。甘く柔らかな感触を味わうように、互いに瞳を閉じた。