炎のゴブレット編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
眼前には金色の稲穂が広がり、風に揺られている。暖かな日だまりに包まれ、体から力が抜けていく。見たことも無い光景であるにも関わらず、サクラはその心地よさに身を任せていた。頭の隅で、これは夢であると認識している。しかし、この心地よさにずっと身を任せていたい。そう思うほどに居心地のいい空間だった。風に揺れる稲穂のかさかさとふれあう音がする。それに混じって優しげな男の声がする。まるで眠る赤子を優しく揺り起こすような、心地のよい声がサクラの名前を呼んでいた。…誰だろう。かすむ視界にうつる人物にピントを合わせていく。それと同時に、こぽこぽと湯を沸かす音や、薬草の香りがサクラの五感に訴えかけた。
「目覚めたか。」
目の前の人物は普段通りの真っ黒なローブに身を包み、こちらを見下ろしていた。この男だったか…と夢の中の心地よさは一気に消え失せた。そうだ、先ほど、痛む体を抱えてこの男の部屋まで何とかたどり着いたのだった。体の痛みは引いてきている。この薬草の匂いも、サクラを治療するために煎じたのだろう。体のあちこちに軟膏のようなものを塗られたような跡があった。
「ありがとうございます…医務室には行けなかったもので」
「磔の呪文など見せたらマダムポンフリーが大騒ぎするであろうな。」
「なぜその呪文が使われたと分かったのです?」
「先ほど貴様の体に残った魔法の痕跡をたどったのだ。それであの男は誰だ?」
スネイプの問いにサクラは答えた。
「これ以上、首を突っ込むなと脅されました。私の名前を知っていましたし、学校内の事情にも詳しいようです。」
「『奴ら』か?」
スネイプの問うのは闇の陣営のことだろう。
「確実とは言えませんが、その可能性が高いでしょうね。『汚れた血』だとか、あなたのことを『セブルス』と呼んでいましたし…。」
「なぜ我が輩の名が出てくる?」
あのときの言葉が、まとわりつくような視線が思い出される。不愉快な気持ちにふたをしてサクラは何でも無い事のように話した。
「私があなた方教職員を惑わしているそうですよ。…敵ながら面白い冗談ですよね。」
そう言って小さく笑うと、スネイプは、「ほう、だから…」と途中で言葉を切った。何が続いたのか分からないが、すぐに話題を変えた。
「私の存在が向こうにとって不都合になると、大きく見ていただいているようで光栄です。このまま動けば、またコンタクトを取ってくる可能性は大いにあるでしょう。そこで動かぬ証拠をとらえれば、皆が安全な方法でウォルデモート側の弱体化に繋げられるかもしれません。」
今回の件でサクラの行動に変化が見られなければ、次に手を伸ばしてくるのは最も近しい人物、クラウチJr.だろう。学校内に入り込んでいるクラウチJr.をアズカバン送りに出来れば、そこからバグマン氏を含め魔法省にはびこる闇陣営の関係者を芋づる式に裁きの前に引きずり出せる。…これならば誰も死なずとも事態を収拾できる。サクラが頭の中で思案を巡らせていると、大きな手のひらが額に置かれ、そのままベッドへと体を沈み込まされた。今更ながら、寝かされているベッドがスネイプの物であると気付く。自室よりも大きなベッドは黒を基調とした木材で作られ、フットカバーも含め、ポイントカラーは全て黒のモノクロであった。かけられた布団からは、スネイプのローブから香る薬草と、かすかに花のような花の香りがした。
「薬で動けるように感じているのかもしれんが、お前にかけられた呪文は禁じられた呪文だ。その分、体への負担が大きい。しばらく安静にしていろ。我が輩からダンブルドアに伝えておく。」
普段からは想像もできない気遣いのしように、サクラは面食らった。いつものスネイプであれば、手当をすればすぐさま部屋を出されるだろうと予想していただけに、自身のベッドを貸して休んでいろと言うなんて。にわかには信じがたい。
「いえ、部屋に戻って明日の仕事の準備もしたいですし、お暇します。」
サクラがそう言うと、スネイプは渋い表情をした。
「先ほど我が輩が言った言葉が分からなかったか?ならば分かりやすく説明してやろう。『痛み止めが効いているだけで、貴様の体は内部が損傷して動かせば死ぬ。大人しくしていろ。』理解したかね?」
眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌そうな表情を隠すこともしない。盛大なため息を吐いてこちらを見た。
「仕事も休め。ダンブルドアからフィルチとマダムピンスに説明するよう話しておく。…さて我が輩は校長室に行ってこよう。分かっていると思うが、そこから一歩でも動けば…」
そういうスネイプは片方の眉を動かして、「分かるな?」と暗に伝えた。サクラも今回ばかりは大人しく頷き、布団をかぶった。
自室をでて、校長室へ向かいながら、スネイプは先ほど、サクラにかけられた呪文を露わにした時のことを思い出した。「アパレ・ヴェスティジウム」と唱えた瞬間、金色の粉が舞い上がり、その中で浮かび上がったサクラと、覆い被さるように襲いかかる男の姿。粘着質な視線と手の動きを見て、すぐにサクラが磔の呪文だけで傷つけられたのではないと分かった。無意識に奥歯をぎり、とかみしめた。言いようのない不快感が胸の中を渦巻いた。昔、リリーが忌々しいポッターに言い寄られていたのを見ていたときのような、あのときの不快感に似ていた。しかし、すぐに自身の感情を心の隅に押しやって、サクラの傷の手当てを始めた。案の定ブラウスのボタンはいくつか取れかかっていたし、タイツも太もものあたりは破れたようになっていた。一見して外傷はないが、体の内部はかなり傷つけられている。治癒魔法と薬草を塗布してやる。温めた軟膏を体に塗ってやると、先ほどまで痛みに苦しそうな表情をしていたのが、和らいでいる。
「サクラ……」
自身でも驚くほど柔らかい声で女の名を呼んだ。すると、サクラはうっすらと瞳を開けた。意識を取り戻したサクラは先ほどの状況を説明した。そこで、我が輩の名が出てきたことも。
「なぜ我が輩の名が出てくる?」
そう聞くと、サクラは少し顔をしかめながらも、間を置いて答えた。
「私があなた方教職員を惑わしているそうですよ。…敵ながら面白い冗談ですよね。」
そう言って自嘲気味に小さく笑った。
「ほう、だから…」
『俺にも施しをしろ。』とでも言ったのか。相手の男に見覚えは無かったが、闇の陣営の一人なのだろう。はらわたが煮えくりかえるが、今のこやつにそう続けるのは酷だろう、と途中で言葉を切った。
「私の存在が向こうにとって不都合になると、大きく見ていただいているようで光栄です。このまま動けば、またコンタクトを取ってくる可能性は大いにあるでしょう。そこで動かぬ証拠をとらえれば、皆が安全な方法でウォルデモート側の弱体化に繋げられるかもしれません。」
自身の身を顧みない発言に内心頭を抱えた。『皆』という中には、おそらくサクラ自身は入っていないのだろう。自身でさえ駒のように考えるところに、あの老年の魔法使いの姿が重ねられる。アイスブルーの瞳で人の心を見透かし、最も効果的な一手を打つのがあの校長だ。しかし、本人は気付いていないのだろうが、気丈に振る舞うサクラの体は震えており、理性で押さえつけられている心の傷は叫び声を上げているのだ。助けて、つらい、と吐き出さないのがかえって辛そうに思える。手のひらをサクラの額におき、そのままベッドへと体を沈み込ませた。
「薬で動けるように感じているのかもしれんが、お前にかけられた呪文は禁じられた呪文だ。その分、体への負担が大きい。しばらく安静にしていろ。我が輩からダンブルドアに伝えておく。」
サクラは面食らったように、呆けた顔をした。いつもの自身であれば、手当をすればすぐさま部屋を出すだろう。向こうもそう予想していただけに、驚いているのかもしれない。その驚きで、サクラの震えは収まったようだった。そして、改めて動かないよう釘をさし、部屋を後にしたのだった。
校長室へ向かう途中、サクラの部屋の前で一人の生徒がたたずんでいることに気がついた。ブラウンの髪にすらりとした背丈の男子生徒。
「セドリック、ここで何をしている?」
「ああ、スネイプ先生。」
こんにちは、と礼儀正しく会釈して挨拶するのはまさに理想の好青年だ。あの落ちこぼれハッフルパフでも優秀な生徒で、クィディッチの活躍もめざましい。非の打ち所のない生徒だ。教師としては素晴らしいと思える人材である。
「サクラさんの具合が悪いと聞いたのでお見舞いに来たのですが、不在のようで…」
手にしていたのはオレンジを基調とした花束で、まさにこの青年のような華やかで…なんとも『趣味のいい』見舞いの品だ。
「我が輩のもとで看病している。我が輩から本人に渡してやろう。」
そう答えると、セドリックの表情が、ぴし、っと固まった。
「えっと…先生の自室で看病されているのですか?」
セドリックの様子に口端がつり上がった。
「ああ、我が輩にしか診せたくないそうでな。見舞いに行ってもいいが、今は動けないだろう。」
セドリックはその言葉に明らかに落胆した様子だった。
「そう…でしたか。」
小さくつぶやき、セドリックはサクラの部屋の前から離れた。そのまま去ろうとする後ろ姿に声をかけた。
「その花束はいいのか?」
「…はい、いま尋ねても迷惑だと思うので、…失礼します。」
教師としてはセドリックは素晴らしい生徒だ。しかし、個人的には鼻持ちならない男だ。もし、同じ時代に学生としていたら、絶対に関わらない人種の生徒だ。全てを持っている男…ならばひとつくらい障害があってもいいではないか。
「目覚めたか。」
目の前の人物は普段通りの真っ黒なローブに身を包み、こちらを見下ろしていた。この男だったか…と夢の中の心地よさは一気に消え失せた。そうだ、先ほど、痛む体を抱えてこの男の部屋まで何とかたどり着いたのだった。体の痛みは引いてきている。この薬草の匂いも、サクラを治療するために煎じたのだろう。体のあちこちに軟膏のようなものを塗られたような跡があった。
「ありがとうございます…医務室には行けなかったもので」
「磔の呪文など見せたらマダムポンフリーが大騒ぎするであろうな。」
「なぜその呪文が使われたと分かったのです?」
「先ほど貴様の体に残った魔法の痕跡をたどったのだ。それであの男は誰だ?」
スネイプの問いにサクラは答えた。
「これ以上、首を突っ込むなと脅されました。私の名前を知っていましたし、学校内の事情にも詳しいようです。」
「『奴ら』か?」
スネイプの問うのは闇の陣営のことだろう。
「確実とは言えませんが、その可能性が高いでしょうね。『汚れた血』だとか、あなたのことを『セブルス』と呼んでいましたし…。」
「なぜ我が輩の名が出てくる?」
あのときの言葉が、まとわりつくような視線が思い出される。不愉快な気持ちにふたをしてサクラは何でも無い事のように話した。
「私があなた方教職員を惑わしているそうですよ。…敵ながら面白い冗談ですよね。」
そう言って小さく笑うと、スネイプは、「ほう、だから…」と途中で言葉を切った。何が続いたのか分からないが、すぐに話題を変えた。
「私の存在が向こうにとって不都合になると、大きく見ていただいているようで光栄です。このまま動けば、またコンタクトを取ってくる可能性は大いにあるでしょう。そこで動かぬ証拠をとらえれば、皆が安全な方法でウォルデモート側の弱体化に繋げられるかもしれません。」
今回の件でサクラの行動に変化が見られなければ、次に手を伸ばしてくるのは最も近しい人物、クラウチJr.だろう。学校内に入り込んでいるクラウチJr.をアズカバン送りに出来れば、そこからバグマン氏を含め魔法省にはびこる闇陣営の関係者を芋づる式に裁きの前に引きずり出せる。…これならば誰も死なずとも事態を収拾できる。サクラが頭の中で思案を巡らせていると、大きな手のひらが額に置かれ、そのままベッドへと体を沈み込まされた。今更ながら、寝かされているベッドがスネイプの物であると気付く。自室よりも大きなベッドは黒を基調とした木材で作られ、フットカバーも含め、ポイントカラーは全て黒のモノクロであった。かけられた布団からは、スネイプのローブから香る薬草と、かすかに花のような花の香りがした。
「薬で動けるように感じているのかもしれんが、お前にかけられた呪文は禁じられた呪文だ。その分、体への負担が大きい。しばらく安静にしていろ。我が輩からダンブルドアに伝えておく。」
普段からは想像もできない気遣いのしように、サクラは面食らった。いつものスネイプであれば、手当をすればすぐさま部屋を出されるだろうと予想していただけに、自身のベッドを貸して休んでいろと言うなんて。にわかには信じがたい。
「いえ、部屋に戻って明日の仕事の準備もしたいですし、お暇します。」
サクラがそう言うと、スネイプは渋い表情をした。
「先ほど我が輩が言った言葉が分からなかったか?ならば分かりやすく説明してやろう。『痛み止めが効いているだけで、貴様の体は内部が損傷して動かせば死ぬ。大人しくしていろ。』理解したかね?」
眉間に皺を寄せて明らかに不機嫌そうな表情を隠すこともしない。盛大なため息を吐いてこちらを見た。
「仕事も休め。ダンブルドアからフィルチとマダムピンスに説明するよう話しておく。…さて我が輩は校長室に行ってこよう。分かっていると思うが、そこから一歩でも動けば…」
そういうスネイプは片方の眉を動かして、「分かるな?」と暗に伝えた。サクラも今回ばかりは大人しく頷き、布団をかぶった。
自室をでて、校長室へ向かいながら、スネイプは先ほど、サクラにかけられた呪文を露わにした時のことを思い出した。「アパレ・ヴェスティジウム」と唱えた瞬間、金色の粉が舞い上がり、その中で浮かび上がったサクラと、覆い被さるように襲いかかる男の姿。粘着質な視線と手の動きを見て、すぐにサクラが磔の呪文だけで傷つけられたのではないと分かった。無意識に奥歯をぎり、とかみしめた。言いようのない不快感が胸の中を渦巻いた。昔、リリーが忌々しいポッターに言い寄られていたのを見ていたときのような、あのときの不快感に似ていた。しかし、すぐに自身の感情を心の隅に押しやって、サクラの傷の手当てを始めた。案の定ブラウスのボタンはいくつか取れかかっていたし、タイツも太もものあたりは破れたようになっていた。一見して外傷はないが、体の内部はかなり傷つけられている。治癒魔法と薬草を塗布してやる。温めた軟膏を体に塗ってやると、先ほどまで痛みに苦しそうな表情をしていたのが、和らいでいる。
「サクラ……」
自身でも驚くほど柔らかい声で女の名を呼んだ。すると、サクラはうっすらと瞳を開けた。意識を取り戻したサクラは先ほどの状況を説明した。そこで、我が輩の名が出てきたことも。
「なぜ我が輩の名が出てくる?」
そう聞くと、サクラは少し顔をしかめながらも、間を置いて答えた。
「私があなた方教職員を惑わしているそうですよ。…敵ながら面白い冗談ですよね。」
そう言って自嘲気味に小さく笑った。
「ほう、だから…」
『俺にも施しをしろ。』とでも言ったのか。相手の男に見覚えは無かったが、闇の陣営の一人なのだろう。はらわたが煮えくりかえるが、今のこやつにそう続けるのは酷だろう、と途中で言葉を切った。
「私の存在が向こうにとって不都合になると、大きく見ていただいているようで光栄です。このまま動けば、またコンタクトを取ってくる可能性は大いにあるでしょう。そこで動かぬ証拠をとらえれば、皆が安全な方法でウォルデモート側の弱体化に繋げられるかもしれません。」
自身の身を顧みない発言に内心頭を抱えた。『皆』という中には、おそらくサクラ自身は入っていないのだろう。自身でさえ駒のように考えるところに、あの老年の魔法使いの姿が重ねられる。アイスブルーの瞳で人の心を見透かし、最も効果的な一手を打つのがあの校長だ。しかし、本人は気付いていないのだろうが、気丈に振る舞うサクラの体は震えており、理性で押さえつけられている心の傷は叫び声を上げているのだ。助けて、つらい、と吐き出さないのがかえって辛そうに思える。手のひらをサクラの額におき、そのままベッドへと体を沈み込ませた。
「薬で動けるように感じているのかもしれんが、お前にかけられた呪文は禁じられた呪文だ。その分、体への負担が大きい。しばらく安静にしていろ。我が輩からダンブルドアに伝えておく。」
サクラは面食らったように、呆けた顔をした。いつもの自身であれば、手当をすればすぐさま部屋を出すだろう。向こうもそう予想していただけに、驚いているのかもしれない。その驚きで、サクラの震えは収まったようだった。そして、改めて動かないよう釘をさし、部屋を後にしたのだった。
校長室へ向かう途中、サクラの部屋の前で一人の生徒がたたずんでいることに気がついた。ブラウンの髪にすらりとした背丈の男子生徒。
「セドリック、ここで何をしている?」
「ああ、スネイプ先生。」
こんにちは、と礼儀正しく会釈して挨拶するのはまさに理想の好青年だ。あの落ちこぼれハッフルパフでも優秀な生徒で、クィディッチの活躍もめざましい。非の打ち所のない生徒だ。教師としては素晴らしいと思える人材である。
「サクラさんの具合が悪いと聞いたのでお見舞いに来たのですが、不在のようで…」
手にしていたのはオレンジを基調とした花束で、まさにこの青年のような華やかで…なんとも『趣味のいい』見舞いの品だ。
「我が輩のもとで看病している。我が輩から本人に渡してやろう。」
そう答えると、セドリックの表情が、ぴし、っと固まった。
「えっと…先生の自室で看病されているのですか?」
セドリックの様子に口端がつり上がった。
「ああ、我が輩にしか診せたくないそうでな。見舞いに行ってもいいが、今は動けないだろう。」
セドリックはその言葉に明らかに落胆した様子だった。
「そう…でしたか。」
小さくつぶやき、セドリックはサクラの部屋の前から離れた。そのまま去ろうとする後ろ姿に声をかけた。
「その花束はいいのか?」
「…はい、いま尋ねても迷惑だと思うので、…失礼します。」
教師としてはセドリックは素晴らしい生徒だ。しかし、個人的には鼻持ちならない男だ。もし、同じ時代に学生としていたら、絶対に関わらない人種の生徒だ。全てを持っている男…ならばひとつくらい障害があってもいいではないか。