炎のゴブレット編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
週末のホグズミードはホグワーツ生だけでなく、ボーバトンやダームストラングの生徒も混じっており、かなりの賑わいを見せていた。サクラの両脇にはフレッドとジョージが並んで歩いている。なぜ双子と一緒に行動しているのか…。
時は少しさかのぼる。週末のホグズミードでは生徒だけでなく、教師陣の中にも休日を楽しむ者もいるのだ。サクラもその中の一人だ。いくらかこちらの世界に慣れ、買い出しに足を運んだこともある。原作では生徒たちの興味がある店しか紹介されていないが、実は『三本の箒』の他にも大人も楽しめるパブがあるのだ。
第一の課題が始まるこの時期は、原作でも大きな出来事は起こらなかったはずだ。スネイプとの一件以来、二人で会わないよう気を遣いながら仕事をするのも気疲れするのだ。あんなことがあって、どうやって顔を合わせればいいのか正直わからない。だから食事の時間もずらして、会わないように細心の注意を払って生活している。そんなことを続けていれば気も滅入ってくるのは当然のことである。たまには、休日に軽く一杯やったってバチはあたらないだろう。
先に教師陣は生徒を送り出してから、希望する者は各々ホグズミード村へと向かった。そこにはハグリッドとムーディが談笑しながら歩く姿も見られた。おおかた、危険生物の話で盛り上がっているのだろうが、そこに混じる気は無かった。マクゴナガルはホグズミードで頭痛の種を増やすより、静かに過ごしたいと自室に戻っていったし、女性陣でホグズミードに向かうのはサクラくらいであった。もともと一人で店に行くのは躊躇しない。むしろ、穴場をみつけて一人楽しむことを思うと自然と足取りが軽やかになった。
ホグズミードに到着すると、多くの人で賑わっていた。サクラはメインストリートから少し外れた方へと足を伸ばした。いくらか落ち着いた雰囲気の路地は、それに合わせて価格帯も少しお高めな店が建ち並ぶ。高い、といっても子供の『お小遣い』の範囲の話だ。現代でいうところの居酒屋や、レストランが建ち並ぶ通りのようなイメージだ。店先にはその店ごとにメニュー板が置かれ、それを吟味しながら路地を歩いて行く。少しすると、気になる店を見つけた。テラス席もあり、店内はオレンジの照明で照らされ、落ち着いた色合いの家具でそろえられたパブだ。店内の様子も落ち着いた大人が数名食事を楽しんでいる。ここならば女一人でも大丈夫だろう。しかも、メニュー板をみると、ランチメニューもありお手頃だ。なんと言っても、地方のアルコールが飲み比べられるのを謳い文句にしているのがサクラの心を引き寄せた。
店内に入ると、オレンジのランプの明かりに照らされて、リキュールの瓶や天井からつるされるグラスが光っている。暖かな室内はきのぬくもりも感じられ、通された一人がけのソファーはずっしりと体を包み込んでくれる。どのテーブルも、道行く人を眺めることが出来るよう、通りに向けて配置されている。開放感がありながらも、ゆったりできる店だ。初めて入ったにしては当たりだったのでは、とサクラは運ばれてくる料理に期待を込めた。運ばれてきたプレートには熱々のソーセージとミートパイが湯気を立て、ほくほくのマッシュポテトが添えられていた。ハーフサイズで頼んだビールは2種類で、「ビター」と呼ばれる飴色のビールと、フルーツビールといわれるラズベリーを加えたルビー色のビールだ。ビターは食事に合わせたようにほどよい苦みと、独特の風味がある。味の濃いミートパイにマッチして、食が進む。
こんな風に何も考えずゆっくり食事をするのはいつぶりだろうか。ほうっと息をついて、道行く人たちを眺める。食後に出されたフルーツビールにちびちびと口をつけながら、ゆったりと一人の時間を楽しむ。通りには色とりどりのローブの魔法使いが行き交い、服装以外は現代で見慣れた光景である。気持ちよくアルコールが回ってきたところで、そろそろホグワーツに戻ろうと腰を上げた。いくらサクラが教師でなくとも、アルコールの匂いをさせながら生徒と帰るのはいかがなものか。皆が帰宅する前にさっさと帰ろうと、店を後にした。
肌寒い風にコートを首まで引き寄せて、大通りへと戻る。案の定、生徒たちはメインストリートの奥まで言っているようで、誰かに会うこともなさそうだ。そう思い、ホグワーツへと進行方向へ体を向けたときだった。
「昼から飲むなんてサクラさんもやるじゃーん。」
ぬっと、横から顔を出したフレッドとジョージに面食らってしまう。
「なんでこんなところに…。」
「「サクラさんの姿が見えたから。」」
とあっけらかんという双子に深く追求はすまい。
「ああ、そう。…それじゃ私はホグワーツへ戻るから、休日を楽しんで。」
何事も無かったかのように背を向けたサクラを双子は両脇から腕を組んで阻止した。
「せっかく会えたのも運命なんだし」
「俺たちと休日楽しもうよ」
面倒なのに絡まれたな、と内心で思うも、こんな『いい笑顔』の二人からは逃れられそうにないだろう、第六感がそう訴えかけた。
その後は、色々なお店に連れ回される羽目になった。いたずら用品の店や、お菓子の店。二人が好きそうなポップな店は生徒の数も多かった。ごった返す若者の中でこんな大人が混じってもいいのだろうか、と一抹の不安を覚えたものの、双子は気にしないとでも言うようにサクラをあちこちへ連れて行った。連れ回されたものの、普段は行かないような場所は純粋に楽しくもある。年甲斐もなく、双子と同じように笑い合ってしまうのも、アルコールのせいだろう。
ひとしきり楽しんだ後で、三人で「3本の箒」へと入った。この頃、気にかかることもあったが久しぶりに心から楽しめた。双子にはバタービールの一杯ぐらいおごってもいいかもしれない。と、内心思いながら店に入って、席へ着く。すると、ジョージが「おい、見てみろよ。」と顎で向こうのテーブルを指した。その先には鰐皮のバッグを持った厚化粧の女と、もう一人男がいた。フレッドは、「ああ、」と分かったように頷いた。
「リータ スキーターか。」
「また第一の課題で記事でも書くつもりなんだろうな。」
「…あの人、日刊予言者新聞の人?」
遠目だからわかりにくいが、確かに、あんなケバい…派手な女性だった気がする。
「『かわいそうな男の子』の記事の次は一体何を書くんだか。」
「『噂の女の子と密会?!愛をはぐくむ!』とか?」
と二人はいやそうな顔で話した。
「あなたたち、ゴシップは嫌いな口なのかしら。」
そう問うと、二人は顔を見合わせて、すこし間を置いて答えた。
「そりゃ、面白い記事はすきだよ。」
「楽しめる分にはね。」
「「だが、あの記事は弟の友人を傷つけるだろ。」」
「それに、俺たちのチームメイトでもある。」
フレッドがそう言い、ジョージがウインクしながら「俺たち仲間思いだからさ。」とサクラに言った。
軽く見える二人も、なかなかに仲間を大切にするのだ。最後には命をかけてハリーを守る子たちなのだ。リータスキーターを快く思わないのは当然だ。
リータスキーターは連れの男と共に席を立ち、店を後にしていった。それと入れ違いでハグリッドとムーディが店内へと入ってきた。それをみて、サクラは自然に席を立ち化粧室へと向かった。フレッドとジョージには悪いが、しばらく身を隠した後、お暇させてもらうつもりだ。狭い通路を化粧室へと向かうが、化粧室の扉を開けたところで、見知らぬ男に腕を掴まれた。
「サクラ ヒナタだな?」
疑問で問いかけつつも、断定したような物言いで、男はサクラを見下ろしている。
「人違いです。」
「いいや、さっきサクラと呼ばれていた。ホグワーツで東洋人の職員はお前だけだ。」
随分、ホグワーツの内部事情に詳しい。大声をだせば、すぐに人は飛んでくるだろう。
「声を出そうが、誰も聞いていない。聞こえないようにしてある。」
見透かしたようにいう男に化粧室の隅に追いやられる。密室で男と二人。男の高圧的な態度に、言いようのない恐怖がサクラを襲った。
「お金ならあげます。…離してください。」
「そんなものいらない。」
壁越しにさらに距離を縮められ、動くことさえかなわない。お金はいらない。ということは…最悪の想像が頭の中を駆け巡った。
「帰りが遅いと、私の連れが怪しみますよ。」
「ふん、すぐ済む。」
「クルーシオ」
その言葉を聞いた瞬間、全身がきしむような痛みと息苦しさに襲われた。痛みに悲鳴をあげて身をよじるも、苦しさはどんどん増すばかりだ。相手の男はサクラの悲鳴に嘲笑いながら、杖を向け続けた。
「汚れた血が余計な首を突っ込むからだ。本当はここで殺してやりたいところなんだがな。色々と問題があるのだ。私の慈悲深さに感謝するといい。」
痛い、苦しい、…いっそ殺して――
そう思ってしまうほどの激痛に涙があふれる。苦しさに口をはくはくと動かしているサクラの姿に男はさらに笑みを深めた。
「別の苦しみを与えてやってもいいのだが…ああ、東洋人は珍しいのだ。お前が、大人しくしていると約束するならば、いい思いをさせてやるぞ。」
男がサクラの足の間に自身の足をねじ込む。いつものフレアスカートは抵抗することも出来ず、すぐに男の足を挟み込んでしまう。男は抵抗できないサクラに気をよくしたのか、スカートの中に手を這わせてきた。…もう、だめだ。自由に動かせない自身の体で、抵抗もままならない。男の手が肌をなぞる度に粟立つような反応を見せる体に、さらに嫌悪感が増す。
「セブルスにもその体で媚び、あの死に損ないにも媚びをうっているのだろう?次は私に命乞いをするのだ。」
ブラウスに手がかかり、はだけさせられる。それを隠そうとするが、両手は拘束されたようにびくともしない。しかし、苦しさはいくらか和らぎ、話せるようにはされたようだ。
「あなたは誰?私はなにも邪魔なんてしていない。ただの管理人よ。」
「お前の存在が目障りなのだ。ホグワーツを去れ。約束すれば命は見逃してやろう。」
サクラが答えあぐねている間にも、ブラウスからのぞく胸元に手が伸びる。ここで穢されたくはない。しかし、下手に約束をすることも出来ない。男の指が奥を暴く前に、ドアが乱暴にたたかれる音がした。
「サクラさん大丈夫?」
「酔っちゃったの?もう帰る?」
心配そうなフレッドとジョージの声に男が手を止めた。そして、口だけで「答えろ。」と命じられる。
「……ええ、ちょっと気分が悪くて。すぐ出るわ!」
そう言うと、男はいらついたように頬を思い切りたたいた。大きな音にフレッドとジョージは「「何事!?」」と騒ぎはじめた。
(下手に動けば命は無いと思え。お前の命は私が握っている)
男はサクラにしか聞こえない声で言い捨てると、その場から姿を消した。サクラはすぐさま乱れた服を整え、扉を開けた。全身は痛みで悲鳴を上げているが、二人にそれを悟られるわけにはいかない。持ち前の愛想笑いで二人に笑いかける。
「ごめんなさい、ひさしぶりに酔ったみたい。」
「すごい音したけど、」「ほっぺた腫れてるよ?」
「うん、気合い入れようと思って。」
「何の気合いだよ!」と、おかしそうに笑う二人に、連れられ、ホグズミードを後にした。ふらふらな足取りも酔ったことにして、二人に脇を支えられながら帰路についた。
ホグワーツに着いたところで、サクラは二人と別れた。彼らの同級生も帰ってきたようで、双子はそちらに話をしに行くということで、これ幸いと、部屋に戻ると分かれたのだ。しかし、この痛みでは、明日からの仕事に支障がでてしまう。かといって、マダムポンフリーにみせれば余計な心配をかけてしまう。…どうしたものか。考えあぐねて出た答えは、今一番、会いたくない人物だった。
地下室の奥の部屋を4回ノックする。双子と別れてから、気が抜けたのか、全身の痛みが舞い戻ったあのように体がぎしぎしと痛む。歩く度に体の中が熱を持ったように熱く、刺さるように痛い。痛みに頭がもうろうとしながらも、ここではお決まりのノックが出来たようだ。間を開けずに、黒づくめの男が部屋から現れた。
「休日に突然押しかけるとは、随分と『お気遣い』いただいているようですな。」
嫌みでさえも、右から左へ抜けていく。もはや体に力が入らない。ふらふらな様子のサクラにスネイプは眉を寄せた。そして、ふっと意識を失ったサクラの体をその腕で抱き留めた。
時は少しさかのぼる。週末のホグズミードでは生徒だけでなく、教師陣の中にも休日を楽しむ者もいるのだ。サクラもその中の一人だ。いくらかこちらの世界に慣れ、買い出しに足を運んだこともある。原作では生徒たちの興味がある店しか紹介されていないが、実は『三本の箒』の他にも大人も楽しめるパブがあるのだ。
第一の課題が始まるこの時期は、原作でも大きな出来事は起こらなかったはずだ。スネイプとの一件以来、二人で会わないよう気を遣いながら仕事をするのも気疲れするのだ。あんなことがあって、どうやって顔を合わせればいいのか正直わからない。だから食事の時間もずらして、会わないように細心の注意を払って生活している。そんなことを続けていれば気も滅入ってくるのは当然のことである。たまには、休日に軽く一杯やったってバチはあたらないだろう。
先に教師陣は生徒を送り出してから、希望する者は各々ホグズミード村へと向かった。そこにはハグリッドとムーディが談笑しながら歩く姿も見られた。おおかた、危険生物の話で盛り上がっているのだろうが、そこに混じる気は無かった。マクゴナガルはホグズミードで頭痛の種を増やすより、静かに過ごしたいと自室に戻っていったし、女性陣でホグズミードに向かうのはサクラくらいであった。もともと一人で店に行くのは躊躇しない。むしろ、穴場をみつけて一人楽しむことを思うと自然と足取りが軽やかになった。
ホグズミードに到着すると、多くの人で賑わっていた。サクラはメインストリートから少し外れた方へと足を伸ばした。いくらか落ち着いた雰囲気の路地は、それに合わせて価格帯も少しお高めな店が建ち並ぶ。高い、といっても子供の『お小遣い』の範囲の話だ。現代でいうところの居酒屋や、レストランが建ち並ぶ通りのようなイメージだ。店先にはその店ごとにメニュー板が置かれ、それを吟味しながら路地を歩いて行く。少しすると、気になる店を見つけた。テラス席もあり、店内はオレンジの照明で照らされ、落ち着いた色合いの家具でそろえられたパブだ。店内の様子も落ち着いた大人が数名食事を楽しんでいる。ここならば女一人でも大丈夫だろう。しかも、メニュー板をみると、ランチメニューもありお手頃だ。なんと言っても、地方のアルコールが飲み比べられるのを謳い文句にしているのがサクラの心を引き寄せた。
店内に入ると、オレンジのランプの明かりに照らされて、リキュールの瓶や天井からつるされるグラスが光っている。暖かな室内はきのぬくもりも感じられ、通された一人がけのソファーはずっしりと体を包み込んでくれる。どのテーブルも、道行く人を眺めることが出来るよう、通りに向けて配置されている。開放感がありながらも、ゆったりできる店だ。初めて入ったにしては当たりだったのでは、とサクラは運ばれてくる料理に期待を込めた。運ばれてきたプレートには熱々のソーセージとミートパイが湯気を立て、ほくほくのマッシュポテトが添えられていた。ハーフサイズで頼んだビールは2種類で、「ビター」と呼ばれる飴色のビールと、フルーツビールといわれるラズベリーを加えたルビー色のビールだ。ビターは食事に合わせたようにほどよい苦みと、独特の風味がある。味の濃いミートパイにマッチして、食が進む。
こんな風に何も考えずゆっくり食事をするのはいつぶりだろうか。ほうっと息をついて、道行く人たちを眺める。食後に出されたフルーツビールにちびちびと口をつけながら、ゆったりと一人の時間を楽しむ。通りには色とりどりのローブの魔法使いが行き交い、服装以外は現代で見慣れた光景である。気持ちよくアルコールが回ってきたところで、そろそろホグワーツに戻ろうと腰を上げた。いくらサクラが教師でなくとも、アルコールの匂いをさせながら生徒と帰るのはいかがなものか。皆が帰宅する前にさっさと帰ろうと、店を後にした。
肌寒い風にコートを首まで引き寄せて、大通りへと戻る。案の定、生徒たちはメインストリートの奥まで言っているようで、誰かに会うこともなさそうだ。そう思い、ホグワーツへと進行方向へ体を向けたときだった。
「昼から飲むなんてサクラさんもやるじゃーん。」
ぬっと、横から顔を出したフレッドとジョージに面食らってしまう。
「なんでこんなところに…。」
「「サクラさんの姿が見えたから。」」
とあっけらかんという双子に深く追求はすまい。
「ああ、そう。…それじゃ私はホグワーツへ戻るから、休日を楽しんで。」
何事も無かったかのように背を向けたサクラを双子は両脇から腕を組んで阻止した。
「せっかく会えたのも運命なんだし」
「俺たちと休日楽しもうよ」
面倒なのに絡まれたな、と内心で思うも、こんな『いい笑顔』の二人からは逃れられそうにないだろう、第六感がそう訴えかけた。
その後は、色々なお店に連れ回される羽目になった。いたずら用品の店や、お菓子の店。二人が好きそうなポップな店は生徒の数も多かった。ごった返す若者の中でこんな大人が混じってもいいのだろうか、と一抹の不安を覚えたものの、双子は気にしないとでも言うようにサクラをあちこちへ連れて行った。連れ回されたものの、普段は行かないような場所は純粋に楽しくもある。年甲斐もなく、双子と同じように笑い合ってしまうのも、アルコールのせいだろう。
ひとしきり楽しんだ後で、三人で「3本の箒」へと入った。この頃、気にかかることもあったが久しぶりに心から楽しめた。双子にはバタービールの一杯ぐらいおごってもいいかもしれない。と、内心思いながら店に入って、席へ着く。すると、ジョージが「おい、見てみろよ。」と顎で向こうのテーブルを指した。その先には鰐皮のバッグを持った厚化粧の女と、もう一人男がいた。フレッドは、「ああ、」と分かったように頷いた。
「リータ スキーターか。」
「また第一の課題で記事でも書くつもりなんだろうな。」
「…あの人、日刊予言者新聞の人?」
遠目だからわかりにくいが、確かに、あんなケバい…派手な女性だった気がする。
「『かわいそうな男の子』の記事の次は一体何を書くんだか。」
「『噂の女の子と密会?!愛をはぐくむ!』とか?」
と二人はいやそうな顔で話した。
「あなたたち、ゴシップは嫌いな口なのかしら。」
そう問うと、二人は顔を見合わせて、すこし間を置いて答えた。
「そりゃ、面白い記事はすきだよ。」
「楽しめる分にはね。」
「「だが、あの記事は弟の友人を傷つけるだろ。」」
「それに、俺たちのチームメイトでもある。」
フレッドがそう言い、ジョージがウインクしながら「俺たち仲間思いだからさ。」とサクラに言った。
軽く見える二人も、なかなかに仲間を大切にするのだ。最後には命をかけてハリーを守る子たちなのだ。リータスキーターを快く思わないのは当然だ。
リータスキーターは連れの男と共に席を立ち、店を後にしていった。それと入れ違いでハグリッドとムーディが店内へと入ってきた。それをみて、サクラは自然に席を立ち化粧室へと向かった。フレッドとジョージには悪いが、しばらく身を隠した後、お暇させてもらうつもりだ。狭い通路を化粧室へと向かうが、化粧室の扉を開けたところで、見知らぬ男に腕を掴まれた。
「サクラ ヒナタだな?」
疑問で問いかけつつも、断定したような物言いで、男はサクラを見下ろしている。
「人違いです。」
「いいや、さっきサクラと呼ばれていた。ホグワーツで東洋人の職員はお前だけだ。」
随分、ホグワーツの内部事情に詳しい。大声をだせば、すぐに人は飛んでくるだろう。
「声を出そうが、誰も聞いていない。聞こえないようにしてある。」
見透かしたようにいう男に化粧室の隅に追いやられる。密室で男と二人。男の高圧的な態度に、言いようのない恐怖がサクラを襲った。
「お金ならあげます。…離してください。」
「そんなものいらない。」
壁越しにさらに距離を縮められ、動くことさえかなわない。お金はいらない。ということは…最悪の想像が頭の中を駆け巡った。
「帰りが遅いと、私の連れが怪しみますよ。」
「ふん、すぐ済む。」
「クルーシオ」
その言葉を聞いた瞬間、全身がきしむような痛みと息苦しさに襲われた。痛みに悲鳴をあげて身をよじるも、苦しさはどんどん増すばかりだ。相手の男はサクラの悲鳴に嘲笑いながら、杖を向け続けた。
「汚れた血が余計な首を突っ込むからだ。本当はここで殺してやりたいところなんだがな。色々と問題があるのだ。私の慈悲深さに感謝するといい。」
痛い、苦しい、…いっそ殺して――
そう思ってしまうほどの激痛に涙があふれる。苦しさに口をはくはくと動かしているサクラの姿に男はさらに笑みを深めた。
「別の苦しみを与えてやってもいいのだが…ああ、東洋人は珍しいのだ。お前が、大人しくしていると約束するならば、いい思いをさせてやるぞ。」
男がサクラの足の間に自身の足をねじ込む。いつものフレアスカートは抵抗することも出来ず、すぐに男の足を挟み込んでしまう。男は抵抗できないサクラに気をよくしたのか、スカートの中に手を這わせてきた。…もう、だめだ。自由に動かせない自身の体で、抵抗もままならない。男の手が肌をなぞる度に粟立つような反応を見せる体に、さらに嫌悪感が増す。
「セブルスにもその体で媚び、あの死に損ないにも媚びをうっているのだろう?次は私に命乞いをするのだ。」
ブラウスに手がかかり、はだけさせられる。それを隠そうとするが、両手は拘束されたようにびくともしない。しかし、苦しさはいくらか和らぎ、話せるようにはされたようだ。
「あなたは誰?私はなにも邪魔なんてしていない。ただの管理人よ。」
「お前の存在が目障りなのだ。ホグワーツを去れ。約束すれば命は見逃してやろう。」
サクラが答えあぐねている間にも、ブラウスからのぞく胸元に手が伸びる。ここで穢されたくはない。しかし、下手に約束をすることも出来ない。男の指が奥を暴く前に、ドアが乱暴にたたかれる音がした。
「サクラさん大丈夫?」
「酔っちゃったの?もう帰る?」
心配そうなフレッドとジョージの声に男が手を止めた。そして、口だけで「答えろ。」と命じられる。
「……ええ、ちょっと気分が悪くて。すぐ出るわ!」
そう言うと、男はいらついたように頬を思い切りたたいた。大きな音にフレッドとジョージは「「何事!?」」と騒ぎはじめた。
(下手に動けば命は無いと思え。お前の命は私が握っている)
男はサクラにしか聞こえない声で言い捨てると、その場から姿を消した。サクラはすぐさま乱れた服を整え、扉を開けた。全身は痛みで悲鳴を上げているが、二人にそれを悟られるわけにはいかない。持ち前の愛想笑いで二人に笑いかける。
「ごめんなさい、ひさしぶりに酔ったみたい。」
「すごい音したけど、」「ほっぺた腫れてるよ?」
「うん、気合い入れようと思って。」
「何の気合いだよ!」と、おかしそうに笑う二人に、連れられ、ホグズミードを後にした。ふらふらな足取りも酔ったことにして、二人に脇を支えられながら帰路についた。
ホグワーツに着いたところで、サクラは二人と別れた。彼らの同級生も帰ってきたようで、双子はそちらに話をしに行くということで、これ幸いと、部屋に戻ると分かれたのだ。しかし、この痛みでは、明日からの仕事に支障がでてしまう。かといって、マダムポンフリーにみせれば余計な心配をかけてしまう。…どうしたものか。考えあぐねて出た答えは、今一番、会いたくない人物だった。
地下室の奥の部屋を4回ノックする。双子と別れてから、気が抜けたのか、全身の痛みが舞い戻ったあのように体がぎしぎしと痛む。歩く度に体の中が熱を持ったように熱く、刺さるように痛い。痛みに頭がもうろうとしながらも、ここではお決まりのノックが出来たようだ。間を開けずに、黒づくめの男が部屋から現れた。
「休日に突然押しかけるとは、随分と『お気遣い』いただいているようですな。」
嫌みでさえも、右から左へ抜けていく。もはや体に力が入らない。ふらふらな様子のサクラにスネイプは眉を寄せた。そして、ふっと意識を失ったサクラの体をその腕で抱き留めた。