炎のゴブレット編
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生徒たちが去り、残ったのはダンブルドア、マクゴナガル、スネイプ、ムーディ、バグマン、クラウチそしてサクラだった。人が居なくなったところでこれ幸いとスネイプが意地悪そうな笑みを浮かべながらサクラの方を見た。
「突拍子もない発想には感服ですな。常日頃から危機管理を徹底していらっしゃる。そういえばあなたも随分とお考えをめぐらせたようですな、ムーディ。お互い馬が合うのではないかね。」
そう言うと、今度はムーディが渋い顔をした。
「この女はただ「知っている」のだ。自身で計画をすればたやすい…」
言い切る前に、再びダンブルドアが短く「アラスター!」と制止した。
「先生方は各寮で事態を収拾してもらいたい。生徒たちがいまごろ暴れ回っておるころじゃろう。」
3人はダンブルドアの指示に従い、部屋を出て行った。それに続いてクラウチも「われわれは役所に戻らねば。」と足を扉の方へ向けた。しかし、バグマンはそれを止めた。
「いまや、全てのことがホグワーツで起こっているんだぞ。役所よりこっちのほうがどんなにおもしろいか!」
サクラはここぞとばかりに畳みかけた。
「年代物のブランデーをご用意しております。少しお休みになってからでもいいのでは?」
「是非頂こう!」
バグマンが部屋のソファーに勢いよく座ったところで、棚から酒瓶を取り出し、グラスに琥珀色のブランデーを注いだ。しかし、クラウチの足は出口に向いたままだ。
「クラウチ様はお茶がお好きだとか。珍しい茶葉があります。今夜しかお出しできないものなのですが、いかがです?」
そこでクラウチの視線がこちらへ向いた。
「しかし今はきわめて難しい時で…」
初めてクラウチに迷いが生まれた。
「サクラの話が真実であれば、我が校も身の振り方を考えねばならん。魔法省としての見解をぜひとも聞いておきたいのじゃ。少し時間をもらえんかの。」
ダンブルドアの言葉でクラウチは渋々、ソファーに腰掛けた。
「一杯分の時間ならば。」
それを聞き、ダンブルドアもサクラもにこりと笑った。
二人が並んでソファーに座ったところでサクラはクラウチのためにお茶の準備を始めた。透明なガラスのティーポットには真っ白な花が浮かんでいる。その花の乾燥した葉からは緑茶のような風味がとれ、花からは芳醇な、なんともかぐわしい香りが漂っている。中身を知っているダンブルドアでさえ、その光景に、ほうっとため息をついた。クラウチは今までにない興味深そうな視線をポットに向けている。
「月下美人という花です。花が咲くのは満月の夜だけとも言われています。開花の姿をみることができるのは貴重な植物です。」
「…甘く、それでいて深みのある香りだ。」
死人のように生気の無かった顔に色がのぼった。準備は短い時間であったが、ダンブルドアのつてを最大限利用して中国茶を買い付けた甲斐があったというものだ。ダンブルドアとの打ち合わせで、いかにクラウチの気持ちを緩ませるかが課題であった。そこで、サクラは現代で趣味であったお茶の知識を総動員させ、ひとつの茶葉を思い至ったのだ。その思惑は成功し、クラウチの興味を引くことができている。薄い磁器のティーカップに若葉色の茶を注ぎ入れる。その瞬間にクラウチの鼻孔に先ほどよりも濃い香りが届けられた。そして、ティーカップを持ち上げるとゆっくりとそれを嚥下した。ほう、っと長い息が吐かれた。ホグワーツに来てからこれほどリラックスした姿は見られなかった。隣でブランデーをくゆらせていたバグマンも、その姿にほっとしたような表情をしていた。子供のようにはしゃいでいる割に、同僚のことは気にかけていたらしい。
「して、魔法省としてサクラの話、どう思われる?」
話の火ぶたを切ったのはダンブルドアだった。クラウチはティーカップを飲み干すと、テーブルに預けた。同じく魔法省としての立場であるはずが、どんな返答がかえってくるのか、バグマンは面白そうに見ている。サクラもポットのお茶を注ぎ直しながら、ちら、とクラウチの方へ視線を向けた。再びかちり、と仕事の顔へと切り替え、クラウチが答えた。
「どのような経緯であれ、ゴブレットに選ばれた者は試合を放棄できない。」
「…それが悪意ある者の仕業だとしてもですか?」
クラウチはサクラの言葉に眉一つ動かさない。
「ゴブレットの判断に従う、と決められている。」
「では、ゴブレットに細工をした者はいかなる処罰をするのじゃ?ホグワーツが細工したと思われても、我が校の恥となる。それはなんとしても避けたい。」
「…そのことについては」
「もしくは、目星はついておるのかの?」
アイスブルーの瞳が細められる。クラウチはテーブルに視線を落とし、カップに口をつけた。しばらくお茶の風味を楽しむ余裕をみせている。さすが魔法省での派閥争いやらを乗り越えてきただけのことはある。肝が据わっている、とサクラは妙に感心した。しかし、感心しているだけでは、意味が無い。クラウチは息子のことを知っているのだろうか。脱獄してウォルデモートの手先となっていることを。
「お身内に犯罪者がいても落ち着いてみえるんですもの。たかだかゴブレットへのいたずらで目くじらをたてない寛大なお心の持ち主なのですね。」
サクラの言葉にそこにいる全員が息をのんだ。
「…何が言いたいのかね?」
「今回『も』見逃してあげるのですか?」
がたっ!!
勢いよくクラウチが立ち上がった。まさに鬼の形相でサクラを睨み付けている。それにサクラは物怖じすることもなく、視線を合わせた。
「失礼も甚だしい!!私は失礼する!!」
その勢いに押され、バグマンはぽかんと口を開けていたが、クラウチが部屋を出て行く頃には持ち直し、すぐさま後を追いかけていった。それをダンブルドアと見送った。ダンブルドアはサクラの方へ視線を向けた。
「これで食いつけばこちらの思惑通りです。」
「コンタクトを取ってくれば闇の陣営。そうでなければ、君は魔法省内部の高慢な者たちの格好の餌食だ。」
「…私が守るべきものは命くらいです。心配ありませんよ。」
心配そうな表情のダンブルドアに笑顔でこたえる。一介のスクイブ相手に魔法省が何を仕掛けてくるのだ。落ちぶれた魔法省高官にも支持者はいるだろう。そこが嫌がらせをかけてくるくらい、どうってことはない。ここには守るべき家族も友人もいないのだから。身軽というのは、特攻すべき時に動きやすいものだ。
「異変があればすぐ報告するのじゃぞ。」
「ええ、ではダンブルドア校長、失礼します。」
長い廊下を自室に戻る方へと歩いて行く。遠くの方で生徒たちの声がかすかに聞こえてくる。やはり、これだけの騒ぎになれば落ち着いてなど居られない。特に十代の若者には夜になったから寝ようなどとは通用しないだろう。サクラはひとつ仕事を終わらせたことで肩の荷が下りたのか、足取りは軽やかだ。明日から、しばらくは普段の仕事に戻れるということで気持ちも少し楽になる。
かつかつ、と石畳の廊下にヒールの音を響かせ、自室の扉が見えたところで、廊下の隅にひとつの影を見つけた。大きな蝙蝠のように全身黒い影にはいやと言うほど見覚えがある。
「スネイプ先生…」
どうされました?と聞くが早いか、スネイプは勢いよくサクラに近づき、肩を掴んだ。
「お前は『あれ』のことを知っていたな!!」
声を荒げて詰め寄る様に、サクラは一瞬たじろいだ。
「…誰か見られては困ります。中へ。」
そういうと、意外にもスネイプは素直に部屋へと入った。
「突拍子もない発想には感服ですな。常日頃から危機管理を徹底していらっしゃる。そういえばあなたも随分とお考えをめぐらせたようですな、ムーディ。お互い馬が合うのではないかね。」
そう言うと、今度はムーディが渋い顔をした。
「この女はただ「知っている」のだ。自身で計画をすればたやすい…」
言い切る前に、再びダンブルドアが短く「アラスター!」と制止した。
「先生方は各寮で事態を収拾してもらいたい。生徒たちがいまごろ暴れ回っておるころじゃろう。」
3人はダンブルドアの指示に従い、部屋を出て行った。それに続いてクラウチも「われわれは役所に戻らねば。」と足を扉の方へ向けた。しかし、バグマンはそれを止めた。
「いまや、全てのことがホグワーツで起こっているんだぞ。役所よりこっちのほうがどんなにおもしろいか!」
サクラはここぞとばかりに畳みかけた。
「年代物のブランデーをご用意しております。少しお休みになってからでもいいのでは?」
「是非頂こう!」
バグマンが部屋のソファーに勢いよく座ったところで、棚から酒瓶を取り出し、グラスに琥珀色のブランデーを注いだ。しかし、クラウチの足は出口に向いたままだ。
「クラウチ様はお茶がお好きだとか。珍しい茶葉があります。今夜しかお出しできないものなのですが、いかがです?」
そこでクラウチの視線がこちらへ向いた。
「しかし今はきわめて難しい時で…」
初めてクラウチに迷いが生まれた。
「サクラの話が真実であれば、我が校も身の振り方を考えねばならん。魔法省としての見解をぜひとも聞いておきたいのじゃ。少し時間をもらえんかの。」
ダンブルドアの言葉でクラウチは渋々、ソファーに腰掛けた。
「一杯分の時間ならば。」
それを聞き、ダンブルドアもサクラもにこりと笑った。
二人が並んでソファーに座ったところでサクラはクラウチのためにお茶の準備を始めた。透明なガラスのティーポットには真っ白な花が浮かんでいる。その花の乾燥した葉からは緑茶のような風味がとれ、花からは芳醇な、なんともかぐわしい香りが漂っている。中身を知っているダンブルドアでさえ、その光景に、ほうっとため息をついた。クラウチは今までにない興味深そうな視線をポットに向けている。
「月下美人という花です。花が咲くのは満月の夜だけとも言われています。開花の姿をみることができるのは貴重な植物です。」
「…甘く、それでいて深みのある香りだ。」
死人のように生気の無かった顔に色がのぼった。準備は短い時間であったが、ダンブルドアのつてを最大限利用して中国茶を買い付けた甲斐があったというものだ。ダンブルドアとの打ち合わせで、いかにクラウチの気持ちを緩ませるかが課題であった。そこで、サクラは現代で趣味であったお茶の知識を総動員させ、ひとつの茶葉を思い至ったのだ。その思惑は成功し、クラウチの興味を引くことができている。薄い磁器のティーカップに若葉色の茶を注ぎ入れる。その瞬間にクラウチの鼻孔に先ほどよりも濃い香りが届けられた。そして、ティーカップを持ち上げるとゆっくりとそれを嚥下した。ほう、っと長い息が吐かれた。ホグワーツに来てからこれほどリラックスした姿は見られなかった。隣でブランデーをくゆらせていたバグマンも、その姿にほっとしたような表情をしていた。子供のようにはしゃいでいる割に、同僚のことは気にかけていたらしい。
「して、魔法省としてサクラの話、どう思われる?」
話の火ぶたを切ったのはダンブルドアだった。クラウチはティーカップを飲み干すと、テーブルに預けた。同じく魔法省としての立場であるはずが、どんな返答がかえってくるのか、バグマンは面白そうに見ている。サクラもポットのお茶を注ぎ直しながら、ちら、とクラウチの方へ視線を向けた。再びかちり、と仕事の顔へと切り替え、クラウチが答えた。
「どのような経緯であれ、ゴブレットに選ばれた者は試合を放棄できない。」
「…それが悪意ある者の仕業だとしてもですか?」
クラウチはサクラの言葉に眉一つ動かさない。
「ゴブレットの判断に従う、と決められている。」
「では、ゴブレットに細工をした者はいかなる処罰をするのじゃ?ホグワーツが細工したと思われても、我が校の恥となる。それはなんとしても避けたい。」
「…そのことについては」
「もしくは、目星はついておるのかの?」
アイスブルーの瞳が細められる。クラウチはテーブルに視線を落とし、カップに口をつけた。しばらくお茶の風味を楽しむ余裕をみせている。さすが魔法省での派閥争いやらを乗り越えてきただけのことはある。肝が据わっている、とサクラは妙に感心した。しかし、感心しているだけでは、意味が無い。クラウチは息子のことを知っているのだろうか。脱獄してウォルデモートの手先となっていることを。
「お身内に犯罪者がいても落ち着いてみえるんですもの。たかだかゴブレットへのいたずらで目くじらをたてない寛大なお心の持ち主なのですね。」
サクラの言葉にそこにいる全員が息をのんだ。
「…何が言いたいのかね?」
「今回『も』見逃してあげるのですか?」
がたっ!!
勢いよくクラウチが立ち上がった。まさに鬼の形相でサクラを睨み付けている。それにサクラは物怖じすることもなく、視線を合わせた。
「失礼も甚だしい!!私は失礼する!!」
その勢いに押され、バグマンはぽかんと口を開けていたが、クラウチが部屋を出て行く頃には持ち直し、すぐさま後を追いかけていった。それをダンブルドアと見送った。ダンブルドアはサクラの方へ視線を向けた。
「これで食いつけばこちらの思惑通りです。」
「コンタクトを取ってくれば闇の陣営。そうでなければ、君は魔法省内部の高慢な者たちの格好の餌食だ。」
「…私が守るべきものは命くらいです。心配ありませんよ。」
心配そうな表情のダンブルドアに笑顔でこたえる。一介のスクイブ相手に魔法省が何を仕掛けてくるのだ。落ちぶれた魔法省高官にも支持者はいるだろう。そこが嫌がらせをかけてくるくらい、どうってことはない。ここには守るべき家族も友人もいないのだから。身軽というのは、特攻すべき時に動きやすいものだ。
「異変があればすぐ報告するのじゃぞ。」
「ええ、ではダンブルドア校長、失礼します。」
長い廊下を自室に戻る方へと歩いて行く。遠くの方で生徒たちの声がかすかに聞こえてくる。やはり、これだけの騒ぎになれば落ち着いてなど居られない。特に十代の若者には夜になったから寝ようなどとは通用しないだろう。サクラはひとつ仕事を終わらせたことで肩の荷が下りたのか、足取りは軽やかだ。明日から、しばらくは普段の仕事に戻れるということで気持ちも少し楽になる。
かつかつ、と石畳の廊下にヒールの音を響かせ、自室の扉が見えたところで、廊下の隅にひとつの影を見つけた。大きな蝙蝠のように全身黒い影にはいやと言うほど見覚えがある。
「スネイプ先生…」
どうされました?と聞くが早いか、スネイプは勢いよくサクラに近づき、肩を掴んだ。
「お前は『あれ』のことを知っていたな!!」
声を荒げて詰め寄る様に、サクラは一瞬たじろいだ。
「…誰か見られては困ります。中へ。」
そういうと、意外にもスネイプは素直に部屋へと入った。