炎のゴブレット編
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ハリーが別室に入っていくと大広間は騒然となった。どの者たちも、たった今起こった出来事についてあれこれと言葉を並べていた。初めにバグマンが嬉々として席を立ち、代表選手の控える部屋へと入っていった。他の教員たちはあっけにとられ、あるいは憤りを隠すこともできずにいた。しばらくしてダンブルドアがゆっくりと立ち上がると、それに続いてクラウチ氏、カルカロフ、マダムマクシーム、マクゴナガル、スネイプ、そしてサクラが部屋へと向かった。ダンブルドアを除く教職員はみな一様に表情がかたい。特に、カルカロフとスネイプは人を殺さんばかりの鋭い雰囲気だ。他校にとっても学校の威信をかけ、準備を重ねてきたはずだ。それを開催校である我が校が引っかき回しているような状況である。スネイプにいたっては、またもやハリーの目立ちたがりな『性格』に腹を立てているのだろう。ハリーのこととなると、冷静さのかけるスネイプだ。サクラは、やはり事前に相談したのがダンブルドアで正解だったと感じた。
選手控え室に教師陣が入ると、すでにバグマンは興奮気味にハリーや他の選手にご高説を語ってるところだった。そこからは各校の校長が今回の状況を非難し、ハリーの出場を見合わせようとしていた。それは誰もが考えることであろう。明らかな不正が行われているのだから。
「オグワーツが二人も代表選手を出すことはできませーん。そんなことはとても正しくなーいです。」
「そうで無ければ、当然ながら我が校からももっと多くの候補者を連れてきてもよかった。」
カルカロフの冷たい笑いはそのままだったが、目はますます冷ややかさを増していた。
「誰の咎でもない。ポッターのせいだ。カルカロフ。」
スネイプが低い声で言った。その暗い目が底意地悪く光っている。
「ポッターが規則を破るものと決めてかかっているのを、ダンブルドアの責任にすることはない。ポッターは本校に来て以来、決められた線を越えてばかりいるのだ」
「もうよいセブルス。」
ダンブルドアはスネイプにきっぱりと言った。スネイプは黙って引き下がったが視線はハリーを鋭く見据えていた。ダンブルドアは今度はハリーを見下ろした。ハリーはすぐ、その目を見返し、半月メガネの奥にあるアイスブルーの瞳の表情を読み取ろうとした。サクラはこの異常事態で毅然としていられるハリーの態度に感心した。まだ一五歳にもみたない少年が大勢の大人を前に物怖じせずにいるのだ。彼が今までたどってきた道を考えると、持ち前の性格だけでなく、これまでの苦難が彼を強くしているのだろう。
「ハリー、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
ダンブルドアは静かに聞いた。ハリーはダンブルドアの目を見据えたまま答えた。
「いいえ。」
「上級生に頼んで『炎のゴブレット』に君の名前を入れたのかね?」
後ろではスネイプが信じられるものかと言わんばかりに、いらついた音を立てていた。しかし、それを無視してハリーは強い口調で答えた。
「いいえ!」
ハリーがそう答えても誰も信用をしなかった。マダムマクシームがダンブルドアの魔法が間違っていたと非難し、それをマクゴナガルが反論する。
「まったくばかばかしい!ハリー自身が年齢線を越えるはずはありません。また、上級生を説得して代わりに名を入れさせるようなことをハリーはしていないと、ダンブルドア校長は信じていらっしゃいます。それだけで、皆さんは十分だと存じますが!」
毅然としたマクゴナガルだけが、状況を正しく判断していた。なんの情報も無いなか、今のマクゴナガルのようにサクラは信用できるだろうか。グリフィンドールの勇敢な騎士道は寮監にも流れているのだ。最後まで彼女は教師としてハリーを思い、行動してきた。彼女の寮でいるのは、ハリーにとって幸運なことであろう。
カルカロフはバグマンとクラウチに今回の騒動の決着をゆだねた。しかしバグマンは今回の試合の規則などあって無いようなもので覚えているはずもない。必然的にクラウチに皆の視線が集まった。今まで沈黙を貫き、存在さえも消していたクラウチが、暖炉の灯りで顔に半分影を落として立っていた。さながら骸骨のようで、顔は年よりも老けて見えた。しかし、話し出すと、いつものようにきびきびとした声だ。
「規則には従うべきです。そしてルールは明白です。『炎のゴブレット』から名前が出てきた者は試合で競う義務がある。」
…やはり、おかしい。
サクラはクラウチの答えに違和感を感じた。彼の経歴をみれば、これ以上スキャンダルは望まないはずである。それを「もみ消す」わけでも「仕切り直す」わけでもなく、あくまで規則にのっとって『ハリーを出場させる』のだ。
カルカロフはその答えに激高した。その怒りはもっともだ。口に出さずともマダムマクシームも厳しい目を向けていた。
「はったりだな、カルカロフ。」
扉の近くで唸るような声がした。
「代表選手を置いて帰ることはできまい。選手は競わねばならん。魔法の拘束力だ。都合のいいことにな。え?」
ムーディは部屋に入り、暖炉に近づいた。…自身の父親のすぐ近くに。その異様さに気づくのはサクラだけだ。何か仕掛けるつもりだろうか?
「都合がいい?」
カルカロフが聞き返した。
「何のことか分かりませんな。ムーディ。」
ムーディの話など聞くに値しないというように軽蔑したような物言いだ。しかし、その拳は硬く握られていた。これからムーディが口にするであろうことに気づいているのはこの部屋の中でも数名だろう。
「簡単なことだ。ゴブレットから名前が出てくればポッターは戦わなくてはぬと知っていて誰かが入れた。…ポッターが死ぬこと欲した者がいたとしたら。」
カルカロフは声を張り上げた。
「みなさんご存じのように、ムーディ先生は朝から昼食までのあいだにご自身を殺そうとする企てを少なくとも六件は暴かないと気の済まない方だ。先生はいま、生徒たちにも暗殺を恐れよとお教えになっているようだ。」
「わしの妄想だとでも?ありもしないものを見るとでも?あのゴブレットの中にこの子の名前を入れるような魔法使いは腕のいいやつだ…」
「おお、どんな証拠があるというのでーすか?」
「なぜなら、強力な魔力を持つゴブレットの目をくらませたからだ!」
その勢いで周りの教師陣に自説を述べていたところで、くるりとサクラのほうへ体を向けた。
「お前も気づいているのだろう?わざわざこの小さな部屋にそぐわぬ豪華なティーセットやらグラスを用意しているのだから。」
行動派のムーディを装っていても、その中身はしたたかなクラウチjrだ。あのとき、部屋の様子までしっかり見ていたのか。この事態が収拾し始めたところで使おうと思っていたティーセットだ。クラウチを自然に控え室に残して会話をするには、彼の興味を引くものでなければならない、かつ、この部屋で寛ぐことのできるアイテムである必要があった。クラウチは伝統を重んじるタイプの男性だ。ならば英国の紅茶文化も根付いているだろう、と予想をたて、彼の興味を示しそうな珍しくもクラシカルな茶葉を準備していた。それに合わせて度数の高い酒類も棚の奥に隠してある。不自然にならないよう、様々な種類のグラスでカモフラージュをしていたが、油断ならない男だ。
今度はみなの視線がサクラに集まった。クラウチも闇のような暗い目でこちらをじっと見据えている。…ここで無難に返してしまったら?自身の身を守ることはできる。しかし、これはチャンスでもある。ここでクラウチの興味を引かせ、後の交渉へと引きずり出すことができるかもしれない。
「…おそらくムーディ先生はこうおっしゃりたいのかと。「スクイブが錯乱の呪文をかけ、ゴブレットに四校目はハリーしかいないように思わせた。」と。」
それにクラウチを初めとしてみなが目を見張った。このような突飛な案をスクイブが出すとは思ってもみなかったのだろう。サクラも原作で読んでいなければ知らないし思いつきもしない。だが、それを思いついたのが、この男、クラウチjrなのだ。クラウチjr、もといムーディは一瞬、口の端をつり上げたが、すぐさま厳しい表情にもどってサクラを糾弾した。
「お前はこの混乱を予測していた!自身で引き起こしていれば予測などたやすいだろう!協力者はどこにいる?!」
サクラを見るハリーの目は疑惑に満ちていた。…これから友好的に手助けするのは難しそうだ。とサクラは頭の隅で冷静に考えていた。
「アラスター!」
ダンブルドアが警告するように呼びかけた。そこからはクラウチが選手たちに今回の課題を説明し、それが終わると、カルカロフもマダムマクシームも自校の生徒を連れてさっさと部屋を出て行った。
「ハリー、セドリック。二人とも寮に戻って寝るがよい。」
ダンブルドアが微笑みながら言った。二人はうなずいて、部屋を出て行く。一瞬セドリックとハリーがこちらに目線をむけたが、どう返していいか分からず、さっと顔を背けた。
選手控え室に教師陣が入ると、すでにバグマンは興奮気味にハリーや他の選手にご高説を語ってるところだった。そこからは各校の校長が今回の状況を非難し、ハリーの出場を見合わせようとしていた。それは誰もが考えることであろう。明らかな不正が行われているのだから。
「オグワーツが二人も代表選手を出すことはできませーん。そんなことはとても正しくなーいです。」
「そうで無ければ、当然ながら我が校からももっと多くの候補者を連れてきてもよかった。」
カルカロフの冷たい笑いはそのままだったが、目はますます冷ややかさを増していた。
「誰の咎でもない。ポッターのせいだ。カルカロフ。」
スネイプが低い声で言った。その暗い目が底意地悪く光っている。
「ポッターが規則を破るものと決めてかかっているのを、ダンブルドアの責任にすることはない。ポッターは本校に来て以来、決められた線を越えてばかりいるのだ」
「もうよいセブルス。」
ダンブルドアはスネイプにきっぱりと言った。スネイプは黙って引き下がったが視線はハリーを鋭く見据えていた。ダンブルドアは今度はハリーを見下ろした。ハリーはすぐ、その目を見返し、半月メガネの奥にあるアイスブルーの瞳の表情を読み取ろうとした。サクラはこの異常事態で毅然としていられるハリーの態度に感心した。まだ一五歳にもみたない少年が大勢の大人を前に物怖じせずにいるのだ。彼が今までたどってきた道を考えると、持ち前の性格だけでなく、これまでの苦難が彼を強くしているのだろう。
「ハリー、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」
ダンブルドアは静かに聞いた。ハリーはダンブルドアの目を見据えたまま答えた。
「いいえ。」
「上級生に頼んで『炎のゴブレット』に君の名前を入れたのかね?」
後ろではスネイプが信じられるものかと言わんばかりに、いらついた音を立てていた。しかし、それを無視してハリーは強い口調で答えた。
「いいえ!」
ハリーがそう答えても誰も信用をしなかった。マダムマクシームがダンブルドアの魔法が間違っていたと非難し、それをマクゴナガルが反論する。
「まったくばかばかしい!ハリー自身が年齢線を越えるはずはありません。また、上級生を説得して代わりに名を入れさせるようなことをハリーはしていないと、ダンブルドア校長は信じていらっしゃいます。それだけで、皆さんは十分だと存じますが!」
毅然としたマクゴナガルだけが、状況を正しく判断していた。なんの情報も無いなか、今のマクゴナガルのようにサクラは信用できるだろうか。グリフィンドールの勇敢な騎士道は寮監にも流れているのだ。最後まで彼女は教師としてハリーを思い、行動してきた。彼女の寮でいるのは、ハリーにとって幸運なことであろう。
カルカロフはバグマンとクラウチに今回の騒動の決着をゆだねた。しかしバグマンは今回の試合の規則などあって無いようなもので覚えているはずもない。必然的にクラウチに皆の視線が集まった。今まで沈黙を貫き、存在さえも消していたクラウチが、暖炉の灯りで顔に半分影を落として立っていた。さながら骸骨のようで、顔は年よりも老けて見えた。しかし、話し出すと、いつものようにきびきびとした声だ。
「規則には従うべきです。そしてルールは明白です。『炎のゴブレット』から名前が出てきた者は試合で競う義務がある。」
…やはり、おかしい。
サクラはクラウチの答えに違和感を感じた。彼の経歴をみれば、これ以上スキャンダルは望まないはずである。それを「もみ消す」わけでも「仕切り直す」わけでもなく、あくまで規則にのっとって『ハリーを出場させる』のだ。
カルカロフはその答えに激高した。その怒りはもっともだ。口に出さずともマダムマクシームも厳しい目を向けていた。
「はったりだな、カルカロフ。」
扉の近くで唸るような声がした。
「代表選手を置いて帰ることはできまい。選手は競わねばならん。魔法の拘束力だ。都合のいいことにな。え?」
ムーディは部屋に入り、暖炉に近づいた。…自身の父親のすぐ近くに。その異様さに気づくのはサクラだけだ。何か仕掛けるつもりだろうか?
「都合がいい?」
カルカロフが聞き返した。
「何のことか分かりませんな。ムーディ。」
ムーディの話など聞くに値しないというように軽蔑したような物言いだ。しかし、その拳は硬く握られていた。これからムーディが口にするであろうことに気づいているのはこの部屋の中でも数名だろう。
「簡単なことだ。ゴブレットから名前が出てくればポッターは戦わなくてはぬと知っていて誰かが入れた。…ポッターが死ぬこと欲した者がいたとしたら。」
カルカロフは声を張り上げた。
「みなさんご存じのように、ムーディ先生は朝から昼食までのあいだにご自身を殺そうとする企てを少なくとも六件は暴かないと気の済まない方だ。先生はいま、生徒たちにも暗殺を恐れよとお教えになっているようだ。」
「わしの妄想だとでも?ありもしないものを見るとでも?あのゴブレットの中にこの子の名前を入れるような魔法使いは腕のいいやつだ…」
「おお、どんな証拠があるというのでーすか?」
「なぜなら、強力な魔力を持つゴブレットの目をくらませたからだ!」
その勢いで周りの教師陣に自説を述べていたところで、くるりとサクラのほうへ体を向けた。
「お前も気づいているのだろう?わざわざこの小さな部屋にそぐわぬ豪華なティーセットやらグラスを用意しているのだから。」
行動派のムーディを装っていても、その中身はしたたかなクラウチjrだ。あのとき、部屋の様子までしっかり見ていたのか。この事態が収拾し始めたところで使おうと思っていたティーセットだ。クラウチを自然に控え室に残して会話をするには、彼の興味を引くものでなければならない、かつ、この部屋で寛ぐことのできるアイテムである必要があった。クラウチは伝統を重んじるタイプの男性だ。ならば英国の紅茶文化も根付いているだろう、と予想をたて、彼の興味を示しそうな珍しくもクラシカルな茶葉を準備していた。それに合わせて度数の高い酒類も棚の奥に隠してある。不自然にならないよう、様々な種類のグラスでカモフラージュをしていたが、油断ならない男だ。
今度はみなの視線がサクラに集まった。クラウチも闇のような暗い目でこちらをじっと見据えている。…ここで無難に返してしまったら?自身の身を守ることはできる。しかし、これはチャンスでもある。ここでクラウチの興味を引かせ、後の交渉へと引きずり出すことができるかもしれない。
「…おそらくムーディ先生はこうおっしゃりたいのかと。「スクイブが錯乱の呪文をかけ、ゴブレットに四校目はハリーしかいないように思わせた。」と。」
それにクラウチを初めとしてみなが目を見張った。このような突飛な案をスクイブが出すとは思ってもみなかったのだろう。サクラも原作で読んでいなければ知らないし思いつきもしない。だが、それを思いついたのが、この男、クラウチjrなのだ。クラウチjr、もといムーディは一瞬、口の端をつり上げたが、すぐさま厳しい表情にもどってサクラを糾弾した。
「お前はこの混乱を予測していた!自身で引き起こしていれば予測などたやすいだろう!協力者はどこにいる?!」
サクラを見るハリーの目は疑惑に満ちていた。…これから友好的に手助けするのは難しそうだ。とサクラは頭の隅で冷静に考えていた。
「アラスター!」
ダンブルドアが警告するように呼びかけた。そこからはクラウチが選手たちに今回の課題を説明し、それが終わると、カルカロフもマダムマクシームも自校の生徒を連れてさっさと部屋を出て行った。
「ハリー、セドリック。二人とも寮に戻って寝るがよい。」
ダンブルドアが微笑みながら言った。二人はうなずいて、部屋を出て行く。一瞬セドリックとハリーがこちらに目線をむけたが、どう返していいか分からず、さっと顔を背けた。