炎のゴブレット編
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ムーディの毒気に当てられ、サクラは疲弊していた。スネイプと別れた後、サクラは一人で自室へと戻っていた。あのほの暗い瞳を思い出すと、知らぬうちに手が震えた。しかし、それを振り払うように、部屋へ戻り、シャワーを浴びて気持ちを入れ替える。
今日はダンブルドアが場を整えてくれた大切な日だ。胸のざわめきを打ち消すように、濃いルージュを手に取る。あれしきのことで気弱になってどうする。これから始まる戦いはもっと激しいものなのに。
化粧は身だしなみを整えるだけではない。女の気持ちを奮い立たせる武器でもある。いつもより、色味のはっきりとしたメイクを施し、それに合わせてドレスも選んだ。以前からクローゼットに用意されていたワインレッドのイブニングドレスだ。デコルテはドレスと同じ色の刺繍が施され、裾のほうはスリット部分からゴールドの生地がちらりと顔を見せる。ゴージャスでありながら上品なものだ。いつもの自分であれば選ばない鮮やかな色に身を包んだ。
クラウチ氏のことは分からないことが多い。表向きは妻と息子を失ったとされているが、息子はホグワーツで多くの者を欺きながら生きていること。サクラの記憶ではクラウチjrは脱獄されていたはずだ。アズカバンの脱獄はビッグニュースであり、しかも、エリート役人の息子の脱獄。記事にならないはずがない。にも関わらず、クラウチjrは死亡とされている。…ということは、脱獄自体を隠蔽されたか、看守にも気づかれないようなトリックを使ったか。きなくさい親子だ。今日は何をつかめるのか。それは、サクラとダンブルドアの腕にかかっている。
全てを整えると、ヌーディなゴールドのパンプスに足を入れる。小さくちりばめられたスパンコールが、きらきらとサクラの足下を輝かせた。サクラはヒールで石畳の廊下を颯爽と歩き、会場へと向かった。
蝋燭の明かりにてらされた大広間は、まだ夕食まで時間があるというのに多くの生徒が集まっていた。いままでにない熱気を肌で感じる。みなが、ゴブレットのもたらす結果を心待ちにしているのだ。大広間に足を踏み入れる。一瞬、生徒たちの視線が向けられたがすぐさま、生徒同士の会話が再開された。…派手すぎただろうか、と些か不安に思っていたが杞憂だったようだ。そのまま教職員テーブルへと向かった。しかし、その歩みを遮るように、足下にすらりと片足が伸びてきた。
「昨日からずいぶんと上等なドレスを着ているな。」
足の持ち主は、ブロンドをきっちりとなでつけ、嘲笑うかのような表情でこちらをみている。小説や映画と同じく、取り巻きも意地悪そうな顔でマルフォイの言葉でくすくすと笑った。
「魔法も金もないスクイブがどうやって準備したんだ?」
「校長先生のご厚意です。」
「ふうん…。」
マルフォイは、にやり、と取り巻きたちと笑い合った。
「どうやって取り入ったんだ?…まさかクラウチかバクマンにも『その格好で』取り入るつもりか?」
男子生徒たちが笑みを深めた。なんとなく言いたいことは察せられたが、このような挑発に乗るほど若くもない。
「生憎、僕の父上は「そんな格好」で機嫌はとれないが、落ち目の役人とクィディッチ崩れの役人には効果てきめんかもしれないな。」
「…そういうお話でしたら、どうぞご自身のお部屋でなさってください。公共の場でお話になるのは、あなたの品性に関わりますよ。」
まさか、そのような反応が返ってくるとは思いもしなかったのか、顔を真っ赤にさせ、勢いよく立ち上がった。
「スクイブの分際でよくも純血の僕を辱めたな!」
何かかたいものが胸に触れた。見下ろすと、それはマルフォイの杖であった。そして、マルフォイが呪文を口にしはじめたところで杖の先が光り始めた。ここまで短気だとはサクラの方も想定外だ。身をよじるが、それでそらせるような距離では無い。半ばあきらめたところで、誰かの手が杖の方向を変えさせた。
「式典の前に面倒ごとを起こすな。」
マルフォイとサクラの間にスネイプが割って入った。天井に向けられた杖は勢いよく光を飛ばした。自身の寮監の姿にマルフォイはすぐさま杖をしまい、「…はい」と、不服そうではあるが指示に従った。スネイプはそれを見届けると、今度はサクラの方へ視線を向けた。一通りサクラの姿を見ると、
「今日は我が輩に媚びるのではないようだな。」
と言った。今日、スネイプが着ているのはネイビーのベストで、それとサクラのドレスを見比べるようにしてみせた。今度はサクラの頬が紅潮した。
「あれはダンブルドア校長のご指示です。妙なことをおっしゃらないでください。」
サクラの反応にスネイプは、面白がるような視線を向けた。
「どのような格好をしようが己の生まれまでは飾れまい。」
馬鹿にしたような視線が刺さる。…どの口が言っているのだ。自分こそ1番出自にこだわり、コンプレックスを感じているくせに。しかし、そのようなことを生徒の前で言うわけにもいかず、代わりにサクラはスネイプに鋭い視線を向けた。しかし、それさえも意に介さないように言葉を続けた。
「それよりも早く席についてくれないかね。後ろが詰まっている。」
そう言われると、反論のしようもなくサクラはくるりと踵を返し、教職員席へと向かった。
相変わらず嫌味な物言いは健在だ。先ほど助けてくれたことなど夢だったのではないか、とサクラが思うほどだ。乱暴に椅子を引いて、どすん、と腰をおろす。隣ですでに座っていたマクゴナガルが渋い顔をしたが、そちらにかまう心の余裕は残念ながら持ち合わせていなかった。
長い食事の時間が終わり、ダンブルドアが立ち上がった。その場にいる全員が、ダンブルドアの動向を注視している。ダンブルドアが杖を取り、大きく一振りした。とたんに、蝋燭の明かりは全て消え、部屋はほとんど真っ暗になった。唯一、炎のゴブレットだけは、大広間の中でひときわ明々と輝き、青白い炎を燃やしていた。幻想的な光景に自然とため息が溢れる。静かな炎が突然赤くなった。そして、まるで生きているかのように燃え上がり、その炎の先から焦げた羊皮紙が1枚、はらりと落ちた。
全員がそれに目線を向け、固唾を飲んだ。
ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえて読み上げた。
「ダームストラングの代表選手は…ビクトール クラム。」
その言葉に大広間は拍手と歓声の嵐に包まれた。呼ばれたクラムはスリザリンのテーブルから立ち上がり、教職員テーブルを沿って歩くと、その後ろの扉から専用の部屋へと消えていった。同じくバーバトンの代表選手のフラーも続き、残るホグワーツの代表選手であるセドリックの名前が呼ばれた。
とうとう、この日がやってきてしまった。
サクラにとって、この瞬間は死のカウントダウンというより他なかった。ハッフルパフ生の祝福に笑顔で返すのを見ると、喜ばしいはずであるのに、拍手を送るのが精一杯だった。例に漏れず、セドリックも教職員テーブルを沿って歩いてくる。その足がサクラに近づくにつれてゆっくりとした足取りになっていった。あれだけ彼自身が望んでいたものが手に入ったのだ。それをサクラ自身、彼の隣で見ていたため、よく知っている。きっとサクラからの祝福の言葉を欲していることも…。
自身の目の前で立ち止まったセドリックを見上げた。いつもよりきらきらとしたオーラを纏わせながら笑顔を向けている。
「サクラさん…」
「おめでとうセドリック!…あなたがホグワーツ代表で誇らしいわ。」
「ありがとう!サクラさんをがっかりさせない結果を持ってくるよ!」
嬉しそうにはにかんだセドリックの顔に、こちらも、にこりと微笑み返した。うまく笑えているだろうか?彼に悟られるわけにはいかないのだ。彼の命を繋ぐためにも、ここで手の内を明かすような真似はできない。見つめるセドリックの表情は相変わらず嬉しそうで、サクラは自身を欺くことに成功したのだと、胸をなでおろした。そして、セドリックが部屋の中へ消えたところで、もう1枚の羊皮紙が、はらりと落ちた。ダンブルドアはその羊皮紙をしばらく眺めていた。その瞳の奥で何を思案しているのか窺い知ることはできない。アイスブルーの瞳はそこにある名前をとらえ、長い沈黙の中で読み上げた。
「ハリー ポッター。」
大広間のすべての目が一斉にハリーに注がれた。教職員テーブルからも厳しい視線が飛ぶ。特にマクゴナガルとスネイプはその視線で射殺さんばかりだった。すぐさまマクゴナガルは立ち上がり、ダンブルドアに何事か囁いた。聡明な彼女のことだ。異常事態にハリーの危険を察知したのだろう。その言葉にダンブルドアは頷き、再度ハリーの名を呼んだ。
拍手のない中、ハーマイオニーに背中を押される形でハリーが進み出た。当事者でなくとも針のような幾つもの視線は胸を抉られるような感覚に陥った。当のハリーにとってこの事態はどれほど苦痛か…。
「さあ…あの扉から、ハリー。」
ダンブルドアに促され扉へと向かう。誰もハリーに挨拶の合図を送ってやらなかった。驚いたように、あるいは怒りでハリーを見つめるだけだ。ハグリッドでさえ、ハリーを見ているだけだった。
今日はダンブルドアが場を整えてくれた大切な日だ。胸のざわめきを打ち消すように、濃いルージュを手に取る。あれしきのことで気弱になってどうする。これから始まる戦いはもっと激しいものなのに。
化粧は身だしなみを整えるだけではない。女の気持ちを奮い立たせる武器でもある。いつもより、色味のはっきりとしたメイクを施し、それに合わせてドレスも選んだ。以前からクローゼットに用意されていたワインレッドのイブニングドレスだ。デコルテはドレスと同じ色の刺繍が施され、裾のほうはスリット部分からゴールドの生地がちらりと顔を見せる。ゴージャスでありながら上品なものだ。いつもの自分であれば選ばない鮮やかな色に身を包んだ。
クラウチ氏のことは分からないことが多い。表向きは妻と息子を失ったとされているが、息子はホグワーツで多くの者を欺きながら生きていること。サクラの記憶ではクラウチjrは脱獄されていたはずだ。アズカバンの脱獄はビッグニュースであり、しかも、エリート役人の息子の脱獄。記事にならないはずがない。にも関わらず、クラウチjrは死亡とされている。…ということは、脱獄自体を隠蔽されたか、看守にも気づかれないようなトリックを使ったか。きなくさい親子だ。今日は何をつかめるのか。それは、サクラとダンブルドアの腕にかかっている。
全てを整えると、ヌーディなゴールドのパンプスに足を入れる。小さくちりばめられたスパンコールが、きらきらとサクラの足下を輝かせた。サクラはヒールで石畳の廊下を颯爽と歩き、会場へと向かった。
蝋燭の明かりにてらされた大広間は、まだ夕食まで時間があるというのに多くの生徒が集まっていた。いままでにない熱気を肌で感じる。みなが、ゴブレットのもたらす結果を心待ちにしているのだ。大広間に足を踏み入れる。一瞬、生徒たちの視線が向けられたがすぐさま、生徒同士の会話が再開された。…派手すぎただろうか、と些か不安に思っていたが杞憂だったようだ。そのまま教職員テーブルへと向かった。しかし、その歩みを遮るように、足下にすらりと片足が伸びてきた。
「昨日からずいぶんと上等なドレスを着ているな。」
足の持ち主は、ブロンドをきっちりとなでつけ、嘲笑うかのような表情でこちらをみている。小説や映画と同じく、取り巻きも意地悪そうな顔でマルフォイの言葉でくすくすと笑った。
「魔法も金もないスクイブがどうやって準備したんだ?」
「校長先生のご厚意です。」
「ふうん…。」
マルフォイは、にやり、と取り巻きたちと笑い合った。
「どうやって取り入ったんだ?…まさかクラウチかバクマンにも『その格好で』取り入るつもりか?」
男子生徒たちが笑みを深めた。なんとなく言いたいことは察せられたが、このような挑発に乗るほど若くもない。
「生憎、僕の父上は「そんな格好」で機嫌はとれないが、落ち目の役人とクィディッチ崩れの役人には効果てきめんかもしれないな。」
「…そういうお話でしたら、どうぞご自身のお部屋でなさってください。公共の場でお話になるのは、あなたの品性に関わりますよ。」
まさか、そのような反応が返ってくるとは思いもしなかったのか、顔を真っ赤にさせ、勢いよく立ち上がった。
「スクイブの分際でよくも純血の僕を辱めたな!」
何かかたいものが胸に触れた。見下ろすと、それはマルフォイの杖であった。そして、マルフォイが呪文を口にしはじめたところで杖の先が光り始めた。ここまで短気だとはサクラの方も想定外だ。身をよじるが、それでそらせるような距離では無い。半ばあきらめたところで、誰かの手が杖の方向を変えさせた。
「式典の前に面倒ごとを起こすな。」
マルフォイとサクラの間にスネイプが割って入った。天井に向けられた杖は勢いよく光を飛ばした。自身の寮監の姿にマルフォイはすぐさま杖をしまい、「…はい」と、不服そうではあるが指示に従った。スネイプはそれを見届けると、今度はサクラの方へ視線を向けた。一通りサクラの姿を見ると、
「今日は我が輩に媚びるのではないようだな。」
と言った。今日、スネイプが着ているのはネイビーのベストで、それとサクラのドレスを見比べるようにしてみせた。今度はサクラの頬が紅潮した。
「あれはダンブルドア校長のご指示です。妙なことをおっしゃらないでください。」
サクラの反応にスネイプは、面白がるような視線を向けた。
「どのような格好をしようが己の生まれまでは飾れまい。」
馬鹿にしたような視線が刺さる。…どの口が言っているのだ。自分こそ1番出自にこだわり、コンプレックスを感じているくせに。しかし、そのようなことを生徒の前で言うわけにもいかず、代わりにサクラはスネイプに鋭い視線を向けた。しかし、それさえも意に介さないように言葉を続けた。
「それよりも早く席についてくれないかね。後ろが詰まっている。」
そう言われると、反論のしようもなくサクラはくるりと踵を返し、教職員席へと向かった。
相変わらず嫌味な物言いは健在だ。先ほど助けてくれたことなど夢だったのではないか、とサクラが思うほどだ。乱暴に椅子を引いて、どすん、と腰をおろす。隣ですでに座っていたマクゴナガルが渋い顔をしたが、そちらにかまう心の余裕は残念ながら持ち合わせていなかった。
長い食事の時間が終わり、ダンブルドアが立ち上がった。その場にいる全員が、ダンブルドアの動向を注視している。ダンブルドアが杖を取り、大きく一振りした。とたんに、蝋燭の明かりは全て消え、部屋はほとんど真っ暗になった。唯一、炎のゴブレットだけは、大広間の中でひときわ明々と輝き、青白い炎を燃やしていた。幻想的な光景に自然とため息が溢れる。静かな炎が突然赤くなった。そして、まるで生きているかのように燃え上がり、その炎の先から焦げた羊皮紙が1枚、はらりと落ちた。
全員がそれに目線を向け、固唾を飲んだ。
ダンブルドアがその羊皮紙を捕らえて読み上げた。
「ダームストラングの代表選手は…ビクトール クラム。」
その言葉に大広間は拍手と歓声の嵐に包まれた。呼ばれたクラムはスリザリンのテーブルから立ち上がり、教職員テーブルを沿って歩くと、その後ろの扉から専用の部屋へと消えていった。同じくバーバトンの代表選手のフラーも続き、残るホグワーツの代表選手であるセドリックの名前が呼ばれた。
とうとう、この日がやってきてしまった。
サクラにとって、この瞬間は死のカウントダウンというより他なかった。ハッフルパフ生の祝福に笑顔で返すのを見ると、喜ばしいはずであるのに、拍手を送るのが精一杯だった。例に漏れず、セドリックも教職員テーブルを沿って歩いてくる。その足がサクラに近づくにつれてゆっくりとした足取りになっていった。あれだけ彼自身が望んでいたものが手に入ったのだ。それをサクラ自身、彼の隣で見ていたため、よく知っている。きっとサクラからの祝福の言葉を欲していることも…。
自身の目の前で立ち止まったセドリックを見上げた。いつもよりきらきらとしたオーラを纏わせながら笑顔を向けている。
「サクラさん…」
「おめでとうセドリック!…あなたがホグワーツ代表で誇らしいわ。」
「ありがとう!サクラさんをがっかりさせない結果を持ってくるよ!」
嬉しそうにはにかんだセドリックの顔に、こちらも、にこりと微笑み返した。うまく笑えているだろうか?彼に悟られるわけにはいかないのだ。彼の命を繋ぐためにも、ここで手の内を明かすような真似はできない。見つめるセドリックの表情は相変わらず嬉しそうで、サクラは自身を欺くことに成功したのだと、胸をなでおろした。そして、セドリックが部屋の中へ消えたところで、もう1枚の羊皮紙が、はらりと落ちた。ダンブルドアはその羊皮紙をしばらく眺めていた。その瞳の奥で何を思案しているのか窺い知ることはできない。アイスブルーの瞳はそこにある名前をとらえ、長い沈黙の中で読み上げた。
「ハリー ポッター。」
大広間のすべての目が一斉にハリーに注がれた。教職員テーブルからも厳しい視線が飛ぶ。特にマクゴナガルとスネイプはその視線で射殺さんばかりだった。すぐさまマクゴナガルは立ち上がり、ダンブルドアに何事か囁いた。聡明な彼女のことだ。異常事態にハリーの危険を察知したのだろう。その言葉にダンブルドアは頷き、再度ハリーの名を呼んだ。
拍手のない中、ハーマイオニーに背中を押される形でハリーが進み出た。当事者でなくとも針のような幾つもの視線は胸を抉られるような感覚に陥った。当のハリーにとってこの事態はどれほど苦痛か…。
「さあ…あの扉から、ハリー。」
ダンブルドアに促され扉へと向かう。誰もハリーに挨拶の合図を送ってやらなかった。驚いたように、あるいは怒りでハリーを見つめるだけだ。ハグリッドでさえ、ハリーを見ているだけだった。