炎のゴブレット編
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代表選手の選出を迎えた夕方は、学校中がそわそわと落ち着きのない空気に包まれていた。サクラも同じく、そわそわしながら、夜に向けての準備を整えていった。会場で必要なものを各所で準備しながら、ダンブルドアと交わした話を反芻する。
4人目の代表者にハリーが選ばれると知り、ダンブルドアは一瞬驚いたような表情をした。しかし、すぐに持ち直し、今後の動きについてサクラと額をつきあわせて話し合った。サクラが代表選手が集められる部屋への同席を求めた理由は、もちろんダンブルドアに話してある。あとは、ダンブルドアとサクラ自身で違和感の原因を突き止めるだけだ。
サクラは大広間のすぐ隣の控え室で諸々の準備を整えていた。椅子や机などの搬入はすでに屋敷僕たちが終わらせている。他の細々したものをそろえているところで、控え室の扉が開く音がした。そちらへ目をやると、今まで接触しないよう注意を払っていたムーディの姿があった。ぎょろぎょろと動く目が、あちこちを探るように動き、もう一つの目は、じっとサクラをとらえている。その瞳にとらえられ、一瞬息をするのを忘れる。
「おまえ、サクラ ヒナタと言ったか?」
「え、ええ。…ムーディ先生。」
「ここで何をしている?」
矢継ぎ早にされる質問のなかで、サクラが一番聞きたいことだ。なぜ、ここにいる?ハリーを監視しているのでは?スネイプが寝返ったと探っているのでは?ウォルデモートに報告するために…。そう思うと自然と、眉間に皺が寄っていたらしい。ムーディは怪訝そうな顔で、「言えんようなことか。」と距離を詰めてきた。自然と一歩下がって距離をとる。
ここで気圧されててはいけない。彼がムーディでないことを知っていると気取られてはいけないのだ。多くの人を殺した男が怖くないわけがない。アズカバン送りにされた極悪人だ。しかし、変に怪しまれ、自分まで監視されるようになれば動きづらくなってしまう。サクラは、すぐさま気を取り直して、『ムーディ』に向き直った。
「今日の準備をしています。こちらで代表選手は説明を聞くと伺っていますので、不備がないようにと。」
「ほう…」
疑うような視線が突き刺さる。
「お前がここに来たのは、最近だそうだな。」
「ええ。」
何が言いたい?その疑問を口にする前に、ムーディが言葉を継げた。
「『この時期』に随分と都合がいい。」
「…なにを。」
「今回の対抗試合は命の危険があることは、誰でも知っているだろう。たとえ、ハリーの命を狙う輩が潜り込んでいたとしても、『不慮の事故』で処理できる。」
自身の計画を、さもサクラが行うかのように、不信の目をしながら突きつけるのだ。不愉快にならないはずがない。ましてや、今後の展開を知っている身として、前途有望な若者を苦しめる、お前になど言われたくない。控えめに言って殴りつけてやりたい。
だが、気持ちを持ち直したサクラは冷静だ。表情を変えること無く、ムーディの言葉に反論した。
「私はスクイブです。私を疑う前に、なさることがあるのでは?」
先ほどとは違う強気な反応に、ムーディは楽しそうに笑った。こぶしひとつ分の距離にまで詰められ、寄りかかった机から、グラスが滑り落ちた。ガラスの割れる音にかまわず、ムーディはサクラの顔をのぞき込んだ。まるで面白いおもちゃを見つけたような、ほの暗い欲が瞳の奥でくすぶっている。これほど近くなければ気がつかないような小さな、残酷な炎。サクラの背中に、汗が一筋流れた。
「学校内で妙なまねをしているな。」
部屋の入り口から、聞き慣れた声がした。落ち着いた低い声が、ムーディの背後から聞こえ、ムーディの肩越しにスネイプの姿がみえた。
「セブルス、おかしいと思わんか?『今年』やってきた『スクイブ』!!」
ムーディはスネイプの方へ向き直った。半ば、迫られているような構図であった体勢を戻した。スネイプは興奮気味のムーディに冷ややかな視線を送った。
「あなたが危険視するべきは『非力なスクイブ』ではなく、カルカロフのような輩であるのではないか?」
その言葉に、ムーディが、はっ!と大きく笑った。
「確かにそうだ!カルカロフやセブルス、お前のような者を注意深く見ておかねば。」
含んだ言い方であるが、サクラにもスネイプにも十分その意図は伝わった。寝返ったお前たちは信用ならない、と。ムーディとしての立場で発言したとしても、クラウチjrとして発言したとしても、二人は裏切り者に違いなかった。言いよどんだセブルスをみて満足したのか、ムーディは「気をつけておくことだ。」と、言い残して部屋を出て行った。
「…はあぁ。」
自然とため息がこぼれ、足の力がなくなった。サクラはそのまま地面にへたりこんだ。思いの外、消耗したらしい。スネイプが焦ったように「おい!」と声をかけた。
「すみません、力が抜けました…。」
サクラが力なく笑うと、一瞬取り乱していたスネイプは、ふん、と小さく鼻をならした。
「…お前でも恐怖を感じることがあるのだな。」
「失礼な。私だって普通の人間です。怖がることくらいありますよ。」
「ふてぶてしいところは、さすが図太い女だな。」
スネイプはそういいながら、割れたグラスを魔法で一瞬で元通りにした。
「スネイプ先生、普通女性が座り込んでいたら手を貸すものですよ。」
またもや鼻で笑うスネイプは一切手を貸すつもりはないらしい。面白そうにこちらを見下ろしている。
「我が輩からの貸しを増やしていいのかね?」
「お返しする機会がありますので、ご心配なく。」
サクラの返答に、スネイプは不本意ながらという顔で手を差し出した。こちらこそ、不本意である。あとでねちねちと言われるであろうことは想像に難くない。しかし、いつまでも床で座っているわけにはいかない。その手をつかむと、いとも簡単に片手でサクラは引き上げられた。思いの外、力があるのだ、と内心で思ったことは口に出さず、「ありがとうございます。」と感謝の言葉を述べた。お互いにこぶし一つ分の距離で向かい合う。そこで、サクラは向かい合う男にしか聞こえない声でささやいた。
「あの人には気をつけて。」
サクラにとって、今の貸しを返すだけの小さなつぶやきだった。ただ、スネイプにとっては、重大な価値のあるものに思えた。なぜなら、これはサクラからの初めての忠告であった。今まで無言を貫いてきた女が初めて口にした言葉。何かが変わったのだ、とその肌で感じたのだった。
4人目の代表者にハリーが選ばれると知り、ダンブルドアは一瞬驚いたような表情をした。しかし、すぐに持ち直し、今後の動きについてサクラと額をつきあわせて話し合った。サクラが代表選手が集められる部屋への同席を求めた理由は、もちろんダンブルドアに話してある。あとは、ダンブルドアとサクラ自身で違和感の原因を突き止めるだけだ。
サクラは大広間のすぐ隣の控え室で諸々の準備を整えていた。椅子や机などの搬入はすでに屋敷僕たちが終わらせている。他の細々したものをそろえているところで、控え室の扉が開く音がした。そちらへ目をやると、今まで接触しないよう注意を払っていたムーディの姿があった。ぎょろぎょろと動く目が、あちこちを探るように動き、もう一つの目は、じっとサクラをとらえている。その瞳にとらえられ、一瞬息をするのを忘れる。
「おまえ、サクラ ヒナタと言ったか?」
「え、ええ。…ムーディ先生。」
「ここで何をしている?」
矢継ぎ早にされる質問のなかで、サクラが一番聞きたいことだ。なぜ、ここにいる?ハリーを監視しているのでは?スネイプが寝返ったと探っているのでは?ウォルデモートに報告するために…。そう思うと自然と、眉間に皺が寄っていたらしい。ムーディは怪訝そうな顔で、「言えんようなことか。」と距離を詰めてきた。自然と一歩下がって距離をとる。
ここで気圧されててはいけない。彼がムーディでないことを知っていると気取られてはいけないのだ。多くの人を殺した男が怖くないわけがない。アズカバン送りにされた極悪人だ。しかし、変に怪しまれ、自分まで監視されるようになれば動きづらくなってしまう。サクラは、すぐさま気を取り直して、『ムーディ』に向き直った。
「今日の準備をしています。こちらで代表選手は説明を聞くと伺っていますので、不備がないようにと。」
「ほう…」
疑うような視線が突き刺さる。
「お前がここに来たのは、最近だそうだな。」
「ええ。」
何が言いたい?その疑問を口にする前に、ムーディが言葉を継げた。
「『この時期』に随分と都合がいい。」
「…なにを。」
「今回の対抗試合は命の危険があることは、誰でも知っているだろう。たとえ、ハリーの命を狙う輩が潜り込んでいたとしても、『不慮の事故』で処理できる。」
自身の計画を、さもサクラが行うかのように、不信の目をしながら突きつけるのだ。不愉快にならないはずがない。ましてや、今後の展開を知っている身として、前途有望な若者を苦しめる、お前になど言われたくない。控えめに言って殴りつけてやりたい。
だが、気持ちを持ち直したサクラは冷静だ。表情を変えること無く、ムーディの言葉に反論した。
「私はスクイブです。私を疑う前に、なさることがあるのでは?」
先ほどとは違う強気な反応に、ムーディは楽しそうに笑った。こぶしひとつ分の距離にまで詰められ、寄りかかった机から、グラスが滑り落ちた。ガラスの割れる音にかまわず、ムーディはサクラの顔をのぞき込んだ。まるで面白いおもちゃを見つけたような、ほの暗い欲が瞳の奥でくすぶっている。これほど近くなければ気がつかないような小さな、残酷な炎。サクラの背中に、汗が一筋流れた。
「学校内で妙なまねをしているな。」
部屋の入り口から、聞き慣れた声がした。落ち着いた低い声が、ムーディの背後から聞こえ、ムーディの肩越しにスネイプの姿がみえた。
「セブルス、おかしいと思わんか?『今年』やってきた『スクイブ』!!」
ムーディはスネイプの方へ向き直った。半ば、迫られているような構図であった体勢を戻した。スネイプは興奮気味のムーディに冷ややかな視線を送った。
「あなたが危険視するべきは『非力なスクイブ』ではなく、カルカロフのような輩であるのではないか?」
その言葉に、ムーディが、はっ!と大きく笑った。
「確かにそうだ!カルカロフやセブルス、お前のような者を注意深く見ておかねば。」
含んだ言い方であるが、サクラにもスネイプにも十分その意図は伝わった。寝返ったお前たちは信用ならない、と。ムーディとしての立場で発言したとしても、クラウチjrとして発言したとしても、二人は裏切り者に違いなかった。言いよどんだセブルスをみて満足したのか、ムーディは「気をつけておくことだ。」と、言い残して部屋を出て行った。
「…はあぁ。」
自然とため息がこぼれ、足の力がなくなった。サクラはそのまま地面にへたりこんだ。思いの外、消耗したらしい。スネイプが焦ったように「おい!」と声をかけた。
「すみません、力が抜けました…。」
サクラが力なく笑うと、一瞬取り乱していたスネイプは、ふん、と小さく鼻をならした。
「…お前でも恐怖を感じることがあるのだな。」
「失礼な。私だって普通の人間です。怖がることくらいありますよ。」
「ふてぶてしいところは、さすが図太い女だな。」
スネイプはそういいながら、割れたグラスを魔法で一瞬で元通りにした。
「スネイプ先生、普通女性が座り込んでいたら手を貸すものですよ。」
またもや鼻で笑うスネイプは一切手を貸すつもりはないらしい。面白そうにこちらを見下ろしている。
「我が輩からの貸しを増やしていいのかね?」
「お返しする機会がありますので、ご心配なく。」
サクラの返答に、スネイプは不本意ながらという顔で手を差し出した。こちらこそ、不本意である。あとでねちねちと言われるであろうことは想像に難くない。しかし、いつまでも床で座っているわけにはいかない。その手をつかむと、いとも簡単に片手でサクラは引き上げられた。思いの外、力があるのだ、と内心で思ったことは口に出さず、「ありがとうございます。」と感謝の言葉を述べた。お互いにこぶし一つ分の距離で向かい合う。そこで、サクラは向かい合う男にしか聞こえない声でささやいた。
「あの人には気をつけて。」
サクラにとって、今の貸しを返すだけの小さなつぶやきだった。ただ、スネイプにとっては、重大な価値のあるものに思えた。なぜなら、これはサクラからの初めての忠告であった。今まで無言を貫いてきた女が初めて口にした言葉。何かが変わったのだ、とその肌で感じたのだった。