アズカバンの囚人編
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目を開けると、石畳の天井があった。手首には不快な圧迫感があり、寝転がされていた体の背の方へ顔を向けると、後ろ手に縄で拘束されていた。足も同様に縛られていた。
あの笑みはただの嘲笑の意味合いだったのか。
自分の捕らえられた姿から、あの人物は自分を敵とみなしていたのだと、今さらながら認識させられる。
冷静に考えれば、当たり前である。夜中の森に現れた見知らぬ人物。たしかここでは姿現しも姿消しもできなかったはず。その環境で突然現れ、しかも横たわった人間が傍らに、では味方と考える方が難しいのだ。
加えて発見者がスネイプとなれば、ほぼ100%の確率で敵認定されて当たり前だった。気が動転していたとはいえお粗末な行動だった。先ほどの自分を思い返して恥ずかしくなる。小説や映画で焦がれていた人物に出会えた嬉しさはもはや萎んでいた。
代わりに手首が縄ですれる痛みと、失神呪文だったのだろうか、それを受けて言いようのない頭の不快感が増すばかりだった。
夢にしてはいくらなんでも酷い展開ではないか。せめてまともに話せるようにしておいてくれれば、あのような意思の疎通に苦労することもなかったし、いきなり失神呪文をかけられて縄につながれることもなかったのだ。自分の夢であるのに、思い通りいかないとは。いらぬところで現実主義な自分の脳が腹立たしかった。
緩慢な動きで体を起こし、周囲を観察してみる。四方が石で積み上げられた部屋には申し訳程度に小さな椅子があり、左には木の扉が付いていた。芋虫よろしく扉まで進み、ドアノブに手をかける。年季の入った鉄のノブに力を入れて扉に体重をかける。びくともしない。今度は引っ張ってみるが、扉は1ミリも動かなかった。
縛られている時点で何となく予想してはいたが、閉じ込められていたか。あの森の中、ホグワーツの敷地内で起こった出来事と不可解な人物。それは閉じ込めるに値する。しかし、このままというわけではないだろう。あの校長であれば、事情を聞くため接触をするはずだ。まさかあの教授がダンブルドアに報告をしないはずがない。今はおとなしくするしかない。唯一、外の景色につながる小さな窓から夜空を眺めながら、その時を待つことにした。
星座が1つ窓の端から端まで移動するほどの時間を過ごしていると、扉の向こうから足音が近づいてきた。2つの足音だ。きっとあの2人だろう。
扉がガチャリと音がして鍵か開けられる。そこからのぞいたのは白髪の老人と、真っ黒な蝙蝠のような出で立ちの男だった。
『気分はどうかの?』
校長はアイスブルーの瞳をこちらに向けた。
『良いです。』
万全というわけではないが、手首が痛いだとか細かなことを説明する英語力はあいにく持ち合わせていない。話ができるくらいには回復しているのだから、良いでいいだろう。
『このような場所ですまぬ。お主には悪いが互いの安全のため、このようにさせてもらった。』
『え…えっと。』
『校長、この者は英語が堪能ではないようです。失神呪文をかけるまで、警告の言葉さえ分からないようでした。』
スネイプがダンブルドアに進言をしている。目線はこちらで、あの森の時のように人を馬鹿にするような蔑んだ瞳だった。言葉は通じずとも、何となく嫌なことを言われているのは感じた。
「嫌味な奴ね。実際会うとあまり好きになれない性格だわ。」
こちらも通じぬのなら、と日本語で悪態をつく。案の定、2人とも疑問に思っただけで、意味は理解できていないらしい。
ダンブルドアが、こちらに向けて杖を振った。とっさに手を突き出して攻撃に備える形をとった。しかし、今度は失神するわけでもなく、一瞬体が光に包まれ、その光はすぐに消えた。
「な、何?」
「これで儂らの言葉は通じるかな?」
「はい…。これは一体?」
「翻訳呪文じゃよ。どうやら異国の言葉とお見受けした。違う言語を操るもの同士、話すには不便じゃろう。」
茶目っ気のあるウインクにすこし空気がゆるんだ。
「自己紹介がまだであった。儂はアルバス ダンブルドア。隣にいるのが、セブルス スネイプじゃ。」
「私は サクラ ヒナタと申します。」
「ミスヒナタ、先程の森での一件で、念のため拘束させてもろうておる。不快だとは思うが…。」
「いえ、お気になさらないでください。当然のことだと思っています。」
「すまぬ。して、お主にいくつか聞きたいことがある。まず、君はここがどこであるかは理解しているかの?」
「ええ、ホグワーツ魔法魔術学校です。」
スネイプ教授から先ほどの一件を聞いていたからだろう。私もあそこが禁じられた森であって、隣にいた人物が知っている人物であればもう少し取り乱さずにいられただろう。きっと、校長はたんに学校を知っているか、というより他のことを聞きたいのだろうが…。まずは当たり障りないことがいいだろう。
ダンブルドアもそれが分かっているのか、素知らぬ顔で質問を続けた。
「どこから来たのじゃ?」
「…日本から。」
おそらく姿現しのできない敷地に、どのように入ったのかを聞きたいのだろうが、私にも理解できない部分が多い。しかも、下手なことを言って疑いを持たれるのもご免だ。
「そのようなことを聞いているのではない!」
スネイプが隣で吠える。馬鹿にしているとでも思ったのだろう。自分でもそう思うが、こう答えるしかない。そもそもどうしてここにいるのか、説明などできるはずないのだ。
スネイプはその勢いのまま言葉をつなげた。
「姿現しのできないあの場所で、吸魂鬼がうごめく暗闇で貴様だけ意識を保ったままだった。どのような術を使って入り込んだ?奴らに吸魂鬼をけしかけたのだろう!何が目的だ!」
「…なぜあの場にいたのか私にも検討がつきません。しかも、奴らとは?私が気付いたのは女性1人横たわっていたことだけ。他に倒れたいた方がいたとは知りませんでした。」
「嘘をつけ!!」
「セブルス落ち着かぬか。」
隣の黒服を手で制し、ダンブルドアが一歩歩み寄った。口調は優しいが目だけは射るようにこちらを見つめていた。言わないだけで校長も同じ気持ちなのだと分かった。
「ミスヒナタ。ここに来る前のことを教えてもらえるかな。」
答えによっては、ここから出ることは叶わないのだろうか。一言、言葉を出すことに躊躇してしまう。これで私の処遇が決まるのだ。
どうすればいい?下手な嘘を言っても偉大なる魔法使いと開心術の使える魔法使いには、すぐ見破られる。そう思い、ここまである程度は嘘のない言葉で答えてきた。夢の中とはいえ、現実世界から本へトリップしてきました。と軽々しく言えるほどこの作品に関心がないわけてはない。2人が薄い紙に書かれた虚像であることは目の前にいる彼らを否定するように思えた。
「私は祖母の葬儀に出ていました。そこで祖母の形見である指輪に手を通すと意識が遠のき、気づいたらあの森の中にいました。」
嘘ではない。しかし、余計なことは言わない方がいい。必要な情報だけをかいつまんで話した。それに教授は片眉をひくつかせ、再度詰問しようと息を吸い込んだ。そのところで、ダンブルドアがまたもやそれを制した。
「たしかに、お主の着ているものから察するに葬儀に参列してあったのだとは分かる。して、その指輪とは。」
今着ているのはワンピースの喪服で、世界的にもこの出で立ちは葬儀のものだ。私は2人に見えるよう、背を向けるようにして、繋がれたら手のひとつを見せた。幸い、気絶した後も親指にはまったままであった。
「…ほう、これは。」
アイスブルーが鋭く光った。
「これを君のお婆様が?」
「ええ。」
その返答に、校長と教授は何かを視線で話しているようだった。そして、指輪と私へと向ける目線が先程より鋭くなった。先程までとはちがう冷たい空気に、自分が何かとんでもない方へ来てしまったこと。それが、この指輪なのだということは察せられる。
「お主はこれを指にはめて何かなかったかの?」
この何かというのは飛ばされてきたこと以外で問われているのだろう。
「付けた瞬間は寒気がしました。それ以外は特に何ともありません。」
さすがに、亡くなった祖母が見えたとは言えない。当たり障りのないことだけ話す。
それを聞いて、さらに2人の雰囲気がピリピリする。しかし何が原因か見当もつかないため、為すすべもない。
「お婆様から何か伝えられたことはなかったかの。」
「祖母には、これは私のものになったから、サイズを直して使ってくれと。」
この言葉が決定打だった。2人に流れる空気がまた一段と重くなった。
これは出られないかもしれない。
指輪が灯火の前でにぶく光った。
あの笑みはただの嘲笑の意味合いだったのか。
自分の捕らえられた姿から、あの人物は自分を敵とみなしていたのだと、今さらながら認識させられる。
冷静に考えれば、当たり前である。夜中の森に現れた見知らぬ人物。たしかここでは姿現しも姿消しもできなかったはず。その環境で突然現れ、しかも横たわった人間が傍らに、では味方と考える方が難しいのだ。
加えて発見者がスネイプとなれば、ほぼ100%の確率で敵認定されて当たり前だった。気が動転していたとはいえお粗末な行動だった。先ほどの自分を思い返して恥ずかしくなる。小説や映画で焦がれていた人物に出会えた嬉しさはもはや萎んでいた。
代わりに手首が縄ですれる痛みと、失神呪文だったのだろうか、それを受けて言いようのない頭の不快感が増すばかりだった。
夢にしてはいくらなんでも酷い展開ではないか。せめてまともに話せるようにしておいてくれれば、あのような意思の疎通に苦労することもなかったし、いきなり失神呪文をかけられて縄につながれることもなかったのだ。自分の夢であるのに、思い通りいかないとは。いらぬところで現実主義な自分の脳が腹立たしかった。
緩慢な動きで体を起こし、周囲を観察してみる。四方が石で積み上げられた部屋には申し訳程度に小さな椅子があり、左には木の扉が付いていた。芋虫よろしく扉まで進み、ドアノブに手をかける。年季の入った鉄のノブに力を入れて扉に体重をかける。びくともしない。今度は引っ張ってみるが、扉は1ミリも動かなかった。
縛られている時点で何となく予想してはいたが、閉じ込められていたか。あの森の中、ホグワーツの敷地内で起こった出来事と不可解な人物。それは閉じ込めるに値する。しかし、このままというわけではないだろう。あの校長であれば、事情を聞くため接触をするはずだ。まさかあの教授がダンブルドアに報告をしないはずがない。今はおとなしくするしかない。唯一、外の景色につながる小さな窓から夜空を眺めながら、その時を待つことにした。
星座が1つ窓の端から端まで移動するほどの時間を過ごしていると、扉の向こうから足音が近づいてきた。2つの足音だ。きっとあの2人だろう。
扉がガチャリと音がして鍵か開けられる。そこからのぞいたのは白髪の老人と、真っ黒な蝙蝠のような出で立ちの男だった。
『気分はどうかの?』
校長はアイスブルーの瞳をこちらに向けた。
『良いです。』
万全というわけではないが、手首が痛いだとか細かなことを説明する英語力はあいにく持ち合わせていない。話ができるくらいには回復しているのだから、良いでいいだろう。
『このような場所ですまぬ。お主には悪いが互いの安全のため、このようにさせてもらった。』
『え…えっと。』
『校長、この者は英語が堪能ではないようです。失神呪文をかけるまで、警告の言葉さえ分からないようでした。』
スネイプがダンブルドアに進言をしている。目線はこちらで、あの森の時のように人を馬鹿にするような蔑んだ瞳だった。言葉は通じずとも、何となく嫌なことを言われているのは感じた。
「嫌味な奴ね。実際会うとあまり好きになれない性格だわ。」
こちらも通じぬのなら、と日本語で悪態をつく。案の定、2人とも疑問に思っただけで、意味は理解できていないらしい。
ダンブルドアが、こちらに向けて杖を振った。とっさに手を突き出して攻撃に備える形をとった。しかし、今度は失神するわけでもなく、一瞬体が光に包まれ、その光はすぐに消えた。
「な、何?」
「これで儂らの言葉は通じるかな?」
「はい…。これは一体?」
「翻訳呪文じゃよ。どうやら異国の言葉とお見受けした。違う言語を操るもの同士、話すには不便じゃろう。」
茶目っ気のあるウインクにすこし空気がゆるんだ。
「自己紹介がまだであった。儂はアルバス ダンブルドア。隣にいるのが、セブルス スネイプじゃ。」
「私は サクラ ヒナタと申します。」
「ミスヒナタ、先程の森での一件で、念のため拘束させてもろうておる。不快だとは思うが…。」
「いえ、お気になさらないでください。当然のことだと思っています。」
「すまぬ。して、お主にいくつか聞きたいことがある。まず、君はここがどこであるかは理解しているかの?」
「ええ、ホグワーツ魔法魔術学校です。」
スネイプ教授から先ほどの一件を聞いていたからだろう。私もあそこが禁じられた森であって、隣にいた人物が知っている人物であればもう少し取り乱さずにいられただろう。きっと、校長はたんに学校を知っているか、というより他のことを聞きたいのだろうが…。まずは当たり障りないことがいいだろう。
ダンブルドアもそれが分かっているのか、素知らぬ顔で質問を続けた。
「どこから来たのじゃ?」
「…日本から。」
おそらく姿現しのできない敷地に、どのように入ったのかを聞きたいのだろうが、私にも理解できない部分が多い。しかも、下手なことを言って疑いを持たれるのもご免だ。
「そのようなことを聞いているのではない!」
スネイプが隣で吠える。馬鹿にしているとでも思ったのだろう。自分でもそう思うが、こう答えるしかない。そもそもどうしてここにいるのか、説明などできるはずないのだ。
スネイプはその勢いのまま言葉をつなげた。
「姿現しのできないあの場所で、吸魂鬼がうごめく暗闇で貴様だけ意識を保ったままだった。どのような術を使って入り込んだ?奴らに吸魂鬼をけしかけたのだろう!何が目的だ!」
「…なぜあの場にいたのか私にも検討がつきません。しかも、奴らとは?私が気付いたのは女性1人横たわっていたことだけ。他に倒れたいた方がいたとは知りませんでした。」
「嘘をつけ!!」
「セブルス落ち着かぬか。」
隣の黒服を手で制し、ダンブルドアが一歩歩み寄った。口調は優しいが目だけは射るようにこちらを見つめていた。言わないだけで校長も同じ気持ちなのだと分かった。
「ミスヒナタ。ここに来る前のことを教えてもらえるかな。」
答えによっては、ここから出ることは叶わないのだろうか。一言、言葉を出すことに躊躇してしまう。これで私の処遇が決まるのだ。
どうすればいい?下手な嘘を言っても偉大なる魔法使いと開心術の使える魔法使いには、すぐ見破られる。そう思い、ここまである程度は嘘のない言葉で答えてきた。夢の中とはいえ、現実世界から本へトリップしてきました。と軽々しく言えるほどこの作品に関心がないわけてはない。2人が薄い紙に書かれた虚像であることは目の前にいる彼らを否定するように思えた。
「私は祖母の葬儀に出ていました。そこで祖母の形見である指輪に手を通すと意識が遠のき、気づいたらあの森の中にいました。」
嘘ではない。しかし、余計なことは言わない方がいい。必要な情報だけをかいつまんで話した。それに教授は片眉をひくつかせ、再度詰問しようと息を吸い込んだ。そのところで、ダンブルドアがまたもやそれを制した。
「たしかに、お主の着ているものから察するに葬儀に参列してあったのだとは分かる。して、その指輪とは。」
今着ているのはワンピースの喪服で、世界的にもこの出で立ちは葬儀のものだ。私は2人に見えるよう、背を向けるようにして、繋がれたら手のひとつを見せた。幸い、気絶した後も親指にはまったままであった。
「…ほう、これは。」
アイスブルーが鋭く光った。
「これを君のお婆様が?」
「ええ。」
その返答に、校長と教授は何かを視線で話しているようだった。そして、指輪と私へと向ける目線が先程より鋭くなった。先程までとはちがう冷たい空気に、自分が何かとんでもない方へ来てしまったこと。それが、この指輪なのだということは察せられる。
「お主はこれを指にはめて何かなかったかの?」
この何かというのは飛ばされてきたこと以外で問われているのだろう。
「付けた瞬間は寒気がしました。それ以外は特に何ともありません。」
さすがに、亡くなった祖母が見えたとは言えない。当たり障りのないことだけ話す。
それを聞いて、さらに2人の雰囲気がピリピリする。しかし何が原因か見当もつかないため、為すすべもない。
「お婆様から何か伝えられたことはなかったかの。」
「祖母には、これは私のものになったから、サイズを直して使ってくれと。」
この言葉が決定打だった。2人に流れる空気がまた一段と重くなった。
これは出られないかもしれない。
指輪が灯火の前でにぶく光った。