炎のゴブレット編
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
授業後の双子たちにケーキを贈ると、うれしそうに口いっぱいに頬張り、「おいしい!」「世界一うまい!」などと興奮冷めやらぬ様子だった。こちらでドライフルーツのケーキは一般的だと思っていたが、そうではないのだろうか。それとも、単に業後で空腹だったということもあるのかもしれないが。サクラとしては、それだけ喜んでもらえると、作った甲斐があるというものだ。取り巻きの友人たちが、物欲しそうにしていたが、それほど余りがあるわけでもなく、全員に贈ることはかなわないため、次回を約束してその場を後にした。
いつもならば、午後の図書室の業務があるのだが、今日の業務は時間を融通してもらえたため、この後の時間は自由時間だ。10月といっても、まだ日差しはあたたかく、からりとした風に秋の空気を体で感じる。せっかくだ、久しぶりにゆっくりするのもいいだろう。そう思い、ホグワーツにある湖近くまで向かった。
放課後ということで、まばらに生徒が草原に腰掛け、読書をしたりとゆったりとした時間を過ごしていた。ここまでくる者たちは喧噪を離れたい部類のようで、人は居ても、風で水面が揺れる音が聞こえるほど、のどかな静かさがあった。サクラも湖畔のそばにある木に背中を預けて、ゆったりと体を落ち着かせた。
この世界に来てから、仕事や諸々のことで心が安まるときがなかった。こうしてゆったりできるもの久しぶりである。太陽の光が水面をきらきらと反射している。その様子を見つめるだけで、心が凪いでいくようだった。
「はあ…」
心にたまったものを押し出すように息を吐いた。今は、何も考えず、ただ自然に身を任せたい。目を閉じると、それまで意識しなかった音に気づく。草を揺れる音、木のきしんだ音、葉のみずみずしい香り、水の香り…。
このまま少し寝てしまおうか。意識を手放そうとしたところで、こちらに近づく足音がした。草を踏みしめる音は快活で、力強い。一人分の足音で、こちらへ向かってくる人物はそう多くはない。いくつかの候補は頭に浮かんだが、サクラの横になっている木の幹まで足音が来たところで、視線をそちらへ向けた。
「セドリック。」
「お休みに暖かい紅茶はいかがかい?」
セドリックが大きなバスケットを手にして、サクラに微笑みかけた。バスケットの中からは芳しい香りが立ちこめていた。意識を手放す寸前までは睡眠欲が勝っていたものの、現金なもので、その香りを嗅いでしまえば、食欲の方へサクラの気持ちは傾いた。
「いい考えね。ご一緒してもいいかしら。」
「もちろん。」
そういうとセドリックは一層うれしそうに笑みを深めた。
広げられたクロスにセドリックの用意したティーセットが並べられた。草原の緑にあうような白磁のティーカップには、木イチゴの柄がちりばめられ、それと同じ柄の皿にはいくつかのスコーン、サンドイッチが並べられた。その中にサクラの作ったバターケーキも置かれる。さながらピクニックのようで、サクラの表情も輝く。
「これ、全部セドリックが用意してくれたの?とっても素敵ね!」
セドリックはサクラの様子を微笑ましく思って見つめた。これでは、どちらが年上か分からないが、サクラのうれしそうな表情が見られるだけでセドリックは自分までもうれしく感じるのだった。二人で暖かい紅茶に口をつける。芳醇な香りが喉を通して鼻を抜けた。そして、用意された食事に手をつけながら、ふと、サクラはセドリックに疑問を投げかけた。
「でも、私がここにいるのがどうして分かったの?」
特に誰かに知らせたわけでもない。そこにここまでの準備をして現れたセドリックが不思議だった。
「午後から図書室で自習していたんだ。そこでマダムピンスからサクラさんが午後は休みだって聞いてね。」
セドリックが言うには、サクラにたまの休みに気分転換をかねてピクニックに誘うつもりで用意していたらしい。探していると、湖に向かう姿が見えて、後を追ってきたそうだ。
「いつも忙しく動き回っているサクラさんに、こうしてゆっくり過ごす時間を作ってあげたかったんだ。」
照れたようにこちらを見上げながらいうセドリックに、サクラはなんていい子なんだ!と頭を撫でたくなる衝動を抑えた。
「ありがとう。こんな素敵な時間が過ごせてうれしいわ。」
サクラはスネイプに見せないような笑顔を向けた。きらきら揺れる水面を背景に、輝くような笑顔だった。
セドリックは、その笑顔が自分だけに向けられているという事実に、胸を高鳴らせた。生徒の誰もがスクイブと、サクラの存在を気にもとめないが、彼女が陰でホグワーツ生のために尽力していることを見てきた。黙々と仕事をする姿、ウィーズリー兄弟の軽口を軽くいなしてしまう余裕。そして、時折見せる純粋な笑顔。宝箱に入った宝石をのぞき見るような、特別で大切な人だ。
「…て、聞いてる?」
気づくと、不満げな表情のサクラがこちらをのぞき込んでいた。突然の至近距離で驚いたが、それを顔に出さず、セドリックは受け答えた。
「ごめん、来週がどうかした?」
「どうかしたって…31日はボーバトンとダームストラングがくるのよ。こちらの代表生徒にセドリックも名乗り出るの?」
「ああ、もちろんさ!僕の在学中に大会が開かれるってかなりラッキーだよ。このチャンスをつかまないとね。」
「…そうよね。監督生が名乗りあげないほうが不自然よね。」
サクラの表情が曇った。
「心配してるの…?」
「けがをしたり、…命の危険だってあると聞いたわ。心配じゃないと言ったら嘘になるわ。」
サクラとしてはセドリックの命運が分かれるこの大会に参加してほしくない。だが、参加しなければ、話の展開は大幅に変わり、誰がどのように動き、犠牲になるのか予想がつかない。参加するなとも、参加したほうがいい、とも言い切れず口を閉ざした。
「僕の心配をしてくれるんだね。うれしいよ。」
軽口をいうセドリックは、サクラが過剰に心配しているとおもったのだろう。
「…もう、本当にこれだから男の子は。」
「時には大きな壁に挑戦したくなるのが男の子さ。」
セドリックはバターケーキをぱくつきながら答えた。
「それで、このバターケーキはどうしたの?」
今度はセドリックが疑問を口にする番だった。サクラの手作りが食べられてうれしい反面、わざわざ作らずとも屋敷僕が食事を用意してくれる中で準備するのだから、贈り物なのだろうと予想をつけている。以前、学校内で話題になったスネイプとサクラの関係がセドリックの頭の隅をかすめる。
「フレッドとジョージにあげるためにね。」
予想外の人物が出てきたがセドリックは涼しい顔をして先を促した。
「あの二人に、お礼することがあるんだね。」
「普段なら違う『お礼』をするところなんだけどね。」
サクラのいうお礼が純粋な感謝ではなく「制裁」であることは、表情で察しがついた。
「今回は、変な噂の火消しをしてくれたお礼と、情報料ってところね。今も変な噂が回っていないか教えてもらってるのよ。」
「変な噂って?」
「私がスネイプ先生と親密な仲っていうデマよ。その手の話は真実かよりも面白いかどうかで拡散されるのが面倒なところよね。まあ、二人が火消しに回ってくれたから徐々に押さえられるとは思うけど。」
サクラは心底いやそうに紅茶を啜った。
「それなら僕も寮の生徒たちに、それとなく広めておくよ。」
にこやかにサクラに提案しながらも、内心ほっと胸をなで下ろした。本人から言質をとれれば、安心だ。
「ウィーズリー兄弟も他寮の話は収集するのが難しいだろうし、僕でよければ協力しようか?」
その言葉にサクラは大きく首を縦に振った。
「じゃあ、今度は僕にも『お礼』お願いね。」
セドリックは食べかけのバターケーキに視線を移して軽くウインクをした。今度は自分のために作れということなのだろう。サクラとしてもケーキひとつで情報網が増えるなら安いものだ。
「もちろん!今度はセドリックのお好みのものを用意するわ。」
サクラもお返しにセドリックにウインクを飛ばした。
三大魔法学校対抗試合まであと一週間。
それぞれの運命は確実に、「その時」に向けて進んでいた。
いつもならば、午後の図書室の業務があるのだが、今日の業務は時間を融通してもらえたため、この後の時間は自由時間だ。10月といっても、まだ日差しはあたたかく、からりとした風に秋の空気を体で感じる。せっかくだ、久しぶりにゆっくりするのもいいだろう。そう思い、ホグワーツにある湖近くまで向かった。
放課後ということで、まばらに生徒が草原に腰掛け、読書をしたりとゆったりとした時間を過ごしていた。ここまでくる者たちは喧噪を離れたい部類のようで、人は居ても、風で水面が揺れる音が聞こえるほど、のどかな静かさがあった。サクラも湖畔のそばにある木に背中を預けて、ゆったりと体を落ち着かせた。
この世界に来てから、仕事や諸々のことで心が安まるときがなかった。こうしてゆったりできるもの久しぶりである。太陽の光が水面をきらきらと反射している。その様子を見つめるだけで、心が凪いでいくようだった。
「はあ…」
心にたまったものを押し出すように息を吐いた。今は、何も考えず、ただ自然に身を任せたい。目を閉じると、それまで意識しなかった音に気づく。草を揺れる音、木のきしんだ音、葉のみずみずしい香り、水の香り…。
このまま少し寝てしまおうか。意識を手放そうとしたところで、こちらに近づく足音がした。草を踏みしめる音は快活で、力強い。一人分の足音で、こちらへ向かってくる人物はそう多くはない。いくつかの候補は頭に浮かんだが、サクラの横になっている木の幹まで足音が来たところで、視線をそちらへ向けた。
「セドリック。」
「お休みに暖かい紅茶はいかがかい?」
セドリックが大きなバスケットを手にして、サクラに微笑みかけた。バスケットの中からは芳しい香りが立ちこめていた。意識を手放す寸前までは睡眠欲が勝っていたものの、現金なもので、その香りを嗅いでしまえば、食欲の方へサクラの気持ちは傾いた。
「いい考えね。ご一緒してもいいかしら。」
「もちろん。」
そういうとセドリックは一層うれしそうに笑みを深めた。
広げられたクロスにセドリックの用意したティーセットが並べられた。草原の緑にあうような白磁のティーカップには、木イチゴの柄がちりばめられ、それと同じ柄の皿にはいくつかのスコーン、サンドイッチが並べられた。その中にサクラの作ったバターケーキも置かれる。さながらピクニックのようで、サクラの表情も輝く。
「これ、全部セドリックが用意してくれたの?とっても素敵ね!」
セドリックはサクラの様子を微笑ましく思って見つめた。これでは、どちらが年上か分からないが、サクラのうれしそうな表情が見られるだけでセドリックは自分までもうれしく感じるのだった。二人で暖かい紅茶に口をつける。芳醇な香りが喉を通して鼻を抜けた。そして、用意された食事に手をつけながら、ふと、サクラはセドリックに疑問を投げかけた。
「でも、私がここにいるのがどうして分かったの?」
特に誰かに知らせたわけでもない。そこにここまでの準備をして現れたセドリックが不思議だった。
「午後から図書室で自習していたんだ。そこでマダムピンスからサクラさんが午後は休みだって聞いてね。」
セドリックが言うには、サクラにたまの休みに気分転換をかねてピクニックに誘うつもりで用意していたらしい。探していると、湖に向かう姿が見えて、後を追ってきたそうだ。
「いつも忙しく動き回っているサクラさんに、こうしてゆっくり過ごす時間を作ってあげたかったんだ。」
照れたようにこちらを見上げながらいうセドリックに、サクラはなんていい子なんだ!と頭を撫でたくなる衝動を抑えた。
「ありがとう。こんな素敵な時間が過ごせてうれしいわ。」
サクラはスネイプに見せないような笑顔を向けた。きらきら揺れる水面を背景に、輝くような笑顔だった。
セドリックは、その笑顔が自分だけに向けられているという事実に、胸を高鳴らせた。生徒の誰もがスクイブと、サクラの存在を気にもとめないが、彼女が陰でホグワーツ生のために尽力していることを見てきた。黙々と仕事をする姿、ウィーズリー兄弟の軽口を軽くいなしてしまう余裕。そして、時折見せる純粋な笑顔。宝箱に入った宝石をのぞき見るような、特別で大切な人だ。
「…て、聞いてる?」
気づくと、不満げな表情のサクラがこちらをのぞき込んでいた。突然の至近距離で驚いたが、それを顔に出さず、セドリックは受け答えた。
「ごめん、来週がどうかした?」
「どうかしたって…31日はボーバトンとダームストラングがくるのよ。こちらの代表生徒にセドリックも名乗り出るの?」
「ああ、もちろんさ!僕の在学中に大会が開かれるってかなりラッキーだよ。このチャンスをつかまないとね。」
「…そうよね。監督生が名乗りあげないほうが不自然よね。」
サクラの表情が曇った。
「心配してるの…?」
「けがをしたり、…命の危険だってあると聞いたわ。心配じゃないと言ったら嘘になるわ。」
サクラとしてはセドリックの命運が分かれるこの大会に参加してほしくない。だが、参加しなければ、話の展開は大幅に変わり、誰がどのように動き、犠牲になるのか予想がつかない。参加するなとも、参加したほうがいい、とも言い切れず口を閉ざした。
「僕の心配をしてくれるんだね。うれしいよ。」
軽口をいうセドリックは、サクラが過剰に心配しているとおもったのだろう。
「…もう、本当にこれだから男の子は。」
「時には大きな壁に挑戦したくなるのが男の子さ。」
セドリックはバターケーキをぱくつきながら答えた。
「それで、このバターケーキはどうしたの?」
今度はセドリックが疑問を口にする番だった。サクラの手作りが食べられてうれしい反面、わざわざ作らずとも屋敷僕が食事を用意してくれる中で準備するのだから、贈り物なのだろうと予想をつけている。以前、学校内で話題になったスネイプとサクラの関係がセドリックの頭の隅をかすめる。
「フレッドとジョージにあげるためにね。」
予想外の人物が出てきたがセドリックは涼しい顔をして先を促した。
「あの二人に、お礼することがあるんだね。」
「普段なら違う『お礼』をするところなんだけどね。」
サクラのいうお礼が純粋な感謝ではなく「制裁」であることは、表情で察しがついた。
「今回は、変な噂の火消しをしてくれたお礼と、情報料ってところね。今も変な噂が回っていないか教えてもらってるのよ。」
「変な噂って?」
「私がスネイプ先生と親密な仲っていうデマよ。その手の話は真実かよりも面白いかどうかで拡散されるのが面倒なところよね。まあ、二人が火消しに回ってくれたから徐々に押さえられるとは思うけど。」
サクラは心底いやそうに紅茶を啜った。
「それなら僕も寮の生徒たちに、それとなく広めておくよ。」
にこやかにサクラに提案しながらも、内心ほっと胸をなで下ろした。本人から言質をとれれば、安心だ。
「ウィーズリー兄弟も他寮の話は収集するのが難しいだろうし、僕でよければ協力しようか?」
その言葉にサクラは大きく首を縦に振った。
「じゃあ、今度は僕にも『お礼』お願いね。」
セドリックは食べかけのバターケーキに視線を移して軽くウインクをした。今度は自分のために作れということなのだろう。サクラとしてもケーキひとつで情報網が増えるなら安いものだ。
「もちろん!今度はセドリックのお好みのものを用意するわ。」
サクラもお返しにセドリックにウインクを飛ばした。
三大魔法学校対抗試合まであと一週間。
それぞれの運命は確実に、「その時」に向けて進んでいた。