炎のゴブレット編
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フレッドとジョージは約束通り、どんな些細な出来事でもサクラに報告するようになった。ムーディの授業がみなの度肝を抜くような内容であること。どこの寮の誰が、どんな失敗をやらかしたか。つぎのクィディッチの最有力選手は誰か。三大魔法学校試合で誰が出場しようとしているのか。授業の合間に教えてくれることもあれば、昼休みに時間をとって話すこともあった。
中には、こちらが気になっている情報も含まれており、これほど律儀に約束を守ってくれるとは思いもしなかった。何かお返しをと思い、今日は厨房を借りて、簡単なお菓子を作っているところである。屋敷僕妖精たちには、無理を言って、キッチンの隅を借りた。たっぷりのドライフルーツを混ぜ込んだバターケーキがオーブンのなかできつね色にこんがり焼けている。この分であれば、彼らが授業を終える頃には渡せるだろう。
焼き上がったケーキをオーブンから取り出す。あら熱をとる時間も見越して、少しその場で休憩しようと椅子に腰掛けた。しかし、焼き上がったところで屋敷僕妖精が手をひとふりすると、あら熱はとれ、綺麗に切り分けられてしまった。「ありがとう。」と、言うも、早く持ち場を明け渡せといわんばかりの顔で、ただの親切心だけではないことは分かった。サクラは、そそくさと簡単にラッピングをして、厨房を出た。
フレッドとジョージが授業を終えるまで、まだ時間がある。どうしようか、と思案する。そこで、はたと思い至る人物がいた。
「そっちにもお礼が必要よね。」
足を運んだのは地下室で、スネイプの自室の前であった。魔法薬学の教室は、しんと静まりかえり、今が彼の空き時間であることは確認済みだ。いつも通り4回ノックをする。部屋の中からばたばたと物音がして、勢いよく扉が開かれた。
「なんの用だ。」
こちらも迷惑そうな顔を突き出している。いつもの時間と違い、驚かせてしまったのだろうか。普段は聞かれない慌てた物音がしたところから、火急の用事なのか、と気をもませたのかもしれない。
「お仕事中にお邪魔して申し訳ありません。ただ、お渡ししたいものがあったので…」
懐から、包みを取り出して見せると、スネイプは「入れ」と短く言って、部屋に招き入れた。
「仕事の途中ではなかったんですか?」
「貴様に確認しておきたいことがあった。ついでだ、座れ。」
机には相変わらず丸まった羊皮紙の束がうず高く積まれている。
嫌みなこの男が、珍しく優しいのはどういう心境の変化なのだろう。
「それで、そちらの用件から済ませるとしよう。」
スネイプの視線がサクラの手にしている包みに注がれる。まさか、プレゼントに浮き足立っている訳ではないだろう…。と思うが、大人しく作りたてのバターケーキを取り出した。
「日頃、お世話になっていますから、何かお礼をと思いまして。バターケーキを焼いてきました。」
「…貴様が作ったのか?」
信じられない者を見るようにスネイプはサクラを見た。
「失礼ですね。私だって料理くらいしますよ。もとの世界では毎日自炊してましたから。」
スネイプはそういうサクラから包みを受け取り、ケーキを取り出した。ドライフルーツがふんだんにちりばめられている。一口含むと、同時にシナモンの香りも立ちこめ、甘いだけではないうまさを感じた。
「悪くは…ない。」
含みのある言い方ではあるが、この男にしてみれば最大の褒め言葉だろう。それは感じ取ることができたため、「そうでしょう。」とサクラは誇らしげに笑いかけた。しかし、スネイプは普段嫌みに愛想笑いを浮かべるか、貼り付けたような社交辞令で嫌みを返すような女が浮かべる、一切悪意のない笑みに一瞬、面食らった。
このような顔もするのか。
監視対象でしかない女の見慣れない一面。それは、スネイプの心を一瞬動かした。
「…こういうところが生徒にあらぬ噂をたてられる原因になるのではないか。」
それの感情を取り払うように、いつものような嫌みに徹する。
「は…?まさか…知っていたんですか?」
「あれだけ分かりやすい騒がれ方をしていれば、我が輩も気づく。貴様は最近まで知らなかったようだな。」
「ちょっと!!どうして教えてくれないんですか?知っていたら、夜に訪問することも避けられたじゃないですか!」
激昂するサクラに対して、スネイプは余裕そうな笑みを浮かべた。しかし、内心はその嫌がりように無性に苛立ちが募っている。そのため、眉間の筋がぴくりと動いた。サクラはその様子に気がつきもしていないようで、ぐちぐちと文句を言っている。
「貴様の情報網がどれほどのものか知りたかったのだが…なんともお粗末だったな。ウィーズリーの双子にでも教えてもらったのだろう?」
だから、最近よく話をしているのだろう?
的を射た言葉に、ぐっとつまる。確かに、スネイプの言うとおりだ。反論の余地もない。日々の仕事にかまけて情報収集することさえせず、ろくに動かない女だと思われただろう。如何せん、物語を知っているということが、現状を把握しようという気持ちを阻害したという感も否めない。
「それについては、反省してフレッドとジョージから情報収集しています。」
「で、何か収穫はあったか?」
スネイプはバターケーキを食べ終わると、自身のために紅茶を準備し、喉を潤した。…私の分はないのか。さすが、気の利かない男。もてなす気はなさそうだ。
「ムーディ先生の授業がかなり過激だとか、」
「それについては我々も頭を痛めているところだ…ダンブルドアは担当を外す気がないようでな。」
「…今は大きなトラブルはないので、このまま様子を見るにとどめるのでしょうね。あとは、三大魔法学校対抗試合の参加希望者の話だとか。」
「動くべき案件はあるのか。」
一番、聞きたい用件はそれだったのだろう。
「今のところはありません。」
スネイプに伝えるべき事柄は今このときにはない。ムーディが入れ替わっていることだとか、ハリーがシリウスに手紙を差し出したことだとか。これは、彼に知らせていい事柄ではない。全てを飲み込んで、そう答えると、スネイプは、すっと目を細めた。サクラの頭の中になにか入り込むような感覚がしはじめた。
「レディの心を無闇に覗くのは無粋ってものですよ。」
頭の中の感覚がさっと消えていく。
「あなた方に不利になるようなことはお伝えさせていただきますよ。」
「『しかるべき時』に…ということか。」
信じられるものか、とスネイプの顔にかいてある。その気持ちも分かる。監視役として、サクラを信じられないということも。
「覗きたければお好きにどうぞ。…ただし、ここであなたが見た未来は、きっと私も知り得ないものとなるでしょうね。物語に干渉して、必要のない犠牲が増えるかもしれません。その責任…負う覚悟がおありですか?」
サクラの言葉にスネイプはぐっと言葉をつまらせた。
「ならば、貴様の収集した情報はこちらへ流せ。もちろん、そうでなくとも重要な情報もだ。」
「ええ、もちろん。」
これが、お互いに最大限譲歩した答えであることは、どちらも分かった上だ。話は終わったとばかりに、スネイプは立ち上がった。
「もうすぐ授業が終わる。見られる前に出て行く方がよかろう。」
「…もしかして気にしてました?」
「些末な噂話だが、貴様が気にするのならば早く出ろ。次からは私の空き時間に来い。」
そういうと、サクラの腕を持って、たちあがらせた。スネイプの様子にサクラは訳が分からないと混乱したが、それを嫌みでぶつけてやろう、という前に、終業ベルがなった。
「では、そうさせていただきます。失礼します。」
自身としても夜まで拘束されるよりはマシだ、と判断したのか、是と答え、そそくさと部屋を出ることにした。
その態度にスネイプは、また苛立ちが募り、次来たときには一等難しい問題を出してやろうと決めたのだった。
中には、こちらが気になっている情報も含まれており、これほど律儀に約束を守ってくれるとは思いもしなかった。何かお返しをと思い、今日は厨房を借りて、簡単なお菓子を作っているところである。屋敷僕妖精たちには、無理を言って、キッチンの隅を借りた。たっぷりのドライフルーツを混ぜ込んだバターケーキがオーブンのなかできつね色にこんがり焼けている。この分であれば、彼らが授業を終える頃には渡せるだろう。
焼き上がったケーキをオーブンから取り出す。あら熱をとる時間も見越して、少しその場で休憩しようと椅子に腰掛けた。しかし、焼き上がったところで屋敷僕妖精が手をひとふりすると、あら熱はとれ、綺麗に切り分けられてしまった。「ありがとう。」と、言うも、早く持ち場を明け渡せといわんばかりの顔で、ただの親切心だけではないことは分かった。サクラは、そそくさと簡単にラッピングをして、厨房を出た。
フレッドとジョージが授業を終えるまで、まだ時間がある。どうしようか、と思案する。そこで、はたと思い至る人物がいた。
「そっちにもお礼が必要よね。」
足を運んだのは地下室で、スネイプの自室の前であった。魔法薬学の教室は、しんと静まりかえり、今が彼の空き時間であることは確認済みだ。いつも通り4回ノックをする。部屋の中からばたばたと物音がして、勢いよく扉が開かれた。
「なんの用だ。」
こちらも迷惑そうな顔を突き出している。いつもの時間と違い、驚かせてしまったのだろうか。普段は聞かれない慌てた物音がしたところから、火急の用事なのか、と気をもませたのかもしれない。
「お仕事中にお邪魔して申し訳ありません。ただ、お渡ししたいものがあったので…」
懐から、包みを取り出して見せると、スネイプは「入れ」と短く言って、部屋に招き入れた。
「仕事の途中ではなかったんですか?」
「貴様に確認しておきたいことがあった。ついでだ、座れ。」
机には相変わらず丸まった羊皮紙の束がうず高く積まれている。
嫌みなこの男が、珍しく優しいのはどういう心境の変化なのだろう。
「それで、そちらの用件から済ませるとしよう。」
スネイプの視線がサクラの手にしている包みに注がれる。まさか、プレゼントに浮き足立っている訳ではないだろう…。と思うが、大人しく作りたてのバターケーキを取り出した。
「日頃、お世話になっていますから、何かお礼をと思いまして。バターケーキを焼いてきました。」
「…貴様が作ったのか?」
信じられない者を見るようにスネイプはサクラを見た。
「失礼ですね。私だって料理くらいしますよ。もとの世界では毎日自炊してましたから。」
スネイプはそういうサクラから包みを受け取り、ケーキを取り出した。ドライフルーツがふんだんにちりばめられている。一口含むと、同時にシナモンの香りも立ちこめ、甘いだけではないうまさを感じた。
「悪くは…ない。」
含みのある言い方ではあるが、この男にしてみれば最大の褒め言葉だろう。それは感じ取ることができたため、「そうでしょう。」とサクラは誇らしげに笑いかけた。しかし、スネイプは普段嫌みに愛想笑いを浮かべるか、貼り付けたような社交辞令で嫌みを返すような女が浮かべる、一切悪意のない笑みに一瞬、面食らった。
このような顔もするのか。
監視対象でしかない女の見慣れない一面。それは、スネイプの心を一瞬動かした。
「…こういうところが生徒にあらぬ噂をたてられる原因になるのではないか。」
それの感情を取り払うように、いつものような嫌みに徹する。
「は…?まさか…知っていたんですか?」
「あれだけ分かりやすい騒がれ方をしていれば、我が輩も気づく。貴様は最近まで知らなかったようだな。」
「ちょっと!!どうして教えてくれないんですか?知っていたら、夜に訪問することも避けられたじゃないですか!」
激昂するサクラに対して、スネイプは余裕そうな笑みを浮かべた。しかし、内心はその嫌がりように無性に苛立ちが募っている。そのため、眉間の筋がぴくりと動いた。サクラはその様子に気がつきもしていないようで、ぐちぐちと文句を言っている。
「貴様の情報網がどれほどのものか知りたかったのだが…なんともお粗末だったな。ウィーズリーの双子にでも教えてもらったのだろう?」
だから、最近よく話をしているのだろう?
的を射た言葉に、ぐっとつまる。確かに、スネイプの言うとおりだ。反論の余地もない。日々の仕事にかまけて情報収集することさえせず、ろくに動かない女だと思われただろう。如何せん、物語を知っているということが、現状を把握しようという気持ちを阻害したという感も否めない。
「それについては、反省してフレッドとジョージから情報収集しています。」
「で、何か収穫はあったか?」
スネイプはバターケーキを食べ終わると、自身のために紅茶を準備し、喉を潤した。…私の分はないのか。さすが、気の利かない男。もてなす気はなさそうだ。
「ムーディ先生の授業がかなり過激だとか、」
「それについては我々も頭を痛めているところだ…ダンブルドアは担当を外す気がないようでな。」
「…今は大きなトラブルはないので、このまま様子を見るにとどめるのでしょうね。あとは、三大魔法学校対抗試合の参加希望者の話だとか。」
「動くべき案件はあるのか。」
一番、聞きたい用件はそれだったのだろう。
「今のところはありません。」
スネイプに伝えるべき事柄は今このときにはない。ムーディが入れ替わっていることだとか、ハリーがシリウスに手紙を差し出したことだとか。これは、彼に知らせていい事柄ではない。全てを飲み込んで、そう答えると、スネイプは、すっと目を細めた。サクラの頭の中になにか入り込むような感覚がしはじめた。
「レディの心を無闇に覗くのは無粋ってものですよ。」
頭の中の感覚がさっと消えていく。
「あなた方に不利になるようなことはお伝えさせていただきますよ。」
「『しかるべき時』に…ということか。」
信じられるものか、とスネイプの顔にかいてある。その気持ちも分かる。監視役として、サクラを信じられないということも。
「覗きたければお好きにどうぞ。…ただし、ここであなたが見た未来は、きっと私も知り得ないものとなるでしょうね。物語に干渉して、必要のない犠牲が増えるかもしれません。その責任…負う覚悟がおありですか?」
サクラの言葉にスネイプはぐっと言葉をつまらせた。
「ならば、貴様の収集した情報はこちらへ流せ。もちろん、そうでなくとも重要な情報もだ。」
「ええ、もちろん。」
これが、お互いに最大限譲歩した答えであることは、どちらも分かった上だ。話は終わったとばかりに、スネイプは立ち上がった。
「もうすぐ授業が終わる。見られる前に出て行く方がよかろう。」
「…もしかして気にしてました?」
「些末な噂話だが、貴様が気にするのならば早く出ろ。次からは私の空き時間に来い。」
そういうと、サクラの腕を持って、たちあがらせた。スネイプの様子にサクラは訳が分からないと混乱したが、それを嫌みでぶつけてやろう、という前に、終業ベルがなった。
「では、そうさせていただきます。失礼します。」
自身としても夜まで拘束されるよりはマシだ、と判断したのか、是と答え、そそくさと部屋を出ることにした。
その態度にスネイプは、また苛立ちが募り、次来たときには一等難しい問題を出してやろうと決めたのだった。