炎のゴブレット編
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スネイプから与えられる魔法薬学の本が上級者向けのものに変わる頃になると、傷は完治し、日々の業務に戻ることができるようになった。午前中は城内の清掃、午後からは図書室での業務と変わらない生活を送っていた。その中で変わったことと言えば、夕食後、スネイプから借りていた本を彼の部屋に返却すると同時に新たな本を借りるという生活が加わったことだ。
夕食を終え、いったん部屋に戻ると、数冊の本を手にして地下へと向かう。初めは夕食を終えて談話室に戻るスリザリン生の間を縫って向かっていたのだが、今は少し時間をずらして向かうようにしている。初めは怪訝そうな顔をするもの、持っている魔法関係の本に嘲るような視線や言葉も聞こえていた。スリザリンという寮の特質ではあるが、この陰険な雰囲気の中で行き来するのが精神的に負担だったからだ。雑用をしている間はこちらの存在に見向きもしなかった者たちが、自身の領分を冒されると思ったのだろう。『誇り高い』スリザリン生にとってプライドを傷つけられたに違いない。無用な衝突を避けるために生徒が談話室に戻ったであろう時間にスネイプの部屋へ行くようになった。
地下は所々灯りに照らされ、不気味な雰囲気を醸し出している。若い頃であれば一人で出歩くのに勇気のいる状況であるが、この歳になってくると、それくらいのことは気にならなくなってきた。少し肌寒く感じる廊下を抜け、奥まった場所にあるスネイプの部屋の前に着いた。木の扉をノックすると乾いた音が響いた。4回目のノックで勢いよくドアが開けられ、仏頂面をしたスネイプが「入れ。」と招き入れるというのがお決まりのパターンだ。多少部屋に来る時間がずれても、必ず4回目で開けるのは何かあるのだろうか。まさか自分を待ってくれているなどということはないだろうが・・・。
今回も例のごとくノックに反応したスネイプが部屋に招き入れてくれた。
「本を返しに来ました。」
「分かっている。入れ。」
開かれた扉をくぐり、ドアを閉める。中央にはローテーブルと一人がけのソファが置かれ、壁には書籍が所狭しと並べられている。小さな暖炉は火を絶やすことなく燃えていた。仕事用のデスクには生徒の課題らしき羊皮紙の束が散乱しており、先ほどまで課題を見ていたのだろうということが窺えた。
「座れ。」
指示されたソファに腰掛け、スネイプに本を差し出し、スネイプがそれを受け取った。そして、スネイプが杖を振ると、数冊の本が本棚から浮かび上がり、手元にやってきた。
「ありがとうございます。」
そう言って、本を受け取ろうと手を伸ばしたところで、浮遊していた本が、すっと天井へと進路を変えた。伸ばした手は空をきり、それに抗議する鋭い視線を向けた。
「ベラドンナの効能は?」
「・・・はい?」
こちらの視線を意に介さず、短く問うた。
答えろということなのだろう。試すような視線を向けられていることを不快に感じる。ただ読んでいただけだろう、とそう言われているように感じる。人を小馬鹿にしたようなその目に、サクラはメラメラと胸の内にこの男の鼻を折りたい気持ちがわき上がってきた。
「植物自体は毒性がありますが、そのエキスは鎮痛剤になります。」
「ミノカサゴは?」
「そのトゲの粉末は回復薬に用いられます。」
「ではこれは?」
スネイプが薬品の瓶に入れられた灰緑色の植物をしたり顔でみせてきた。これならば分かるまい、という心の声が聞こえてきそうだ。しかし、日本人ならば一目で分かる。今まで借りてきた本には載っていなかったが、映画でもこれは観ていた。
「昆布ですか。」
「ああ。これの効能は。」
「えら昆布ですね。水中での移動、呼吸が容易になります。」
ここまでスラスラと答えると、スネイプは苦虫をかみつぶしたような顔をして、天井に浮かせていた本を、乱暴にサクラの手元に落とした。
「次はその中からいくつか聞く。せいぜい小さな頭に詰め込むがいい。」
「ええ、そうさせて頂きます。お仕事中、失礼しました。」
不満そうな男の顔とは対照的にサクラは勝ち誇ったような顔をして部屋を後にした。
地下から階段を上り、自身の部屋へと向かう。人気のない広い廊下には一人分の足音が響くはずだった。
こつん、と上の方で足音が重なった。見上げると、塔の上の方で人影が動いたように感じた。
「まさか・・・」
あの男が動き出したのか。ムーディの皮を被って、バーテミウスクラウチJrがホグワーツに潜伏していることはサクラしか知り得ていない。ここで、だれかの助けを借りることは、今後の流れにどう影響するのか分からない。大きなリスクを伴うのだ。この先はふくろう小屋だ。本当に彼だとすれば、主に連絡を取るのかもしれない。
ゆっくり、足音を立てずに上へと登っていく。もう一人の足音は小屋に到達したようで、次はフクロウの鳴き声がするばかりだ。
「―――・・・よ」
近づいていくと、その声の主が分かった。
「絶対に届けてね。」
そこには、羊皮紙をフクロウの足に結ぶハリーの姿があった。白いフクロウが夜の闇にぼうっと浮かび上がり、空へと翼を広げ、旅立っていった。それを真剣な表情で見送る少年に、誰に送ったのか見当がつく。ハリーはヘドウィグが見えなくなると、こちらを振り返り、元来た道に戻ろうとした。しかし、視線の先には管理人のサクラがおり、その姿をとらえると、目を見開き、わかりやすいくらい驚きの表情をみせた。あの魔法薬学教授も人を貶めるときには表情をころころ変えるが、それ以上にハリーはわかりやすい。十代の子というのはこういうものなのだろうか。
「・・・あ、ヒナタさん。ごめんなさい、僕どうしても渡さなきゃいけなくて」
しどろもどろに説明する姿はただの十代の少年で、彼がこれから魔法界に影響を及ぼすなど、だれも想像できないだろう。
「焦りすぎると怪しいと思われるわよ。」
そういうと今度はぴたり、と話すのをやめた。あのひねくれた教授を相手にするより、なんとも初々しい反応で、見つけてしまったこちらが申し訳なく思えてくる。いつかは、話す日がくるとは思っていた。意外な形でそれは実現してしまった。
夕食を終え、いったん部屋に戻ると、数冊の本を手にして地下へと向かう。初めは夕食を終えて談話室に戻るスリザリン生の間を縫って向かっていたのだが、今は少し時間をずらして向かうようにしている。初めは怪訝そうな顔をするもの、持っている魔法関係の本に嘲るような視線や言葉も聞こえていた。スリザリンという寮の特質ではあるが、この陰険な雰囲気の中で行き来するのが精神的に負担だったからだ。雑用をしている間はこちらの存在に見向きもしなかった者たちが、自身の領分を冒されると思ったのだろう。『誇り高い』スリザリン生にとってプライドを傷つけられたに違いない。無用な衝突を避けるために生徒が談話室に戻ったであろう時間にスネイプの部屋へ行くようになった。
地下は所々灯りに照らされ、不気味な雰囲気を醸し出している。若い頃であれば一人で出歩くのに勇気のいる状況であるが、この歳になってくると、それくらいのことは気にならなくなってきた。少し肌寒く感じる廊下を抜け、奥まった場所にあるスネイプの部屋の前に着いた。木の扉をノックすると乾いた音が響いた。4回目のノックで勢いよくドアが開けられ、仏頂面をしたスネイプが「入れ。」と招き入れるというのがお決まりのパターンだ。多少部屋に来る時間がずれても、必ず4回目で開けるのは何かあるのだろうか。まさか自分を待ってくれているなどということはないだろうが・・・。
今回も例のごとくノックに反応したスネイプが部屋に招き入れてくれた。
「本を返しに来ました。」
「分かっている。入れ。」
開かれた扉をくぐり、ドアを閉める。中央にはローテーブルと一人がけのソファが置かれ、壁には書籍が所狭しと並べられている。小さな暖炉は火を絶やすことなく燃えていた。仕事用のデスクには生徒の課題らしき羊皮紙の束が散乱しており、先ほどまで課題を見ていたのだろうということが窺えた。
「座れ。」
指示されたソファに腰掛け、スネイプに本を差し出し、スネイプがそれを受け取った。そして、スネイプが杖を振ると、数冊の本が本棚から浮かび上がり、手元にやってきた。
「ありがとうございます。」
そう言って、本を受け取ろうと手を伸ばしたところで、浮遊していた本が、すっと天井へと進路を変えた。伸ばした手は空をきり、それに抗議する鋭い視線を向けた。
「ベラドンナの効能は?」
「・・・はい?」
こちらの視線を意に介さず、短く問うた。
答えろということなのだろう。試すような視線を向けられていることを不快に感じる。ただ読んでいただけだろう、とそう言われているように感じる。人を小馬鹿にしたようなその目に、サクラはメラメラと胸の内にこの男の鼻を折りたい気持ちがわき上がってきた。
「植物自体は毒性がありますが、そのエキスは鎮痛剤になります。」
「ミノカサゴは?」
「そのトゲの粉末は回復薬に用いられます。」
「ではこれは?」
スネイプが薬品の瓶に入れられた灰緑色の植物をしたり顔でみせてきた。これならば分かるまい、という心の声が聞こえてきそうだ。しかし、日本人ならば一目で分かる。今まで借りてきた本には載っていなかったが、映画でもこれは観ていた。
「昆布ですか。」
「ああ。これの効能は。」
「えら昆布ですね。水中での移動、呼吸が容易になります。」
ここまでスラスラと答えると、スネイプは苦虫をかみつぶしたような顔をして、天井に浮かせていた本を、乱暴にサクラの手元に落とした。
「次はその中からいくつか聞く。せいぜい小さな頭に詰め込むがいい。」
「ええ、そうさせて頂きます。お仕事中、失礼しました。」
不満そうな男の顔とは対照的にサクラは勝ち誇ったような顔をして部屋を後にした。
地下から階段を上り、自身の部屋へと向かう。人気のない広い廊下には一人分の足音が響くはずだった。
こつん、と上の方で足音が重なった。見上げると、塔の上の方で人影が動いたように感じた。
「まさか・・・」
あの男が動き出したのか。ムーディの皮を被って、バーテミウスクラウチJrがホグワーツに潜伏していることはサクラしか知り得ていない。ここで、だれかの助けを借りることは、今後の流れにどう影響するのか分からない。大きなリスクを伴うのだ。この先はふくろう小屋だ。本当に彼だとすれば、主に連絡を取るのかもしれない。
ゆっくり、足音を立てずに上へと登っていく。もう一人の足音は小屋に到達したようで、次はフクロウの鳴き声がするばかりだ。
「―――・・・よ」
近づいていくと、その声の主が分かった。
「絶対に届けてね。」
そこには、羊皮紙をフクロウの足に結ぶハリーの姿があった。白いフクロウが夜の闇にぼうっと浮かび上がり、空へと翼を広げ、旅立っていった。それを真剣な表情で見送る少年に、誰に送ったのか見当がつく。ハリーはヘドウィグが見えなくなると、こちらを振り返り、元来た道に戻ろうとした。しかし、視線の先には管理人のサクラがおり、その姿をとらえると、目を見開き、わかりやすいくらい驚きの表情をみせた。あの魔法薬学教授も人を貶めるときには表情をころころ変えるが、それ以上にハリーはわかりやすい。十代の子というのはこういうものなのだろうか。
「・・・あ、ヒナタさん。ごめんなさい、僕どうしても渡さなきゃいけなくて」
しどろもどろに説明する姿はただの十代の少年で、彼がこれから魔法界に影響を及ぼすなど、だれも想像できないだろう。
「焦りすぎると怪しいと思われるわよ。」
そういうと今度はぴたり、と話すのをやめた。あのひねくれた教授を相手にするより、なんとも初々しい反応で、見つけてしまったこちらが申し訳なく思えてくる。いつかは、話す日がくるとは思っていた。意外な形でそれは実現してしまった。