炎のゴブレット編
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朝日の差し込む医務室で、セドリックがグレーの瞳を細めて、サクラに微笑みかけた。光がセドリックを照らし、その端正な顔に陰影を作っていた。彼の着ているリネンのシャツは光を優しく受け止め、淡い光を放っている。その下に続くすらりと伸びた足は、自身の髪と同じくレンガ色のパンツに包まれ、シンプルながらもモデルのような佇まいだ。まるで、そこだけ映画のひと場面を切り取ったかのようで、サクラは向かってくる青年の姿を見つめていた。
「目を覚ましたんですね。気分はどう?」
流れるような動きでサクラのベッド脇にある椅子へと腰掛けた。
「まだ、あまりいいとは言えないわね・・・。」
先ほどのスネイプの薬を思い出して苦い顔になる。セドリックもスネイプの姿をみて、「すごい薬でも飲まされたの?」と問われ、神妙な面持ちでうなずくと、それを見てくすり、と笑われた。
「お花ありがとう。こういうの初めてで、うれしかったわ。」
置かれていたメッセージカードを指すと、セドリックは、はにかんだ。
「喜んでもらえてうれしいよ。『反応がない』から喜んでくれるか不安だったんだ。」
セドリックもこういう軽口を言うのだと意外に思ったが、どこかの教授とは違い、嫌みがない。それは彼の人柄や、雰囲気にも左右されているのだろう。
「『反応がある』ときに感想が言えてよかったわ。」
にやり、とするセドリックにサクラも同じような表情を見せて答えた。
セドリックは新学期に起こった『事件』を色々話して聞かせてくれた。マルフォイがムーディにイタチの姿に変えられてしまったこと。ムーディの奇抜な授業が上級生にとって話題になっていること。そして、フレッドとジョージがサクラのことを学校中で騒ぎ立て、「眠り姫」と呼び名を変えていること。
ほとんど原作の流れをくんでいて安心したところであったが、最後の事件を聞いてサクラは頭を抱えた。まさか眠っている間に、あの双子の餌食となっていたとは思いもよらなかった。ベッドサイドにあるお菓子の山を微笑ましく、優しいところもあるな、と思っていたが、これはある意味ご機嫌取りだったのだと察した。
今年はムーディが入れ替わり、死喰い人が学校内をうろついているのだ。そして、他校からも元死喰い人が招かれている・・・。そのような時に目立ちたくはないのに、双子のおかげで恥ずかしい呼び名で学校中に知れ渡ることになってしまった。
「彼らはまたお見舞いに来てくれるかしら?」
お菓子の山を冷めた目で見ているサクラに、セドリックは内心双子に祈りを捧げた。今まで見たこともないサクラの視線に怒りが含まれていることにセドリックはいち早く気づいた。
「サクラさんが目を覚ましたことを伝えておくよ。」
しかし、そこで顔には出さず、セドリックは双子が死刑台に登る手伝いに荷担することにした。自分の思い人の気が晴れるのなら、と同級生よりもサクラの機嫌をとることにしたのだ。サクラはセドリックの言葉にいつものような柔らかい笑みで「ありがとう」と伝えた。
サクラに呼び出されてから、双子の吹聴は静まった。そして、毎朝サクラの元に食事を届ける姿が続いて見られるようになった。見舞いという名のご機嫌伺いは、サクラが優しく説き伏せたこと、マクゴナガルがサクラから涙ながらに訴えかけられたことにより、マクゴナガルから指示が出て、退院の日まで続けられることになった。昼食時はスネイプが薬を届け、夕食の時間はセドリックが医務室で一緒に食事をとり、たまにアーニーと三人で今日あった出来事や授業の愚痴を聞きながら過ごしていた。このため、サクラは隙間時間に三大魔法対抗試合に向けて、書物を読みあさることに専念した。
必要な書物は教授であるスネイプに頼むことにした。魔法薬学は専門分野であるし、闇の魔術に対する相談で、やはりこの人物しか頼る人がいないのだ。マクゴナガルも優秀な魔法使いである。しかし、どうしてもサクラも協力者の一人という目では見てくれないのだと感じるのだ。どちらかというと娘のような、ハリーと同じく守るべき対象とされている。だが、スネイプはそのような甘さを一切見せない。魔法が使えないことに馬鹿にした態度をとることもあるが、必要なものをサクラでも何とか読みこなせる難易度で見繕ってくれる。
今日も薬とともに、魔法道具に関する書物と魔法薬の効能について中級程度の書物を持ってきてくれた。
「それで、収穫はあったのか。」
サクラが薬を飲み終え、苦い顔をしているところでスネイプが問うた。その顔には期待はしていないが、という言外の思いが透けて見えていた。死を破るものなど見つけていれば世紀の発見として一躍有名人だろう。そんなことは百も承知だ。しかし、いちいち癪にさわる言い方をする男だ。
「あいにく、それらしきものは見つかりませんでしたが、薬や魔法道具の知識が増えるのはありがたいことですね。」
仕事で学校の清掃をするたび、触っていいものなのか、害を及ぼす者なのか恐る恐る触れなくてすむというのは、精神面での疲労が減る。それに・・・、
「これからの戦いで、知識は自身を助ける命綱にもなるでしょう。あって損はありません。」
サクラの反応が意外だったのか、スネイプは眉を寄せた。
「ほう・・・殊勝なことで。眠り姫という割には勉学に前向きなようで、少しは『仕事』をする気になったということか。」
「そういう教授はさぞ用意周到に綿密なご準備をされているのでしょうね。」
「貴様のように本の虫になるだけでは意味がないからな。もちろん手はずは整えている。」
当たり前だ、というように鼻を鳴らす姿がなんとも腹立たしい。この男のことだ。言うからには完璧に今後の計画を立てているに違いない。「本の虫」というのが言い得て妙で、内にばかり蓄えるだけの自身によけい腹が立った。
「だが、行動するにはまず知識がなければならん。少しはその小さな頭に詰め込めば後の役に立つかもしれんな。」
スネイプはそう言うと、ゴブレットを手に、「では我が輩は仕事に戻る。」と言い残して部屋を去って行った。
「・・・今の励ましてる?」
嫌みの中にサクラを励ますような言葉が含まれていることに、果たして本人は気づいているのだろうか。予想外の言葉に動揺し、うまく言葉を返せなかった。なんにせよ、言葉の真意を確かめる前に本人は去っているのだ。そして、後ほど問うたところで、あの嫌みな教授が素直に認めるとも思いがたい。
「行動するための知識・・・。」
魔法の使えないサクラにとって知識は何よりも財産であることは間違いない。焦って、うじうじとするより知識を蓄えるのだ。マクゴナガルやスネイプとともに事態を動かしていくのであれば、それ相応の知識が必要なのだ。この世界の人間ではないサクラが持てるのは自身の世界での知識と、常識だけ。それに、ここの知識が加われば何か新たなものが浮かぶことだってあるかもしれない。彼らに認められるほどの知識を、ひいてはハリーたちを守るための力となるものを。日が経つ内に難易度が上がる書物を目の前に、ページを開いた。
「目を覚ましたんですね。気分はどう?」
流れるような動きでサクラのベッド脇にある椅子へと腰掛けた。
「まだ、あまりいいとは言えないわね・・・。」
先ほどのスネイプの薬を思い出して苦い顔になる。セドリックもスネイプの姿をみて、「すごい薬でも飲まされたの?」と問われ、神妙な面持ちでうなずくと、それを見てくすり、と笑われた。
「お花ありがとう。こういうの初めてで、うれしかったわ。」
置かれていたメッセージカードを指すと、セドリックは、はにかんだ。
「喜んでもらえてうれしいよ。『反応がない』から喜んでくれるか不安だったんだ。」
セドリックもこういう軽口を言うのだと意外に思ったが、どこかの教授とは違い、嫌みがない。それは彼の人柄や、雰囲気にも左右されているのだろう。
「『反応がある』ときに感想が言えてよかったわ。」
にやり、とするセドリックにサクラも同じような表情を見せて答えた。
セドリックは新学期に起こった『事件』を色々話して聞かせてくれた。マルフォイがムーディにイタチの姿に変えられてしまったこと。ムーディの奇抜な授業が上級生にとって話題になっていること。そして、フレッドとジョージがサクラのことを学校中で騒ぎ立て、「眠り姫」と呼び名を変えていること。
ほとんど原作の流れをくんでいて安心したところであったが、最後の事件を聞いてサクラは頭を抱えた。まさか眠っている間に、あの双子の餌食となっていたとは思いもよらなかった。ベッドサイドにあるお菓子の山を微笑ましく、優しいところもあるな、と思っていたが、これはある意味ご機嫌取りだったのだと察した。
今年はムーディが入れ替わり、死喰い人が学校内をうろついているのだ。そして、他校からも元死喰い人が招かれている・・・。そのような時に目立ちたくはないのに、双子のおかげで恥ずかしい呼び名で学校中に知れ渡ることになってしまった。
「彼らはまたお見舞いに来てくれるかしら?」
お菓子の山を冷めた目で見ているサクラに、セドリックは内心双子に祈りを捧げた。今まで見たこともないサクラの視線に怒りが含まれていることにセドリックはいち早く気づいた。
「サクラさんが目を覚ましたことを伝えておくよ。」
しかし、そこで顔には出さず、セドリックは双子が死刑台に登る手伝いに荷担することにした。自分の思い人の気が晴れるのなら、と同級生よりもサクラの機嫌をとることにしたのだ。サクラはセドリックの言葉にいつものような柔らかい笑みで「ありがとう」と伝えた。
サクラに呼び出されてから、双子の吹聴は静まった。そして、毎朝サクラの元に食事を届ける姿が続いて見られるようになった。見舞いという名のご機嫌伺いは、サクラが優しく説き伏せたこと、マクゴナガルがサクラから涙ながらに訴えかけられたことにより、マクゴナガルから指示が出て、退院の日まで続けられることになった。昼食時はスネイプが薬を届け、夕食の時間はセドリックが医務室で一緒に食事をとり、たまにアーニーと三人で今日あった出来事や授業の愚痴を聞きながら過ごしていた。このため、サクラは隙間時間に三大魔法対抗試合に向けて、書物を読みあさることに専念した。
必要な書物は教授であるスネイプに頼むことにした。魔法薬学は専門分野であるし、闇の魔術に対する相談で、やはりこの人物しか頼る人がいないのだ。マクゴナガルも優秀な魔法使いである。しかし、どうしてもサクラも協力者の一人という目では見てくれないのだと感じるのだ。どちらかというと娘のような、ハリーと同じく守るべき対象とされている。だが、スネイプはそのような甘さを一切見せない。魔法が使えないことに馬鹿にした態度をとることもあるが、必要なものをサクラでも何とか読みこなせる難易度で見繕ってくれる。
今日も薬とともに、魔法道具に関する書物と魔法薬の効能について中級程度の書物を持ってきてくれた。
「それで、収穫はあったのか。」
サクラが薬を飲み終え、苦い顔をしているところでスネイプが問うた。その顔には期待はしていないが、という言外の思いが透けて見えていた。死を破るものなど見つけていれば世紀の発見として一躍有名人だろう。そんなことは百も承知だ。しかし、いちいち癪にさわる言い方をする男だ。
「あいにく、それらしきものは見つかりませんでしたが、薬や魔法道具の知識が増えるのはありがたいことですね。」
仕事で学校の清掃をするたび、触っていいものなのか、害を及ぼす者なのか恐る恐る触れなくてすむというのは、精神面での疲労が減る。それに・・・、
「これからの戦いで、知識は自身を助ける命綱にもなるでしょう。あって損はありません。」
サクラの反応が意外だったのか、スネイプは眉を寄せた。
「ほう・・・殊勝なことで。眠り姫という割には勉学に前向きなようで、少しは『仕事』をする気になったということか。」
「そういう教授はさぞ用意周到に綿密なご準備をされているのでしょうね。」
「貴様のように本の虫になるだけでは意味がないからな。もちろん手はずは整えている。」
当たり前だ、というように鼻を鳴らす姿がなんとも腹立たしい。この男のことだ。言うからには完璧に今後の計画を立てているに違いない。「本の虫」というのが言い得て妙で、内にばかり蓄えるだけの自身によけい腹が立った。
「だが、行動するにはまず知識がなければならん。少しはその小さな頭に詰め込めば後の役に立つかもしれんな。」
スネイプはそう言うと、ゴブレットを手に、「では我が輩は仕事に戻る。」と言い残して部屋を去って行った。
「・・・今の励ましてる?」
嫌みの中にサクラを励ますような言葉が含まれていることに、果たして本人は気づいているのだろうか。予想外の言葉に動揺し、うまく言葉を返せなかった。なんにせよ、言葉の真意を確かめる前に本人は去っているのだ。そして、後ほど問うたところで、あの嫌みな教授が素直に認めるとも思いがたい。
「行動するための知識・・・。」
魔法の使えないサクラにとって知識は何よりも財産であることは間違いない。焦って、うじうじとするより知識を蓄えるのだ。マクゴナガルやスネイプとともに事態を動かしていくのであれば、それ相応の知識が必要なのだ。この世界の人間ではないサクラが持てるのは自身の世界での知識と、常識だけ。それに、ここの知識が加われば何か新たなものが浮かぶことだってあるかもしれない。彼らに認められるほどの知識を、ひいてはハリーたちを守るための力となるものを。日が経つ内に難易度が上がる書物を目の前に、ページを開いた。