炎のゴブレット編
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「見舞いの品か。」
声のする方を見るとスネイプがベッド脇に立っていた。手にはゴブレットが握られており、そこから怪しげな湯気が立ち上っていた。出会い様に失礼なことを言われたが、スネイプが花からこちらに視線をすぐ戻し、こちらの鼻先にゴブレットを近づけてきた。そのため、ゴブレットの中身の方が気になって、発言を指摘するまでにはいかなかった。距離があったときはさほど気にならなかったが、鼻をつん、と刺激するような香りが立ちこめている。これを飲めということか。
「これは・・・私の薬でしょうか。」
「他に誰がいる。」
明らかに人が飲むような香りではない。おそるおそる中身をのぞくとドロドロとして緑と灰色の混ざったような色の・・・ヘドロのような色のものが杯を一杯に満たしていた。新手の嫌がらせだろうか。そう思うほど飲むのをためらわれる代物だ。しかし、この人の調合は普通の者が作るより効き目があることは作品の中でも証明されている。今後ハリーが使うあの教科書を作った張本人なのだ。ハーフブラッドブリンスが時を経て調合の精度を上げているとは思う。だが、ならば見た目にも気を配ってほしいところである。
「何をしている。早く飲め。」
いつまでも中身を見つめるだけで手に取らないのにしびれを切らしたようで、こちらの方へゴブレットを押しつけるようにした。そうなると溢さないように受け取るしかなく、両手で受け取り、顔を近づけるとさらに匂いが強烈に感じられた。
「これは何の効果があるのですか?」
「やけど、外傷に効果がある。・・・時間がたつとさらにきつい匂いになる。」
サクラの考えはお見通しなようで、暗に早く飲めと促される。それに押されて、意を決してゴブレットを傾けた。
「・・・っう」
口の中をドロドロの液体が流れていく。まさに泥を飲むような感覚にえづきそうになる。しかし、ここで投げ出してしまえばスネイプのことだ。もう一度同じものを同じ分量だけ調合して飲ませるに違いない。ゴブレットを持つ手に力が入る。最悪の事態は避けたい。その思いだけで、喉を通る不快感に眉間に皺を深く刻みながら、一気に流し込んだ。飲み干した底に蠢く細長い何かが見えた気がしたが、すぐに目をそらし、スネイプにゴブレットを突き返した。そして、その勢いのままサイドテーブルにあった水とハグリッドのケーキをひったくり、甘さで口の中を上書きする。
「はあ・・・はあ・・・。」
「ずいぶんと見舞いが来ていたようだな。」
一通り口の中をリセットして落ち着いたところでスネイプから声がかかった。
「そのようですね。先ほど起きたばかりなので会えていませんが、これには助けられました。」
ハグリッドお手製のケーキを掲げた。この国のお菓子は甘すぎて、朝食で出されるパイも糖蜜とカスタードたっぷりなど、それだけで満腹になってしまうものが多い。元気な時にはいいのだが、毎日そのようなものばかりだと日本人ならば白米と味噌汁が恋しくなるときもある。しかし、今回についてはその甘ったるさと濃厚なホイップに助けられた。このような事態ではまさに救世主である。
スネイプはサイドテーブルに山積みになった品々に目を移した。お菓子のカラフルなパッケージはあのウィーズリーの双子か。サクラが抱えてかき込んでいたケーキはおそらくハグリッドだろうと予想できる。この女が学校内で交流している者と言えばそのあたりだ。そして、花瓶に飾られているのはマクゴナガルか。そう思い、ふと花瓶の下に挟まれているメッセージカードに目を向ける。マクゴナガルの角張って、完璧に書かれた筆記体の文字とは違う、流れるような字体が踊っていた。
『あなたの笑顔がみたい』
そんなキザな台詞を書くような人間はこいつの周りに一人しかいない。先ほどまで必死に薬を流し込む姿を見ながら内心愉快に思っていた心が一気に冷えていく。そんな心境も知らず、ハグリッドのケーキを頬張る姿に苛立ちが募っていく。
「ずいぶんとうれしそうに見ていたな。」
顎で指し示されたのはメッセージカードで、サクラはセドリックからのメッセージカードを手にした。
「こういうのお国柄なんでしょうか。」
サクラ自身、セドリックとは親しくしているとは思っているが、このような内容を受け取りなれていないこともあり、半ば困り顔でスネイプに問いかけた。スネイプがこのようなことをするのは想像できないが。
「・・・友人に送る者は多いだろうな。」
「そうでしたか。スネイプ先生もなさるのですか。」
「そのような必要はなかった。」
仏頂面のスネイプが言葉を続ける。
「お前も知っての通り我が輩には無縁だ。」
その言葉が指し示すものに思い至り、一瞬言葉がつまった。
彼にとって過去の学生時代にはそのような優しさとは無縁で、その後も人の命を奪う側として生きてきた。人の温かさを教えてくれた『彼女』でさえ、命を奪われベッドで看取ることなどできなかった。私は彼の過去を知っている。にもかかわらず、カードをもらって舞い上がっていた自分がひどく恥ずかしく感じた。
「・・・すみません。」
「同情される方が不愉快だ。」
一瞬、空気が重くなった。
しかし、それを破ったのは意外にスネイプだった。
「2ヶ月後、ボーバトンとダームストラングが来校する。貴様が焦っていたのはこのためか?」
あの薬品庫でのことを言っているのだろう。珍しく取り乱してしまい、こんな失態をしているのだ。近々行われる三大魔法学校対抗試合に向けて準備していたと考えるのは当然だろう。そして、スネイプの予想はあながち間違っていないのだ。私の準備がハリーのためだけではないのが僅かに違うことではあるのだが。
「私が動かずとも、みなさん上手くやるのでしょうが、一応、協力者の身の上ですので。」
「そこで禁じられた呪文が使われると?」
「あり得ないことではないでしょう。・・・こんなご時世ですもの。」
「教員の中でもそれを使う者もいるようなご時世ですからな。」
その言葉に1人の人物が頭に浮かんだ。今年から赴任したマッドアイだ。たしか授業では動物相手に禁じられた呪文を使ったり、マルフォイをイタチか何かに変えていたはずだ。私が寝込んでいる間に最初の授業は済んでいるだろうし、彼の個性的な授業は学校でも話題になっている頃だろう。しかし、彼は既に・・・。
「あの職に就かれる方は何かと『問題』が多いようですね。よく見られる方がよろしいかと。」
彼が炎のゴブレットに小細工する事で全てははじまる。それは必要な流れであるが、後のことを考えると、少しくらい警戒してもらう必要はあるだろう。
「言われずとも、そうするつもりだ。」
自寮の生徒が動物に変えられたのだ面白くないに違いない。スネイプは眉間に皺をよせた。
「明日だが・・・」
スネイプはおもむろにサクラの手を取った。壊れ物を扱うように優しい手つきだ。いつもの厳しい表情や嘲笑うかのような発言からは思いもしない行動に一瞬たじろいだ。スネイプはそんな様子に気付いているのかいないのか、そのままサクラの手を自身の目の先まで近付けた。スネイプの吐息が今にもかかりそうな距離で自然と体が硬くなった。スネイプはそのままサクラの腕を検分すると、先ほどと同じように静かに腕をベッドに下ろした。
「午後の授業が始まる前に塗り薬も調合して持ってくる。」
「ありがとうございます。」
「飲み薬も同じく持ってくる。」
「まさか、今日と同じものですか・・・。」
「もちろんだ。」
にやり、と意地悪く笑う男にいつもならば嫌味の1つでも送ってやりたいところだ。だが、仕事の合間に調合してもらっている手前、そのようなことは出来ず、顔をひきつらせることしかできない。スネイプはサクラのその表情をみると、愉快そうに鼻を鳴らして、もう用は済んだとばかりに踵を返した。その後ろ姿を見送る先には朝日に照らされたセドリックが立っており、闇に包まれたようなローブとは対照的に休日のラフな服装であった。
2人がすれ違うところでセドリックは会釈をしたが、スネイプはちらりと目をやっただけで、そのまま歩いて行ってしまった。自寮以外の生徒に厳しいとは思っていたが、彼は監督生。そこまで強く当たる必要はないのではないか。あそこまで行くと寮監としての行動というより個人の性格の問題であるな、とサクラは小さくため息をついた。
声のする方を見るとスネイプがベッド脇に立っていた。手にはゴブレットが握られており、そこから怪しげな湯気が立ち上っていた。出会い様に失礼なことを言われたが、スネイプが花からこちらに視線をすぐ戻し、こちらの鼻先にゴブレットを近づけてきた。そのため、ゴブレットの中身の方が気になって、発言を指摘するまでにはいかなかった。距離があったときはさほど気にならなかったが、鼻をつん、と刺激するような香りが立ちこめている。これを飲めということか。
「これは・・・私の薬でしょうか。」
「他に誰がいる。」
明らかに人が飲むような香りではない。おそるおそる中身をのぞくとドロドロとして緑と灰色の混ざったような色の・・・ヘドロのような色のものが杯を一杯に満たしていた。新手の嫌がらせだろうか。そう思うほど飲むのをためらわれる代物だ。しかし、この人の調合は普通の者が作るより効き目があることは作品の中でも証明されている。今後ハリーが使うあの教科書を作った張本人なのだ。ハーフブラッドブリンスが時を経て調合の精度を上げているとは思う。だが、ならば見た目にも気を配ってほしいところである。
「何をしている。早く飲め。」
いつまでも中身を見つめるだけで手に取らないのにしびれを切らしたようで、こちらの方へゴブレットを押しつけるようにした。そうなると溢さないように受け取るしかなく、両手で受け取り、顔を近づけるとさらに匂いが強烈に感じられた。
「これは何の効果があるのですか?」
「やけど、外傷に効果がある。・・・時間がたつとさらにきつい匂いになる。」
サクラの考えはお見通しなようで、暗に早く飲めと促される。それに押されて、意を決してゴブレットを傾けた。
「・・・っう」
口の中をドロドロの液体が流れていく。まさに泥を飲むような感覚にえづきそうになる。しかし、ここで投げ出してしまえばスネイプのことだ。もう一度同じものを同じ分量だけ調合して飲ませるに違いない。ゴブレットを持つ手に力が入る。最悪の事態は避けたい。その思いだけで、喉を通る不快感に眉間に皺を深く刻みながら、一気に流し込んだ。飲み干した底に蠢く細長い何かが見えた気がしたが、すぐに目をそらし、スネイプにゴブレットを突き返した。そして、その勢いのままサイドテーブルにあった水とハグリッドのケーキをひったくり、甘さで口の中を上書きする。
「はあ・・・はあ・・・。」
「ずいぶんと見舞いが来ていたようだな。」
一通り口の中をリセットして落ち着いたところでスネイプから声がかかった。
「そのようですね。先ほど起きたばかりなので会えていませんが、これには助けられました。」
ハグリッドお手製のケーキを掲げた。この国のお菓子は甘すぎて、朝食で出されるパイも糖蜜とカスタードたっぷりなど、それだけで満腹になってしまうものが多い。元気な時にはいいのだが、毎日そのようなものばかりだと日本人ならば白米と味噌汁が恋しくなるときもある。しかし、今回についてはその甘ったるさと濃厚なホイップに助けられた。このような事態ではまさに救世主である。
スネイプはサイドテーブルに山積みになった品々に目を移した。お菓子のカラフルなパッケージはあのウィーズリーの双子か。サクラが抱えてかき込んでいたケーキはおそらくハグリッドだろうと予想できる。この女が学校内で交流している者と言えばそのあたりだ。そして、花瓶に飾られているのはマクゴナガルか。そう思い、ふと花瓶の下に挟まれているメッセージカードに目を向ける。マクゴナガルの角張って、完璧に書かれた筆記体の文字とは違う、流れるような字体が踊っていた。
『あなたの笑顔がみたい』
そんなキザな台詞を書くような人間はこいつの周りに一人しかいない。先ほどまで必死に薬を流し込む姿を見ながら内心愉快に思っていた心が一気に冷えていく。そんな心境も知らず、ハグリッドのケーキを頬張る姿に苛立ちが募っていく。
「ずいぶんとうれしそうに見ていたな。」
顎で指し示されたのはメッセージカードで、サクラはセドリックからのメッセージカードを手にした。
「こういうのお国柄なんでしょうか。」
サクラ自身、セドリックとは親しくしているとは思っているが、このような内容を受け取りなれていないこともあり、半ば困り顔でスネイプに問いかけた。スネイプがこのようなことをするのは想像できないが。
「・・・友人に送る者は多いだろうな。」
「そうでしたか。スネイプ先生もなさるのですか。」
「そのような必要はなかった。」
仏頂面のスネイプが言葉を続ける。
「お前も知っての通り我が輩には無縁だ。」
その言葉が指し示すものに思い至り、一瞬言葉がつまった。
彼にとって過去の学生時代にはそのような優しさとは無縁で、その後も人の命を奪う側として生きてきた。人の温かさを教えてくれた『彼女』でさえ、命を奪われベッドで看取ることなどできなかった。私は彼の過去を知っている。にもかかわらず、カードをもらって舞い上がっていた自分がひどく恥ずかしく感じた。
「・・・すみません。」
「同情される方が不愉快だ。」
一瞬、空気が重くなった。
しかし、それを破ったのは意外にスネイプだった。
「2ヶ月後、ボーバトンとダームストラングが来校する。貴様が焦っていたのはこのためか?」
あの薬品庫でのことを言っているのだろう。珍しく取り乱してしまい、こんな失態をしているのだ。近々行われる三大魔法学校対抗試合に向けて準備していたと考えるのは当然だろう。そして、スネイプの予想はあながち間違っていないのだ。私の準備がハリーのためだけではないのが僅かに違うことではあるのだが。
「私が動かずとも、みなさん上手くやるのでしょうが、一応、協力者の身の上ですので。」
「そこで禁じられた呪文が使われると?」
「あり得ないことではないでしょう。・・・こんなご時世ですもの。」
「教員の中でもそれを使う者もいるようなご時世ですからな。」
その言葉に1人の人物が頭に浮かんだ。今年から赴任したマッドアイだ。たしか授業では動物相手に禁じられた呪文を使ったり、マルフォイをイタチか何かに変えていたはずだ。私が寝込んでいる間に最初の授業は済んでいるだろうし、彼の個性的な授業は学校でも話題になっている頃だろう。しかし、彼は既に・・・。
「あの職に就かれる方は何かと『問題』が多いようですね。よく見られる方がよろしいかと。」
彼が炎のゴブレットに小細工する事で全てははじまる。それは必要な流れであるが、後のことを考えると、少しくらい警戒してもらう必要はあるだろう。
「言われずとも、そうするつもりだ。」
自寮の生徒が動物に変えられたのだ面白くないに違いない。スネイプは眉間に皺をよせた。
「明日だが・・・」
スネイプはおもむろにサクラの手を取った。壊れ物を扱うように優しい手つきだ。いつもの厳しい表情や嘲笑うかのような発言からは思いもしない行動に一瞬たじろいだ。スネイプはそんな様子に気付いているのかいないのか、そのままサクラの手を自身の目の先まで近付けた。スネイプの吐息が今にもかかりそうな距離で自然と体が硬くなった。スネイプはそのままサクラの腕を検分すると、先ほどと同じように静かに腕をベッドに下ろした。
「午後の授業が始まる前に塗り薬も調合して持ってくる。」
「ありがとうございます。」
「飲み薬も同じく持ってくる。」
「まさか、今日と同じものですか・・・。」
「もちろんだ。」
にやり、と意地悪く笑う男にいつもならば嫌味の1つでも送ってやりたいところだ。だが、仕事の合間に調合してもらっている手前、そのようなことは出来ず、顔をひきつらせることしかできない。スネイプはサクラのその表情をみると、愉快そうに鼻を鳴らして、もう用は済んだとばかりに踵を返した。その後ろ姿を見送る先には朝日に照らされたセドリックが立っており、闇に包まれたようなローブとは対照的に休日のラフな服装であった。
2人がすれ違うところでセドリックは会釈をしたが、スネイプはちらりと目をやっただけで、そのまま歩いて行ってしまった。自寮以外の生徒に厳しいとは思っていたが、彼は監督生。そこまで強く当たる必要はないのではないか。あそこまで行くと寮監としての行動というより個人の性格の問題であるな、とサクラは小さくため息をついた。