炎のゴブレット編
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明け方近くのことであった。
ドアをノックする音に気がつき、目を覚ました。
これまでホグワーツに来てからというもの、このような時間に訪問者というのは初めてだった。夏期休暇中は、いつもより少し遅く、フィルチと仕事を始め、午後も図書室の整理や魔法植物の栽培を手伝ったり、たまに夕食後に教師陣の仕事の手伝いをしたりという生活をしていた。休暇の後半は自宅に戻る教師も多く、残っているのはマクゴナガルやハグリット、フィルチ、ピンスくらいであった。そのため、就寝もいくらか早くなり、規則正しい生活が続いていた。緊急の用件だろうか。寝ぼけた頭で考えてみるも、まとまらず、キィっと少し警戒しながらドアを開けた。
「ようやく目を覚ましたか。」
暗闇の中、黒い影に青白い顔が浮かび上がる。不機嫌そうに眉間にしわを寄せたスネイプの姿があった。明け方にもかかわらず、シャツを首元まできちんと留め、いつもの服装をきっちり着こなしている。
「スネイプ先生・・・どうして?」
「ダンブルドアの緊急招集だ。貴様も来るように言われている。時間がない、早く出ろ。」
その言葉に自分の今の格好をかえりみる。パジャマ姿でダンブルドア含め、何人かの教師陣も集められるだろう中に行けというのか。
「このまま行くんですか?」
サクラの視線にスネイプは言わんとしていることに気がついたらしい。さらに眉間にしわを寄せ、不満そうな顔をしている。いつもなら、そこから嫌味のひとつもかけられるところであるが、今回は違った。スネイプがこちらに向けて杖を構えた。
初めて会った頃のことが脳裏に思い出される。赤い閃光、蔑んだような視線、体の痛み、湿った葉の匂い・・・。森での映像がフラッシュバックして、とっさに自分の身を守るように体を縮込めた。
「・・・攻撃はしない。」
頭上からつぶやきが聞こえ、おそるおそる目を開ける。スネイプは杖を軽く振った。すると、サクラの来ていたパジャマは、ネイビーのレースをあしらった柔らかい素材のシャツと、黒の生地がたっぷり使われたフレアスカートに早変わりしていた。足下もそれに合わせて黒のレースをあしらったヒールに変わっていた。
「すごい・・・」
そうつぶやくサクラをみてスネイプは、ふん、と鼻をならし、「行くぞ。」とスタスタ歩き始めてしまった。サクラは急いでそれに続いた。ヒールの音が夜のホグワーツの廊下に響いた。
以前、スネイプに服装のことを指摘されたことがあったが、この服をみれば、なぜああ突っかかってきたかも分かる気がする。シャツのレースは繊細な作りで、既製品にはない柔らかさと、月明かりに照らされて糸が輝く様は一見して高級品と分かる。スカートも生地をふんだんにつかった作りだ。クローゼットには何着かを用意してもらっており、このような服も用意されているにはされている。しかし、ここで住まわせてもらっている身の上としては、手に取ることが躊躇われていたのだ。それと同等、いやそれ以上の代物を易々と杖一本で纏わせてしまうこの男にとって、サクラが着ていたものはずいぶんと『質素』なものであっただろう。
「素敵なお洋服ですね。」
肌を滑る生地がなんとも心地いい。スネイプにこのような服のセンスがあるとは正直考えていなかったため、意外だった。それも相まって、素敵な洋服に喜びもひとしおだ。
「これは先生が用意してくださったのですか?」
「いや、先ほどの服の形を変えただけだ。時間がたてば元に戻る。」
その答えにサクラは「そうですか・・・」と残念そうに言った。
校長室に行くまでの道は、お互い沈黙したままであった。といっても、サクラはスネイプの歩幅について行くのがやっとで、話すこともままならない、というのが大きな理由であった。あのときの外出と同じく、スネイプの背中を見て歩く。
前回と違うのは人混みがないため、見失わないという利点があるだけだろう。「時間がない」と言っていたスネイプの手前、「もう少し速度を落としてください。」とは言いづらく、そのまま早足でついて行く。
数週間前のことだが、あの外出が遠い昔に思われる。夏期休暇中、唯一出かけたのはスネイプとの外出だけであった。連れて行ってくれたカフェはお気に入りの場所となったが、その後すぐにスネイプは帰省してしまい、再び行くことは叶わなかった。きっと頼めばマクゴナガルもハグリットも喜んで一緒に出かけてくれるだろう。それを分かっていてもサクラは二人を誘うことをしなかった。行けない距離ではないのだが、スネイプ以外の者と行くことは、気が引けたのだ。それは、あの場所が彼にとって貴重な憩いの場であり、これは勝手な憶測であるが、そのような場所に見知った人物が来ていると知ってしまえば、スネイプは二度とあの店を使わなくなるだろうと思ったからだ。
そしてもうひとつ。あの時の空気感は今までスネイプに感じていたネガティブな感情を少しだけ和らげた。普段の学校では聞けないであろう人を気遣う言葉。その特別な場所を自ら壊すことなどサクラにはできなかった。
そうこうしているうちに、校長室までやってきた。スネイプが「レモンキャンディ」と合い言葉を言うと、入り口が開いた。中には、ダンブルドア、マクゴナガル、ルーピンが待っていた。マクゴナガルとルーピンはスネイプの姿を確認した後、サクラの姿をとらえ、目を見開いた。驚いて声が出せない二人であったが、マクゴナガルの方が回復がはやく、すぐさま校長に抗議の声をかけた。
「アルバス、これはどういうことですか!?なぜ彼女を呼んだのです!?」
詰め寄るマクゴナガルの姿にルーピンも続いて、
「彼女は魔法が使えないのですよ。こんな危険にさらして・・・!」
とダンブルドアに抗議の声を上げた。
この面子と緊急招集ということで、ヴォルデモートに関わることだろうとは予測できる。この二人の様子から、それは間違いないだろう。二人はサクラを魔法の使えないスクイブだと認識している。闇の陣営との戦いに巻き込まれればどうなるか・・・。考えずとも答えは明らかだ。だから、二人はサクラのために抗議してくれているのだ。二人の優しさを嬉しく思うも、自分はそうはいっていられないのだ。ダンブルドアと交わした約束があるのだ。
ダンブルドアはサクラの方に目配せをした。
自分で語れ、ということなのだろう。
「お二人とも私のためにありがとうございます。ですが、心配には及びません。私も協力者の一人です。」
その言葉に二人とも、疑問の表情を向ける。それにさらに続けた。
「私はハリーを見守り、サポートするとダンブルドア校長と約束しました。だから、彼の近くにいるため、ホグワーツで働くことになったのです。」
未来の知識や指輪の件については触れず、当たり障りのない説明にとどめた。ダンブルドアをみると、小さく頷いており、今の説明でよかったらしい。
「ですが、あなたはどうやって戦うのです?この戦いは必ずや大きくなるでしょう。戦う術がなければ死にに行くようなものです。」
しかし、それでも納得いかないマクゴナガルはサクラの手を取って説得を試みた。
「サクラ・・・あなたにこんなことしてほしくありません。」
心配そうな表情に心が一瞬揺らぐ。これまで母のように気にかけ、優しかったマクゴナガルの気持ちを踏みにじることが躊躇われる。大切な人間として守ろうとしてくれるその心が胸に刺さる。
・・・しかし、ここで止まることはできないのだ。
「ごめんなさい・・・でもここで引き返すことはできません。私が決めたことです。どうか・・・あなたには分かってほしい。」
大切に思ってくれているからこそ、私も守りたいのだ。話の流れが変わらないよう、サポートすることで、未来を守りたいのだ。
サクラの決心が揺らがないことが分かり、マクゴナガルはそっと手を離した。
「では、ここに呼んだ訳を話すとしようかの。」
ダンブルドアは咳払いを一つして、話し始めた。
「『印』が現れた。」
その言葉にサクラの周りにいた三人は、それぞれ驚愕の表情を浮かべた。
ドアをノックする音に気がつき、目を覚ました。
これまでホグワーツに来てからというもの、このような時間に訪問者というのは初めてだった。夏期休暇中は、いつもより少し遅く、フィルチと仕事を始め、午後も図書室の整理や魔法植物の栽培を手伝ったり、たまに夕食後に教師陣の仕事の手伝いをしたりという生活をしていた。休暇の後半は自宅に戻る教師も多く、残っているのはマクゴナガルやハグリット、フィルチ、ピンスくらいであった。そのため、就寝もいくらか早くなり、規則正しい生活が続いていた。緊急の用件だろうか。寝ぼけた頭で考えてみるも、まとまらず、キィっと少し警戒しながらドアを開けた。
「ようやく目を覚ましたか。」
暗闇の中、黒い影に青白い顔が浮かび上がる。不機嫌そうに眉間にしわを寄せたスネイプの姿があった。明け方にもかかわらず、シャツを首元まできちんと留め、いつもの服装をきっちり着こなしている。
「スネイプ先生・・・どうして?」
「ダンブルドアの緊急招集だ。貴様も来るように言われている。時間がない、早く出ろ。」
その言葉に自分の今の格好をかえりみる。パジャマ姿でダンブルドア含め、何人かの教師陣も集められるだろう中に行けというのか。
「このまま行くんですか?」
サクラの視線にスネイプは言わんとしていることに気がついたらしい。さらに眉間にしわを寄せ、不満そうな顔をしている。いつもなら、そこから嫌味のひとつもかけられるところであるが、今回は違った。スネイプがこちらに向けて杖を構えた。
初めて会った頃のことが脳裏に思い出される。赤い閃光、蔑んだような視線、体の痛み、湿った葉の匂い・・・。森での映像がフラッシュバックして、とっさに自分の身を守るように体を縮込めた。
「・・・攻撃はしない。」
頭上からつぶやきが聞こえ、おそるおそる目を開ける。スネイプは杖を軽く振った。すると、サクラの来ていたパジャマは、ネイビーのレースをあしらった柔らかい素材のシャツと、黒の生地がたっぷり使われたフレアスカートに早変わりしていた。足下もそれに合わせて黒のレースをあしらったヒールに変わっていた。
「すごい・・・」
そうつぶやくサクラをみてスネイプは、ふん、と鼻をならし、「行くぞ。」とスタスタ歩き始めてしまった。サクラは急いでそれに続いた。ヒールの音が夜のホグワーツの廊下に響いた。
以前、スネイプに服装のことを指摘されたことがあったが、この服をみれば、なぜああ突っかかってきたかも分かる気がする。シャツのレースは繊細な作りで、既製品にはない柔らかさと、月明かりに照らされて糸が輝く様は一見して高級品と分かる。スカートも生地をふんだんにつかった作りだ。クローゼットには何着かを用意してもらっており、このような服も用意されているにはされている。しかし、ここで住まわせてもらっている身の上としては、手に取ることが躊躇われていたのだ。それと同等、いやそれ以上の代物を易々と杖一本で纏わせてしまうこの男にとって、サクラが着ていたものはずいぶんと『質素』なものであっただろう。
「素敵なお洋服ですね。」
肌を滑る生地がなんとも心地いい。スネイプにこのような服のセンスがあるとは正直考えていなかったため、意外だった。それも相まって、素敵な洋服に喜びもひとしおだ。
「これは先生が用意してくださったのですか?」
「いや、先ほどの服の形を変えただけだ。時間がたてば元に戻る。」
その答えにサクラは「そうですか・・・」と残念そうに言った。
校長室に行くまでの道は、お互い沈黙したままであった。といっても、サクラはスネイプの歩幅について行くのがやっとで、話すこともままならない、というのが大きな理由であった。あのときの外出と同じく、スネイプの背中を見て歩く。
前回と違うのは人混みがないため、見失わないという利点があるだけだろう。「時間がない」と言っていたスネイプの手前、「もう少し速度を落としてください。」とは言いづらく、そのまま早足でついて行く。
数週間前のことだが、あの外出が遠い昔に思われる。夏期休暇中、唯一出かけたのはスネイプとの外出だけであった。連れて行ってくれたカフェはお気に入りの場所となったが、その後すぐにスネイプは帰省してしまい、再び行くことは叶わなかった。きっと頼めばマクゴナガルもハグリットも喜んで一緒に出かけてくれるだろう。それを分かっていてもサクラは二人を誘うことをしなかった。行けない距離ではないのだが、スネイプ以外の者と行くことは、気が引けたのだ。それは、あの場所が彼にとって貴重な憩いの場であり、これは勝手な憶測であるが、そのような場所に見知った人物が来ていると知ってしまえば、スネイプは二度とあの店を使わなくなるだろうと思ったからだ。
そしてもうひとつ。あの時の空気感は今までスネイプに感じていたネガティブな感情を少しだけ和らげた。普段の学校では聞けないであろう人を気遣う言葉。その特別な場所を自ら壊すことなどサクラにはできなかった。
そうこうしているうちに、校長室までやってきた。スネイプが「レモンキャンディ」と合い言葉を言うと、入り口が開いた。中には、ダンブルドア、マクゴナガル、ルーピンが待っていた。マクゴナガルとルーピンはスネイプの姿を確認した後、サクラの姿をとらえ、目を見開いた。驚いて声が出せない二人であったが、マクゴナガルの方が回復がはやく、すぐさま校長に抗議の声をかけた。
「アルバス、これはどういうことですか!?なぜ彼女を呼んだのです!?」
詰め寄るマクゴナガルの姿にルーピンも続いて、
「彼女は魔法が使えないのですよ。こんな危険にさらして・・・!」
とダンブルドアに抗議の声を上げた。
この面子と緊急招集ということで、ヴォルデモートに関わることだろうとは予測できる。この二人の様子から、それは間違いないだろう。二人はサクラを魔法の使えないスクイブだと認識している。闇の陣営との戦いに巻き込まれればどうなるか・・・。考えずとも答えは明らかだ。だから、二人はサクラのために抗議してくれているのだ。二人の優しさを嬉しく思うも、自分はそうはいっていられないのだ。ダンブルドアと交わした約束があるのだ。
ダンブルドアはサクラの方に目配せをした。
自分で語れ、ということなのだろう。
「お二人とも私のためにありがとうございます。ですが、心配には及びません。私も協力者の一人です。」
その言葉に二人とも、疑問の表情を向ける。それにさらに続けた。
「私はハリーを見守り、サポートするとダンブルドア校長と約束しました。だから、彼の近くにいるため、ホグワーツで働くことになったのです。」
未来の知識や指輪の件については触れず、当たり障りのない説明にとどめた。ダンブルドアをみると、小さく頷いており、今の説明でよかったらしい。
「ですが、あなたはどうやって戦うのです?この戦いは必ずや大きくなるでしょう。戦う術がなければ死にに行くようなものです。」
しかし、それでも納得いかないマクゴナガルはサクラの手を取って説得を試みた。
「サクラ・・・あなたにこんなことしてほしくありません。」
心配そうな表情に心が一瞬揺らぐ。これまで母のように気にかけ、優しかったマクゴナガルの気持ちを踏みにじることが躊躇われる。大切な人間として守ろうとしてくれるその心が胸に刺さる。
・・・しかし、ここで止まることはできないのだ。
「ごめんなさい・・・でもここで引き返すことはできません。私が決めたことです。どうか・・・あなたには分かってほしい。」
大切に思ってくれているからこそ、私も守りたいのだ。話の流れが変わらないよう、サポートすることで、未来を守りたいのだ。
サクラの決心が揺らがないことが分かり、マクゴナガルはそっと手を離した。
「では、ここに呼んだ訳を話すとしようかの。」
ダンブルドアは咳払いを一つして、話し始めた。
「『印』が現れた。」
その言葉にサクラの周りにいた三人は、それぞれ驚愕の表情を浮かべた。