アズカバンの囚人編
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なぜ、私はスネイプ教授と一緒にショッピングを楽しんでいるのか。
あの後、半ばダンブルドアに強引に外出させられた。なぜか、マクゴナガルが図ったかのように校長室を訪れ、着替えやヘアメイクを嬉々として支度してくれることになってしまった。少女のようにはしゃくマクゴナガルとは対照的にサクラの表情は引きつっていた。
マクゴナガルやハグリットなら理解できるが、よりによってスネイプと出かけるとは何かの罰ゲームなのではないか。そして、スネイプの方も同じく思っているのだろうと思うと、誰の得にもならない。
しかし、支度の最中にマクゴナガルが「こんなときは殿方においしいものをご馳走してもらってくるのですよ。」と、期待の入り混じったような、それと同時にこちらをうかがうような表情でいるのが気になった。
やはり、この人が私のために動いてくれたのだろうと察すると、渋い顔をするだけでは申し訳ない気持ちが湧いてきた。確かに、内容こそ違えど、セドリックのことで気が滅入っていたのは本当だ。ご厚意をむげにするのは申し訳ない。ダンブルドアにいたっては、半ば面白さでの提案だと思われるが、マクゴナガルの優しさに甘えてみようと気を取り直し、出かけることにした。
スネイプとの外出では、案の定、期待はしていなかったが…女性へのエスコートは皆無であった。ダイアゴン横丁は映画で見た通り、活気にあふれ、多くの人が行きかっていた。スネイプは、ひらひらと黒いローブをひらめかせながら縫うように歩いていく。サクラはその後姿を追うのに必死で、はじめは町並みを物珍しく見物していたものの、はぐれそうになる危険から、この男の後頭部だけに視線を注ぎながらついていくしかなかった。
そもそも、今日の外出はサクラのためにと予定されたものである。しかし、悠々と歩を進めるこの男はまるで一人で出かけているように、こちらに見向きしないのだ。
「ス…スネイプ先生!」
「…何だ。」
ようやくこちらを向いたスネイプに、サクラは息を整え、抗議した。
「スネイプ先生、このような外出に付き合わせてしまい、申し訳なく思っているのですが、…もう少し歩くスピードを緩めていただいてもよろしいですか。」
「マグルは歩くだけでも一苦労なのだな。なんと脆弱な。」
そう言いながら、不本意そうにため息をつくと、スネイプは歩調をゆるやかにした。サクラの要望を聞き入れられはしたが、納得のいかない返答に、口を開きかける。しかし「着いたぞ。」と呼びかけられ、抗議の声は沈められてしまった。
その言葉で着いた先に目線を上げる。
「うわあ…」
目の前には赤や黄色、ピンクといった、どぎつい色の装飾がされた店があった。ディスプレイをみると、どうやらスイーツ店のようだ。サクラの年齢層というよりは十代の少女たちが好みそうなふわふわの生クリームのタワーとベリーのふんだんにあしらわれたスイーツたち。見ただけで胸やけを起こしそうなメニューが勢ぞろいしていた。
「先生、あの…ここへは誰かのご紹介で?」
「校長の推薦だ。」
スネイプの方もかなり不本意そうな表情である。今にもこの場から立ち去りたいのが、ありありと見て取れた。
「スネイプ先生もお入りになるのですよね…?」
「まさか!」
スネイプは、はっと吐き捨てるように言った。
「吾輩は近くの書店に寄っている。1時間後にはここで落ち合う手はずでよかろう。」
「私を一人でこんな空間に置いていくつもりですか?!」
「吾輩にこの中へ入れと?店先の甘い匂いでさへ不快なのだ。お前一人で入ればいいだろう。」
「私だって一人でこんなところ嫌ですよ!店内を見てください。女子のグループでいっぱいじゃないですか!この中で一人パンケーキを食べるなんて罰ゲームですか!」
「ここに男一人をいれようなどというのは貴様の言う罰ゲームと同等ではないのか。」
その言葉にサクラは店内、そして周りを見回した。
一歩も動こうとしない両者の剣呑な様子に、行き交う少女たちはいぶかし気な目で見ながら距離を置いている。そこにスネイプ以外、男性の姿はみられない。
「スネイプ先生。ここは我々しかいませんよね。」
その言葉にスネイプはいぶかし気な顔をした。
「つまり、我々を監視する者はいないですよね?」
「ああ。今日は吾輩の監視のもとの外出であるからな。」
「では、必ずしもこの店に入る必要はないと思うんです。ダンブルドア校長も息抜きにとおっしゃっていましたし、もっと落ち着いた喫茶店で息抜きできるとうれしいのですが。」
こういうときにいくら言い争いをしても仕方がない。お互いに入るのが躊躇われるのであれば、違う候補を出せばいい。いつまでも往来の真ん中に居座るのは居心地が悪い。
スネイプは少し考えるようなそぶりを見せると、「いくぞ。」とローブを翻した。