アズカバンの囚人編
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ダンブルドアとサクラが校長室で話す少し前のこと。休暇が始まり、フィルチとあの女が学校内を清掃する姿をよくみかけるようになった。生徒たちは夏季休暇で自宅へと戻り、職員も実家のある者は残り1,2週間をめどに仕事を切り上げて休暇をとるのが通例だ。私も仕事を片付けて、残りの時間はスピナーズ・エンドで過ごすつもりだ。しかし、管理人であるフィルチや住み込みの職員は休暇期間もホグワーツで過ごす。あの女もフィルチと同じく仕事をしながら過ごすのだろう。
例の女がここにきてからまだ日も浅いが、あの女の仕事といえば、一昨日は顔に煤をつけながら廊下の天井の煤取りをしていた。昨日は薬草園でスプラウトの手伝いで服を泥だらけにしながら、苗の植え替えをしていた。そして、今日は服と足元を泥で汚しながら大きな麻袋を背に抱えている。重そうに背中をかがめながらこちらに歩いてくる。あんなもの浮遊呪文で浮かせて運べばいいものを…マグルは荷物一つ運ぶにつけても魔法が使えないとはつくづく要領が悪い。
「貴様は見るたび薄汚れた服装をしているな。」
要領の悪い者は見ていていらいらする。同じく要領の悪いグリフィンドールのドジを踏む奴らは調合の注意をろくに聞かず、鍋を爆発させたり、ネビルに至っては材料の名前さえ覚えずに適当に鍋に投入する馬鹿どもだ。この女はネビルほどの馬鹿ではないのだろうが、魔法が使えない分、やることが遅い。視界に入ってくるとその遅さにいらいらが募り、今もその気持ちを女へぶつけた。
それに対し、女は一瞬顔をしかめるが、すぐに愛想笑いで返してきた。
「あら、スネイプ先生。先生は随分とお綺麗にされてますね。仕事もせず身支度に時間をかけてらっしゃるのかしら。(こんなところで遭遇するなんてついてないわ)」
「あいにく君と違って支度は魔法で一瞬で済むものでね。」
「でしたら、もう少しコーディネートにお時間使ってもよろしいのでは。」
「着飾って何になるのだ。女でもあるまいし。君こそ女性らしく身ぎれいにしたらどうかね。」
「それができたらいいのですけど…あいにく仕事中はあきらめています。(勤務内容的に身ぎれいでいられるわけないでしょ。こっちは食材運びに来てるのに!)」
開心術を使わずともこいつの思っていることはすぐ分かる。顔の動き、目線、手の動きで大体の予想はつく。本人は愛想よくしているつもりなのだろうが、私の嫌味に一々反応しているあたり、まだまだ若い。
「先生、これを厨房に届けないといけませんので、失礼しますね。」
話の腰をおって立ち去ろうとするのは、背中に荷物を抱え続けるのが体力的に厳しいのだろう。顔をしかめている様子にもう少し粘ってやろう、と加虐心が疼く。
「その麻袋には何が入っている?」
「じゃがいもとにんじんです。ハグリッドと今日収穫したものを厨房に運ぶところなんです。」
先ほどより手早く話す様子に限界が近いらしいことがうかがえる。
「ほう。手あたり次第なんでも請け負っているのだな。」
「まあ、それがダンブルドア校長先生と交わした契約なので。」
手元を震わせながら袋をまだ背負っている。一刻も早くここから立ち去りたいのだろう。初めて会ったときから、自分がこの女への接し方に棘があるのは自覚している。
突如現れた得体のしれない女。あの強力な魔法がかかる指輪をはめても影響されない体。分からないものへの懐疑心は拭い去ることはできない。まして、ヴォルデモート復活の兆しとピーターペティグリューの生存とで事態が変化するなかでの登場だ。
そして、現状で最も不愉快なのは、魔法が使えるわけでも武術にたけているわけでもなさそうな普通の女に、ダンブルドアはポッターの護衛を任せたことだ。しかも、マグルのくせに偉そうで、吾輩と対等であるような物言いをする。そのくせ、初日からマクゴナガルやハグリッド、スプラウトに対しては笑顔を見せ、教えを乞う場面もある。
「では、失礼します。」
荷物の重さも相まって厳しい表情のサクラが一礼して横を通り抜けようとした。しかし、スネイプは杖を振り上げると、麻袋を浮遊させた。背中の重みがなくなり、驚いたサクラは背後で浮いている食材をみた。
「あの…先生?」
「これ以上時間をかけられては昼食に間に合わんのでな。」
そう言って、スネイプは厨房の方へ荷物を移動させていく。サクラは思いがけない行動に驚きはしたが、すぐに荷物の方へと向かった。
「ありがとうございます。」
サクラはスネイプに笑顔を向けた。ハグリットの畑からここまで、運動不足の体に鞭打ちながらなんとかやってきていた。そこでスネイプのと長話で腕も背中も限界だったのだ。そこで、いつも嫌味ばかりのスネイプの親切だとしてもありがたい。
スネイプは一瞬言葉に詰まるも、いつもの嫌味で返した。
「泥だらけの服装で校内を歩き回られるのは見苦しいのだ。失礼ながらそのような薄汚れた服しか持ち合わせがないのかもしれないが。」
その言葉に再びサクラは顔をしかめた。
「…ですが、お忙しい先生のお手を煩わせるわけにもいきません。」
そう言うと、浮遊していた麻袋に背を伸ばして再び背中に担ごうとした。一瞬でも親切心に感謝したサクラは後悔した。このまま借りをつくってしまえば、次にくる嫌味にも拍車がかかるのではないか、と思い至ったのだ。ちくちく嫌味を言われながら厨房までいくのは遠慮したい。それならば、体に鞭打ってでも荷物を運んだほうがましだ。
サクラが麻袋を背負うところで後ろから大きな足音が聞こえる。みればハグリッドが近づいてくるのが見えた。ハグリッドも同じく麻袋を抱えていたが、彼の体格では買い物の袋程度の大きさで収まっていた。
「お、サクラへばってねえか!」
「ハグリッド!」
ハグリッドはスネイプとサクラのところまでやってきた。その腕には2つの袋が抱えられていたがまだまだ抱えるには余裕がありそうな様子だ。よろけているサクラから、ひょいっと麻袋を取り上げた。
「おめえさん、ほそっこいからなあ。無理しねえでよかったんだぞ。」
「ごめんなさい。自分の体力を過信しすぎたわ。結局ハグリッドのお世話になっちゃったわね。」
「気にすんな!俺ぁ細けえ仕事は苦手でな。そっちはサクラにやってもらって助かってるぞ。これくらい俺に任せとけ!」
「ありがとう。それじゃ、ハグリッドお願いします。」
ハグリッドには素直に甘える姿にスネイプの眉間のしわが深くなった。
「あ、ああ!スネイプ先生、サクラと話してくとこだったですか?」
「いや、ただすれ違っただけだ。吾輩は急いでいるので、これで失礼。」
気に入らない。ただのマグルがホグワーツで居場所を作っていくのが、無性に腹立たしいのだ。
スネイプは黒いマントを大きく揺らしながら廊下を歩いて行った。
例の女がここにきてからまだ日も浅いが、あの女の仕事といえば、一昨日は顔に煤をつけながら廊下の天井の煤取りをしていた。昨日は薬草園でスプラウトの手伝いで服を泥だらけにしながら、苗の植え替えをしていた。そして、今日は服と足元を泥で汚しながら大きな麻袋を背に抱えている。重そうに背中をかがめながらこちらに歩いてくる。あんなもの浮遊呪文で浮かせて運べばいいものを…マグルは荷物一つ運ぶにつけても魔法が使えないとはつくづく要領が悪い。
「貴様は見るたび薄汚れた服装をしているな。」
要領の悪い者は見ていていらいらする。同じく要領の悪いグリフィンドールのドジを踏む奴らは調合の注意をろくに聞かず、鍋を爆発させたり、ネビルに至っては材料の名前さえ覚えずに適当に鍋に投入する馬鹿どもだ。この女はネビルほどの馬鹿ではないのだろうが、魔法が使えない分、やることが遅い。視界に入ってくるとその遅さにいらいらが募り、今もその気持ちを女へぶつけた。
それに対し、女は一瞬顔をしかめるが、すぐに愛想笑いで返してきた。
「あら、スネイプ先生。先生は随分とお綺麗にされてますね。仕事もせず身支度に時間をかけてらっしゃるのかしら。(こんなところで遭遇するなんてついてないわ)」
「あいにく君と違って支度は魔法で一瞬で済むものでね。」
「でしたら、もう少しコーディネートにお時間使ってもよろしいのでは。」
「着飾って何になるのだ。女でもあるまいし。君こそ女性らしく身ぎれいにしたらどうかね。」
「それができたらいいのですけど…あいにく仕事中はあきらめています。(勤務内容的に身ぎれいでいられるわけないでしょ。こっちは食材運びに来てるのに!)」
開心術を使わずともこいつの思っていることはすぐ分かる。顔の動き、目線、手の動きで大体の予想はつく。本人は愛想よくしているつもりなのだろうが、私の嫌味に一々反応しているあたり、まだまだ若い。
「先生、これを厨房に届けないといけませんので、失礼しますね。」
話の腰をおって立ち去ろうとするのは、背中に荷物を抱え続けるのが体力的に厳しいのだろう。顔をしかめている様子にもう少し粘ってやろう、と加虐心が疼く。
「その麻袋には何が入っている?」
「じゃがいもとにんじんです。ハグリッドと今日収穫したものを厨房に運ぶところなんです。」
先ほどより手早く話す様子に限界が近いらしいことがうかがえる。
「ほう。手あたり次第なんでも請け負っているのだな。」
「まあ、それがダンブルドア校長先生と交わした契約なので。」
手元を震わせながら袋をまだ背負っている。一刻も早くここから立ち去りたいのだろう。初めて会ったときから、自分がこの女への接し方に棘があるのは自覚している。
突如現れた得体のしれない女。あの強力な魔法がかかる指輪をはめても影響されない体。分からないものへの懐疑心は拭い去ることはできない。まして、ヴォルデモート復活の兆しとピーターペティグリューの生存とで事態が変化するなかでの登場だ。
そして、現状で最も不愉快なのは、魔法が使えるわけでも武術にたけているわけでもなさそうな普通の女に、ダンブルドアはポッターの護衛を任せたことだ。しかも、マグルのくせに偉そうで、吾輩と対等であるような物言いをする。そのくせ、初日からマクゴナガルやハグリッド、スプラウトに対しては笑顔を見せ、教えを乞う場面もある。
「では、失礼します。」
荷物の重さも相まって厳しい表情のサクラが一礼して横を通り抜けようとした。しかし、スネイプは杖を振り上げると、麻袋を浮遊させた。背中の重みがなくなり、驚いたサクラは背後で浮いている食材をみた。
「あの…先生?」
「これ以上時間をかけられては昼食に間に合わんのでな。」
そう言って、スネイプは厨房の方へ荷物を移動させていく。サクラは思いがけない行動に驚きはしたが、すぐに荷物の方へと向かった。
「ありがとうございます。」
サクラはスネイプに笑顔を向けた。ハグリットの畑からここまで、運動不足の体に鞭打ちながらなんとかやってきていた。そこでスネイプのと長話で腕も背中も限界だったのだ。そこで、いつも嫌味ばかりのスネイプの親切だとしてもありがたい。
スネイプは一瞬言葉に詰まるも、いつもの嫌味で返した。
「泥だらけの服装で校内を歩き回られるのは見苦しいのだ。失礼ながらそのような薄汚れた服しか持ち合わせがないのかもしれないが。」
その言葉に再びサクラは顔をしかめた。
「…ですが、お忙しい先生のお手を煩わせるわけにもいきません。」
そう言うと、浮遊していた麻袋に背を伸ばして再び背中に担ごうとした。一瞬でも親切心に感謝したサクラは後悔した。このまま借りをつくってしまえば、次にくる嫌味にも拍車がかかるのではないか、と思い至ったのだ。ちくちく嫌味を言われながら厨房までいくのは遠慮したい。それならば、体に鞭打ってでも荷物を運んだほうがましだ。
サクラが麻袋を背負うところで後ろから大きな足音が聞こえる。みればハグリッドが近づいてくるのが見えた。ハグリッドも同じく麻袋を抱えていたが、彼の体格では買い物の袋程度の大きさで収まっていた。
「お、サクラへばってねえか!」
「ハグリッド!」
ハグリッドはスネイプとサクラのところまでやってきた。その腕には2つの袋が抱えられていたがまだまだ抱えるには余裕がありそうな様子だ。よろけているサクラから、ひょいっと麻袋を取り上げた。
「おめえさん、ほそっこいからなあ。無理しねえでよかったんだぞ。」
「ごめんなさい。自分の体力を過信しすぎたわ。結局ハグリッドのお世話になっちゃったわね。」
「気にすんな!俺ぁ細けえ仕事は苦手でな。そっちはサクラにやってもらって助かってるぞ。これくらい俺に任せとけ!」
「ありがとう。それじゃ、ハグリッドお願いします。」
ハグリッドには素直に甘える姿にスネイプの眉間のしわが深くなった。
「あ、ああ!スネイプ先生、サクラと話してくとこだったですか?」
「いや、ただすれ違っただけだ。吾輩は急いでいるので、これで失礼。」
気に入らない。ただのマグルがホグワーツで居場所を作っていくのが、無性に腹立たしいのだ。
スネイプは黒いマントを大きく揺らしながら廊下を歩いて行った。