アズカバンの囚人編
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あの後、職員用の席で運よくスネイプとは席が離れ、フリットウィック先生とスプラウト先生のいる席で昼食をとることになった。教師陣にはサクラのことが周知されているらしく、二人とも快く席に招いてくださった。
ダンブルドアから教職員の授業のサポートも請け負うことを任されている。その旨を告げるうと、二人は夏季休暇の期間はぜひともお願いしたいと目を輝かせていた。薬草学は特に植物を扱っているため、栽培の面でサポートがあるのがうれしいのだろう。
スプラウト先生いわく、普段は生徒の手を借りているが、それができないとなり、「困っていたところでありがたいわ!」と少し大げさに握手しながら手をぶんぶん振られた。
午後からは図書館での仕事だ。
マダム・ピンスは口数は少ないながらも的確に仕事を教えてく\れた。本の修理やクリーニングはマダム・ピンスが魔法で済ませてしまうため、サクラができることといえば、本の配架と騒いでいる生徒を注意し、必要とあらば館内から追い出すことだった。今日が学期末のため、勉強で利用する生徒はほとんど見受けられず、追い出す仕事はしなくてもよさそうだ。
サクラは両手にいっぱいの本を抱え、所定の場所に戻していく。天井に届きそうなくらい高い本棚にどうやって戻していこうか不安に思っていたが、案外ところどころに梯子もあるため、魔法がなくても仕事を進められた。
図書館にある本はどれも年季が入ってはいるが、塵ひとつない清潔な状態に保たれていた。そういえば賢者の石でハリーが禁書の棚の本を開いたときは埃がすごかったような気がするが、一般の書架は、マダム・ピンスが管理しているのだろう。向こうの世界で司書の仕事をする友人に、聞きかじった程度ではあるが、本にとって塵や埃は大敵だそうだ。魔法があったとしても、一人でどの棚もこれほどまでに清潔に保てるとは。そのようなところにマダムの仕事への誠実さが表れているのだと感じる。
今、手に抱えている本は、ハーマイオニーにしてみれば『軽い』読み物に分類されるような本だ。梯子を使わなければ戻せない場所に配架されるものであるが、片手で本を抱えて梯子を登るのは難易度が高い。
しかし、勤務初日で「本が戻せません。」などと言えば、マダム・ピンスの信頼は一生得られないだろう。ここは意を決して上るしかない、とサクラは自分を叱咤した。
木の梯子に足をかける。ミシミシと嫌な音をさせることに一抹の不安を抱くが、慎重に上へと上がっていく。本を持つ左手は重さに耐えながら、そろそろ限界だと震える。これも年のせいなのだろうか。それとも運動不足の賜物なのだろうか。自分のひ弱さを不甲斐なく思いつつ、片手で本を支えながら何とか目的の棚に到着した。本を戻し、ほっとして梯子を下っているところで、足かけが嫌な音をさせて抜けた。
ひゅっ、と体の臓器が上にあがる不快な感覚になった。このまま倒れれば硬い床に頭が激突だ。とっさのことで受け身などとることもできず、サクラは衝撃に耐えるべく強く目を瞑った。
しかし、つめたい床の感触ではなく背中にはあたたかな感触。サクラが後ろを振り返るとそこには長身の青年がいた。整った顔立ちの青年がサクラを支えるような形で上からのぞき込むようにしていた。茶髪の前髪が形のよい額にかかり、影を落としている。そこから見え隠れするグレーの瞳は心配そうにこちらを見ていた。
「…お怪我はありませんか?」
きめの細かい白い肌に、柔和そうな瞳ときりっとした眉。まるで絵本から飛び出してきた王子のように整った容貌にしばらく魅入ってしまった。何も言わないサクラの様子に、青年はその整った眉を下げ、もう一度、声をかけた。
「…あの、気分がすぐれないようなら医務室へお連れしましょうか?」
「あ、ご…ごめんなさい。少しびっくりしてしまって。」
サクラは青年にもたれかかるような態勢からすぐに体を離した。
「あなたのほうこそ怪我してない?いきなり上から落ちてきたから、どこか打ったり…」
「僕は平気です。羽みたいに軽い女性を支えて怪我なんてしませんよ。」
セドリックはそういって悪戯っぽく笑った。フレッドには悪いが、彼とは違うさわやかさを残した笑顔だ。ハッフルパフでもこの笑顔にやられる女子生徒が多いんだろう。実際、間近でみるとそのオーラに圧倒される。
「たしか、昼食の時に大広間にいらっしゃいましたよね。新しい先生ですか?」
「私、魔法は使えないの。だから、司書のお手伝いもするし、フィルチさんと一緒に管理人の仕事をしたり…まあ、何でも屋みたいなものね。」
「ウィーズリー兄弟が闇の魔術に『姫』が来ると噂していたのは貴方のことだったのですね。」
「なんだか色々と誤解されていたみたいだったけど、魔法は使えないのよ。それに、変な呼び名まで付けられてたわ…。」
「姫より天から舞い降りた天使というのもお似合いになると思いますよ。」
「…あ、あれは梯子が古くなっていたからで…って、梯子!」
セドリックの言葉で梯子を壊した現実に引き戻された。
「壊しちゃったわ!どうしよう。新しい木材で修理しないと」
魔法の使えない自分ではマダム・ピンスに事情を説明して、新しい木材を調達して来なければならない。仕事を増やしてしまって申し訳ないが、サクラには一般的なマグルの解決方法しか実行できないのだ。
慌てるサクラを尻目にセドリックは落ち着いていた。そして杖を出し、「レパロ。」と唱えると梯子は元通りになった。そして、次にサクラの方へ杖を向けた。
反射的に体が強張る。あの森での出来事が、サクラの魔法に対する恐怖をもたらしているのだ。この好青年が初対面の女性相手に攻撃することは万に一つも考えられないが、やはり体は正直だ。スネイプの杖から繰り出される赤い閃光と、あのさげすんだ瞳を嫌でも思い出してしまう。
「怖がらないで…足の怪我を治すだけです。」
サクラのおびえた表情に気づいたのか、セドリックは優しい声音でサクラに話しかけた。
言われて自身の足を見ると、踏み外したほうの足が擦ったような傷ができ、血がにじんでいた。傷の存在に気づいてしまうと、なんだか足の傷がひりひりしてきた。セドリックはしゃがみ込み、サクラの足に杖を近づけた。白いふわふわした光が足を包み込み、傷は綺麗に治った。
「ありがとう。おかげで全部元通りね。」
サクラはセドリックに笑いかけた。それに対してセドリックも笑顔で「どういたしまして。」と答えた。
「僕、セドリック・ティゴリーです。お困りの時はいつでもお手伝いしますよ。」
「私はサクラ ヒナタ。さっきは傷を治してもらったのに変な態度をとってごめんなさい。」
「気にしないでください。…それでは、新学期に。」
セドリックはそういうと通路の方へと歩き出した。丁度、入れ違いにマダム・ピンスが歩いてくるのが見えた。話し込んで、なかなかサクラが戻ってこないのを見かねて来たようだった。
「ミスサクラ、大きな音がしましたが。」
「梯子が壊れて足を踏み外してしまったのですが、先ほどの生徒に直してもらったので大事には至りませんでした。」
「そうでしたか。しかし、あまり話し込んでいてはほかの生徒に示しがつきませんよ。」
マダム・ピンスは気難しい顔をさらに眉間にしわを寄せた。
「申し訳ありません。」
確かに、仕事中でありながら集中力のかけた行動だったとサクラは反省した。しゅん、としたサクラの姿にマダム・ピンスは小さくため息をついた。
「怪我がなくて何よりでした。今日はもう学期末の集会があるので、図書館は閉めますよ。」
小説では考えられないような優しい言葉だ。こういう職場の同僚としての面はハリーには伝わらないのだな。本の裏側を見たようで場違いながらも少し感動したのだった。
* * *
その後、大広間では優勝杯とサクラの紹介があった。女性職員の紹介とあり、男子生徒の反応は熱がこもっていた。その中でもフレッドとジョージをはじめ、調子のいい連中は指笛を吹いたり、場を盛り上げていた。その様子に顔をしかめる者もいた。特に「規律正しい」スネイプ教授は、いつもの眉間のしわをさらに深くしていた。そんな中、サクラは、生徒席の中で友人と三人で話すまだあどけない少年に目を向けていた。。
あれが、ハリー・ポッター
これから私が守る少年。ダンブルドアには明言していないが、2年で帰る予定の自分が、残りの時間でいかに未来への影響を少なくし、結末までを進めていくかが重要である。ダンブルドアの言うように「ハリーだけでは救えないもの。」を救い、シナリオが変わってしまうことは避けたい。
新学期が始まれば、あの悪夢がハリーに襲い掛かるのだ。初めて闇の帝王との対面。そして、セドリックの…
ハッフルパフのテーブルに目を向けるとセドリックと目が合った。人好きのする笑顔で軽く会釈をしてくれた。彼の未来を知っているのは私だけだ。彼の命の砂時計は確実に減っている。来年の今頃は、もうあの笑顔を見ることもない。
結末を守り、ハリーを守ることと、セドリックの命を天秤にかけたとき、私は……
テーブルに並ぶ料理は色とりどりで、周囲は楽しそうに食事にありついている。しかし今のサクラにとっては料理の色彩も生徒の喧騒もひどく遠く感じた。
ダンブルドアから教職員の授業のサポートも請け負うことを任されている。その旨を告げるうと、二人は夏季休暇の期間はぜひともお願いしたいと目を輝かせていた。薬草学は特に植物を扱っているため、栽培の面でサポートがあるのがうれしいのだろう。
スプラウト先生いわく、普段は生徒の手を借りているが、それができないとなり、「困っていたところでありがたいわ!」と少し大げさに握手しながら手をぶんぶん振られた。
午後からは図書館での仕事だ。
マダム・ピンスは口数は少ないながらも的確に仕事を教えてく\れた。本の修理やクリーニングはマダム・ピンスが魔法で済ませてしまうため、サクラができることといえば、本の配架と騒いでいる生徒を注意し、必要とあらば館内から追い出すことだった。今日が学期末のため、勉強で利用する生徒はほとんど見受けられず、追い出す仕事はしなくてもよさそうだ。
サクラは両手にいっぱいの本を抱え、所定の場所に戻していく。天井に届きそうなくらい高い本棚にどうやって戻していこうか不安に思っていたが、案外ところどころに梯子もあるため、魔法がなくても仕事を進められた。
図書館にある本はどれも年季が入ってはいるが、塵ひとつない清潔な状態に保たれていた。そういえば賢者の石でハリーが禁書の棚の本を開いたときは埃がすごかったような気がするが、一般の書架は、マダム・ピンスが管理しているのだろう。向こうの世界で司書の仕事をする友人に、聞きかじった程度ではあるが、本にとって塵や埃は大敵だそうだ。魔法があったとしても、一人でどの棚もこれほどまでに清潔に保てるとは。そのようなところにマダムの仕事への誠実さが表れているのだと感じる。
今、手に抱えている本は、ハーマイオニーにしてみれば『軽い』読み物に分類されるような本だ。梯子を使わなければ戻せない場所に配架されるものであるが、片手で本を抱えて梯子を登るのは難易度が高い。
しかし、勤務初日で「本が戻せません。」などと言えば、マダム・ピンスの信頼は一生得られないだろう。ここは意を決して上るしかない、とサクラは自分を叱咤した。
木の梯子に足をかける。ミシミシと嫌な音をさせることに一抹の不安を抱くが、慎重に上へと上がっていく。本を持つ左手は重さに耐えながら、そろそろ限界だと震える。これも年のせいなのだろうか。それとも運動不足の賜物なのだろうか。自分のひ弱さを不甲斐なく思いつつ、片手で本を支えながら何とか目的の棚に到着した。本を戻し、ほっとして梯子を下っているところで、足かけが嫌な音をさせて抜けた。
ひゅっ、と体の臓器が上にあがる不快な感覚になった。このまま倒れれば硬い床に頭が激突だ。とっさのことで受け身などとることもできず、サクラは衝撃に耐えるべく強く目を瞑った。
しかし、つめたい床の感触ではなく背中にはあたたかな感触。サクラが後ろを振り返るとそこには長身の青年がいた。整った顔立ちの青年がサクラを支えるような形で上からのぞき込むようにしていた。茶髪の前髪が形のよい額にかかり、影を落としている。そこから見え隠れするグレーの瞳は心配そうにこちらを見ていた。
「…お怪我はありませんか?」
きめの細かい白い肌に、柔和そうな瞳ときりっとした眉。まるで絵本から飛び出してきた王子のように整った容貌にしばらく魅入ってしまった。何も言わないサクラの様子に、青年はその整った眉を下げ、もう一度、声をかけた。
「…あの、気分がすぐれないようなら医務室へお連れしましょうか?」
「あ、ご…ごめんなさい。少しびっくりしてしまって。」
サクラは青年にもたれかかるような態勢からすぐに体を離した。
「あなたのほうこそ怪我してない?いきなり上から落ちてきたから、どこか打ったり…」
「僕は平気です。羽みたいに軽い女性を支えて怪我なんてしませんよ。」
セドリックはそういって悪戯っぽく笑った。フレッドには悪いが、彼とは違うさわやかさを残した笑顔だ。ハッフルパフでもこの笑顔にやられる女子生徒が多いんだろう。実際、間近でみるとそのオーラに圧倒される。
「たしか、昼食の時に大広間にいらっしゃいましたよね。新しい先生ですか?」
「私、魔法は使えないの。だから、司書のお手伝いもするし、フィルチさんと一緒に管理人の仕事をしたり…まあ、何でも屋みたいなものね。」
「ウィーズリー兄弟が闇の魔術に『姫』が来ると噂していたのは貴方のことだったのですね。」
「なんだか色々と誤解されていたみたいだったけど、魔法は使えないのよ。それに、変な呼び名まで付けられてたわ…。」
「姫より天から舞い降りた天使というのもお似合いになると思いますよ。」
「…あ、あれは梯子が古くなっていたからで…って、梯子!」
セドリックの言葉で梯子を壊した現実に引き戻された。
「壊しちゃったわ!どうしよう。新しい木材で修理しないと」
魔法の使えない自分ではマダム・ピンスに事情を説明して、新しい木材を調達して来なければならない。仕事を増やしてしまって申し訳ないが、サクラには一般的なマグルの解決方法しか実行できないのだ。
慌てるサクラを尻目にセドリックは落ち着いていた。そして杖を出し、「レパロ。」と唱えると梯子は元通りになった。そして、次にサクラの方へ杖を向けた。
反射的に体が強張る。あの森での出来事が、サクラの魔法に対する恐怖をもたらしているのだ。この好青年が初対面の女性相手に攻撃することは万に一つも考えられないが、やはり体は正直だ。スネイプの杖から繰り出される赤い閃光と、あのさげすんだ瞳を嫌でも思い出してしまう。
「怖がらないで…足の怪我を治すだけです。」
サクラのおびえた表情に気づいたのか、セドリックは優しい声音でサクラに話しかけた。
言われて自身の足を見ると、踏み外したほうの足が擦ったような傷ができ、血がにじんでいた。傷の存在に気づいてしまうと、なんだか足の傷がひりひりしてきた。セドリックはしゃがみ込み、サクラの足に杖を近づけた。白いふわふわした光が足を包み込み、傷は綺麗に治った。
「ありがとう。おかげで全部元通りね。」
サクラはセドリックに笑いかけた。それに対してセドリックも笑顔で「どういたしまして。」と答えた。
「僕、セドリック・ティゴリーです。お困りの時はいつでもお手伝いしますよ。」
「私はサクラ ヒナタ。さっきは傷を治してもらったのに変な態度をとってごめんなさい。」
「気にしないでください。…それでは、新学期に。」
セドリックはそういうと通路の方へと歩き出した。丁度、入れ違いにマダム・ピンスが歩いてくるのが見えた。話し込んで、なかなかサクラが戻ってこないのを見かねて来たようだった。
「ミスサクラ、大きな音がしましたが。」
「梯子が壊れて足を踏み外してしまったのですが、先ほどの生徒に直してもらったので大事には至りませんでした。」
「そうでしたか。しかし、あまり話し込んでいてはほかの生徒に示しがつきませんよ。」
マダム・ピンスは気難しい顔をさらに眉間にしわを寄せた。
「申し訳ありません。」
確かに、仕事中でありながら集中力のかけた行動だったとサクラは反省した。しゅん、としたサクラの姿にマダム・ピンスは小さくため息をついた。
「怪我がなくて何よりでした。今日はもう学期末の集会があるので、図書館は閉めますよ。」
小説では考えられないような優しい言葉だ。こういう職場の同僚としての面はハリーには伝わらないのだな。本の裏側を見たようで場違いながらも少し感動したのだった。
* * *
その後、大広間では優勝杯とサクラの紹介があった。女性職員の紹介とあり、男子生徒の反応は熱がこもっていた。その中でもフレッドとジョージをはじめ、調子のいい連中は指笛を吹いたり、場を盛り上げていた。その様子に顔をしかめる者もいた。特に「規律正しい」スネイプ教授は、いつもの眉間のしわをさらに深くしていた。そんな中、サクラは、生徒席の中で友人と三人で話すまだあどけない少年に目を向けていた。。
あれが、ハリー・ポッター
これから私が守る少年。ダンブルドアには明言していないが、2年で帰る予定の自分が、残りの時間でいかに未来への影響を少なくし、結末までを進めていくかが重要である。ダンブルドアの言うように「ハリーだけでは救えないもの。」を救い、シナリオが変わってしまうことは避けたい。
新学期が始まれば、あの悪夢がハリーに襲い掛かるのだ。初めて闇の帝王との対面。そして、セドリックの…
ハッフルパフのテーブルに目を向けるとセドリックと目が合った。人好きのする笑顔で軽く会釈をしてくれた。彼の未来を知っているのは私だけだ。彼の命の砂時計は確実に減っている。来年の今頃は、もうあの笑顔を見ることもない。
結末を守り、ハリーを守ることと、セドリックの命を天秤にかけたとき、私は……
テーブルに並ぶ料理は色とりどりで、周囲は楽しそうに食事にありついている。しかし今のサクラにとっては料理の色彩も生徒の喧騒もひどく遠く感じた。