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Spase

珍しく、彼女から話しかけてきた。
普段から特段仲がいいというわけでも信頼されているわけでもない間柄。彼女は凛とした目で俺を見る。

『グレイ』

「どうした?」

降り積もった雪のように白い髪。吸い込まれそうなほどに黒い瞳。
なるほど、彼が好きそうな容姿だ。
『今、私達はこうして行動を共にしているけど、それは互いの利害が一致しているから』
人間らしい感情が一切うかがえない目だ。真っすぐで美しい。が、ガラス玉のような目。
この広大な世界の、半永久的な永い年月に果たして彼女は耐えられるのだろうか。
「わかってるよ。俺も、クレアも。あいつもね」
いいや、耐えられないだろう。これでも一端の科学者。それくらいわかる。彼女の体はこの世界には不向きなのだ。
『もしもこの関係が崩れるようなことがあれば、私は迷わずあなたたちを駆逐する。“狩人”の名に懸けて』
わかっている。彼女が何者で、俺がなんなのか。
そしてそれはあの男もわかっている筈なのだ。わかっていて、黙っている。わかっていて、崩そうとしている。
「あは。流石だよ。悪魔と怪物を葬るべくして生まれた狩人だ。……間違いなくそうするべきだよ」
『……』
彼はわかっているのだ。
急がなくても彼女が手に入ることを。
わかっているのだ。必ず彼女は彼を頼ることを。
(なんて哀れな人間。ヒトならざる者に翻弄されあまつさえその肉体をも奪われる)

船は進む。その進路が指す方向へ。

「目指すは地球。君が生まれた星」

青い青い、宝石のような惑星。希望と欲望の矛先。

「もう、あと戻りはできないよ」
『その言葉、そのまま返そう』

わかっていた。
彼女は俺を滅すると。

わかっていた。
彼は俺を見捨てると。

俺には手に入れることの出来なかったひかり。全てを包み込む愛が魂を浄化させる。


クレアが俺の死に悲しむかどうかだけは俺にもわからない。きっと本人さえも。

ただひとつ望むとすれば、どうか俺を忘れないでほしい。


End.
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