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< こい >


 目が覚めたら、眼の前に兄様がいた。
 かなりぐっすり眠っているようでピクリともしない。
 自分もなにも着ていないし兄様も然り。二人とも全裸だ。
 だんだんと頭に血が上ってくるのを抑え、昨日の出来事を整理してみる。
 そういえば昨日の夜、兄様に茶屋に誘われたことを思い出す。兄様に童貞を捧げてからというもの、もはやなし崩し的にこうして茶屋に行くことが増えた。
 しかし毎回、朝は慣れない。
 こうして抱き合って朝を迎えた回数はもう二桁にまで上るだろうに、未だに慣れはせず昨日の兄様の痴態を思い出してしまっては赤面するのが毎回のオチだ。
 昨日の晩の兄様もかわいかった。いつもは低い声が感じると上ずってなんとも色っぽい声で啼き、甘い顔を見せてくれる。
 毎回、それに興奮が隠せず責め立ててしまう自分が恥ずかしい。それと同時に、恐ろしいとも思う。
 私は兄様を愛しているけれど、最近気持ちが行き過ぎて自分でも怖いくらいな劣情を抱き始めていることを実感する。
 抱いている時でも、兄様が乱れれば乱れるほどに我を無くしていく自分を感じる。もっともっとと思う気持ちだけが先走り、責め立ててしまう。
 愛情というものはもっと穏やかで優しく、温かいものだと思っていたのにどうやら違ったようだ。
 私が兄様に向ける感情はもっと激しく、熱くて優しさなんて微塵もない強い気持ちだけ。
 これが愛というものの形なら、私はとんでもないものを兄様にぶつけていることになる。
 優しく愛したい。包み込んであげたいと思うのに、それは叶わない。
 なんだか切なくなってくる。しかし、この感情を含めてきっと愛と呼ぶのだろう。幸せなばかりの愛なんてない。どこにもない。
 涙がこぼれそうになり、つい片手を上げて兄様の頬を手で包み込むとすぐに手が温かくなる。そして心も同様に温かくなる。
 これもきっと愛。愛の欠片だ。
 ついじっと見てしまうと兄様の目がぴくぴくと痙攣し、ゆっくりと瞼が開いていく。
 何故か心臓が高鳴り、見つめ続けると黒目が顔を出し、私の顔に焦点が合うとゆったりと眼が弧を描く。
 純粋に、きれいだと思った。こんな尊い瞬間を、私は知らない。
 思わず口を開いて見てしまうと、兄様がかすかに笑った。
「ふふっ、その間抜けな顔……かっわいい」
「あ、兄様! からかわないでください!」
 自分の顔に熱が集まってくるのを感じながら抗議すると、ずいっと兄様の顔が迫ってくる。
「起きたらまずは……なんでした? 接吻も忘れてしまったと? 約束を違えるのは感心しませんね。……して、接吻……」
 掠れた低い声でそう強請られ、私は心の中で白旗を上げた。
 この色気の塊をどうしてくれようか。丸ごと食べてしまいたい。きっと、とてつもなく甘くて熱いのだろう。
 そういう恋を、私はしている。

Fin.

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