蝶の見る楽園 3.


 尾形の負担を減らすように、さらに油を足したその指は細かくピストンを加えながら奥へと入り込んできて、急ぎたいだろう気持ちを抑えてのそのゆっくりした指の動きになんだか泣きたくなってくる。
「は、はあっはあっはあっはあっ、ゆ、さくっ……んっんっ、あっあっ!! はあっ、ああっ!!」
「兄様、やっぱり痛い? 苦しいですか? や、止めますか……? でも私は」
「い、イイッ……!! 良すぎて、勝手に息が、上がるだけっ……!! はああっ、すごく感じるっ……はあっはあっ、んんんんっ!! ん、はあっ、ゆ、さく、ゆう、さくっどの……!!」
 勇作の指は硬く、そして熱く尾形を蕩かしてゆく。
 徐々に指が胎内に埋まるにつれ、快感も強くなり手のやり場に困った尾形が布団を引っ掻くと、すぐさま勇作の手が伸びて握ってくれる。
 その確かな力強さにも感じてしまい、握り返すとさらに強い力で握り返される。
 両方とも繋ぎたかったが、片手は尾形のアナルに取り掛かっているためそれはもちろん、ままならないことだったが、片手だけでも今は何だかとても嬉しい。
 そしてさらに勇作から握り返される手の力が増すと、指もまたほんの少しだけ挿れられ、かなりスローなそれは尾形を感じさせるには充分で、ペニスは既に完全復活を遂げてゆらゆらと股間で頼りなくピクンピクンと跳ねている。
「兄様、大丈夫ですか? つらいならすぐに言ってください。でも……未だいけそうですね。兄様?」
「はあっはあっ、勇作殿が初めてではないので未だ、平気です。は、はあっはあっ、んっんっ、あっあ、気持ちいっ!! い、イイッ!!」
 その言葉を尾形が放った途端だった、勇作の切れ長の目がきりきりっと吊り上がり、いきなり乱暴に指が引き抜かれ両手を取られて握りしめられる。指の股に入った勇作の手に力が籠められるたびに指が痛く、顔を歪めると至近距離で勇作がねめつけてくる。
「私が初めてじゃないって、なんですか!! 誰か……他に男と寝たことがあると!? 兄様!!」
「そんなに怒ることでもないでしょう。何をいきなり激高しているんです。俺だって男遍歴くらいあります。それがなにか? 勇作殿には関係ないでしょう。それに、薄々分かっていたので、はっ……んっ!! んンッ!!」
 尾形の言葉は遮られた。というのも、勇作がいきなり迫って口づけてきたのだ。そのキスに愛情は感じられず、ただただ激情をぶつけるように唇を塞がれてしまい、勇作の嫉妬が透けて見えるような激しく攫われてしまうような口づけに、尾形はただただ翻弄されてしまうしかない。
 口を無理やり舌でこじ開けられ、勇作の甘い舌が尾形の舌を絡め取り、そして顔が歪むほどきつく噛まれる。
 血が出ないことが幸いとばかりに何度も舌を食んできては噛んだところを舐め、舌はさらに上顎へ移動し、ベロベロに舐めつつ手を思い切り握られ、痛みと快感で頭がどうにかなりそうだ。
 何とか勇作に自分の想いを伝えたいが、今はそれどころではなさそうな雰囲気がする。嫉妬に駆られた人間は恐ろしい。
 一度、尾形を巡って二人の男が争ったことがあるのだが、見ていられないほどに醜悪で、そして何とも悲しい様だったことをよく覚えている。
 勇作の嫉妬は美しいが、あの二人の男はひどかった。勇作の場合、愛があるからきっときれいなのだと思う。あの男二人はただ悔しかっただけだ。尾形を愛していたから争ったわけではなく、ただ単純に自分だけと思っていたがそうじゃなかったといった思いが勝っていたから醜かった。
 その違いは大きい。
 実際、こうして勇作に責められると心が痛む。そんなことをする必要はないと言いたい。勇作だけだと言ってやりたいが、口を放そうとしてもしつこく吸いついてきてそれすらも自由にできず、そのうちにだんだんと息が苦しくなってくる。
 激し過ぎるのだ、口づけが。勇作の溢れ出る想いが、尾形を突き動かす。
 こうなったら口づけに応える形で気持ちを伝えるしかない。それしか今の勇作を納得させる方法が無いように思えた。
 それで勇作が大人しくなるとは限らないが、やってみるしかない。
 酸欠を押し、勇作の舌に自らの舌を絡めるとすぐにでも噛んでくるがそれでも愛情を持ってゆっくりと舌を舐めることを繰り返すが、初めは拒絶されて振り解かれ噛まれていたが、だんだんと分かってきたのか舌の動きが鈍くなり、そしてそっと唇が離れていく。
「はあっはあっ、んっ……はあっ、あにさまっ……!!」
「は、はあっ、は、は、はっゆう、さく、どのっ……俺には勇作殿だけです。他の男なんてどうだっていい。どうせ、惰性で抱かれていただけですから。けれど……分かるでしょう、俺が勇作殿に抱いている気持ち……それが感じ取れないのであれば、今晩で関係は終わりです。その後も、他の男に抱かれる日が続く」
「兄様っ!! だめっ、だめです!! 到底許せない……!! どうか、私だけだと言って、言ってくださいっ……!! 私だけの兄様でいてっ……こんなに愛してるのに、どうしてっ伝わらないんだ!!」
 じゅわっと勇作の両眼から涙が湧き出て重力に従ってぽたぽたと雫が尾形の顔に落ちる。
「兄様愛してるから……他の男とはもう、寝ないでくださいっ……! 嫉妬で頭が狂いそうだっ……!! 兄様が私だけの兄様じゃないなんて、いやだ、いやだいやだいやだ、いやだっ!!」
「ゆうさく、どの……?」
 初めて見る勇作の取り乱した姿に、戸惑いが隠せない尾形だ。
 両目を瞑った勇作の眼から次々に涙が溢れては零れ、途切れ途切れに甘い吐息が顔に降りかかってくる。
「愛してる。私の想いは本気です。童貞を捧げようと思うくらいには、愛しているのに何故っ……!! 何故なんだ!! 他の男に抱かれてたなんて、そんな、そんなことっ……!!」
 振り解かれる両の手は尾形の顔の横に置かれ、思い切り擦り寄られてしまったそのタイミングを見計らって両手で勇作の頭を抱え込む。
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