蝶の見る楽園 3.


 ここまで覚悟を決めてくれたのなら、もはや尾形になにも言うことはない。ただ、勇作にその身を預けるだけだ。
「しかし、開くと言ってもやり方は知ってるんですか。基本のところで躓いていません?」
「や、やり方だけは……本で読みました。油を使うんですよね? そして、その……尻の孔、お尻の孔をその……アレ、すると書いてありました、本には。実践したことはありません、もちろん。で、でも何とか兄様が気持ちイイようにします! いやなことは極力避けるので……」
 急にしどろもどろになった勇作を前に、尾形は大きく溜息を吐いてみせ、その後ゆったりと笑ってみせる。
「ま、一応のところは合格でしょうか。事前に調べておくとはなかなかやりますね、勇作殿も。この、ド助平。どんな顔してそんな本読んだのか気になりますが……目下のところ、勇作殿がどれだけできるのか愉しみです。愉しませて、くれるのでしょう?」
 わざと挑発するような言葉を使うと、鼻息も荒く勇作が詰め寄って来て口づけられてしまう。かなり強く吸いつかれ、ぢゅぢゅうっと音を立てて唾液が持っていかれてしまうと漸く離してくれたため、キスの余韻に浸るといった部類でもなかったのでそのまま上目遣いで勇作を見ていると、それは満足そうにのどを鳴らして尾形の唾液を飲み込んでおり、最後まで飲み切ると息が触れ合う至近距離で勇作が美麗な顔を緩めて尾形をじっと見つめてくる。
「後ろ……開いても? 兄様がちゃんといいって言ってくれないとできません。兄様、いい? 開きたい……!!」
 尾形は腕を上げ、しゃりしゃりと柔らかく勇作の頭を撫でてやる。
「優しく、してくれますか? じゃないと、開かせません。ゆっくり……じっくり開いて」
 他人に強請ったことのないことだ。尾形を抱いてきた男に対しては、こういった甘い言葉は使ってこなかった。必要なかったこともあるが、敢えて言わなかったというのもある。
 だが、勇作に関してはまたべつの話になる。勇作には心がある。尾形を好きといった絶対的で決定的な違いが他の男と比べてあるので、そう言ってみた。
 すると勇作は真っ赤に頬を染めて頷き、また口づけてくる。
 相変わらず柔らかな唇だと思う。ふわっふわっとしていて、それでいてちゃんと弾力もある。何度も触れるたびに夢見心地な気分になるから不思議なものだ。飽きるほどキスは交わしているというのに、毎回初めてのようなときめきもあり尾形を戸惑わせるが勇作とのキスは好きだと思う。
 そんな大好きな勇作に、後ろを開いてもらえる。先ほどから身体が疼いて仕方が無かったのだ。
 だからこそこの申し出は嬉しい。
 態度には出さなかったが嬉々として布団の横に用意してある小瓶を勇作に渡し、そして枕を腰の下に敷いて完成。
「ん……勇作殿、くれぐれも急がないでくださいよ。ゆっくりがいいです。時間をかけて、開いてみてください」
「は、はい。あの、兄様この小瓶は……?」
「油です。ソコは女じゃないので濡れないのですよ。だから、油を使うんです。なんです、本で読んだんじゃなかったんですか?」
 すると勇作はそっと小瓶を開けて中身を掬い手に取っている。
「あにさま……」
「足、開きますから……来てください。指、挿れてみて……勇作殿がいいと思うように、挿れて……」
 ごぐっと大きくのどが鳴る音がしたと同時に、尾形は思い切って足を開いた。そこで露わになるなにもかもに勇作はどう反応するだろうか。
 逃げて行ったら、もうそこで関係は終了と相成るが。
 だがしかし勇作はじっとそこを見つめ、腰を揺らし始めた。どうやら、興奮してしまったらしい。取りあえずの関門は突破したことになる。
「ん……早く。指くれるんでしょう? 早く挿れてっ……!!」
 そう言って両手でアナルを開くと、またしても勇作ののどが鳴り、さらに指に油を取ってゆっくりと股の間に手が入っていく。
 まるで初めての時のように胸が高鳴る。漸く勇作に抱いてもらえる。童貞を奪うことができる。何とも美味しい展開に、尾形ののども同じく鳴る。
 そっとアナルに油を纏った指が触れ、反射でビグッと身体が跳ねるが勇作は構わず、荒い息を吐きながら尾形の硬く締まったアナルを解しにかかってきた。
 マニュアル通り、それ以上に丁寧に優しくシワの一本一本をふやかすように緩めるように、油が塗られていく。
 そこの時点で既に気持ちがよく、勝手に息が上がってしまう。
 勇作の指の動きがぎこちないにも拘らず何故かひどく感じる。こんなことは何度も男に抱かれたが初めての体験だ。優しく撫でるように動くその指が、今はとてつもなく愛おしい。
 アナルもそれを感じているのか緩やかに収縮が始まったのが分かった。すると、勇作の指が大胆に動き始め、少し強めにシワを撫でるがそれでも快感は変わらず続き、あまりの心地よさに勝手に足が細かく震えてしまう。
「兄様? つらいですか、足が、その……」
「い、いいっ……! 続けてください。勇作殿の手、き、気持ちイイッ……!! はあっはあっ、イイんです。止めないで、続けてくれると……!!」
 すると勇作は尾形の膝小僧にちゅっと唇を落とし、指の先端が少しだけアナルに入り、足が勝手にビグッと跳ね上がってしまうとまるで宥めるように、またしても膝にキスしてくる。
「やっぱり、まだつらいですか? もう少し慣らしてからじゃないと」
「つ、続けてっ……!! あっ、はあっはあっ、イイだけですから、続けてっ……!!」
「兄様、イイコイイコ。イイコです、兄様は。我慢できるイイコです。かわいい兄様……ナカ、熱い」
 まだ爪の先も入っていないというのに、勇作の頬は真っ赤に染まっており、尾形のアナルを慣らすのに夢中になっているようで、浅く荒い吐息をつきながらしきりに手と指を動かしてくる。
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