蝶の見る楽園 3.


 そこで未だ勇作が服も脱いでいないことに今さらながら気づき、尾形は指でホックを跳ね上げ露出した首に口づけると勇作ののどがごぐっと動いたのが分かった。
 さらに首元に顔を突っ込んでシャツの上から口づけると、それは違うのか身を捩り始める。
「勇作殿も脱いでください。愛撫ができない。要らない? 俺から触るのはいや?」
「そっ、そんなことないっ!! ちが、違います、兄様から触ってくださるなんて勿体なくてそんなこと私にはっ……!!」
「じゃあ早く脱いでください。いっぱい、触れてあげます」
 そう言って軍服を寛げようと手を動かすが、それは勇作に制されてしまう。
「接吻しながらでも、脱げますから」
 そう言って笑み、本当に口づけてきたので驚いていると、巧みに唇を吸いながら軍服を脱ぎ始めてしまい、舌が咥内へと入り込んできたので本当に脱げるかどうか試したくなり、舌を絡ませると一瞬、手元が疎かになるがすぐに軍服を脱ぐ手を再開させ、器用に軍服を脱ぐと後はシャツ一枚になり、それも器用にボタンを外し肌を露わにしてくる。
 それに興奮が隠せず、真っ白な肌が見えているところへ早速手を這わせると、何とも触り心地のイイ肌があって、まるで手のひらに吸いついてくるようなキメ細かさもあり、しっとりとした極上の熱いその肌をもっと味わうべく、さらに手を動かす。
 しかし、触れると分かるがなんとも美しい肌だ。数え切れない程男とも女とも寝てきた尾形だが、こんなに手触りのイイ肌に出会ったことが無い。勇作の今の肌は桃色がかっているが、それでも白く触れると手のひらが勝手に悦んでしまうくらいには触れ心地がよく、しきりに勇作の肌に手を這わせると何とも色っぽい吐息を勇作がつく。
 それはひどく甘く、勇作が感じていることを知らせてくれる。
 上半身に纏っていた服すべてを脱ぎ終わると、均整の取れたきれいに筋肉のついた身体が露わになり、思わずのどを鳴らしてしまう。
「ゆうさく、どの……」
 まるで手が吸い込まれるようにして無意識のうちに両手とも勇作の胸に置いてしまい、すりすりと撫でると熱さとも呼べる温かさが手のひらから伝わって来て、思わずほうっと感嘆の吐息を吐いてしまう。
 なんていう心地いい肌なのだろうか。いくら触れても触れたりないほどに美しい肌だ。
 今はこの肌を独り占めできる。触れていいのは尾形だけ。その優越感に浸り、しきりに手を動かし始める。
 すると戸惑ったような勇作の声が耳に届いた。
「あ、あの、あに、兄様、ちょっ……待っ……!! そんな、触れられるとその……」
「なんです、触れてもいんじゃなかったんですか? それともあれは嘘だったと? それはよくありませんね」
「ちがっ……! そうじゃ、なくて……」
 何が言いたいのか分からず、緩やかなカーブを描く悩ましい腰のラインを手で辿るとぶるっと、勇作の身体が震えた。
「あっ……!! 待って、待ってくださいその、えと……た、勃ちます。勃ってしまうんです、触れられると、陰茎が勃つ」
 一瞬その場がしんと静まり返り、勇作の荒い吐息だけが部屋に音を作り出している。
「兄様に触られると、勃ちます。だから……」
「だから触るんでしょう? おかしなことを言いますね。勃たなきゃ挿れられないでしょう? 何を言っているんです。俺は舐めるつもりでもいますよ。勇作殿のチンポ……舐めて、もっと勃たせたい。感じさせて、喘がせたい」
「そんなっ……!! そんな、こと」
 戸惑いを見せる勇作に、尾形は鼻で笑い手触りのイイ肌に手を這わせ始める。
「今さら怖気づくんですか、勇作殿は。ここまで来て未だそんなことを。もっと貪欲になってもいいんですよ。けだもの丸出しでも構いません。ここは、そういう場所ですし居るのは俺と勇作殿だけですから。乱れてください。乱れておかしくなった勇作殿が……すごく見たい」
 途端、かあっと勇作の顔が真っ赤に染まり、元々赤った顔がさらにどす赤くなって、眼には涙が滲む。
 すると、何を思ったのか勇作が徐に動いたと思ったら尾形の胸に頬を当て、その手を導いていき、自分の股間の猛りに尾形の手を押し当てた。
「……こんなに勃ってしまっているのに舐められたり触れられたりしたら、イってしまう……その前にもっと、兄様の身体をいじりたい。後ろ、後ろを……開きたい」
 思わず黙ってしまう尾形だ。
「あ、あにさま……?」
「……勇作殿は後ろを開くことの意味をご存知ですか。開かれたら、俺は絶対に引き下がりませんよ。勇作殿にチンポを挿れてもらうまで絶対に、諦めません。分かりますか、俺の言っていること……覚悟は、あるんですかと聞いているんです」
「あります。というより、もう私も引き下がることはできませんし、しません。兄様が欲しい……!! 兄様のすべてを私のモノにしたい。もう兄様が誰ともそういうこと、したくならないように私だけしかだめになるように……抱きたい。兄様を抱いて私のモノにしたい」
 今度は尾形が赤面する番だ。
 何故男らしくここまで言い切ってしまえるのか。あれだけ童貞を手放すことをいやがっていた勇作のこの変貌ぶりに、尾形は驚くと共にとてつもない歓喜に襲われていた。
 思わず両腕を勇作の背に回して抱き寄せると、熱いくらいの肌と触れ合い、生まれる熱を感じながら大きく頷く。
「……抱いて、くれるんですね? その言葉に二言は無いと?」
「ありません。私は今夜、兄様を抱く。そのことに誤魔化しもなにも入れないつもりです。私は、兄様を愛してますから。この想いは、誰にも負けない……!! 兄様を私の、私だけの兄様にする。そのことに間違いはありません」
 真摯な勇作のその言葉に、思わず胸が熱くなる。
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