蝶の見る楽園 3.


 その表情たるや相当な色気を放っており、思わず口を開けて勇作に見入ってしまう。
「う、う、うぁっ……! は、はあっはあっ、うっくんく、は、はあっはあっ、う、うっ、ううっ!!」
 頬は真っ赤、切なげに眉を寄せ口は半開きで小さく喘ぎ声を出す姿というのはこんなにも美しかったのだ。
 さらに力を籠めて股間を握ると、眉がさらに寄り「はあっ!!」と甘い吐息をつく。
「勇作、どの……?」
 まるで勇作ではないみたいに見え、つい呼んでしまうと瞼が徐々に開き、欲情に濡れた黒目が顔を出す。
 眼があった途端だった。まるで噛みつくみたいに口づけられ、実際噛みつかれたのだが、じわっと痛みが歯の当たっている部分から拡がり、思わず顔を歪めてしまう。
「うっ!! ん、んむっ、んむんむ、んむううううっ!!」
 視線を感じ目線を上げると勇作の獰猛な色を宿した眼と出会い、思わず怯んだところで歯が外され、間髪入れず舌が咥内に入り込みべろっとナカを舐められ舌を絡め取られてぢゅっと吸われる。
 その緩急つけた愛撫にすっかりとやられてしまい、顔に熱が上がってくるのを感じながら勇作の乱暴と愛情の詰まった愛撫に溺れる。
「は、はあっ、はあっはあっ、んっん、はあっ、ゆ、さく、どのっ……んぁっ、き、気持ちいっ……!」
 片言で伝えると、少しだけ口が離れ、それでも唇の先端は触れ合わせたまま、勇作がうっとりと笑う。
「私もですよ、あにさま……気持ちよくて、死にそう……!」
 また口に舌が入ってくる。苦しくて、気持ちよくてどうにかなりそうだ。これは未だ序の口もいいところで、何も始まってもいないのにキスだけでこんなになってしまうとは思わなかった。
 もはやメロメロだ。
 勝手に腕が上がり、勇作の首へと引っ掛け引き寄せるとさらに口づけは激しいものになり、優しさすら感じていたソレが急に奪うようなキスに変わり、舌をまずはべろべろに舐められ、それも力を入れて舌を硬くして舐めるものだからざらざらした部分がつるつるになってしまうくらいにしゃぶられ、もはや勇作の味しかしなくなってしまった。
 それだけでは飽き足らず、上顎も丁寧に舐めてくる。勇作の丁寧は他の人間の丁寧の定義とはまた異なっていて、丁寧といったらしつこいまでに舐めてくる。
 まるで、尾形の何もかもを奪うかの勢いで舌を動かしてくるため、元々快楽に弱い身体を持つ尾形には少々つらいものがあり、感じてしまう分だけ、身体に快感が溜まる。
 股間が、痛いくらいに勃起している。勃ちすぎて痛いくらいだ。折角銭湯できれいなふんどしに穿き替えたが、これはカウパー液でぐしょ濡れになっているだろうことは容易に想像がつく。
 だがしかし、きっと勇作も同じことになっているはず。そう思うと、明日カピカピになったふんどしを身に着けることになってもそれはまた、笑い話としてネタになるかもしれない。
 勇作のことだから、きっと笑って「一緒ですね」なんて言って口づけをくれるか、抱きしめてくれるか、とにかく愛のあることをしてくれるだろう。
 このまま時が止まれば、ずっと勇作と愛し合っていられる。そんな風に思えるのはやはり、惚れてしまっているからなのか、くすぐったくて仕方がない。そして、気持ちイイ。身体も心も、もはやトロトロだ。
 心底に勇作が愛おしい。そして愛おしいが故に、身体が疼く。どうにかして早く治めたいが、じっくり責められたい。その方が感じるし、求められている時間が長ければ長いほど、それに比例して欲が発散された時の幸福感がハンパなく、尾形を満足で包み込んでくれる。
 その気持ちを得たいが故に、焦らしているというのもある。
 焦らしはなにも、悪いことばかりではないのだ。焦らして焦らして、散々焦らした上で交わるのもまた、違った快感がある。
 それを、勇作にも体験して欲しい。おざなりな愛撫でハイ挿入、揺らして中出しして終わりだなんて冗談じゃない。
 そんなつまらないセックスをするために勇作を誘惑したのではない。
 ただ、この時間を心底に愉しみたいのだ。じっくりじっとりと、交わって絡まって解けていくような快感といえばいいのか、エロティックな時間をとにかく長く持ちたい。
 勇作と共に二人とも満足できるような、蕩けるような快感を味わいたいのだ。ただ挿れて終わりじゃつまらない。何も面白くない。それでは普段寝ている男と同じだ。
 そうではなくて、勇作とは愛し合っている者同士がするような、そんなセックスがしたい。愛し愛され、されたいし、したいことはしたい。寝転がっているだけならダッチワイフだってできる。
 尾形は一度大きく息を吐き、しゃりしゃりと勇作の頭を撫でてさらに貪ってもらえるよう、大きく口を開けて舌を伸ばす。
 この時間を、少しでも長く。それが今の尾形の願いだ。
 その願いを酌んでくれるかのように早速勇作の舌が尾形の舌を絡め取り、すっかり勇作の味になった舌をさらに舐めてくる。
 それも、ゆっくりと時間をかけてじっとりと舐められ、思わず熱い吐息が漏れる。気持ちよすぎる。
 汗をかいているのか、勇作からはいつもよりも濃いにおいがして、温かな勇作のにおいに囲まれてする口づけはまた奥が深く、まるで勇作に包まれているような気分になる。
 身体全体を抱え込まれているような、そんな甘さの中で交わす口づけは気持ちがよく、尾形からも積極的に舌を伸ばして勇作の舌と絡め、ぢゅっと舌の上に乗った唾液を啜る。
 すると、のどを鳴らすたびにふわっふわっと勇作の甘い味が立ち上り、それが気持ちよくてさらに唾液を強請ると、それは違ったようでお仕置きとばかりに緩く舌を食まれてしまい、今度は勇作が尾形の舌に乗った唾液を奪っていく。
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