空を泳ぐ鯨 2.


 その勢いに任せて勇作の後ろ頭に手を伸ばしてぐいっと口を傷ついた乳首へと近づける。
「……舐め取って、くれるのでしょう? あなたが付けた傷です。さあ、飴はどうしました。じゃないとイけませんよ。こっちは、はあっ……我慢してるのに。んっ、早く舐め取って愛してください」
「兄様……ごめんなさい……」
 じりじりとした痛みが乳首を焼き、それと並行してペニスも反応を示しており、かなり膨らんでいることが自分でも分かる。
 噛まれて興奮すると、股間が勃つ。改めての事実に、さらに大きくしてしまう。
 悩ましく身体を捩ると、勇作ののどがごぐっと鳴る。
「エッチですね、兄様はとても、とてもエッチだ……エロすぎます、兄様は……だから、歯止めが効かなくなってしまうんだ。兄様があんまりにもエッチだから」
「人の所為にするのはよくありませんね。スケベなのはあなたでしょう? 俺の乳首を噛み潰しておいてそれですか。早く飴をください。イキたいんです! あなたは飴と鞭の鞭の時間が長すぎます! 下手くそっ!!」
 すると、勇作は挑戦的な笑みを浮かべて血の滲んだ乳首をふわっと舐めた。
「……言いましたね、下手くそって。初めてなんですから、下手ですが兄様に言われると何だか、ひどく心に火がつきます。もっとひどくしてやろうって、思ってしまうんですよね。だから、もっと噛む。噛んで、酷いこと言ってもらう。いいですよね? 兄様はエッチなんだから嬉しいでしょう?」
 この場にふさわしくないような陽気で無邪気な笑みを浮かべた勇作だったが、今度は右に戻りぱんぱんに腫れ上がって真っ赤に染まった乳首をがりっと噛んできて、激痛がまた戻ってくる。
「あぐううっ!! うああっ!! や、あっ……!! い、痛いっ!! ああああああ!!」
 思わずのどを反らせてしまい、頭の天辺がベッドへと擦り付けられざらざらと髪とシーツの擦れる音が立つ。
 本能的に逃げようとしてしまうが、それを許すほど勇作も勇作ではない。特に、鞭を与えている間の勇作はまるで勇作では無いような印象まで持つほど、容赦が無くなる。
 噛まれ過ぎた乳首はかなり敏感になっていて、歯が少し当たるだけでもビグンと腰が跳ねてしまうほどに痛く、それでも勇作はさらに強い痛みを強いてくる。
 別段力を入れて噛まれているわけでもないのだが、先ほどの愛撫で相当痛めつけられた乳首は少しの刺激も痛みと受け取ってしまう。
 だが勇作の歯は休むことなくコリコリと尾形の乳首を柔らかく噛み続け、時には歯を食いしばらなくてはならないほどにきつく噛んできたりもして、勝手に身体中がしっとりと潤うほどに汗をかき、散々痛みを強いられてきた所為で身体中すべてが敏感になり、それはもちろん股間にも言えることで痛いことをされているというのにペニスはビンビンに反応していて、痛みの中にも快感を見出すことに成功している尾形にとっては噛まれることもまた、性的な快感へと繋がるのだ。
 勇作が抱きついている分、当然のことながら二人の身体も密着しているので勇作にも尾形のペニスが大変なことになっているのが分かっているだろうに、ひたすらに乳首ばかりを責めてくる。
 どうやら、有言実行する気らしい。乳首でイかせるという、目的のために勇作は動いている。
「ゆ、ゆうさく痛いっ……!! ああああ痛いッ!!」
 そう訴えてみるが、股間に熱が集まってそれも相まって乳首が痛いと感じるのか、性感帯と呼ばれる部分すべてが今は痛くて気持ちがイイ。不思議な感覚だが、そうとしか言いようが無いのだ。
 尾形もこんな経験は初めてで戸惑うが、やはり自分の気持ちと感じ方に素直になろうともう決めているので、声も憚らず出すことにする。
「あ、あは、あはっ、はあっはあっ、あっあっ、んっ、ああああ痛いッ、けど、はあっ、気持ちいっ!」
「エッチな兄様。そういう兄様が大好きですよ。もっと噛んでしまおう。痛いのも好きな兄様も素敵です」
 ふっと乳首に息を吹きかけられ、熱かった乳首が一瞬冷めたその瞬間、いきなり犬歯で膨らんだ乳首を噛み潰されてしまい、あまりの激痛にじゅわっと眼に涙が滲む。
 硬く目を閉じ、その感触だけに集中すると不思議とただ痛いだけではない感覚の芽生えに気づき、噛まれることに対してそれも責めだと身体が認識したのか酷く噛まれるたびに股間がおかしなことになっていく。
 自身の身体と勇作の身体で押し潰されているそれからは大量のカウパー液が垂れ流れているのだろう、尾形が身を捩るたびにねちょねちょといった粘着質な音が立つ。
 その音にも興奮してしまい、自分の感じ方だけを頼りに、ひたすら勇作の愛撫に溺れていく。
 するとさらに感覚が鋭くなったようで、勝手に息が上がってきて肩で息をしながら甘い息を吐きつつ、手探りで勇作の頭を撫で髪の中に手を入れて掻き毟ってしまう。
 それはいけなかったのか、どうなのか、勇作が小さく「んっ……!」と啼いたが気にせず、両手でがりがりと頭皮を掻き毟ると甘くていいかおりが鼻に掠る。
 欲情するにおいだ。
 感じるにおいとでもいうのか、とにかく心地のいいかおりはさらに身体の感度を上げ、乳首も同じく敏感に快感を感じ取ってしまう。
 ペニスはもう痛いくらいに気持ちがよく、勇作との身体の間でピクンピクン跳ねているのが分かる。
 このままされれば、間違いなくイク。イってしまうだろう。
 だがしかし、勇作に責めの手を緩める気は無いようで、ひたすらに前歯でこりこりと乳首を噛んできたと思ったら今度は犬歯で尖りを押し潰すようにして噛みついてきて、あまりの激痛にまた目尻に涙を浮かせてしまう。
 勝手に背が反り返ってしまい「あ、はあっ……! あぁっ……!!」とつい甘い吐息をついてしまう。
 この痛みにも漸く慣れてきた。慣れてきたというより、身体が勝手に受け入れてしまっているとでもいうのか、痛みが快感にすり替わってしまうのだ。身体も防御本能が働いたのか、噛まれても痛くてたまらないが、それ以上に気持ちがイイ。
 そうなってくると、やはりペニスは顕著に反応を示し始め、身体がイクための準備を始めてしまう。
 さらにペニスは膨らんだようで、それを感じながら痛みという快感に耐えていると、またきつく噛まれてしまい、磨り潰すように歯が動き、あまりの痛みにビグッと身体が跳ねてしまいそれでも勇作は止めず、しつこく噛みついていると徐に歯が外され、ちゅばっと音を立てて吸われてしまう。
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